俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち   作:残雪侍

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海灯祭の章 終幕

 

 

 1. 璃月 荻花州

 

 

「下がってろ親父……!」

「が、嘉明。危険だ……やめなさい!」

「おやおや、護衛対象に身の危険を心配されるとは……大した信頼関係だな?」

 

 大剣を取り出し構える嘉明くんと、その前に出て健気にも息子を守ろうとする父親の葉徳さん。そんな二人を前に、部下らしき男共を後ろに連れた剣士が立ち塞がる。

 翻るマントに目深に被った羽付き帽子! 腰に差した細剣は自分の出番を今か今かと待ち望んでいるようだ。

 旅人さんの相棒であるふわふわ妖精さんがそんな不審者達に叫んだ。

 

「お前たちっ! 一体何者なんだっ!?」

「くくく……遠からんものは音に聞け! 近くばよって目にも見よ!我ら──」

 

 …………まぁ、俺である。後ろの人達? 知らないよ。

 

 

 2. 回想 奥蔵山にて

 

 

「いいか? 明日、嘉明の父親である葉徳には璃月で使う茶葉を届ける依頼が入っている。まず旅人にはその護衛に嘉明を着けるように手配してもらうぞ」

「おう! 親父さんに嘉明の仕事振りを見せてやるんだな?」

「それもあるが、根本の思想から変えてやらねばいつまでも平行線だろう。衝突の原因はそこにあると妾は考えている」

 

 夜の奥蔵山。客人をもてなすために作られた石造りのテーブルに各々料理を並べた食事会にて俺はフリーナに料理を取り分けながら閑雲先生の話を聞いていた。

 まずは璃月に用のある葉徳さんを話し合いのできる状態に持っていくために、彼の足を止めなければならない。護衛は自分が囮になることを厭わない。普通の鏢師を雇えばアクシデントを起こそうと大した時間稼ぎにはならないだろう。しかし今回の鏢師は嘉明くんだ。息子が心配な葉徳さんは待つしかない。その後は閑雲先生達が説得を始めるのだそう。

 ……で? そのアクシデントは誰が起こすんだろうな?

 

「アクシデントを起こす役はルド。お前に任せる。パイモンからはフォンテーヌ随一のやられ役で、表彰までされたと聞いているぞ」

「その不名誉な肩書きはやめてもらおうか。俺だって好きでやられてる訳じゃねぇぞ!」

 

 初対面の人に対してなんつー紹介してやがる。俺にだってプライドというものがある。誰が負けまくってる奴を自分の代理人にしようと思うのか。毎回決闘代理人最強と戦ってるからそう見えるだけで、それを抜けば勝率は高い方なんだぞ!?

 

「いぃじゃないかルド。君は演技も得意だし、派手に爆発してやられちゃえ〜!」

「なぁ、誰かこの酔っぱらいから酒を取り上げてくれ」

「ちなみに、成功した暁にはこれを送ろう。フォンテーヌの行商人に渡した型式をさらに改良させたものだ……最初からこれが欲しかったのだろう?」

「ぐっ!? 余計な事を吹き込んだなパイモンさん……!」

 

 俺が割と適当な決闘代理人で助かったな。目的のためならプライドくらいいくらでも投げ捨てられる男が俺だ。閑雲先生と握手して交渉成立! フォンテーヌ随一のやられ役の散りざまを見せてやる。

 

 

 以上、回想終了。

 

 

「──我ら『賞金茶稼ぎ(バウン”ティー”ハンター)』! その茶葉は以前より俺達が目をつけていたモノ。こちらに渡してもらおうか!」

 

 どかんと後ろにいる二人が威嚇のポーズをとる。この人たちのことは知らないが、手伝ってくれそうな雰囲気だったので巻き込んだ。茂みに隠れて様子を伺ってたらいつの間にか隣に座ってたからな。大方閑雲先生が呼んだ助っ人だろう。

 

「兄者! 儂らは三人。見たところ相手は鏢師の小僧一匹……囲んで叩けば問題なかろう?」

「ぁにッ!?……あぁ! その通りだ弟よ!」

 

 喋るのかよあんた。俺は一瞬言葉に詰まったが何とか持ち直した。それと、どう考えてもあんたのが年上だ。設定がふわふわしているぞ。

 だが、ここで戦っては計画に支障をきたす。なんとか彼を引っ張れる口実を作れないもんか……ん? 旅人さんとパイモンさんが片目をぱちぱちしている。何してるんだ? 仲良しでかわいいね。

 そんな二人を見ていると、こちらも妙案が浮かんだ。よし、これで行こう。

 

「む……! その金髪、そして隣にいる妖精……まさかお前、噂に聞く旅人か!?」

「なにっ、親分! 話が違うぞ、弱そうな鏢師が一人だと言うからここまで来たというのに!」

 

 こっちは親分かよ。巻き込んだのは俺なので仕方ないがもう少し打ち合わせの時間が欲しかったな……だが、これで餌は完成した。

 

「撤退だ! ずらかるぞお前たちっ! 依頼主に護られる鏢師など拍子抜けだと思っていたのに大誤算だ!」

「「御意ッ!」」

「逃がすかよ! そう簡単に!」

 

 逃げる!? 俺はお前から逃げているんじゃない! 旅人から逃げているんだ! という体で全力疾走すると、予定通り嘉明くんは俺たちを追ってきた。このまま引き付けて時間を稼ぐ、あとは頼んだぞ皆!

 というか、この人たち足速いんだが! 俺も割と全力で走ってるのにぐんぐん距離が開いていく。まて! 親分? 兄貴? を置いていくなァ!!

 

「──はっ! 殺気ッ!」

 

 俺は慌てて回避行動をとった。前に転がり込むように飛び込むと、俺が居たところが爆発する。帽子の位置を調整しながら、煙をきって歩いてくる嘉明くんと向かい合う。

 ……この位置は、よし。当初のポイントまで誘い込めたか。俺はニヤニヤ笑いながら細剣を引き抜いた。銀の剣とかあの刀だと次顔合わせた時に気まずいからな。実はこれ刃がついてない模造品である。

 

「終わりか? 逃げるのは」

「くく、終わりだと? お前ごとき私一人で問題なく対処可能と言うことだよ!」

「見てたぞ。二人に置いていかれてるとこ……」

「…………さぁ尋常に勝負っ!」

 

 元々一人だったんだよォ! と言いたい気持ちを抑えて俺は構えた。

 嘉明くんの動きは獣舞劇の要素を取り入れた豪快なものだ。だが、どこか窮屈に感じる。彼の精神状態はそれほど悪くなっているという事だ。空気を引き裂きながら迫る大剣の連撃をマントを翻しながら余裕そうに躱し、カウンターの刺突を繰り出す。

 

「どうした。動きにキレがないな! 金等級とはこの程度かッ!」

「くそ……っ」

 

 俺は飛び上がって空中から細剣の雨を降らせた。刃がついてないのと先端を刺さらない程度に丸くしてあるだけで見た目と強度は本物の連撃を嘉明くんは大剣を盾にして耐える。

 

「ふははははっ! 弱い弱い。これなら今じゃなくとも、旅人が居ない時に葉徳を狙えば簡単に茶葉が手に入りそうだ! 鏢師不甲斐なし!」

「───お前ッ!」

 

 俺は大剣を足場にして嘉明くんから飛び退いた。激昂しているところ申し訳ないが、事実だ。今の彼は実力を殆ど発揮できていないのがよく分かる。

 

「おや、怒ったのか? 話をろくに聞きもせず、自分の夢を否定してばかりの親だろう。お前が高く跳べないのは縛るものが多いからだ。私が一つ、重りを消してやろうというのに何が不満かね」

「──っ、違う。親父は」

「違わないなァ! お前にとって父親の存在はそれほど大きく、重くのしかかっている邪魔な存在ということだッ!」

 

 俺は嘉明くんに飛びかかった。まったく、自分で言ってて反吐が出る。

 さぁ、こんなゲスな盗賊の言葉を否定してくれ。お前ならそれができるはずだ。

 

「──なにっ!?」

「『威水獣舞』ッ!」

 

 フードを被った嘉明くんが焔を纏って俺の視界から消える。足元に増えた影によって位置を把握した俺が回避を間に合わせる前に、嘉明くんが爆炎と共に着地した。

 

「ぐうぅッ!?」

「──親父はっ!」

 

 マントを焼き焦がしながら俺は反撃を試みた。しかし、高く跳び続ける嘉明くんを捉えることができない。

 

「俺にとってッ!」

 

 攻撃は止まらない。細剣がへし折れて俺の帽子が吹き飛ぶ。

 完全に無防備になった俺の視界に、太陽を背にした嘉明くんが映った。

 

「邪魔な存在なんかじゃねぇぇッ!!」

「……そうだ、それでいい」

「っ!? お前──」

「ぐわわーッ! 覚えてろぉぉぉ!!」

 

 ───爆発。

 木の葉のように吹き飛ばされた俺はきりもみ回転を加えつつ。小物な断末魔を上げて川の中に落ちた。

 水中から見える嘉明くんは何か言いたげだったが、決意を固めた顔をして来た道を戻っていく。

 反抗期はもう終わりでいいだろう。時間も充分稼いだし、あの二人が前に進めることを祈るばかりである。俺は川の流れに沿って流されていった。

 

 

 

「……はー。川の水が沁みるぅ」

「お疲れ様、ルド。さすがのやられ役だったね!」

 

 ぷかぷかと川に浮かんでいる俺の顔に影が差す。水の上を歩いて来たフリーナと歌い手さんだ。岸に引き上げてもらって抱擁と治療を受けていると、先程の部下たちがやって来る。さっきはよくも置いていってくれやがったな……ッ!

 俺がガルガルと牙をむく前に、反対側の茂みからも二人組がでてきた。誰?

 

「閑雲からお前を手伝うように頼まれていたが……我らの出番は無かったな」

「は? そっちが助っ人? じゃあお前ら……」

 

 俺は部下二人を見る。彼らはじっと俺の顔を見た後、へへっと笑った。

 誰なの!?

 

 

 3. 璃月 璃月港

 

 

「あっ! ルド、見てよ。皆来たみたいだ」

「おぉ、そうみたいだな」

 

 知らない人たち(閑雲先生の助っ人は侯章さんと接笏さんと言うらしい)と別れた俺たちは一足先に璃月港に着いてグランドフィナーレを待っていた。

 橋の上に旅人さん達を見つけ、表情から計画が成功したことを察した俺は、フリーナに凧を準備するように伝えた。

 

「そういえば、ルドの凧って……」

「くく、よくぞ聞いてくれた。俺の凧は──これだ!」

 

 俺はマジックポケットから凧を取り出した。

 黒塗りの重厚感漂わせるボディ、顔面のモノアイが炎元素を纏った塗料によりグボーンと光る。マシナリーは例の屋台の三枚羽機構(トライピオ)だ。値下げに次ぐ値下げによりタダ同然だったので買っておいた。

 

「『起動要塞メロピデス』ッ! この大会の優勝をもぎ取るに相応しい凧だ!」

「わー……すごいねー」

 

 すごいと思ってないな? まぁ見てろって……ん、あれは嘉明くんか?

 会場の照明が落ち、ざわついた場を太鼓の音が支配する。

 海の上に立った嘉明くんが獣舞劇を披露した。璃月港を縦横無尽に跳び周る姿は荒々しく、神々しさすら感じる。俺と戦った時の窮屈さは既になく、小さな助走で高く跳ぶ嘉明くんは、きっともう大丈夫だろう。

 いくつもの灯篭を積み重ね、その頂点で見栄を切った彼に観客は大きな歓声をあげた。

 その中に父親である葉徳さんの姿も見つけた。何か大切なことを思い出したような表情だ。いい顔だな……。嘉明くんが獣舞劇と鏢師を仕事にすることを受け入れてくれているといいのだが。

 

「……父さんも、俺が決闘代理人をするって言ったら反対したのかねぇ」

「どうかな? リドルは柔軟な考えを持っていたし、君がどんな道を選んでも応援してくれたと思うよ」

 

 ……そうか、そうだな。父さんはそういう人だった。俺のやることをちゃんと理解して受け入れてくれるから、俺は父さんが好きだったんだ。

 

「待て、俺お前に父さんの名前教えたっけ?」

「…………言ってたさ。忘れたのかい? それよりほら! 凧を飛ばすみたいだよ!」

 

 なんだか誤魔化された感じがするが、確かに各々凧を飛ばし始めている。フリーナがルエトワールの凧を飛ばす横で俺もメロピデスを発進させる事にした。

 

「さぁ行けッ! 全てを蹂躙しろメロピデス!」

 

 マシナリーが唸りを上げ、メロピデスが腕を振り回すように高速回転する。凧が回転すると分かっているのなら、それに特化した形にすればいいだけの事だ! 他の凧を押しのけてメロピデスが上空に抜け出した。天が味方するように下の方が無風状態になり、追従する凧が勢いを無くす。優勝は貰ったァ!

 

 その時、下から強烈な上昇気流を纏って鶴型の凧が他の全ての凧を引き連れて飛んでくる。それはバコッとメロピデスを弾き飛ばし、風元素がモノアイの炎元素と拡散反応を起こして機体を灰も残さず焼き尽くした。め、メロピデスーッ!!

 俺は敬礼を送った。急ごしらえで塗料を塗ったのがいけなかったな。フリーナの凧はしっかりと元素が定着していたようで周りに輝きを伝播させている。

 

「綺麗だね!」

「……ああ、そうだな」

 

 優勝は無くなったが、フリーナが楽しそうにしているのならそれでよしである。

 空にかかる流星のような凧の流れを見ながら、俺はそう思った。

 

 

 4. 璃月 璃月港

 

 

「ルド達はこれから稲妻に行くんだよな? その……いいのか?」

「そんな心配そうな顔するなよパイモンさん。ほら、雷神様も丸くなったって聞くぜ? 茶菓子でもかじりながら話した後墓参りしてさっさと帰るよ」

 

 なんせ意味のわからんピースサインの写真を送り付けるくらいだからな! 会うの怖くなってきた……。

 海灯祭のフィナーレから一夜明け、港に着いた俺たちは見送りに来てくれた旅人さん達と別れの挨拶をしていた。

 俺が楽観的なのは閑雲先生から受け取った変形テントの小箱を貰ってテンションが高いからだ。仙人の技術である洞天をあえて閉じない事により、凡人にも扱えるようにしてあるらしいがよく分からん。すごい技術だな。

 

「あと、お前の変装、嘉明にバレてたぞ。怪我の具合を心配してたけど……大丈夫そうだな」

「当然! 僕が傍にいるんだからね」

 

 隣のフリーナが自慢げに胸を張る。こいつがいるから俺も無茶ができる訳だが、もう少し謙虚にだな……。

 嘉明くんに変装がバレるのは想定内だ。彼は優秀な鏢師なので、俺の挑発を気にしていないといいな。

 ずっと話していたい所だが、そろそろ船が出る時間だ。稲妻行きの便は鎖国が開けたばかりでまだ少ないので急がなくては。

 旅人さん達と別れて俺たちは船着き場に向かった。

 

「……ルド、本当にいいの?」

「何が? とは聞かないが、大丈夫だよ。ナヒーダ様の忠告通り覚悟はしてある」

 

 歩きながらフリーナがこちらを覗き込んでくる。心配そうな顔をしていたので髪をモフっておいた。

 稲妻に行けば、俺は嫌でも自分の過去と向き合うことになる。そして、俺が起こした騒動からまだ四年しか経っていない。どんな目で見られるかなんて予想が着くというものだ。

 

「乗船拒否とかされちまうかもな! そしたら俺は小舟で行くから、フリーナだけ乗せてもらうといい」

「もう! そんな事は僕が絶対にさせないよ。安心して」

 

 なはは、頼もしいねぇ……。おっと、あの船だ。俺は船に荷物を積み込んでいる大柄で派手な服装をした男に話しかけた。なんか船乗りっぽくないな?

 

「あの〜……」

「あん? ……おッ! お前はァ!?」

 

 声に振り返った男が俺を見て驚いた声をあげた。それに驚く暇もなく、俺もまた、彼の頭にあるソレを見て言葉を失う。

 鋭く尖った角は鬼の特徴。彼からは『鬼神演戯』の二枚目、鬼面の面影を感じる。

 俺たちは互いに一歩下がった。テイワット旅行稲妻編……のっけから波乱万丈の予感である。

 

 




次回、稲妻編開幕です。
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