「サトウ君、此方を」
「お、さんきゅーナナミ。焼いてばっかじゃなくてお前もちゃんと食えよ?」
「ご心配なく、自分の分は取り分けていますから。後でまとめて食べます」
「ならいいけどよ。……おいコラめぐみん、それは俺の肉だぞ!」
「ふっふっふ。焼肉における盤面の定石を理解していないとは、カズマもまだまだ───あ、やめてください、眼帯は……ちょtア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!! イイッ↑タイ↓メガァァァ↑」
ゾンビメーカーの討伐。ゴブリンやコボルトよりかはちょっと強いが、それでも初心者冒険者が複数で叩けば容易に達成可能なこのクエスト。特にアークプリーストであるアクア擁するカズマパーティからすれば、カモもいいところ。
出現時間が夜に限られるということもあり、現在一行は墓の近くでちょっとした焼肉パーティを開催している最中。不敬もいいところである。
「あ、そうだ、聞いてくれよ。俺、この前魔法使いの子から初級魔法を教えてもらったんだよ」
「へぇー」
「そうですか」
「反応薄っ!? もっとこう、カズマさんすごーいとか、カズマさんてんさーいとかあるだろ!?」
「その褒められ方で喜ぶんですか貴方……。初級魔法は主に、ウィザード系の駆け出しが初期配分の余りで取る魔法です。生活用ぐらいにしか使えない、威力皆無のクソ魔法ですよ」
「爆裂魔法よりかはマシだろ」
「お、なんですかその発言。私とやる気……あ、すみません! 謝るので眼帯だけはァ!」
取得ポイントが非常に安い初級魔法は、それ故に戦闘においてほぼ役に立たないという欠点がある。
主にクリエイトウォーターによる水の供給、クリエイトアースによる土壌作り、ティンダーによる小さい火、フリーズによる冷凍等、日常生活を送る上で微妙に便利な魔法の集まりである。
「ふふん、カズマさんの魔法なんぞより私の宴会芸スキルを見なさい!! ほら、花鳥風月〜!」
「なんだその謎スキル……」
どこから取り出したのか両手に扇子を持ち、水を吹き出させるという謎技能を披露するアクア。
才能マンたる彼女は初期配分のスキルポイントでアークプリーストの全スキルを取り終えており、それ故レベルアップ分を宴会芸にブッパしている。
全く使い道がないかと思いきや、ギルド等飲みの場で披露すればおひねりとしてそれなりの額が手に入るので、全くの無用とも言い難いのが微妙に腹の立つ要素である。
ちなみに花鳥風月の獲得スキルポイントは、アークプリーストの上位魔法のそれに匹敵する。頭がおかしい。
その後、焼肉パーティを終え、ゾンビメーカーを討伐するべく本格的に墓へ足を踏み入れるカズマ一行。
「……ッ?」
「お、ナナミ、どうした? トイレか? まだ敵感知にも引っかかってないし、その辺でさっさと済ませてこいよ」
「ぶっ飛ばしますよ。……サトウ君、アクアさん達を連れて退避してください。恐らく「あぁああああああああああああーッ!」
突如、後ろから飛び出し墓に立つ女性に向けて突撃するアクア。
咄嗟に止めようにも、無駄に高い俊敏値のおかげで七海が手を出すよりもアクアが駆け出す方が一瞬早い。
あの日死した渋谷で相対した火山呪霊には劣るが、それでも特級に比肩するであろう圧。幸いにして、その圧は呪胎状態の海の呪霊程度であり、領域のような一撃必殺がなければ相打ち覚悟で臨んでなんとか引き分けには持っていけるだろう。
そう踏んだ七海は得物の鉈を構え、地面を強く蹴ろうとする、が。
「ああっ!? やめてくださいやめてください! 魔法陣を壊そうとしないで!?」
「黙らっしゃい腐れアンデット! いくらリッチーだろうと、このアクア様の目が黒いうちは死者を使った悪巧みなんて出来っこないってことをわからせてあげるわ!」
魔法陣をゲシゲシと足で消すアクアにしがみつき、必死に懇願する黒ローブのリッチー。その構図はまるで、自由帳に描いた絵を消し去ろうとするいじめっ子と、それに必死に抵抗するいじめられっ子の構図。
毒気を抜かれたカズマ達だが、相手が強大であることには変わりない。七海は警戒を解くことなく、依然いつでも戦闘に移行できるよう、カズマ達を庇えるように態勢を整える。
「た、助けてえ!! 助けてくださいさぁい!!」
「やめんかアクア」
「ぐえッ!? 何をするのよカズマ! この高潔なる私の頭にイレギュラーが起こったらどうするつもり!?」
「元々バグだらけのコンピュータにちょっとした不良が出来たところで何も変わりゃしねーよ馬鹿が!」
もしかしたらまともな美人とお近づきになれるかもしれない、と。少し───そこそこ───割とガッツリ下心を出したカズマが、剣の柄でアクアの頭をガスっと叩き、強制的に止まらせる。
ウィズと名乗るリッチー曰く、共同墓地は比較的身分の低い人間が葬られる所であり、金銭報酬を得られないこの場所に来て浄化を行うプリーストが存在しない、と。
その為、自身がこの場所を定期的に訪れ、魂を天へと還すための魔法陣を描く作業を行っているのだ、と。
「お前らのせいじゃねーかこの拝金主義女神が!!」
「この街で幅を利かせてるのはエリス教でしょ!? 私の信徒たるアクシズ教徒達が大手を振って街を歩けるのなら「ひ、ヒぃぃぃぃぃぃ!? あ、アクシズ教の女神!?」何ようっさいわねリッチー!!」
アクシズ教とは。
奴らが通る後には草木一本の存在すら許されない。悪魔という存在をこれでもかというほど敵視する宗教であり、同性愛に非常に寛容。入信した場合には食べられる石鹸と飲むことができる洗剤がついてくる。そんな宗教である。
善良で通るエリス教と比べ、アクシズ教の認識はやべえ奴らの集まり、というもの。
なるべく関わりたく無い人には"私、アクシズ教徒なんだよね"ということで、自身の社会的地位を犠牲に距離を取る事ができる。そんな諸刃の剣でもある。
「碌でもねえなアクシズ教徒……って、どうしたナナミ。なんかすんげえ顔してるぞ」
「……失礼。宗教には昔からあまり良い思い出がありませんので」
「お、おお、そうか」
護衛任務の際の盤星教始め、七海が人生で関わってきた宗教などゴミクズのようなものばかり。思わず一瞬顔を顰めたが、直ぐに持ち直し、再び眼前のリッチーに警戒を向ける。
カズマに追及されなかったのは幸いと言えるだろう。仮に"星漿体護衛の際に刺客を差し向けてきた"等と話してしまおうものなら、即座に厨二病認定、からの即時拡散。"ああ、やっぱりこの人もカズマパーティなんだな"と思われてしまう。
「あー……まぁ、ウィズさんの目的はわかったんだが。ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか? 俺たちがここに来たのは、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだが」
「あ……そうでしたか。その、意図的に呼び起こしているわけではなく、私の魔力に反応して、形の残る死体が勝手に目覚めちゃうんです。私としては、この墓場に埋葬される方々が迷わず天に還ってくれれば、ここにくる理由も無くなるのですが……どうしましょうか?」
☆☆☆☆
「えっと……大丈夫なんですかね?」
「まぁ、大方これで片付くでしょう。彼女も、サトウ君の監視があればサボるようなことはしないはずです……恐らくは」
その後。カズマたち一行を先に帰らせた七海は、ウィズと墓場で会話を続けていた。
「えーっと、それで。ナナミさんは、私になんのお話があるんですか?」
「……単刀直入に言いましょう。私は、"貴女"のことをこれから一切信頼しません」
「…………そう、ですか」
ウィズの心中を覆うのは、深い悲しみ。自らがリッチーになったとしても仲間を救う、という選択を取ったのだから、今更後悔するのもおかしな話。
しかし。とうの昔に受け入れた事実であるとはいえ、やはり、面と向かって"お前は信頼できません"と言われれば、彼女とて精神にそれなりの傷を負う。
「……勘違いのないように言っておきますが。貴女がリッチーである、という事実……ああ、ややこしい。立場等諸々を除き、貴女が"アンデット"という存在であることが、私が信頼しない理由ではありません」
「ふぇ?」
「恐らく、貴女には私たちに話していない"なにか"がある。それを話されていない以上……」
「ああ、なるほど。鋭いんですね、ナナミさんは。はい、私、魔王軍の幹部をやっているんですよ」
即座に一定の距離を取って構える七海。
めぐみん曰くリッチーとは最上位、デュラハンに匹敵するアンデット。容易に攻撃を仕掛ければ、防がれて一発アウトの可能性すらある。それを避ける為の行動。
が、当のウィズは魔法を詠唱するでもなく、あわあわと慌てながら両手を前に出し必死の弁解をする。
「ち、ちがいます!! 幹部とは言ってもお城の結界維持をするだけの名ばかりで、人間に敵対するなんてまったく考えていません!!」
「……一先ずそういうことにしておきましょう」
「あ、ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
あまりに必死な様相から武器を収めた七海に、土下座すらしかねないほどの勢いで感謝するウィズ。
呪霊であれば警戒を解くことはあり得ないが、リッチーとはいえ元は人。で、あるのならば、今自分の視界から得られる情報で判断するのも間違いでは無いだろう、と。七海はそう思考する。
「……余計に信頼できなくなった」
「や、やっぱり、そうですよね……」
「…………私は。貴女の為人に、嫌悪感は抱いていない。むしろ、この短時間で好ましさすら覚えています」
「……では、なぜ?」
「貴女は魔王軍幹部でありリッチー。その事実が消えない以上、今後敵対の可能性はいつまでも付き纏う。仮に敵対した際、サトウ君たちに貴女を討伐させるわけにはいきません」
実力的にも、精神的にも。七海除くカズマパーティにウィズを討伐しろ、というのは中々に厳しいものがある。
アクアもアクアで、なんだかんだウィズのことを悪くは思っていないのだろう。仮に本気で嫌悪感を抱いているのであれば、彼女の制止を無視し、カズマを引き摺り倒してでも浄化を進めていた筈。それをしなかったのが、何よりの証拠。
「その際、私が矛を鈍らせるようなことがあってはならない。情という物は、どこまでも人を弱くする」
七海は、前世でその事実を痛いほど知らされている。
「……ふふ、そうですか」
「何を」
「いえ。少し、昔を思い出しまして。……その、私がいうのも失礼な話かもしれませんが」
一呼吸置き、ウィズは一言。
「───優しいんですね、ナナミさんは」
大学がそろそろ始まり、期末を迎えるので投稿ペースが少し落ちます。まことにごめんなさい。