俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち 作:残雪侍
1.スメール 砂漠地帯
ギラギラと照りつける太陽。フォンテーヌの浜辺で浴びるそれとはまた違う日差しは容赦なくそこを行く旅人達を疲弊させる
「フリーナ、フリーナよ。お勉強の時間だ」
「あわわわわ」
そんな過酷な環境で元気なのは、資金に恵まれ準備を怠らなかった賢い人間か、それを襲って物資を奪う事ができる荒くれ者だけだ。
「今後のためによく聞いておけ? 砂漠の真ん中でな、親切そうに話しかけてくるヤツらってのは大体腹に一物抱えてるもんなんだよ。ほら見てみろ、皆俺たちの事を宝箱だと思ってるぞ?」
「ばかー! なんで気付いてたのに黙ってたんだ! 怪しい人なら君が一目見たら分かると思ってたのに、護衛が自ら主を危険な目に合わせてどうするんだよ!」
さて、フォンテーヌを旅立ってから二日。砂漠のど真ん中で俺たちは赤いバンダナを巻いたムキムキの盗賊団に命を狙われていた
何故こんなことになったのか、俺の頭に今までの回想が浮かび上がる……
ロマリタイムハーバーから出発して、神の目が無かったあの頃は杭とロープで降りたことのある断崖絶壁をフリーナを抱えて圧縮した水を爆発させた勢いで飛び登る。棄てられた古い洞窟を抜けるとそこは鋭く削られた岩と山に囲まれた悪路の中の大悪路でした!
フリーナの手を引きながら道無き道を行き崖を渡っていく。改めて考えると、神の目無しでよくこんな道を通ったな俺……
特に険しい地域を超えたら今度は砂砂砂。 昼の暑さと夜の寒さを併せ持つ砂漠に到着した。フリーナの体調を考えてさっさと通り抜けたいので近くにいた駄獣を手懐けて砂漠横断! といったところで同じく駄獣を引き連れた連中とかち合った。
服装からしてフォンテーヌ人。慣れない砂漠は疲れただろうとこちらを労ってくれる彼等をフリーナは大いに信用した。俺の顔を見て判断したと言った方が正しいかな。行き先が同じだからと日陰のある荷車に俺達を招き、一先ずの目的地……アアル村まで送って貰う事になったのだ。
しかし、着いたところは目的地でも何でもない。四方を岩の壁に囲まれたいかにもなアジトだった……タダより怖いものは無いということだな。回想終了!
「囲まれてるのがわかんねぇのか! さっさと降りて金目のもんを置いてきな!」
「うわーん! ばかルドー! 楽しい僕の旅を返してよ。こんな筋肉だらけの思い出嫌だよー!!」
フリーナに泣きつかれてガクガク揺さぶられる。のんびり旅するのもいいが俺はお前に旅が楽しいだけじゃないことを教えてやりたいし、ヌヴィレット様に刺激的な旅の報告を聞かせてやりたいんだよ。こういう傭兵だか盗賊だかわからん奴らに絡まれてそれを切り抜けるダイナミックな旅行だ。序盤の盛り上がりは上々だな
「んじゃ、ちょっと待ってろ。話をつけてくる」
「うぅ……っ、絶対殺しちゃダメだし怪我もしないでね」
そんなフリーナの声が周りにも聞こえたのか彼等が殺気立つ。嘗められているように聞こえたのか?
荷車を降りてへらへら歩み寄る。高いところから見下ろしてるのは頭領だろうか。敵意はありませんよとばかりにくるりと回って敵の数を確認。大体二十人前後か……
「ようよう。そんなに殺気立つなって、平和的にいかないか?」
「それはお前達の誠意次第だな。大人しく物資をよこすなら考えてやらんこともない」
「案内をしてくれるのなら、その分の報酬を払ってもいいんだがな」
「全部、だ……。何度も言わせるな」
うむ、交渉決裂だな。俺は刀を抜いて構えた。半ばから折れた刀身を見て男共が笑う……ただ一人、怪訝な顔をした頭領らしき男を除いて。
「せぇ──のッ!」
地面を舐めるような低姿勢で突進。水を足元に敷いて滑るように一人に接近し、すれ違い様にすぱぱっと片付ける。安心せい、峰打ちじゃ。
「こいつッ!」
後ろから襲い来る剣を勢いを殺さずに受け流し、体勢が大きく崩れた隙だらけの胴に水を纏わせた斬撃を叩き込む。今回の水は分厚く纏ってるから斬撃というよりは殴打だな。吹き飛んだ男が周りの人間を巻き込んでいく。今ので八人くらいやったか?
攻撃を誘い受け流して同士討ちを起こし、止まった相手には怒涛の連撃を仕掛ける。まさに変幻自在! 『無銘』の本領発揮だな
ばったばったと敵をなぎ倒していくうちに頭領の慄く声が聞こえてきた
「白金の髪に折れた刀……そしてあのよく分からん剣技! 腐ったデーツみてえな目じゃないから分からなかったがあいつ……三年前に俺達をボコボコにした奴だ!」
てめー! 人の顔を失礼な印象つけて覚えてんじゃねえぞ! 俺は吼えつつ飛び上がってかかと落としを決めた。つま先から水を噴射して威力と速度をあげたそれを頭領は躱せず、顔から地面に叩きつけられた。痛そうだな
「頭領ーッ! 畜生……おい、相手は一人だ。人質を使え!」
「る、ルドー!」
おや、フリーナから離れすぎたか。俺と彼女の間に距離ができたのをいい事に荷車に向かった数人が中に入った途端に吹き飛ばされて出てくる
「──『鬼神演戯』」
俺は手首につけた切り傷を治しながら元素爆発を発動した。翁面をつけたモリスが颯爽と荷車から降りてくる。モリスさん!? そういえばまだ形を変えたままだったな
形を戻した分身と合流して『無銘』の型を構える。もはや荷車も狙えず、背後を壁に阻まれた彼等に逃げ場は無い。
「誰に喧嘩を売ったのかしっかり思い出させてやるよ。次会うときは顔パスでよろしくなぁ!」
破れかぶれになって突っ込んでくる残党をこちらも迎え撃つ。がむしゃらってやっぱり隙だらけだな。俺と決闘する時のクロリンデさんもそう感じていたんだろうか
そんなことを思いつつ、勿論容赦なくボコボコにした。成敗!
「フリーナ。終わったからもう出てきていいぞ」
「……」
死屍累々。痛みに呻く盗賊達を尻目にフリーナに声をかける。荷車の中からひょこっと顔を出した彼女は周囲を見渡した後、羽のように軽く荷車から降りた。優雅と可憐が一つになったような所作だ。這いつくばっていた盗賊達も思わず見惚れている
「どうよフリーナ。俺にかかればこんな奴ら敵じゃないだろ」
「うん。君が強いことは僕が一番知ってるからね。ありがとうルド」
「今の俺はお前の護衛だからな! いい所見せられて良かったぜ」
俺はふふんと胸を張った。フリーナにはいつも負けている所ばかり見せているからな。戦力として使える所を見せておかねば
おや? なんだよクラバレッタさんを呼んでいたのか。フリーナの足元に見慣れた友人がいることに気づいた俺は反省した。サロンメンバーが呼ばれているという事は、俺がしっかり護衛をすると彼女に信じて貰えなかった事を意味する。もっと安心して任せて貰えるように強くならないとな
「ううん! 彼女を呼んだのは戦闘が終わった後さ。君の事は勿論信頼しているとも」
「……? 信頼してくれるのはありがたいんだけど、じゃあなんでよぶォ゛ーーッ!?」
脳天に衝撃! 踏ん張った足元の砂が吹き飛ぶ。クラバレッタさんに殴られたと気付いたのは首まで砂に埋まってからだった。見ていた盗賊の皆さんも思わず恐怖の悲鳴をあげる
「一度倒した相手なら尚更戦う必要が無かっただろう! 刀を見せて少し脅せば君のことを思い出して逃げたはずだ。大体! 君のいい所は戦闘能力だけじゃないって僕はいつも──」
ぉおぉ……ッ! 頭が割れるっ! ぐわんぐわん揺れる視界と耳鳴りの中フリーナが何か言っているがほとんど聞こえない。
彼女の怒りの矛先は俺から盗賊達に移ったらしい。首しか動かせないので壁にさらに追い詰められた頭領達に詰め寄って行くフリーナを眺めることしかできなかった
「君達も、こんないかにもな特徴を持ったフォンテーヌ人なんて印象に残るんだからちゃんと覚えていてくれよ! さぁ、傷を治すから一列に並んでくれ! 謝罪した者から順番だよ」
「ご、ごめんなさい……」
すみませんでした……未だベチベチとクラバレッタさんに頭を叩かれながら俺は謝罪した。
2.スメール キャラバン宿駅
「フリーナ様! 道中どうかお気をつけて!」
「フリーナ様……こちら砂漠で狩った動物の燻製肉です。どうぞ」
「う、うん。ありがとう……君達も悪さはもうしちゃダメだよ」
「おぉ……! ありがたきお言葉。我らが神に誓って!」
盗賊……いや、傭兵『エルマイト旅団』をぶちのめした俺達はその強さを認められ、迷惑料ということでアアル村を飛び越えてキャラバン宿駅にまで足を進めていた。流石は砂漠の民、抜け道近道はお手の物だったな。
で、何故フリーナがこんなに崇められているかと言えば至極単純。俺が傭兵共をボコって、その俺をフリーナがボコったので、必然的に彼女がこの中で一番強いということになったのだ。間違ってはいないがフリーナは少し萎縮している。右を見ても左を見ても筋肉筋肉だからな。言うことを言ったら俺の後ろに隠れてしまった
ムキムキ達に手を振られながらキャラバン宿駅を出発する。この時間なら今日中にヴィマラ村に着けるかもな
「ルド、見て見て! 森だよ! すぐ後ろは砂漠なのに不思議だね」
「おぉー、あの防砂壁ってのが砂漠化を防いでるらしいぞ。しかしここまで環境が一変するのは珍しいよなぁ」
フリーナがはしゃぐのも無理はない。宿駅を出てから緑が多くなり、広大な森が見えてくる。これ程の大森林はフォンテーヌでは目にできないだろう。
生きるもの全ての体力を平等に奪う砂漠と違って今度は豊かな自然とそこに根差す者たちの食物連鎖の世界だ。俺が通った時も大分しんどかったが、今回はどんなハプニングが待っているんだろうな!
……わかった。真面目にやるからそんなジトッとした目で俺を見るなフリーナ。クラバレッタさんは俺の頭をべチベチするのいい加減やめない?
クラバレッタさんはルドのことを手のかかる後輩だと思ってます