俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち   作:残雪侍

32 / 40
雷鳴の章・第四幕

 

 

 1.稲妻 天守閣 門前

 

 

「……お、来た来た! おーい、こっちだ!」

 

 稲妻でやることその一、雷電将軍との対話を完了させて新たな目標が定まった俺たちが城を出ると、門の前で金髪の男に呼びかけられた。彼が社奉行の人だろうか。

 

「今行く! ほらっ! フリーナっ! そろそろ痛くないだろ降りてくれっ!」

「いたたたっ! ゆさゆさ揺らすのやめてよぉ!」

 

 俺はその場でぴょんぴょん跳ねた。その反動でおんぶしていたフリーナが半泣きになる。天守閣で慣れない正座をして足が痺れた彼女を下まで降ろしたが、甘やかしすぎは良くない。自分の足で立って歩く事が成長に繋がるのだ。

 

「うぅ……っ、ルドはどうして人目のあるところでは僕を雑に扱うんだ!さっきはあんなに優しかったのに……」

「そんな事実はない」

 

 そんな事実はなかった。俺はフリーナを痛みで転けないようにそっと下ろし、改めて社奉行の人と向かい合う。

 金髪だ……宵宮さんみたいな明るい茶髪じゃない、父さんを思い出す濃い金色。目の色から察するにモンド辺りの出だろうか。彼の生い立ちが気になるところである。

 

「初めまして! オレはトーマ。二人の事はお嬢と若から聞いてるよ。二人の友達なら、オレの友達だ」

 

 よろしく! と差し出された握手の手をこちらからも握る。距離の詰め方が素人のそれじゃない……っ。出会って数秒で友達判定、それも数年来の親友の距離感だ。フリーナと綾華さんはお友達で間違い無さそうだが、俺と綾人さんは友達……なのか? 光栄な事だが疑問が残るな。

 いつまでも門の前で話していると迷惑だ。外に馬車を用意しているそうなので移動を開始した。トーマさんはお喋り好きなようで、道中会話を途切れさせる事無く俺たちを労ってくれる。

 

「稲妻に来て早々に将軍と話すのは緊張しただろう? あの人威圧感があるから」

「……そうだな。あれで自分の事を母親だとか言い出さなけりゃ、俺もちゃんと畏怖できたんだが」

「────は? あ、ははは! きっと将軍も冗談を言って場を和ませてくれたんだよ。鎖国令が終わってから将軍の雰囲気が柔らかくなったって言う人もいて…………冗談なんだよな?」

 

 俺とフリーナはニッコリ笑った。さ、馬車が見えてきたぜ。顔面蒼白になって動揺しているトーマさんの肩をぽんぽん叩いて俺たちは馬車に乗り込んだ。

 

 

 2. 稲妻 社奉行 神里屋敷

 

 

「わぁ……門が大きい! すっごく広いよルド! 」

「そうだな。さすが御三家……」

 

 稲妻城から外に出て、馬車でゴトゴト揺られること数十分。紺田村の時とは違い不穏な影が邪魔することも無く、やたら神秘的な森を抜けるとそこに現れたのは大きな門。

 俺たちは稲妻御三家が一つ、社奉行の『神里屋敷』に到着した。これから数日間はこの屋敷で寝泊まりしつつ俺は評判任務を、フリーナは視察を行っていくことになる。

 

「フリーナさん。お待ちしていました!」

「綾華! 久しぶりだね!」

 

 フリーナの嬉しそうな声に顔を向けると、そこにはフォンテーヌにて映影を撮影した時の衣装ではなく。稲妻らしい服装に身を包んだ綾華さんが出迎えてくれていた。きゃっきゃとはしゃいでいる二人をトーマさんと二人で微笑ましく見守る。友情!

 

「ルドさんもお久しぶりですね。長旅お疲れ様でした」

「どーも綾華さん。少しの間お世話になります」

 

 おっと、俺の方もちゃんと認識してくれているとは。綾華さんは初対面時の険しい表情ではなく、フリーナに向けるのと同じくらいの笑顔で俺を迎えてくれた。映影祭の仲良し大作戦の効果はまだ続いているようだ。

 

「ゆっくりしていって下さいね。そうそう、お兄様も貴方に会えるのを楽しみにしていたみたいですよ?」

「なんで?」

 

 その謎に高い好感度は何なんだよ。俺と兄様の接点なんてほとんどなかったと思うんだけどな……? 今は公務があるとの事なので、後で挨拶に行くことにした。

 雑談もそこそこに屋敷にお邪魔して客間までの廊下を歩いていく。神里屋敷はフォンテーヌの縦に長い建物とは真逆の、広い面積を使った平屋だ。稲妻は暴風だの落雷だのが多いからな。中途半端に細くて縦に長い建物なんか建てた日には、朝を待たずに更地になることだろう。

 しかし廊下が長い! 右を見ても左を見ても襖だらけだ。ここまで広いとなんだか迷路に来たみたいでわくわくしてくるぜ。トイレの位置は要マッピングだな。

 

「俺は夕食の用意をしてくるよ。時間になったら呼ぶからそれまで寛いでいてくれ」

 

 そう言いながら割烹着に早着替えしたトーマさんを見送って俺は通された客間に荷物を降ろした。割烹着似合うなあの人。

 隣の部屋からから聞こえる話声と物音はフリーナと綾華さんだ。部屋同士は襖一枚隔ててあるだけなので何かあっても直ぐに駆けつけられる。逆に向こうからの侵略を防ぐ術がないとも言えるな。

 

「ルドっ! ここは開けておいてもいいかな? いいよね!」

「いいわけねーだろ。侵略行為は国際問題になるから閉めとけ」

 

 ほらな、こういうことになる。俺は襖を勢いよく開け放って飛び込んできたフリーナを受け止め、くるんと回転させていなした。我が国に用がある時は正規の手順を踏んで尋ねるように。外交が大事なのは理解しているので少しだけなら開けててもいいぞ。

 むう、と膨れるフリーナを隣に下ろして俺も座る。肩に軽い衝撃。素足を投げだしたフリーナがこちらに寄りかかってきた。帽子と上着は自分の部屋に置いてきたようで、いつもより体温が近い気がする。ふんふんと鼻歌混じりに揺れるアホ毛が頬をくすぐった。帽子が無い分多めに暴れているな。

 彼女のテンションが高い理由は察しがつく。”同性の友人の家にお邪魔してお泊まり”というシチュエーションのせいだろう。漏れ聞こえてきた会話では夕食の後で一緒に遊ぶ約束をしていたようだしな。存分に楽しんできて欲しい。

 

「稲妻料理、楽しみだなぁ。トーマが作るものは絶品だって綾華が言っていたんだ!」

「へぇ〜」

 

 あの人神里屋敷の家司だって言っていたしな。それはここの家事全般を任されているということだ、料理の腕も確かなのだろう。可能ならレシピを聞いてみるのもありかもしれん。

 

「特にお味噌汁が美味しいそうだよ? 特別な調理法があるのかな……滞在中は毎日──」

「毎日飲みたーいとか本人の前で言おうもんなら、俺の『無銘按摩術』が炸裂するから気をつけろよ」

「僕の身体に何をするつもりなんだい!?」

 

 そりゃもうあれよ。ジェントルマン・アッシャーよりも関節の可動域が広く、シュヴァルマラン婦人のようにぷにぷにの身体に仕上げてやる。クラバレッタさんが八頭身になるレベルのやつだ。

 

「い、嫌だっ! 八頭身クラバレッタさんはいやだぁ!」

「……想像してみると確かに嫌だな」

 

 彼女はあのまん丸ボディが愛らしいのだ。ダイエットの必要は無いだろう。

 自分の身体がおもしろ軟体生物に変えられる未来を見てしまったフリーナが俺から逃げ出す。元々夕食の前に風呂に行くつもりだったらしい。薄着だったのはそのせいか。俺の気が変わって按摩術が炸裂する前に行ってくるんだな。手をワキワキさせながら見送ると威嚇された。なははは。

 

「……さて」

 

 一人残されて静かになった部屋で、俺は置いていたマジックポケットから調理道具を引っ張り出して立ち上がった。

 別に俺はフリーナの専属料理人とかではない。あいつが誰の料理を食べて美味しいと言おうが、関係は無いのだ。無いのだが……。

 

 フリーナが毎日食べたいと思える料理は俺だけが作ってやりたい。今からするのは、そんな醜い独占欲から来る行動だ。

 

 

 3. 稲妻 神里屋敷 厨房

 

 

第四回! ルド=ウィーク乱入クッキングバトルの開幕だァ!

「なっ!?」

 

 廊下に漂う出汁と醤油の香りを辿って厨房にたどり着いた俺は、言葉の勢いとは真逆に、ホコリを立てないようにぬるりとトーマさんの前へ躍り出た。突発的な勝負の始め方はズバイルさん譲りだ……使ってみて確信したが、ズバイルシアターダンスバトルの過去三回は嘘だと思う。

 

「何もせずに待っているのは落ち着かなくてね。良ければ手伝おうかと」

「バトルって言っていなかったか……? 手伝ってくれるのはありがたいけど、お客さんにそこまでしてもらうわけには───ん? その顔……」

 

 な、なんだなんだ……? トーマさんは俺の顔を見てニヤリと笑った。火の調節が終わったらしい彼は、鍋をかき混ぜていたお玉を置いて俺に近づいて来る。

 

「うんうん。そうかぁ……お嬢から聞いてはいたけどやっぱりそういう事だったんだな」

「ちょい、俺の何を見て納得したのか聞かせてくれないか?」

「オレの料理でフリーナさんを盗られちゃうんじゃないかって心配になったんだろう? それで、料理勝負を仕掛けて調理法の秘密を探ろうとしたってとこかな?」

「ぐぅ……」

 

 全部見抜かれてるわ。俺はぐうの音を奏でた。

 全てを知った上で俺を追い出す様子がないってことは、勝負を受け入れたと見ていいのだろう。俺は素早く辺りを見回して件の味噌汁を見つけた。

 鍋に入っているのは豆腐にわかめ……普通だ。具に特別なものが無いなら、出汁か味噌に秘密が……?

 

「特別なものは入ってないよ。レシピだって普通の味噌汁の作り方と変わらない」

「…………そうみたいだな」

 

 どうやら神里家秘伝のレシピというものは無いらしい。作り方に違いが無いのなら、彼の料理は何をもって絶品となるんだ?

 

「気が付かないのか? その良く手入れされた調理道具を見る限り、君はもう分かっていると思ったけど……よし、少し味見をしてみるといい」

 

 腕を組んで考え込んだ俺に、トーマさんは小さな椀に少しだけ味噌汁を入れて渡してきた。

 普通の食材に普通の調理法……の割に具材ひとつひとつがキラキラと輝いているように見える。トーマさんの言葉通りなら、これを食べるとその秘密に気が付くはずだ。

 

「───いただきますっ! …………ッ!!」

 

 一口、たった一口を飲んだ俺は硬直した。たっぷり数十秒をかけてゆっくりと椀を下ろし、口の中に残った後味を堪能する。

 

 特別なレシピ、調理法など存在しない。なるほどそれはそうだ。それ以前に入っているものがこの料理にはあった。

 

 これが──そうか。

 この(てのひら)にある温もりが……。

 

 

 

「───心か───」

「さっきから様子がおかしいな君!?」

 

 美味いッ! 俺は一瞬で残りを飲み干した。そして思い出す。

 料理とは愛情である。俺がフリーナに初めて料理を作った時、下心も打算も無くただあのしょぼくれ顔が笑顔になるようにと腕を振るったのだ。

 

「俺は独占欲に囚われるあまり、一番大切なものを忘れてしまっていたんだな……ありがとうトーマさん。これで心置き無く俺はあんたと闘える」

「結局クッキングバトルはやるんだな……あと、トーマでいいよ。俺もフォンテーヌの料理は気になっていたから、君の腕を見せてもらおう!」

 

 その意気や良し! いざ尋常に勝負だッ!! 今、トーマと俺の熱い戦いの火蓋が切って落とされた……ッ! ノリがいいなこの人。

 

 

 5. 神里屋敷 浴場

 

 

 さ、風呂だ風呂。俺は脱衣所で着ているものを脱ぎ捨てた。

 結論から言えば、クッキングバトルは勝敗がつかなかった。審査員になってもらうはずだったフリーナが「美味しい!」しか言わなくなってしまったからだ。終始にっこにこで皿を空けていたので同じくらい美味かったということで納得することにする。

 

「くく……実はでかい風呂があるとトーマに聞いてからずっと楽しみにしていたのだ。我が家のバスルームはこじんまりとしているからな」

 

 メゾン・ド・フォンテーヌにある俺の部屋は、風呂とトイレが辛うじて別なだけの質素なワンルームだ。バスタブに湯をはっても足は伸ばせない。というかあの階ほぼ全部フリーナ宅が占めてるんだよな。家賃が三倍くらい違うから文句も言えないが。

 

 つまりやっと俺もゆったり浸かれる風呂にありつけるということだ。長旅の疲れも吹っ飛ぶ事間違いなし! 俺はウキウキで扉を開けた。

 

「……おや」

 

 ぴしゃん。

 扉を閉じた俺は上を向いてぎゅうっと目頭を抑えた。神里家の当主が入っていたように見えたが今のは幻覚だ。湯気とか雰囲気がそうさせる幻だ。挨拶に伺おうと思ってはいたがここじゃねえだろう。

 俺が扉の前で固まっていると、後ろからトーマが入ってきた。彼は服を脱ぎながら不思議そうな顔をする。不思議なのはこっちなんだが?

 

「あれ? ルド、入らないのか?」

「トーマ。今浴場の中にこの屋敷で一番偉い人が入ってる幻覚を見たんだ。というか一緒に入るつもりなのか?」

「稲妻じゃ普通だよ? 若は忙しいからね、いつもこれくらいの時間に入ってるんだ」

 

 それなら俺は後にしようかな……リラックスの時間は大切だろう。いそいそと踵を返した俺の肩をがっちりとトーマが掴んだ。何しやがる。

 

「稲妻式の入浴方法は初めてだろう? フリーナさんもお嬢に教えてもらったらしいし、ここは俺が一肌脱ぐよ」

「一肌どころか全裸だろうがっ! 綾人さん的にもいいのかな!? お身体が俺みたいな一般人に見られてもさァ!!」

「構いませんよ? ようこそルドくん。どうぞこちらへ……」

 

 ノリがいいんだよなこの人達!! 俺は両脇を二人に抱えられて浴場へ入った。滑りやすい足場で暴れて万が一にでも怪我をさせる訳にはいかない。俺は大人しく捕獲された。

 トーマに教えられるままに身体を洗った後、湯船にゆっくりと身体を沈めた。初めは少し熱いと感じた湯加減だが、慣れてくるとじんわりと身体を包み込んでいく……。

 

「ふ……おぉ……っ」

「ふふ、広い湯船にゆったりと浸かると気持ちがいいですよね。気に入りましたか?」

「とっても〜……」

 

 俺はだらりと脱力した。今日一日分の疲労が溶けて排出されていく……離島で警戒されまくった事から始まり、襲撃を受け、終いには母親が増えたりととんでもない一日だった。まだ一日目だぞ。

 

「そうだ綾人さん、雷電将軍の様子がおかしいって知ってたなら教えておいて欲しかったんだが」

 

 元を辿ればこの人の言葉で稲妻まで赴く事になったのだ。綾人さんは将軍から頼まれたと言っていたし、母性爆発していることに気付いていたはずだろうに。知っていて隠していたのなら人が悪いぜ。

 

「同封されていた写真を見れば一目瞭然かと思いまして……」

「それはそう。最初からおかしかったなあの人」

 

 そういうわけなんだトーマ。俺の冗談でもなんでもなく、雷電将軍はおかしくなっている。綾人さんの証言を貰ったことでトーマが頭を抱えた。分かるぜその気持ち。後で例の写真を見せてあげよう。遠慮しとく? そうか……。

 

「さて、トーマの愉快な顔も見れたので私はこれで。浴場は基本開いているのでお好きな時間にどうぞ。入口にかかっている札はよく見るようにお願いしますね」

「オレもあがるよ……今日は早めに寝ようかな」

 

 トーマの反応を見て満足そうにした綾人さんが浴場を後にして、フラフラとトーマがそれに追従する。彼には休息が必要だ。

 ……一人になると広い風呂は少し寂しいな。俺も上がるとしよう。

 

 

 

「あ、おかえりルド」

「おう、当たり前のように俺の部屋にいるなお前。綾華さんとはもういいのか?」

「ここに居る間は何時でも遊べるからね! 明日は街を見てまわる予定なんだ」

 

 自室に戻ると、夕食の間に準備されていた布団の上にちょこんとフリーナが乗っかっていた。綾華さんと楽しく過ごせているようで何よりである。

 

「んで、それ何?」

「む、忘れたのかい? いいからこっちへ来なよ」

 

 小瓶と櫛を傍らに置き、ちょいちょいとフリーナが手招きしてくるので、俺は彼女に背を向けて座った。そういえば風呂上がりに髪を触らせろ、とか何とか言ってたな。

 するする櫛を通され、頭を撫で付けられていく。頭上から髪の手入れに関する知識を垂れ流されているが、殆ど右から左に流れていく情報である。タオルで拭いたら自然乾燥。男の手入れはこれで十分だろ。

 

 俺がうんちくを聞き流していることに気付いたフリーナがむくれた。今はそんな事より聞きたいことがあるんでな。俺は話題を変えることにした。

 

「美味かったな、トーマの料理」

「美味しかったけど……『毎日飲ませろ!』って君が言っちゃったからヒヤヒヤしたよ。その言葉、稲妻の人には禁句なんだろう?」

「俺はいいの。それより、お前の気に入った料理はあったか?」

 

 俺の質問に俺の髪にオイルをすりこませていたフリーナの手が止まる。櫛を通すまでは分かるんだが今何されてるんだ俺は? その小瓶のオイルが髪にどんな影響を及ぼすのか興味が尽きない……。

 

「うーん……お味噌汁はもちろん美味しかったね。でも魚の照り焼きとか、見た目は稲妻料理なのに、細かい味付けが僕好みになっている料理があったのが意外というか……彼、フォンテーヌの料理もできるみたいだね!」

「──! そうか」

「なんでルドが嬉しそうにするんだい?」

 

 俺はフリーナに気づかれないように小さくガッツポーズをした。悪いなトーマ、クッキングバトルは俺の勝利……と言いたい所だが、トーマの作る料理は誇張抜きに絶品だった。今日はたまたま俺がフリーナの好みの味を作れただけで、明日からは普通に彼女にあった味付けの料理を作るに違いない。

 

「ほら、終わったよ……わわ、ルドっ?」

 

 俺は後ろに倒れ込んだ。後頭部に柔らかい感触と、見上げた先にはフォンテーヌの大スター。上機嫌な今の俺は無敵である。

 

「トーマに頼らずとも、お前の食べたい料理は全部俺がお前好みの味で作ってやるよ。毎日だって構わないぜ」

「ルドは負けず嫌いだなあ……なら、僕がトーマの料理に舌を合わせる前に依頼を済ませてフォンテーヌに帰ろうね」

 

 任せろ任せろ。とりあえず明日は神里屋敷の真隣にある山の上、八重神宮にて神子さんの依頼をこなすとするか。あの人待たせるとおっかねー気がするからな。というわけで就寝だ。おやすみ。

 

 ……おめーは自分の部屋に帰るんだよ。俺はフリーナを抱えてぽいっと隣の部屋に放り込んだ。また明日もよろしくな!

 

 

 4. 深夜 自室

 

 

「まったく、巫女姐さんにはこまったものだ。まさかサボり防止で拙の部屋に待ち伏せとは……」

 

 深夜も深夜、月あかりも届かぬ曇天にコソコソと廊下を進む小さな影。それは音もなく、神里屋敷の離れの部屋までたどり着く。

 

「ふふ……ここは拙の秘密のサボり場。神里屋敷の離れまではさすがの巫女姐さんも把握できていまい……ん?」

 

「おぉ〜っ、これはまさか、客人用のふかふかお布団っ! 何故こんなところに敷いてあるのか疑問だが……あの家司が片付け忘れたのか?」

 

「ふぁ……眠い。この眠さに目の前にある気持ちよさそうな布団。これには抗えぬ……拙の成長のため、これは仕方の無い事なのだ」

 

 小さな訪問者は音も立てずに布団に近づき、いい感じに()()()()()布団をめくる。

 

 ────そして、爛々と輝く水神によく似た互い違いの瞳と目があった。

 

「──ぴっ」

「無銘──『無刀(むじん)・河流れ』ッッ!」

 

 そう、俺である。

 反射的に逃げようとした侵入者の腕を掴んだ俺は、その小さな体が後ろに引く力を利用して布団に叩きつけた。両手を頭の上で拘束した完璧なマウントポジションだ。

 たぬき……ムジナ? まぁこんな夜更けに俺を襲撃しに来たくらいだ。師匠の手先に違いねぇ。

 

「たぬきの忍者ってなんなんだよ。妖怪モチーフなら次は河童だろうが……っ」

「な、なんの話……っあと拙はムジナで」

「たぬきもムジナも関係ないな。これからお前は八頭身クラバレッタさんになるんだ」

「誰なのだそれはっ!?」

 

 俺は手をワキワキさせた。何故涙目になっているんだこいつは? 俺を殺しに来たのだから逆の立場になっても覚悟はしていただろうに。

 どうもおかしい気がする。あの翁がこんな分かりやすい刺客を送ってくるとは思えない……仕方が無いので一旦拘束はといて──

 

「何を、やっているんだい……?」

 

「ぐすっ、ひぐ……っ」

 

 開け放たれた襖の奥から人を殺しそうな表情のフリーナさんが立っている。俺は改めて今の状況を確認した。

 

 乱れた俺の浴衣、その下にはギャン泣きのたぬき少女。両腕は俺が固定している。誰がどう見ても事案である。これは有罪(ギルティ)、誰だってそう思う。

 拘束が緩んだ瞬間を見逃さなかったムジナ忍者が俺の下から抜け出してフリーナの後ろへ隠れた。

 俺は立ち上がって部屋の襖と、庭に続く戸を開く。くるっと振り返るとギャリギャリと回転してチャージを溜めるクラバレッタさんと水龍ビームを放ちそうなシュヴァルマラン婦人が俺に狙いを定めていた。

 

「────お約束だよな」

「ばかルドーーッ!!」

 

 衝撃と水流で俺は庭まで吹っ飛ばされた。明日ちゃんと話を聞いてもらおう。そう決意を抱いて俺の意識は闇に消えた。

 

 





・『無刀・河流れ』
『無銘』の中で唯一刀を使わない技。相手の重心をずらし、勢いを利用する攻防一体の型。刀を奪われた時、帯刀していない時に襲われた時の備えとして使用可能。

・『無銘按摩術』
ルド考案の按摩術。効能は感度強化と柔軟性の向上etc……もし炸裂するとランキングを移動する事になる。フリーナが餌食になった未来があったので大幅カットのボツになった。

長らくお待たせして申し訳ない……!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。