俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち   作:残雪侍

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海灯祭の章・第六幕

 

 

 1. 璃月 奥蔵山

 

 

「あっ! ルドにぃに達、来てくれたんだ!」

「悪いなヨォーヨ、遅れた」

「誰かさんが気絶なんてしなければ、もう少し早くつけたんだけどね」

 

 時刻は午後。少しばかり遅れてしまったが、俺たちは会場に着いていた。もう始まってるものだと思っていたが主催者が遅れているらしい。俺の姿を確認したヨォーヨが嬉しそうに駆け寄るのを見て、他のメンバーも俺たちを認識したようだ。

 

「お、ルドにフリーナ! お前らも来たんだな」

「旅人にパイモン、また会えて嬉しいよ!」

 

 こういう時真っ先に明るく声をかけてくれるパイモンさんは間違いなくコミュ強。フリーナの緊張もほぐれたようだ。人数的には初めましての人が多いからな。

 

「あら、ルドさん。刻晴様から聞いていましたが、本当にお元気になられたんですね」

「甘雨様! お久しぶりです。貴女もお元気そうで……いや、相変わらず寝不足っぽいようで」

 

 丁寧な言葉使いで話しかけてくれたのは璃月七星秘書の甘雨様だ。俺の密入国騒ぎの時、刻晴様と一緒に俺の対応をしてくれた人で、頭に生えた特徴的な角は煙緋先生と同じく彼女が仙人であることを示している。相変わらず眠そうだ。璃月七星とは相当にブラックな職場らしい。

 ちなみに俺は甘雨様を直接見ることができない。なんというか、布が足りているけど足りてない……そんな服装だからな、どこ見ていいのか分からないのである。

 

「ん……主、初めて見る顔だ」

「え? あぁ初めましデッッ!?」

 

 カッ! 俺はぐりんと顔を逸らした。あのさあ璃月人。もう少し服装を考えた方が宜しくてよ? クロリンデさんとか参考に……あの人もあんまりならないな。

 俺は極力目線を下に持っていかないように自己紹介した。彼女は申鶴さんと言うらしい。見た目は仙人に見えるが、普通に人間のようだ。甘雨様とは同じ師匠に師事する妹弟子にあたるのだとか。どーりで……。

 

「……ルド?」

「おぉ、フリーナ。お前を見てると落ち着くよ」

「どういう意味かなぁ!?」

 

 なはははは。

 いつものように叩かれながら俺たちは挨拶して回った。どうやらここに集まったのは主催者と、旅人さんに交流のあるメンバーのようだ。旅人さんのコミュニティ強すぎないか? 俺が親しい人皆旅人さんの友達なのではないかと思うくらいだ。

 とはいえこの男女比率は少々居心地が悪い。同じ男性メンバーの嘉明くんもそう思っていることだろう。なー?

 

「いや? 楽しいぜ、俺は」

「うぐ、俺も楽しくないわけじゃないんだけどさ。ただ……目のやり場に困るっていうか」

「ははっ! 大丈夫。慣れるぜ、直にな」

 

 慣れるかなぁ……? 俺はこれ以上考えないように思考を閉じた。これはそういうものなのだ。

 

「一部見慣れない者もいるが、そろそろ凧作り教室を始めよう」

 

 慣れねーよなんだよあの格好はよォ!! 俺は内心でキレた。前から見たら知的な美女、背中を見せたら肌色だ。ふざけやがって……ッ!

 もちろんそんな感情を表に出す訳にもいかないので俺はにこやかに挨拶した。閑雲と名乗った彼女の雰囲気は人間に近しい。もっと高圧的かつ威圧的なイメージを想像していたが、そんな事は無さそうで安心した。

 

「お前か、パイモンから聞いているぞ。妾の絡繰りに興味があるのだとか……なかなか良い目を持っているな」

 

 パイモンさんっ! 俺の視線の先にいるふわふわ妖精さんがこっそりウィンクを決めた。ナイスアシスト! 後でお菓子を献上しなければ。

 とにかく仲良くなる機会は手に入れた。今は凧作りに集中するとしよう。

 

 

 2. 作業開始

 

 

「ルド。どんなデザインの凧にするんだい?」

「それはできてからのお楽しみ。予想しててくれ」

 

 閑雲先生から凧作りの基本を教わり、班を分けて各自作業スタート。ワクワクしているフリーナの声を聞きながら俺も取り掛かった。

 さーて、まずは材料を必要な長さに切らないとな。俺は小刀と骨組みに使う木材を手に取った。

 

「あはは! ルド、筆だとそれは切れないよ。小刀はこっち」

「おぉ、ありがとな。ついでにこの目隠しも取ってくれるとありがたいんだが」

「それはダメ」

 

 ダメかー。この凧作り教室、俺には刺激が強すぎるとフリーナに判断されたらしく、俺は目隠しによって視覚を奪われていた。仕方がないのでそのまま作業していく。慣れれば案外簡単だ。

 

「……ルド、刃物を使う時はちゃんと見た方がいいぞ……?」

 

 この声はパイモンさんか。足音もしたので旅人さんも一緒なのだろう。気配で分かるがドン引きされている。俺もそう思います。

 しぶしぶ、俺の向かいの席にフリーナが座って監視することで目隠しを外して貰えた。

 

「フリーナ、そこの接着剤とってくれ」

「ん、はい。これでいいかな?」

 

 ありがとう。これをこうしてちょちょいとな……。俺は切り取った生地と骨組みを接着剤で固定していった。全体のシルエットとしては星型に近いかな。

 

「! ルド、これ……」

「何をモチーフにしてるか気づいたか?」

「……えへへ。僕は優しいから、すぐに答えて君をしょんぼりさせないようにもう少し待ってあげよう」

 

 そりゃありがたいことで……。接着剤が乾くのを待ちながら俺は塗料を調整していく。フリーナにも手伝って貰いながら筆をかき混ぜていると、嘉明くんの声が聞こえてきた。

 …………明るい感じに見えて色々抱え込んでいるみたいだな。ちらりと視線を送ると、旅人さんも違和感に気づいているらしい。あの人が行動を起こすなら悪いようにはならないだろ。接着剤が乾いたのを確認して俺は着色作業に入った。

 

 

「…………これで、良し。できたぞフリーナ!」

「わぁ……っ!」

 

 ということで凧完成である。モチーフにしたのはフォンテーヌでお馴染みルエトワールだ。配布された蛍光塗料だけだと味気なかったので水元素を抽出した塗料も混ぜてある。本物と同じようにぴかぴか光って悪くない出来だ。

 

「やっぱり君は器用だね……あれ、裏に何か……?」

「気づいたか。マシナリー部分にはお前とサロンメンバーをデカールしてあるのだ! 一緒に飛んでくるといい」

 

 そう、この凧は気球のようなイメージをしている。デフォルメしたフリーナ達がわいわい騒ぎながら空を旅するのだ……我ながら良い仕事したぜ。

 フリーナも嬉しそうに俺の作った凧を旅人さん達に見せている。ここまで喜んでくれるとは。

 

「ルドっ!」

「おう」

「ありがとう!」

 

 お、おう……。屈託のない笑顔を向けられるとなんか恥ずかしいな。思わず顔を逸らした先で俺が照れていることを察したパイモンさんがニヤニヤしていたので口にマカロンを詰めて黙らせた。大人をなめるなよ。

 

 各々がそれぞれ凧を完成させたところで、凧作り教室は幕を閉じた。

 

 

 3. 璃月 璃月港 旅館『白駒逆旅』

 

 

「ルド〜。えへへ、 ねぇ構ってよぉ〜……」

「フリーナさんあなた呑みすぎヨ。水飲め水」

 

 あの後、幼い子供たちを連れて嘉明くんが帰り、奥蔵山に飛ぶ凧を閑雲さんが仙鳥に化けて追いかけるといったハプニングがあったものの、俺たちは無事彼女を連れ戻してきた旅人さん達と食事会に参加してきた。

 フリーナがへべれけモードになったのはそこで出された仙人御用達の酒のせいだ。水みたいにするする飲めるからってなァ……。美味かったな。

 

 旅館に戻って、寝る準備を済ませた後もフリーナの酔いは覚めてないようだ。フリーナの館内着は浴衣タイプなので、ゆらゆら揺れる度にはだけるんじゃないかとヒヤヒヤものである。

 俺はと言うと、猫のようにちょっかいをかけてくるフリーナを躱しながら、自分用の凧を作成していた。ついでに食事会での話と計画を思い出す。嘉明くんの事だ。

 鏢師という彼の職業は危険が伴う。時には自分を囮にしてでも依頼主を護る仕事は、茶葉商人を継いで欲しい父親の葉徳さんにはさぞ心配される事だろう。度重なる衝突の末、遂には対話を諦めてしまったようだ。

 

 そこで閑雲先生はある計画を考えた。正直人間より上位の存在がたった二人の為にここまでするとは思わなかった。この人態度ではそんな素振り無いくせに人間大好きすぎるだろ。三眼五顕仙人なんて肩書きは伊達じゃないな。

 

「ん〜……ばっ!」

「こら、危ないだろ。急に腕の中に入ってくるんじゃない」

 

 座椅子に座って作業している俺の腕の間にフリーナが生えた。すっぽりと収まって満足げである。着色が終わって乾かす段階なのを見計らってたな?

 俺の腕に首を預けたフリーナがぽやぽや顔で小さな瓶を開けた。それスメールで俺が買った酒じゃないか? なにちゃっかり開けてやがる。

 こく……と、彼女が喉を鳴らす度に、口の端から甘そうな香りをさせて酒が零れた。首元から鎖骨を経由して雫が浴衣の中に吸い込まれるのを目で追っていることを自覚して俺は目を逸らした。

 視線に気づいているのかいないのか、フリーナは楽しそうだ。

 

「んふふ……ここは僕の特等席なんだぞ。誰にも僕の邪魔はできないのさ」

「席側にも都合ってもんがあるんだが?」

「なはははっ!」

 

 おい、その笑い方は俺のだ。真似するなよ……淑女がするには少々はしたないぞ。

 

 

 ──なははは!

 ──ちょっと、その笑い方やめてよ。ルドが真似したらどうするの?

 ──良いじゃないか。君だって、ルドには馬鹿みたいに笑える人生を送って欲しいだろ?

 

「───っ」

「……む」

 

 …………なんで今思い出すかねぇ。

 それは幼い日の記憶。もう戻る事のない、俺の……「ルド!」なになに!?

 

「何して──っ、お前酔いすぎっ!」

「……君が悲しそうな顔するのが悪い〜!」

 

 俺の視界が浴衣で埋めつくされた。()()()()()()とわかる柔らかさと暖かさ、少し速めだが規則正しく聞こえてくる鼓動。浴衣や酒の匂いとは違う香り……俺はフリーナに抱きしめられていた。

 

「……むぐ、ぐぅ」

「ふふん。抵抗は無駄だとわかったみたいだね。いいこ……」

 

 ここで暴れて酔っ払ったフリーナに怪我でもされたら大変だ。俺は諦めて力を抜いた。それに気を良くしたフリーナは俺の後頭部をさわさわと撫でていく。壊れ物でも触るような手つきだが、俺はそんなに脆く見えるのだろうか……。

 

「うーん、特に手入れしてるわけでもないのにこの手触り……きみ、今度からお風呂上がりに僕のところに来なよ」

「……考えとく、だから早くどいてくれ」

「もうちょっと〜……ルドが落ち着くまではこうしててあげるよ」

 

 落ち着けるわけねぇだろ! と口では嫌々言ってはいるが、俺の身体は正直なようで、完全にフリーナに身を預けてしまった。酒で上がった体温はぬるま湯のように心地よく、頭を撫でられるのも……恥ずかしさはあるが嫌ではない。

 

「……素直に甘えてくれるのは嬉しいけど、ここまであっさり受け入れるなんて……ま、まさか他の子にもこんなことさせてないよね?」

「してない……そんな事したらフォンテーヌに帰れてねえよ」

 

 ニィロウなんか特にそう。一度身を委ねたら最後、気がついたら家族の一員だ。庭付きの一戸建てにペットの人懐こい柴犬。子供は〜〜と、将来をがっちり掴まれること間違いなしである。

 さすがに苦しくなって来たのでお互いの肩に顎を乗せるハグにしてもらった。人肌で暖められた頬が外気にさらされ、ほうと息をつく。

 

「……なぁ、フリーナ」

「んー……?」

 

 興奮状態が終わって酔いがさらに回ったのか、ほわほわ感が増したフリーナは、眠そうに俺の声に返事をする。

 

「大切な人がちゃんと話もできずに居なくなるのは、辛いよな」

「…………うん」

 

 俺達は離別の辛さを知っている、最期に話すらできなかった後悔も。

 まだ家族が居て、会って話せる距離で、縁を切るほどに仲が壊れていないのなら……喧嘩でも何でもしながら話し合うべきなのだ。避けられない別れが来て残りの人生を後悔と共に過ごす前に。

 

「む、もうこんな時間か……起きろフリーナ! 寝るぞ」

「はゃっ! ね、寝てないよ。ちゃんと聞いていたよ!?」

 

 嘘つくんじゃねえ。俺はフリーナを抱えて立ち上がり、敷いてある布団に彼女を突っ込んだ。寝付きが良いのだからさっさと寝ればいいものを、フリーナは眠そうな目で不満そうに自分の横をポンポン叩く。

 

「……ルド、こっち」

「…………おやすみ」

「むー……いくじなし

 

 当座席は寝る時の特等席までは用意しておりません。俺は自分の布団に潜りこんだ。もう充分立ち直ったよ。これ以上密着されると変な気を起こしそうだ。

 明日は海灯祭最終日。閑雲先生の計画には俺も組み込まれている。グランドフィナーレを皆で、笑顔で迎えられるようにせいぜい頑張るとしよう。

 

 

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