この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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第67話

「…………」

 

 現状のカズマパーティの雰囲気は、オブラートに包んだとしてもとても悪いと言わざるを得ない。

 ダクネスから突然届いた手紙。そこに記されていたのは、パーティメンバーである自分たちにも明かせない貴族としての責務により、パーティを脱退せざるを得なくなった、というもの。

 

 当然そんな文で納得できるわけもなく、カズマたちはダスティネス家の屋敷に襲撃、もとい突撃お宅訪問をした。が、門番に『申せません、お帰りを』の一点払いで門前払いされた。

 再度の突撃を試みるアクアに、再び門前払いされるだけだと諭すカズマ。なんだかんだ言いつつダクネスのために行動を続ける彼ではあるが、それはそれとしてパーティ活動を行うために、新たな前衛職を確保する必要がある。

 

 七海は基本サーチアンドデストロイ。前衛職として攻撃力は超一級。しかし、後衛職を守るという点では、少々欠ける部分がある。

 故に、新たな戦士枠を募集すべく、カズマと、ついでにめぐみんはギルドに繰り出していた。

 

「……その、これはオフレコでお願いしたいのですが。貴族間でもアレクセイ家にはあまり良い噂がなく、これはララティーナ嬢からしても望まない婚姻の可能性が高いと思われます」

 

 そんな中、七海は少しでも情報を得るためにツテを当たっていた。

 餅は餅屋、貴族のことは貴族に聞くべきである。最初はレインを頼っていたのだが、通りがかったクレアから更に詳しい情報を得ることができた。

 

 ダスティネス家の息女であるララティーナ嬢が、アレクセイ家の当主に嫁ぐらしいとの噂が流れている。噂とは言えども、ここまで広まっているのならばそれはもはや真実に等しい。

 加えて、ダスティネス家現当主のイグニスと、アレクセイ家のアルダープは、お世辞にも関係性が良いとは言えない。

 アルダープに流れる数々の黒い噂を勘案すると、ダクネスが望んでこの婚姻の話を進めているとはとても思えない、というのがクレアの見解。レインの見解も、概ね似たものであった。

 

「……ナナミさん」

「……ナナミ殿、酷なことを言うようだが、これは中々……」

「ええ、十分理解しています」

 

 血筋というものは、どこでも人間を強く縛り付ける。貴族間の婚姻である以上一冒険者に過ぎない七海がそこに口を挟むことはできないだろうし、狼藉を働こうものなら彼どころか、パーティメンバーすら危機に陥る可能性が高い。

 クレアとしても、知らない仲ではないダクネスがアルダープと結婚することには憤りを感じている。だが、現実問題として、彼女に出来ることがほとんどないのもまた事実。

 

「……屋敷に侵入した?」

 

 そんな会話をして王都から帰還した直後、カズマから聞かされたのはダスティネス家の屋敷に侵入したが、ダクネスの奪還には失敗したという事後報告。

 七海は頭を抱えたが、カズマが今無事にここにいることからしても、通報されたわけではないのだろう。

 そもそもとして、イグニスの人格を考えると、借金が帳消しになるというメリットありきでも、アルダープとダクネスの結婚に賛成であるはずがない。

 

「それにしても、イグニスさん、凄え弱ってたんだよな……」

「弱っていた?」

「おう。病気でも毒でもないらしいんだけどよ」

「…………」

 

 病気でもなく、毒でもない。相手を衰弱し、死に至らしめる術。

 カズマから話を聞き、七海はウィズ魔道具店を訪れた。そこで元を含む魔王軍幹部たちに話を聞く限り、どうにもそのような魔法は存在しない、とのこと。

 『デス』というシンプルに相手を殺す魔法は存在するらしいが、わざわざ相手を衰弱させるものはダークプリーストのスキルにも存在しない。

 

「……はい、そんな神器はこの世界に持ち込まれてないですね。確認してきたので間違いないです」

「ありがとうございます。……もう隠さないんですね」

「だって普通に気付いてるじゃないですかナナミさんは。ならいっそ巻き込んで色々手伝ってもらった方が良いですし」

 

 この世界を管轄する女神に近しき何かであるクリスに話を聞いても、転生者がこの世界に、そのような効果をもたらす神器を持ち込んだことはないらしい。

 時間停止やらグレーゾーンの物はあれど、基本手に悪事以外の使い道がなさそうな神器は事前審査で弾かれているのだとか。

 

「……ふむ、地獄の公爵である吾輩からして、一つ思い当たる方法があるぞ」

「勿体ぶらずに言いなさい、ケントが困っているでしょう。ぶっ飛ばすわよ」

「おっと、恋する乙女とはかくも物騒なものであるか。……呪術、だ」

「呪術……」

「尤も、お得意様が想像するソレとは少し違うがな。生まれ持って魂に刻まれるものではなく、やる気があれば一応誰にでも習得可能なものだ」

 

 やる気があれば。バニルがそう濁したのには理由があり、少なくとも人間の身で衰弱死に至るほどの呪術を習得することは不可能。

 寿命の問題もあるが、種族の壁もある。高度なアンデット、もしくは悪魔であれば可能かもしれない、というのが彼の見解である。

 

「……ふうむ。お得意様は吾輩の同類のような面もある故に、一つ助言をしてやろうか」

「ナナミさん、悪魔だったんですか!?」

「違う。吾輩はウィズに、お得意様はトンチキパーティメンバーにそれぞれ気苦労をかけられている。そのような面での同類というわけだ」

「もう、バニルさん。私が迷惑をかけているなんて……あ、ごめんなさい。いつもご迷惑おかけしてます」

 

 否定しようとしたウィズだが、バニル式殺人光線の構えを見て即座に謝罪した。店主のヒエラルキーが著しく低い。

 ちなみにウィズ魔道具店のヒエラルキーはトップがバニル、次いでハンス、シルビアと来て、最後にウィズがやってくる。最初はあんまりな扱いに異議を唱えていたシルビアだったが、彼女の商才の無さを見ると、この扱いにも納得せざるを得なかった。

 

「アルダープがやっていることは、間違いなく人としての摂理に反するものだ」

「悪魔が人間の摂理語るのかよ」

「五月蝿いぞプルプル毒スライムめ。……続けるが、人から外れた超常の力を用い、他者に危害を加える。ふむ、どこかで聞いたことのあるような存在であるな」

 

 人から外れた超常の力、呪術。それを悪用し、他者に危害を加えるもの。

 七海はこの世界に来る以前、そのような存在と幾度となく相対していた。

 

「……呪詛師」

「本質的には、アルダープのそれと同じであろう。であるのならば、迷う必要はあるまい?」

「……すみません、用事が出来たので失礼します」

「ああ。今度はあの金髪の小娘も連れて訪れるが良い」

 

 そうして去っていく七海。そんな中、魔道具店の面々はバニルに意外そうな表情を向けていた。

 悪魔は人間の悪感情を好む。故に、本来であれば七海にあそこまでのアドバイスをしてやる義理はどこにもない。

 まして、その理由が"同類だから"というあやふやなものであっては、尚更。

 

「要するに、今すぐに100万エリスを得るのか、生涯に渡って月々1万エリスを得るのか、という違いであるな」

「……そういうことかよ、やっぱクソだなお前」

「え、えっと、どういうことでしょう」

「金髪……ダクネスだったか? そいつを助けさせてナナミと一緒にいさせた方が、将来的に食える悪感情の数が多くなるってことだよ」

 

 ハンスの言葉を聞いて、バニルにドン引きした視線を送るウィズ。微妙な表情をするハンスとシルビア。

 ちなみに。この場の誰も、ダクネスが七海の悪感情の源であることを否定することはなかった。さもありなん。




実は7巻分終わりまでストックある(後2話ですが)ので、明日明後日も投稿します。忘れてなければ。
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