俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち   作:残雪侍

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旅道の章・第四幕

 

 

 1.スメール スメールシティ レグザー庁

 

 

「だから〜……っ! 俺は誘拐犯ではないんですって! 俺は彼女の護衛でしてね!? 旅の途中でこちらに観光しに来ただけなんですよ」

「ふむ、では危険運転の件はどう説明するんだ? 目撃者の証言によればヴィマラ村から観光客を攫ってきた蛮族としか言い様がなかったそうだが……そもそも、主を自ら危険に晒す護衛がいるのかねぇ」

「うーん……そう言われてしまうとまぁ居ないでしょうね」

 

 俺は論破された。ごめんフリーナ、俺の旅はここまでみたいだ。詰め所に連れてこられた俺はムキムキさん達に囲まれて事情聴取を受けていた。

 あぁ、今頃フリーナは何してるかな。冒険者協会に手紙は届けられただろうか。もうご飯を食べてしまったかな。見慣れない街で怖い思いをしていないだろうか……彼女を一人にした俺が悪いのだが。

 埒が明かないな。俺はさっさとフリーナと楽しいスメール観光をせねばならんのだ。武器は没収されているが『無銘』には刀を奪われた時の技もあるんだぞ……ごちゃまぜちゃんぽん武術をなめるなよ。

 俺がどうやってこの場を脱するか思考を巡らせていると、尋問は思わぬ乱入者によって終わりを迎えることになった。

 

「邪魔するよ」

「なっ、今容疑者の聴取中だぞ、部外者に勝手に入ってこられると──」

「はぁ? 教令院お抱えの傭兵団が、僕の顔を知らないとは驚きだ。余程の世間知らずなのかな。それとも寝ぼけているのか……誰の指示で僕が来ているのかまだ分からないかい?」

「ぐ!? お前はあの方の……大変失礼致しました」

 

 うおぉ、怒涛の口撃……大の大人が少年にまくし立てられて手も足も出ないとは。ていうか誰?

 見れば見るほどスメール人とは程遠いなこの少年……烏の濡れ羽色と言うべき漆黒の髪に稲妻様式の服装。稲妻人だろうか? 人形めいた美形だ。

 じろりと少年が俺を見た。何だその顔、思ってたのと違ったような……期待ハズレって感じだな。なんだ? 喧嘩するか?

 

「君がルド=ウィークか。スメールについて早々に騒ぎを起こすとは大したものだ。付いてきなよ、君たちに会いたがってる奴がいるんだ」

 

 話が全く見えないがここから出してくれるそうなので有難く従うとしよう。口ぶりからフリーナとも合流できそうだしな。

 ムキムキさんに武器を返してもらって「もう来るんじゃないぞ」と釘を刺されてレグザー庁を後にする。なんかよくわからんが許されたらしい。やったね。

 前を歩く少年が俺を、というより俺の腰に差した刀を見てきた。そんなに気になるのか、ここらじゃ帯刀してる人は珍しいもんな。故郷を思い出したりするのかね。

 

「……ふうん」

「なんだよ。助けてくれたことは感謝するけど、俺はあんたを警戒してるぞ。レグザー庁の人達も態度が変だったし、何よりあんた稲妻人だろ。誰の指示で動いてる?」

「すぐにわかるよ。僕の事を疑っているのなら言っても警戒を強めるだけだろうしね」

 

 そんな言い方をされるってことは、相当やんごとない人物が裏に居るって事だ。

 やだなぁ……フリーナ、大丈夫なんだろうか。知らない人について行って危ない目にあってるんじゃないか? 今まさに知らない人について行っているのは俺だけどさ。

 というかここ、スメールシティの中でも郊外の方だ。待ち合わせ場所にしては随分辺鄙なところだな。

 

「……君、本当に腑抜けているんだね。警戒はすれど疑わず、隙だらけのまま僕の後を付いてきて……とてもじゃないがあの『剣鬼』とは思えないな」

「うぐっ!? ……さすが稲妻人だな、俺の事を知ってたのか」

 

 俺は咄嗟に虚勢を張った。確かに善意に慣れすぎて腑抜けていたかもしれない……普通に考えてほいほい付いて行くべき相手じゃなかった。一目見た時から只者じゃない雰囲気は出てただろうに俺の馬鹿!

 しかし、ここでも『剣鬼』か……俺も有名になったものである。悪行ってのは消えないもんだな。

 

「一つ聞きたい。君、あの雷神の一太刀を受け流したというのは本当かい?」

「今俺が生きてここにいるんだから本当に決まってるだろ」

 

 よく覚えてないけどな。気がついたら折れていた刀と、俺のすぐ横で煙を立てる斬撃の跡からそう思っただけだ。

 

「…………試してみるか」

「あ? 何を──ッ!?」

 

 俺は銀の剣を抜き放ち、飛んできた何かを弾き飛ばした。恐ろしく鋭利に形成された風の刃……敵を倒すことだけ考えた凶暴な使い方だ。少年の胸につけられた風元素の神の目が揺れる。彼に攻撃された事は間違いないだろう。

 なーにが付いてくればわかる、だ。目を見れば分かるがこいつ今与えられた職務を放棄して俺と遊ぶ気満々だ。勘弁してくれよな。

 だが、このままやられてやる訳にもいかない。俺は『無銘』の型を構えた。早くフリーナを探さなければ。

 

「なるほど、確かに妙な技だ。力を上手く分散しているのか……」

「危ねぇな何しやがる! 言っとくけどそんな大したもんじゃないからな。戦う理由も無いし怪我する前にやめとこうぜ!」

「なんだ、戦いに理由が必要なタイプなのか。君に無くとも僕にはある。どうしてもやる気が出ないのなら、少し教えてあげよう」

 

 何なんだよ稲妻人。好戦的な奴が多すぎるぞ! 俺は刀をチャキチャキするご令嬢の事を思い出した。稲妻に着いたらその場の全員から刀を向けられそうだ……今のうちに顔を隠せる物を買っとこうかな?

 んで、やる気? でねーよそんなもん! さっさと逃亡して衛兵に助けを請おうか。もう来るなと言われたレグザー庁が恋しい……。

 

「さっさと僕をどうにかしないと、君の連れ……フリーナだっけ? 大変なことになるよ」

「────」

 

 ガチリ、と俺の中で何かが切り替わった。

 足元を爆発させて距離を詰め、剣を振り下ろす。その動作を極限まで無駄を捨てて実行する。目の前にいる少年()を殺す為に。

 叩きつけた剣を真正面から風を使って防ぎ、後ろへ飛んで間合いを取り直した彼は俺の雰囲気が変わったことを察したのだろう……楽しそうにニヤリと笑った。

 

「……なんだ、やればできるじゃないか」

「──お前」

 

「フリーナに、何かしたのか」

 

 

 思考が研ぎ澄まされる。俺は銀の剣を納めて刀を握った……あの風、普通に突破するのは難しいな。

 どうすればあれを超える事ができるのか。考えるまでもない、真正面から叩き切る。鎺から溢れ出した水が刀を覆っていく。薄く鋭く、しかし密度は大きく……およそ『剣鬼』時代にも作ったことの無い殺意の塊が完成した。

 

「へぇ、その刀。そう使うんだね」

「……殺す前に聞いておく、名前は?」

「笑える。そこは大事な人の居場所を聞くところじゃないのか?」

「あんたに指示を出した奴は相当地位が高そうだ。なら登っていけばわかるだろ」

「そうだね。まぁ、殺せたらの話だけど」

 

 少年の被った笠が消え、顔がよく見えるようになった。背中側から噴き出した風が全身を包んで彼を空に浮かび上がらせる。風元素だからな、飛ぶこともあるだろう。

 …………上から見下ろされる形になったが、こんな光景どこかであったな。俺は少年の顔に誰かの面影を見た。それも直ぐに殺意に塗り変わって消えていく。

 

「浮かび上がって神様気取りか? 直ぐに叩き落としてやるから覚悟しろ」

「地面に這い蹲る準備は出来たようだ。なら、一緒に刻みつけてあげよう。僕の名は──」

 

「あー! 笠っちだ!!」

 

 かさっち。とな? ばしゃりと刀を覆った水が溶けた。

 俺が今殺そうとした相手は、スメールシティに住む少年少女達に囲まれてもみくちゃにされていた。えぇ……?

 

「なっ、ガキども! 僕の邪魔をするな……こら、足を引っ張るんじゃない! 」

「なーなー笠っち、またアレやってくれよ! 抱えて空飛ぶやつ! 」

「空気を読みなよ青二才が!」

 

 …………うーん。俺は刀を振って水を払い、鞘に納めた。今まで見ていた彼の雰囲気は何と言うか悪そのものな感じだったが、こうして子供たちに好かれている所を見ると、悪い人じゃないんだろう。

 

「なぁ笠っち。もうフリーナの所に行っていいか?」

「やめろ! その名前で僕を呼ぶな!」

「そうは言ってもお前にこれ以上構ってられねーんだよ。じゃあな」

「あぁクソ。君のお友達は一番上に居るよ! 話は通してあるから勝手に行け!」

 

 おぉ、ありがたい情報を貰ったな。上に続く道はこっちか。後ろでわーきゃー騒がしい声を聞きながら俺はその場を走り去った。

 

 

 2.スメール スメールシティ スラサタンナ聖処

 

 

 本当に話は通してくれているらしい。俺のような明らかな異国人が道を歩いても誰にも何も言われずにここまで来れてしまった。だが、俺の心にはどうしても笠っちの言ったことが棘となって突き刺さったままだ。

 フリーナ、頼むから無事でいてくれ。この扉の先で彼女が酷い目に合わされていたなら……俺は。いや待て、スラサタンナ聖処って確か?

 ええい考えるのは後だ! 俺は勢いよく扉を開け放ち、刀に手を添えたまま中に突入した。

 

「フリーナッ! …………あ?」

「もごっ!?」

「──あら?」

 

 神秘的な緑の空間に飛び込んだ俺の鼻を美味しそうなスパイスの香りがくすぐる。次に目にしたのは、広い空間の中心で見慣れた帽子とアホ毛。一目見た時点でわかる神秘を放つ幼い少女が振る舞うスメール料理を、美味しそうに頬張る友人の姿だった。

 ……うん、確かに大変なことにはなっているな。俺はタフチーンを喉に詰まらせて苦しそうにしているフリーナを見て肩の力を抜いた。

 

 

「……そう、彼がごめんなさいね。ちゃんと叱っておくから、どうか許してちょうだい?」

「いえ、結果的に俺を助けてくれたわけなので、フリーナも無事だったしこれ以上は望みませんよ」

「そもそもルドが捕まらなかったらこんな事になってないだろう。君は行く先々でトラブルを起こして……」

 

 面目ねぇ……。俺は反省した。

 話を聞けば、フリーナは言われた通りに冒険者協会に手紙を出した後、街をブラブラしていると使者にここまで招待してもらったらしい。護衛である俺が捕まった事を話すと、俺を解放してもらえるようにスメールの草神であるクラクサナリデビ様は仰られたそうだ。神様……っ!

 俺はちらりとフリーナを見た。

 

「…………何かな。僕とナヒーダを比べて言いたいことがありそうじゃないか?」

「いいや何でも? よく噛んで食べろよ」

「余計なお世話だよ! あれは君が急に飛び込んでくるからびっくりしただけだ!」

「ふふ、仲がいいのね」

 

 おっと、神の御前でいつもの調子で話す訳にもいかないな。しかし彼女は俺たちが仲良くしているところが見たいらしい。それならと俺は勧められたタフチーンを一切れかじった。うまっ!

 

「あ、そうだ。何とヌヴィレットから追加物資が届いていたんだよ」

「まじかよ、俺たちがここに来ることもお見通しか」

 

 追加物資は旅費と……こんなに要らないんだけどな。次にマジックポケット。これは便利なのでお土産を入れる時に使おう。それと、俺宛の手紙? どれどれ

 

『ごきげんよう。これを読んでいると言うことはスメールシティに着いたのだろう。旅は順調なようで何より。送った追加の資金とマジックポケットを有効活用して彼女の旅を楽しいものにしてくれたら幸いだ。

 ところで……映影祭の撮影で一回、砂漠で一回。雨林での事は不可抗力なので無効とするが、誠心誠意の謝罪で許されるのはあと数回だ。くれぐれも気をつけて』

 

 …………サーっと俺から血の気が引いた。バッと後ろを振り返る。どこから、どこから見られているんだッ!?

 俺が読んだ事を確認したのか手紙が役目を終えたかのように溶ける。璃月に着いたら真っ先に法律家を探さないと……っ!

 

「なんて書いてあったんだい?」

「いや、あまり知らなくていい事だ。気にすんな」

「???」

 

 ところで。わざわざ俺たちを招待したってことは、クラクサナリデビ様には何か俺たちに用があるのだろう。

 正しく知的といった雰囲気の草神様は俺の雰囲気を読み取ったのだろう。幼い見た目に似合わない笑みを浮かべる……な、なんだろう。

 

「いいえ、特に用は無いのよ。フォンテーヌの元水神がうちに来ると聞いて、是非お話したいと思っただけだもの」

「うん! 彼女とはとても興味深い話ができたんだ。植物の話や劇の話……何でも知っていて凄いんだよ」

「あぁ、そう……知恵の神様だしな」

 

 外から興味深い生き物が来たらそりゃ知的好奇心を満たすよな。フリーナと話すのは面白いからぜひ仲良くしてあげて欲しい。水神が力を失ったことを知っているのは流石といったところか、言いふらすような人じゃないのはここまで話せばよく分かるけど。

 

「ルド=ウィーク……私は貴方の事も興味深くみているのよ? 」

「むむっ!? る、ルドに面白いところなんてひとつもないよ!」

「なんだお前! 俺が居ないとつまらないとか言っていたのは嘘かよ」

「あ、あれはっ」

「安心してちょうだい。貴女の思っている興味深さとはまた別だから」

 

 どの興味深さなの? あとなんで歌い手さんが飛び出てきてるんだ。怪我してないんだけど……。

 歌い手さんの抱擁を受けながら俺はクラクサナリデビ様の話を聞いた。

 

「ナヒーダで構わないわ。貴方……色々大変なことになってるわね」

「大変とは?」

「例えば、その刀、その目……その天賦。特に天賦はあまり使わないようにするといいわよ」

「それは僕もそう思う……」

 

 なんだ二人揃って……あれか、ダメージを元素エネルギーに変換して無理やり元素爆発を使う技のことを言っているのか。確かに無茶の極みみたいな技だし使わないに越したことはないよな。気をつけるとしよう。

 

「さて、あなた達の観光を私だけが独り占めする訳にもいかないわよね。宝盗イタチが逃げ去る時のように、スメールシティをくまなく観光してちょうだい」

 

 それは「スメール観光してモラをガンガン落としてね」という意味だろうか。言われずともフリーナはスメールシティを楽しむつもりのようなので俺としても文句は無いが。

 

「ナヒーダ! 話せて良かった、また会える時を楽しみにしているよ!」

「えぇ、あなた達が楽しい旅をできることを祈っているわ。またここを訪れたなら、是非旅の事を話してちょうだいね」

 

 ナヒーダ様に礼を言ってスラサタンナ聖処を出る。聖樹から見下ろすスメールシティは楽しそうな所だらけだ。時間はまだあるし沢山観光するとしようじゃないか。

 

「ルド、ルド! ナヒーダの話だとグランドバザールって場所があるみたいなんだ。そこでは踊り子達がショーをするんだって。行ってみたい!」

「ん? あぁ……そうだな。俺もあそこはフリーナが気に入ると思ってたんだ」

「えへへ、決定だね! ほら、早く行こう」

 

 グランドバザールには顔見知りもいるし、挨拶しておくべきだろうな。そんなことを考えていると焦れたフリーナが俺の手を引っ張って聖樹を降りていく。本当に楽しそうだな、彼女を見ていると俺の心に刺さった不安の棘が消えていく。これが癒しってやつなのかね。

 

 

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