「ぐッ、貴様!! ワシが誰だと理解しているのだろうな!?」
「あまり動かない方が良いぞ、アレクセイ卿。罪が増えるだけだ」
「なッ、シンフォニア家の小娘!?」
アルダープを取り押さえるのは、王都から派遣された腕利きの騎士。アルダープと共に甘い汁を吸っていた衛兵たちを最も容易く制圧した彼らは、そのままの勢いで被疑者を拘束。
喚くアルダープだが、騎士たちの背後から現れたのはシンフォニア家の次期当主と目される少女、クレア。家としての格はアレクセイ家に勝る程、彼女の存在がある以上、貴族としての強権を振るってこの場を脱することは不可能。
「セナ殿」
「ええ。アルダープ殿。貴方には国家反逆罪の容疑がかかっています」
「国家反逆罪だと!? 貴様、何の証拠があってそのような戯言を!!」
「戯言を紡いでいた……いや、悪魔の力を使って彼女らに無理やり戯言を紡がせていたのは貴様だろう、アルダープ」
この計画を実行するにあたり、最大の不確定要素は悪魔、マクスウェルの存在。バニルに並ぶ格を持つ彼の力は地上にあっても健在、事象を捻じ曲げられてしまえば如何なる証拠を揃えようと、如何なるメンバーを揃えようとアルダープを拘束することは難しい。
故に、彼の確保が最優先事項。事前に七海とバニルを派遣し、交渉の末に利害を一致させ、能力の不使用を取り付けることができた。
「マクスッ!? 貴様、無能がッ……」
「そういう貴方は、無能と評することすら憚られる」
「……お前は、ララティーナのパーティメンバーか!!」
「お得意様よ。ブチギレているところ恐縮であるが、ここから先は吾輩に任せてもらおうか。悪魔の事情が絡むゆえ、貴様らは外で待つが吉である」
魔王軍幹部として長い間指名手配されていたバニルを前にこのような対応でいいものか、と葛藤する騎士たちではあるが、クレアから命じられればそれに従うほかない。
七海とて、バニルを。悪魔を完全に信じるわけではない。しかし、彼らがまた、契約に縛られる生き物であることも事実。故にこそ、この場はバニルに託し、部屋の外に出る。
「……すみません、セナさん。貴女には難しい判断だったかと思います」
「……確かに。法の番人としては、このような取引を許すのか、という葛藤はありました」
「本当に、申し訳「ですが」」
「それ以上に、法では縛れない不条理があることを、私は理解させられましたから。今更文句は言いませんし、この判断を悔やむこともありません」
そう言い切って、薄く笑うセナ。その表情は非常に魅力的なものであり、七海が少しの間見惚れていたといえば、その様子も伝わるだろうか。
「この礼は、後日如何様にでも」
「…………その、それならば。良かったら、王都のカフェにでも」
「分かりました。日程はお任せするので、都合の良い日を」
「は、はい! わかりました!」
最近若干影の薄い他の行き遅れたちを差し置いてデートの約束を取り付けたセナが小さくガッツポーズをしていると。事が済んだのか、バニルが一人で部屋から出てきた。
「終わったぞ」
「……中で何があったのかは、聞かない方が良いのだろうな」
「で、あるな。望むのなら聞かせてやらんこともないが」
「いいや、遠慮しておく。貴族として生きる中で、知らない方が良い事が多くあることを学んだからな」
「流石は貴族、賢明な判断であるな」
ダスティネス家とシンフォニア家、共にベルセルグを代表する大貴族の娘でありながら、個人でこうも差が出るものなのか。
今ここにいない方の大貴族であれば、中で起きたことを聞いては、それを妄想のネタにでもしそうであるな。
バニルは心中、そんなことを考えていた。
以上で7巻分終わりになります。8巻分は……夏までに開始できたら良いなぁ……