俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち   作:残雪侍

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旅道の章・第六幕

 

 

 1.スメール スメールシティ トレジャーストリート

 

 

『護衛の仕事』とは依頼人との信頼関係が大事なのだといつか聞いたことがある。対象を気遣いすぎるあまり、あれもダメこれもダメと制限をかけてしまえば依頼人は護衛の力量を疑ってしまう。そんな存在に命を預けることはできないし、せっかくの旅行も台無しだ。

 付かず離れずの距離。依頼人は護衛を信じ、護衛はその信頼に応える。誰にも気付かれずに自然に護れるのが理想的なのだ。

 

「ということで俺は少し離れた所で見守ってるから二人で楽しんでくれ。ここは衛兵も多いから俺の出番はねえだろ」

 

 できる護衛である俺はそそそっと二人から離れた。いやーこの人混みだからなぁ! フリーナとニィロウがもっと仲良くなれるように危険は極力排除してやらねば。

 

「何馬鹿なことを言ってるんだい。ほら行くよルド!」

「ルド、せっかくだからみんなで遊ぼう? 一緒にいた方が楽しいよ!」

 

 やめろ。せめて二人の間はやめろ! 仲のいい女の子二人の間に挟まるのはまずいらしいぞ! 俺は昔読んだ本のことを思い出した。場合によっては有罪判決が下った例もあるらしい。怖すぎる。

 

「あぁ、70年前の……あれは嫌な事件だったね」

「あったのかよ!」

 

 フォンテーヌは一度法律を見直すべきだと思う。隣人泣かせすぎ罪とか特にな!

 結局二人のすぐ後ろを俺が歩く形で妥協してもらった。あのまま間に挟まったままだと俺に不幸な事故が起こりそうだったので一安心だ。全体を見れるから護衛しやすいのもいい。

 今俺たちがいるトレジャーストリートは先程までいたグランドバザールとはまた違った活気を持つ場所だ。道の至る所に屋台が立ち並び、皆思い思いの商売を行っている。これだけの数だからフリーナ達の足が止まる止まる。あっちでアクセサリーを見つけてはしゃぎ、こっちで日用品を見ればお揃いのものを買う。ニィロウは人と仲良くなるのが上手いなぁ。

 俺はと言えば、用途不明の壺なんかを見つめて訳知り顔でうむむと唸ってみたり、子供用のお土産に売られている夢の中の精霊をモチーフとした人形にいつかの彼を思い出したりだ。つまり冷やかしである。

 

「ルド〜」

「どしたニィロウ。いいもの見つけたのか?」

「これ、ルドにあげるね!」

 

 自然にフリーナを視界に収めながら出店を見ていると、横からニィロウが顔を出して俺に何かを手渡してくる。受け取って見るとカルパタラ蓮の装飾が施された腕輪だった。ちょうど花托の部分に小さな宝石がつけられている。

 

「そこのお店で見つけたんだよ」

「あ、ありがとうな……でもこれちょっとサイズ的に入らないと思うぞ」

「うん! 小さめなの選んだから」

「なんで?」

 

 受け取った腕輪はニィロウがつけるにしてもギリギリのサイズのもので、どちらかと言えば子供用だ。俺が付けられようはずも無い。しかしこのデザイン、確か……と俺が思い出す前にニィロウは答えをくれた。

 彼女が懐から取り出したのは紐を取り付けてネックレスのようになった腕輪、俺が貰った物とは違いこちらはサウマタラ蓮が象られている。

 

「ルドが私の誕生日にくれた腕輪とお揃いなんだ。覚えてる……かな」

「おぉ、懐かしい……!」

 

 そうだそうだ。俺がグランドバザールで働いてる間にニィロウが誕生日だってことでプレゼントしたんだったな。やるじゃないか在りし日の俺、ただぼーっと生きてたわけじゃなかったらしい。

 

「えへへ、あの日の私とお揃いってことで……大事にしてね」

「もちろん。腕に通すのは無理だから御守りにさせてもらうな」

「あっ、それなら……」

 

 スルスルっと取り出したるはこれまたお揃いの紐。用意が良いな……。俺はニィロウに腕輪を結んでもらった。これで完全にお揃いだ。

 吊り下げられた腕輪をしげしげと眺めていると、ニィロウが俺の顔を見ているのに気づいた。やっぱりこの目が気になるのだろうか?

 

「ルドの目の色、やっと見れた。ずーっと曇り空だったのがすっかり晴れたみたい。ちょっとフリーナと似てるんだね」

「色々あってな……」

 

 俺の目はこれまでの人生を如実に表している。さすがに立ち話で死にかけた話なんぞをする訳にもいかないのでここでは割愛するが……。

 おっと? のんびりしてたらうちのフリーナさんが遠くに行きそうだ。周りが見えないくらい楽しんでくれているようだが、いくら俺ができる護衛だからといってさすがに離れすぎだ。急いで追いかけねば……なに?

 

「あっ、えっ……と、ね。人混みではぐれちゃいそうだから……」

「あぁ、良いよ。ただ右手がふさがるのは不味いから繋ぐのは左手な」

 

 一歩先を歩く俺の左手を遠慮がちに、しかししっかりとニィロウが握ってくる。うーむこの感じも懐かしい……。フォンテーヌにたどり着くまでの記憶が曖昧だのなんだのと独白してはいたが、こうして懐かしい顔と会って話せば、鮮やかに記憶が蘇っていく。昔の、今より背が低かったニィロウは俺の手を引いて色んな場所に連れ出してくれていたんだったな。

 

「ね、ルド……フリーナはあなたにとって大事な人?」

「どうしたいきなり……そうだな、あいつは俺にとっての恩人で、大切な友人だよ」

「……そっか、ルドにも大切な人ができたんだ。良かった。あの子のこと、助けてあげてね」

 

 ぎゅうっと俺の手を握る力が強くなった。少しマメの硬さを感じるが手入れの行き届いたしなやかな感触……努力の跡がわかるいい手だ。

 しかし大切な人か。それはそうだ、そうなのだが……少し誤解しているみたいだな。

 

「俺にとって、ここまでの旅で会ってきた人は皆恩人だし大切な人だぞ。フリーナもお前も、俺が役に立つのなら喜んで力になるさ。特にニィロウは俺の妹分なんだろ? 可愛い妹の頼みを断る兄は居ないらしいぞ」

「───。憶えて、くれてたんだ」

「当然。俺が旅立つ前日にぐちゃぐちゃに泣いてくれたのは強烈だったからな」

「そ、そこまで憶えてなくて大丈夫だからっ!」

 

 なははは。

 さて、雑談はそこそこに、俺たちは未だに興味深そうに出店を見ている我が依頼人の所に到着した。ふんふんと鼻歌まで歌って、真後ろにいる俺たちに全く気づいていないな?

 

「わっ!」

「わああぁ!? る、ルド! 君は普通に話しかけられないのかい!?」

「お前が無防備すぎるのが悪い。もっと周囲を警戒したまえ」

「ぐぬぬぬ……!」

 

 いつものようにフリーナをからかって、それに彼女が噛み付く。花が咲くような顔でニィロウが笑って、営業妨害だからやめろと出店の店主に怒られてトレジャーストリートでの買い物は終了した。

 

 

 2. スメール スメールシティ プスパカフェ

 

 

「こ、これがパティサラプリン……ルドが言っていたことが真実かどうか、僕が確かめてやろうじゃないか……っ」

「すっごく美味しいから、きっとフリーナも気にいると思うよ!」

 

 四人がけのテーブルを埋め尽くすスイーツスイーツ。俺たち三人はスメールシティでも老舗のカフェで午後のティータイムをしていた。フリーナを誘った時に適当にスメールのスイーツを挙げてみたが、まさか全種類頼むとは思わなかったぜ。見てるだけで甘ったるいので俺は頼んだ珈琲を啜った。

 

「ふあぁ……! これ、これは凄いよっ、頭の中まで香りが広がって……とろけていくぅ……」

「なぁそれ合法? だよな? 感受性に富みすぎるだろ」

 

 プリンを一口ぱくついたフリーナの顔がとろける。あまり他の人に見せたくない表情になっているが、それほど美味いのだろう。

 

「ルドも食べてみなよ! ほらほら」

「お前それ……まぁいいか」

 

 差し出されたスプーンに一瞬怯むが、観念して一口プリンを貰った。うむうむ……甘さと香りの調和がとれて奥深い味わいだ。前食べた時より美味しく感じるのは、まさかフリーナから貰ったからじゃないだろうな。

 

「ルド、こっちのパグラヴァも美味しいよ! 食べてみて」

「ニィロウさん? そんなに押し付けられたら食べにくくってよ」

 

 ニィロウから押し付けられたパグラヴァを齧る。パイ生地のサクサク食感が噛んでて楽しい……ではなく!

 むくれたフリーナが次のスプーンを差し出そうとする前に俺は席を立った。あのまま甘々ループにはめられると俺の胃が死ぬからな……。俺は手洗いに行くふりをして目立たない席に移動した。この位置ならフリーナ達から目を離さずにゆっくりできる。

 

 珈琲を追加注文すると、店員は頼んでいない皿と共に持ってきた。それに合わせるようにゴロツキのような風体の男共が俺の前に着席する。何スか? 俺は目の前に置かれた皿を見て、顔を思い切りしかめた。

 

「…………デーツナンか」

「くく……」

 

 これはあれか。この席に着いてしまった者を排除する為の常連による嫌がらせ……! もしくは二人の間に挟まってしまったことによる運命の刺客か!

 デーツナン。またの名を食べられる乾燥剤。ぬちっとした食感の人を選ぶデザートだ。スイーツと言うには味気なく、主食にするには仄かな甘みが邪魔すぎるどうしようもない食べ物である。

 だがな、水分を吸収すると言うのなら先に吸わせてしまえばいいのだ。俺はホットミルクを注文した。デーツナンを一口分にちぎってミルクに浸す。「ヅュ……」という音をたててミルクが消滅した。デーツナンのパサパサ加減は変わらずだ。もう兵器だろこれ! 小さな湖くらいならこいつを放り込めば無くせそう……。

 

「甘い甘い……今まで何人がこいつの食い方に立ち向かったと思っている? 可愛い女の子に囲まれて幸せそうにしやがって……報いを受けろ!」

「ぐっ!」

 

 俺は冷や汗をかいた。このままではフォンテーヌ人の干物が完成してしまう。俺はまだ終われないのに!

 いや待て、これは敗者が受けるべき罰だ、なら勝敗を明確にしなければならない。その術を俺は持っている!

 俺は! まだ! 死ねない!! マジックポケットに入れた俺の秘典の箱が光る。

 

「俺はお前たちに『決闘(デュエル)』を申し込むぜ!」

「はっはァ! その言葉を吐いて干からびたのはお前で三人目だ」

 

 俺たちは互いに七聖召喚のフィールドを展開した。しかし相手は二人……二対一は分が悪いな。

 

「手が足りないみたいだな。このゲームは数を合わせた方が楽しいぞ」

 

 俺の隣の席にすすっと着席する人影……こいつ、座るまで全く気配がなかった。かなりの手練だ。でも協力してくれるのなら助かることこの上ない。なんか二人もビビってるしな? 有名人なんだろうか。

 俺はとりあえず事の経緯と罰ゲームの内容を伝えた。褐色肌の少年はテーブルのデーツナンをじっと見つめた後、一つ頷いて戦闘準備を整えた。

 

「成程、負ければこいつを食べて干からびる、か。良いだろう……俺たちで二人を倒して『乾燥』した味の『感想』を聞こう」

「へ?」

「面白くないか?」

 

 …………決闘(デュエル)開始ィ!

 あえて触れないのも優しさだと、俺は思う。

 

 

 3. 決着

 

 

「俺のターン! ヌヴィレットで元素爆発を発動! これでトドメだ!」

「ばっ、馬鹿なァ!?」

 

 俺は勝利した。ありがとうヌヴィレット様……どうやら俺の死に場所はここでは無かったみたいだ。俺の横で少年も危なげなく勝利したらしい。敗北したゴロツキたちは「身体が勝手に!」と二人でデーツナンを頬張って両頬がくっつくくらい水分を奪われた後に気絶した。『決闘(デュエル)』のルールは絶対。恐ろしい闇のゲームだな……。

 

「さて……次は俺とやらないか? 異国にこんなプレイヤーがいるとは知らなかった」

「いや、そろそろ席に戻らないとだから……またどこかで会えたらな」

「そうか……」

 

 正直お腹いっぱいである。俺が戦っている間も彼は分かりにくい小ボケを差し込んでいた。あれを真正面から受け止められるのはきっと、彼の親友とかだろう。知らんけど。

 少年──セノくんと握手を交わして復活したゴロツキ達にも挨拶して別れる。結局あいつら遊びたかっただけだったらしい。普通に誘えよな。

 

「戻ったぞ二人とも……どした?」

「うぇっ!? な、何でもない! なんでもないよ」

「ふふ、おかえりルド。あのね、フリーナってほんとに可愛くって」

「ニィロウっ!」

 

 ふむ……なんかよくわからんが二人はさらに仲良しになったらしい。なぜかフリーナが俺の方を向いてくれなくなったが……机のスイーツもほぼ無くなっているしそろそろお開きだな。

 また俺の口に放り込まれても敵わん。俺は両手で手早く二人に残ったお菓子を食べさせた。美味いか? そりゃよかった。

 

「あとはこれ! ルドのために取っておいたんだ。食べてね〜」

「おや? それはヌヴィレットが言っていた……」

「…………馬鹿な」

 

 俺の目の前に置かれた黒い物体。そうだ、全種類のデザートをこいつらは頼んでいたんだ。当然こいつも……ッ! 逃げ切ったと勘違いした俺の負けだな。どうやら、運命は俺を逃がすつもりがないらしい……。

 ゆっくりとした時間が流れるカフェのテーブル席に、フォンテーヌ人の干物が一つ完成した。

 

 




遅れて申し訳ない……!
旅道の章は次回で終幕の予定です。
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