俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち 作:残雪侍
1.璃月 璃月港
「おぉー! ルド、見てごらんよ。凧が沢山だ!」
「フリーナ、あんまり離れるなよ〜」
オルモス港を出航して半日。俺達は船を降り、テイワット大陸最大の商業都市『璃月港』に辿り着いていた。フリーナが目を輝かせるのも無理はない。空には色とりどりの凧が飛び、祭りのための装飾があちらこちらで見受けられる。
「凄い活気だ。皆楽しそうだね」
「そりゃ一年に一回の盛大な祭りだしな。俺も昔一度体験した事が……」
…………ないな。記憶にすら無い。稲妻から逃げてきたばかりの俺はそれどころじゃなかったんだろう。つまりフリーナと共に初めての海灯祭ということになるな。
「ルド?」
「ん、あぁ。俺も初めてだからさ、遊び疲れるくらいに楽しもうぜ」
「うん!」
にこーっと笑うフリーナ。楽しそうで何よりだ。
しかし本当に凧が多いな。道行く子供たちの話を聞くに、今年の海灯祭では凧揚げ大会のようなものが催されるのだとか。各々が最強と考える凧でライバル達としのぎを削る……一斉に飛ばしたら紐が絡まって共倒れになりそうだな?
「お、そこのお嬢さん! どうだい、フォンテーヌの技術者が開発したマシナリー式風力装置! これを取り付ければ凧揚げ大会も優勝間違いなしだよ」
「へぇ〜……大きな三枚羽が独特の風力を生み出して弾かれにくくなるのか。いいね! 買──」
「うなバカ。凧を回転させてどうすんだ」
俺が思案している間にフリーナが怪しげな行商人に詐欺られそうになっていた。手に持っていた他のものより一回り大きな装置をつっ返す。これはどんな改造を施そうがボコボコにされるんだっての。
ちっと舌打ちしながら逃げる行商人をこちらも威嚇して追い返す。璃月は商売の街だ。気をつけなければ浮かれた観光客など一夜で素寒貧にされるぞ。
「ねぇルド、なんで見ただけで凧が回転するとわかったんだい? というか、ああいうヘンテコ機構は真っ先に君が食いつくと思ったのに」
「……さ、本物のマシナリー式フローティング装置の凧はあっちだ。フォンテーヌから売り場を変えても可能性がなかったフリスビー擬きの事は忘れようぜ」
「既に買ってたんだね……」
阿吽の呼吸で俺の言いたいことを察してくれたフリーナ。話が早いぜ。欲しいなら家に帰ったらやるよと約束しておいた。単体で飛ばせばちょっとは楽しめるぞ。
2. 璃月港 特設凧売り場
ということでやって来ました凧売り場! 笑顔が眩しい店員さんに見守られながら凧を選ぶ。鳥のような姿をしたものから一風変わったデザインの凧までよりどりみどりだ。中でも目を引くのはやはりこれだろう。
「わあ……これが噂に名高い群玉閣かぁ。凧で再現されても威厳があるね! 金運とか上がるのかな?」
「まさしく! 群玉閣の凧には仕事運や金運が上がる願いが込められていますよ」
群玉閣。璃月七星『天権』の空中宮殿で、璃月の神が隠れた後、この国の
「でも確か、一回落ちてるんだよね?」
そう、この群玉閣、優雅に浮いているようで大質量と火薬で魔神すら消し飛ばす自爆特攻兵器としても機能する素敵宮殿なのだ。多分落とした天権様は苦渋の決断だったろうが、新聞で記事を読んだ時は思わず震えたぜ……! 割と直ぐに再建されたようだし、やはり大きな富の象徴としてこれ以上のものは無いだろう。
フォンテーヌの超巨大建造物でお馴染みのメロピデ要塞も変形して戦ったりしないかな。名前はそう……【機動要塞メロピデス】とかどうよ? フリーナに聞いてみたが反応は微妙だった。ロマンのわからんヤツめ
「はぁ……君のそのよく分からない方向性のセンスは既存の凧じゃ表現できなさそうだ」
「それでしたら、凧の材料も取り扱っておりますので自作されてみるのはいかがでしょう? 今なら塗料も割引でお付けしますよ」
「買った!」
俺は商売上手なお姉さんに促されるまま凧の材料を購入した。待ってろメロピデス。お前の身体を用意してやるからな! なんか量が多くないか?
「ついでだから僕のも作ってよ。他の凧が霞むくらいのとびきり凄いやつ!」
「お前……いいけど、あんまり期待しすぎるなよ」
装置のおかげで取り付ければ凧として機能するとはいえ、作るのは俺なんだからな。などと言ってみてもフリーナは楽しそうなままだ。
「手先が器用で意外と凝り性な君が作るんだ。どんな形でもそれなりの完成度になるだろう? それに、ルドが作るから良いんだよ」
そういうものか? なら、せめて不格好にならない程度に作るとしよう。モチーフは何がいいか今から考えておくか。
「フリーナ、観光の前に取り敢えず宿探しだ。今ならこの辺の宿が───殺気!」
「ルド!?」
フリーナと宿探しのためにテイワット観光ガイドを開いて見せていると、殺気とも取れる視線を感じたのでとりあえずその場で飛び上がった。聞こえたシャッター音と悔しそうな叫び声で攻撃が失敗したことを確認する。ブレブレの心霊写真をプレゼントだざまあみろ!
「ああぁ!! 動くと撮れないでしょ!? 」
「撮れないでしょ! じゃねえんだバカがッ! 白昼堂々パパラッチとはいい度胸だシャルロットさんよォ!」
出たな神出鬼没ジャーナリストめ! 俺はずんずん歩いてシャルロットさんと睨み合った。隙あらば俺とフリーナのツーショットを求めてきやがって、またフォンテーヌの人達の生暖かい目と殺気を向けられるのは勘弁なんだよ!
「お前俺なら許可取らずに何やってもいいと思ってる所あるだろ……! 今日という今日は許さねぇからな!」
「だって! そんな美味しそうな
「仕事中だ! お前の想像するような展開は…………無い!」
「あー! 今の間! 絶対何かあったでしょ!」
くそっ! 口喧嘩だと俺が不利だ。やはり力で黙らせるしか……俺が素手で行う『無銘』の型が炸裂する前に、シャルロットさんの隣にいる人物に気がついた。大きく目を見開いて心底意外そうな顔をしているその方は俺にとっても大変懐かしい人だった。
「……貴方、本当に同一人物なの? 随分……元気になったわね」
「これは璃月七星の『玉衡』様。大変お久しゅうございます。海灯祭を祝して!」
俺は恭しく礼をした。俺の急な変化にシャルロットさんも思わず後ずさる。この刻晴様は俺が璃月にたどり着いて直ぐに俺にお縄をかけてくれた人である。罪状は不法入国。所属不明目的不明の小舟とかそりゃ怪しまれるし当然の事だが、とにかく仕事が速かったのを憶えている。その後、俺の状態を見て何かワケありと考えたのか、俺の療養と滞在を許可してくれた恩人だ。彼女がいなければ俺はすぐ璃月を追い出されてのたれ死んでいたかもしれない。
「……むぅ、また仲のいい女の子」
「! フリーナ様っ、私で良ければ相談に乗りますよ……! こっそり、こっそりね」
後ろでフリーナが記者の魔の手にかかろうとしているが、刻晴様を前にして背を向ける無礼は許されない……! 考えたなシャルロットさん。俺の緊張を知ってか知らずか、刻晴様は優しそうに微笑んだ。
「フォンテーヌから使者を招待する時、護衛が一人来るとは聞いていたけれど、貴方だったのね。そちらがフリーナさん? 私は刻晴、よろしくね」
「う、うん。よろしく……」
フリーナと刻晴様が握手し、そこをすかさずシャルロットさんが撮る。そうそう、そっちの方がよっぽど健全だ。
話を聞くにシャルロットさんは今年の海灯祭におけるフォンテーヌ璃月間の技術交流の取材としてここに来ているそうだ。ま、腕は確かだし人選は間違っていないだろう。いい記事がかけるといいな。
「それでは刻晴様、俺達は宿を探すのでまた今度」
「待ちなさい。フォンテーヌからの正式な客人を半端な宿に泊まらせられないわ。これを」
ぴっと渡された小さな紙をフリーナと一緒に覗き込む。これは……っ!
「これ、璃月でも有数の旅館じゃないか! 良いのかい?」
「勿論。ゆっくり羽を伸ばして海灯祭を楽しんでね!」
さっすが璃月の権力者! お高い旅館だろうと部屋の確保は片手間という訳だ。これ一枚で大体の施設はVIP対応になりそうなのが恐ろしいぜ。
「貰ってばかりも悪いし……そうだシャルロット、今だよ!」
「は──っ!?」
パシャっとシャッター音。いただきましたぁー! と刻晴様を連れて逃げていくシャルロットさん。
軋む歯車の音が聞こえるような動きでフリーナの方を向くと、彼女は俺の腕に抱きついたままの状態でしてやったりという風に笑った。
フォンテーヌに帰った時、果たして俺は生きていられるんだろうか?