俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち 作:残雪侍
1.稲妻 神里屋敷
「つっっっかれたあああァ……」
「お疲れ様。ご飯の用意ができてるよ」
あれから稲妻城の中を奔走して、帰る頃にはすっかり日も落ちた。早柚と別れて屋敷に戻ってきた俺は食卓に突っ伏して今に至る。すかさず夕飯と暖かいお茶を差し出してくれるのは我らがトーマである。お母さん?
「肉じゃがっていいよな。ほっこりする味がなんと言うかソウルフードな感じがして」
「俺たち稲妻人じゃないけどね」
わかってんだがよぅ。俺はよく味の染みたじゃがいもを米と一緒にかきこんだ。うまいっ! エネルギーが補充されていく感じがたまらないな。
「それにしてもハイペースで依頼をこなすんだな。今日だけで稲妻城下の仕事を全部終わらせるなんて……」
「やむにやまれずな理由があってな。俺に残された時間は少ないんだよ。この国を雨時々水龍にはさせねえ」
「水流? この国は確かに雨は多いけど。あまり無理はしちゃダメだよ。旅人だって、週に受ける依頼は三つまでって決めてたくらいだからね」
マジか、あの旅人さんでも三つか。疲れるわけだな。ともあれ今日で稲妻城下町の依頼は終わりだ。あの後も大変だった……依頼はどれも食べ物関連で、城下町中の甘味処や食堂を巡ってはフォンテーヌ料理を量産する事になったし、既存の稲妻料理と合わせてかなりのオリジナル料理が飛び出したと思う。
「明日は稲妻城の外で戦闘依頼があるんだよな。お弁当を作ってあげるから頑張ってくれ」
「おぉ! ありがとうお母さん!」
お母さんはやめてくれと言われた。早柚はおにぎりが好きらしいから多めによろしくな。具のリクエストしてもいいやつ? 俺は昆布が好きです。
2. 神里屋敷 自室
「……あのフリーナさん。レポートを書くのは感心するところなんだけど、ご自分のお部屋でやられては?」
「やだ」
えー。俺は座椅子に身体を預けた。書きにくいじゃないかと怒られたので、背筋を伸ばして腕をフリーナの前まで回してやる。
そう、俺が食事と入浴を終えて部屋に戻ると何故かフリーナがいたのだ。そしてあれよあれよという間に膝に乗られてしまった。最初普通に座ってたじゃん。昨夜の罰としてこの処置なら全く意味が無いぞ。重りにしては軽すぎるからな。
「今日は綾華と一緒に、途中から宵宮とも合流して稲妻城を見て回ったんだ」
「おぉ、お前から見た稲妻城はどうだった?」
「町の中がフォンテーヌ一色に染まってたよ。君の仕業だろう?」
間違いなく俺の仕業だな。軽食のフィッシュアンドチップスからガッツリ食べられるコンフィやパスタ。デザートもマカロンからケーキまで各種伝授してきた。まさか『木南料亭』の方で俺特製パスタがウケるとは。志村屋の新メニューといい勝負ができるといいんだがな。
俺の口からは、今日の依頼で起こった事がすらすらと出てくる。しかし聞き手のフリーナは聞いているのかいないのかいまいちな反応だ。
「なぁどうした? まさか、俺のせいで町に新鮮味が無くて楽しめなかったのか?」
「そういうのじゃないよ! ただ……」
「ただ? そんなに町の中を動き回っていた俺と一度も会えなかったのが寂しかったりしたのか? なんてな! はは」
「…………」
……マジ? レポートを書く手を止めて黙り込んだフリーナに俺はたじろいだ。
こてん、と頭を俺に預けるフリーナ。その拍子に石鹸の甘い香りが、湯上りの火照った身体からふわりと漂って俺の鼓動を速くさせる。同じ物を俺も使っているはずのになんだこの違いは。
「寂しい……うん、寂しかったんだ。拍手喝采のステージの観客席に、たった一人の姿が見えなかった時みたいに」
「君が居た痕跡があちこちから出てくるから、余計にそう思えちゃったのかな」
「……ま、俺はこうして帰ってきたし、甘えたいなら存分に……っ!?」
「うん。そうさせてもらうよ」
ぐりぐり、とフリーナが俺に身体を押し付けてくる。なんなんだ今日のこいつは!? そんなに寂しかったのか、そんな馬鹿な事があるかよ!
回した腕はとうにほどけ、自由に体勢を変えられるようになった彼女はもう自由に俺にくっついてくる。鎖骨のあたりに顔を埋めたフリーナをどうしようかと迷った両手は、細い腰を支え、後頭部を撫でる仕事に入った。
「ねぇルド」
なんだよ、もう甘えタイムは終わりか。起き上がり、膝立ちになったフリーナが俺を見下ろす。吸い込まれそうな瞳に自分の顔が映った。お互い真剣な表情だ。にらめっこでもするか?
「やっぱり、君も……」
「俺も?」
「……いや、やっぱりいいや! 明日は少し遠くに行くんだよね。怪我だけはしないように頼むよ?」
「んだそりゃ。怪我しても帰ったらお前がいてくれるんだから問題ないだろ」
「ダメだよ。僕はずっと君の隣に居られる訳じゃないんだ。油断せずに気を付けること。いいね?」
そう言うとフリーナは立ち上がり、俺の頭をさらっと撫でて自分の部屋に戻ってしまった。慈愛すら感じる微笑み……一般フォンテーヌ人ならあまりの破壊力に粉々になるところだろうが、俺の目は誤魔化せない。
俺を通して誰かを見ていたな。それが誰なのかは分からないが、あんな寂しそうな笑い方をさせてしまう相手と、それを思い起こさせてしまった自分に少しの苛立ちを覚えた。
3. 稲妻 海岸
「──ってことが昨日あってな。何が悪かったのか一緒に考えての欲しいのよ。人心掌握術に長けたえりぃと忍者の早柚さんや」
「刀のおォ! 錆となれェ! ぐあぁーッ!?」
「んー……まず主は戦闘に集中するとよい」
それもそうだな。俺は三方向から突き出された刀を、剣で軌道を逸らして躱した。三人がそれぞれを攻撃する形で止まった所を柄で殴って無力化していく。多対一は俺の最も得意とする戦法だ。集団の中に飛び込んで好き勝手に『無銘』を叩き込むだけで戦闘は終了する。
今回の依頼は稲妻の治安を乱す厄介者集団でお馴染み野伏衆の討伐だった。ボコし終わったら狼煙で天領奉行に知らせて引き取ってもらう簡単なお仕事である。今早柚が火を起こしてくれているので俺は小悪党共をふん縛って腰を降ろした。引渡しが終わったら次のポイントに行かなきゃな。
「……で、どう思う?」
「う……ぐぅ、へへへ。天下の『剣鬼』様も女の扱いには不得手とはな」
「おまえにゃ聞いてねンだわ」
傷に響くから大人しく寝てろって。だが、この浪人からは何か恋愛マスター的なものを感じる……よし、話してみろ。
「旦那は乙女心ってもんが
「ぐうぅ!!」
俺はダメージを受けた。所詮は俺も一般フォンテーヌ人。あいつの笑顔に見とれてしまったことは認めよう。でも強引なのは嫌われるんじゃない? そう言う俺に理解を示したのは作業を終えて隣にやってきた早柚だ。
「しかり。そういうときは下手に刺激すると良くない。要するにフリーナさんは、主が自分そっちのけで仕事をしていたのが不満だったのでは?」
「やっぱりそういうことだよなぁ」
昨日は早く任務を終わらせることばかりを考えてたからな。俺が逆の立場でもモヤっとするだろう。つまり、今の時点でフリーナの稲妻旅は王冠の乗っていないケーキと同じってことだ。我ながら過大評価だと思うけどな。
フォンテーヌフェア開催中の稲妻城は俺もあいつも探索しているので、何処か別の場所で埋め合わせをするのが良いだろう。
「そうと決まりゃ早速作戦会議だ。オラ起きろツラ貸せ! 稲妻の楽しいスポット一人十個聞くまで帰してやらねえぞ!」
「いや、そいつらは引き渡して貰わなければ困るんだが……」
ちっ、天領奉行のご到着だ。俺はドナドナと悲しそうに連行されていく野伏衆を見送った。刑期が終わったら真面目な恋愛マスターになれよな。
依頼【『剣鬼』に焦がれた海乱鬼の討伐】
「『剣鬼』にこの刀を試せる……ッこれ以上ない幸福だ!」
「何それ妖刀? 最近の稲妻人は変なもん振り回してんなッ!」
振り下ろされた炎刀を、こちらは水を纏った刀で弾き返す。続く連撃を冷静に受け流し──返す刀で鎧の隙間を狙うが、これは防御された。異なる元素同士が反応して高熱の蒸気が爆発。互いに距離をとって仕切り直しの形になる。
中々強いなこの侍……。聞くところによると元は幕府軍だったらしいが、戦場で俺に負けてから強さを求めて海乱鬼堕ちしたと聞いている。何処ぞの符術を使って元素を纏う技を身につけたようだが、俺に言わせてみれば──。
「……ッが!?」
「年季が違うんだよ。もっと工夫してやり直せ」
身を低くして飛び込んだ俺は、地を舐めるように振り抜かれた刀を足場に跳んだ。斬りあげた刀で左の肩を、空中で身体を反転させて右肩をを大きく斬り裂く。
俺の着地と同時に、刀を落として膝を折る海乱鬼。勝負ありだ。人を堕落の言い訳に使うんじゃねえ。
「早柚、俺は狼煙をあげるからそいつの治療よろしくな」
「承知……しかし鮮やかに戦うのだな。この侍、終末番でも危険視されている海乱鬼だったのに」
そりゃもう。立て続けに起こる強者との戦闘によって俺の戦闘力は格段にあがっている。この辺をうろつく浪人程度なら相手にもならねえよ。今ならクロリンデさんとだって互角に戦えちゃうね! やっぱおかしいんだよなあの人。
「く、くく。『影』は幾度なく斬ったが、本物には適わぬか……」
「お前、あの泥人間の事知ってるのか」
偽物の『無銘』を使う影。紺田村で遭遇した怪物の事で間違いないだろう。昨日の段階で分かったことだが、稲妻城周辺の見回りが強化されている。狼煙をあげたら直ぐに天領奉行がすっ飛んでくるのがその証拠だ。恐らく今もどこかで奴らは発生していて、その度に討伐が行われている。
まだ協力させて貰えなくても情報は集めておくに越したことはない。俺は治療の終わった海乱鬼の前に座って目を合わせた。
「血も抜けて冷静になったろ。あれについて知っている事があるなら教えてくれ」
「…………敗者に拒否権など無い。が、某が知っていることもあまり無いぞ」
そう言いながら海乱鬼は話し出す。最初に出現した奴らは文字通りの『影』だったらしい。それがここ最近、戦場で散った侍の顔を持ち始め、技もなく武器を振り回すだけだったのが数日前から『無銘』を使い始めたと。
二年前と同じように刀を折り鎧を砕き、精神を乱す高笑いをあげる剣の鬼。『
「すみません原因俺でしたッ!!」
「ふぉ……っ! きゅ、急に大きな声を出すな」
海乱鬼を引き取って貰った俺は頭を抱えてその場に膝を着いた。師匠が絡んでいる以上覚悟はしていたが……影が出てきた時期と、俺が神の目を再び使い始めた時期が重なっている。俺のやけっぱちな契約承認が『影』の始まりと見て間違いないだろう。その上俺が稲妻に来るのに合わせて奴らに強化が入っているのだ。返すべきでは無かったと、そう思われても仕方ないよな。
「あああぁ……」
「だ、大丈夫だ! 『影』が自然発生したものじゃ無いとわかったのなら、後は黒幕を追い詰めて叩けばよいのだ。拙も最大限協力するから……」
「だよなぁ! 首を洗って待ってろよ迷惑な怪異がよォ!」
んじゃ飯にしようぜ。俺は手頃な岩をごろごろ転がして椅子を二人分作った。俺の評価は評判任務で覆す、元凶は必ず俺が仕留める。それでよいのだ。ムジナさんや、俺の切り替えの速さにドン引きしてるとこれから大変だぞ?
「でも、慰めてくれてありがとうな。頼りにしてるぞ」
「ふにゃ……顎の下をなでるなぁ……っ」
俺は早柚の首元をすりすりさすってみた。おぉ、みるみるうちにふにゃふにゃになったな。今のうちに形をこねていけば身長伸びるんじゃない?
さて、ムジナと楽しいスキンシップの途中だが、次の依頼の作戦を考えないとな。本日最後の依頼は野伏衆+海乱鬼の拠点殲滅だ。一人でも逃がすと後々面倒なので、決行は夕方。彼らが全員帰ってきた時に仕掛けよう。
「少し待つようになるな……そうだ、早柚からいい案は無いか? フリーナのケーキに王冠が乗るような一大イベントがよ」
「ふふん。それについて拙に妙案がある。この情報と引き換えに『無銘・ぶら下がり成長術』を所望するが如何に」
「ねえよそんな技は。手掴んでやるから勝手にぶら下がれ」
俺は早柚の手を引っ掴んで吊り上げた。このままおみくじみたいに振って振って、早柚からアイデアを巻き上げて時間を潰すとしよう。
4. 依頼【『▇▇』の討伐】
「──早柚。急ぐぞ」
「分かっている。これはよくない」
時間は進み、辺りがうっすらと闇を纏い始めた頃合で野伏衆のアジトに近づいた俺たちを出迎えたのは、溢れかえる闘志や殺気……等では無く。
「息があるやつは、居ないのか」
鼻を突くのはまだ新しい血の匂い。呻き声の一つも無く倒れ伏すのは俺たちが討伐しようとしていたはずの浪人の徒党だった。
「主、主っ! 向こうの方で戦闘の音だ!」
「分かってる!」
どう見たってイレギュラーが起こっている。それもとんでもなくヤバいのが。騒動によって倒れた篝火があちこちに引火するアジトの中へ突入する頃には、鉄と鉄がぶつかる音が小さくなり、断末魔も小さくなっていた。
「……はは、おい早柚勘違いするなよ。昔の俺はあんなトンチキな格好はしてねーからな」
「いやいや、アレはどう見たって」
もはや乾いた笑いしか出てこんね。広場の中心で、たった今最後の海乱鬼を切り捨てたのは、全身を黒い包帯で縛り上げた細身の男。抵抗軍や幕府軍、いつの時代の物かすら判別できないボロボロの鎧をツギハギにして体に纏っており正体は定かでは無い……が。
包帯の隙間から飛び出る金糸の髪、兜の内から覗く青色の瞳。稲妻人では無い。その特徴にぴったり合致する人物と言えば───ッ!!
抜刀。俺は目の前に振り下ろされた刀を受け止めて鍔迫り合いに入った。挨拶も無しに襲いかかってくるんじゃねえ。師匠にどういう教育を受けてんだ? うわうわ近くで見ると目が血走ってて怖い! 昔の俺怖いッ!!
「早柚! 生きてるやつを捜索しつつ天領奉行を呼んでこいッ! 俺はこいつを何とかする!!」
「ぅ、わかった! 気をつけるのだぞ!」
当……ッ然! 腕に力を込めて押し込み、相手に受け流させる事で鍔迫り合いを解除。互いに一息で到達できる間合いの中、俺と『
「……過去が襲うとか、よく言われるけど。こうも物理的に襲いかかられると逆に面白いな」
「──カ、カ」
「カカッ! ハハハハハッ!!」
「そんなに面白かったか! 不愉快だから黙ってろよなッ!!」
激昂しながら影と切り結ぶ。何がそんなに楽しいんだ? 分かるよ。強者と戦うのが、人を斬りつけるのが! 楽しくて仕方ないんだよな!
繰り出されるは『無銘』最速の五連撃。剛剣には剛剣を、柔剣に柔剣を。剣筋を読み最適解を叩き出す。音を置き去りにしそうな速さと鋭さだが、血反吐を吐いてこの身に染み込ませた剣技だ。付け焼き刃の技術は俺に届かない。
「ハハハッ! ルドッ、ルドオオォ!!」
「寝ぼけてんのか? 自分に名前を呼ばれんのは気色悪ぃんだよ!」
「ハ──ギッ!」
嵐のように繋がる連撃を全て弾き、体勢を崩した所に掌底を喰らわせて攻撃を止める。まだこいつの技量は師匠は勿論俺にも達して居ない。今のうちに仕留める……ッ!
振り下ろされた刀を受け流し、手首を返して腕ごと断ち切る。耳を劈くような悲鳴を上げて影が後退するのをみすみす逃す俺では無い。そのまま距離を詰めて───。
「終わりだ」
一閃。ツギハギの鎧の上から身体を断つ。砕けた破片と共にどす黒い血液が周囲に飛び散った。これで決着だ。
違和感。宙に浮いた血液は地面に着くことなく、時間が逆行したかのように身体に引き寄せられ、その既視感は俺の認識が甘かった事の答え合わせとなる。
「──『鬼神演戯』」
「ッ!!」
爆発。俺は野営地の外まで弾き出された。防御に手一杯でよく見えなかったが、影の傷口から飛び出して来たのは紺田村で見た影共だった。夥しい数を放出された質量でもってここまで飛ばされたわけだな。
人の元素爆発を真似した挙句数に至っては上位互換とは、オリジナルを尊重するつもりの無い傲慢さが見て取れる。ふざけやがって。
「カカッ」
「数を揃えただけで勝ったって顔すんなよ。俺の一番得意な戦法がなんなのか、お前はよく知ってるだろ?」
口元だけで分かる気味の悪い笑みを浮かべて影が俺に追いつく。その後ろには二十を超える侍の群れ。この数を捌きつつ俺と同格の相手を殺すのは骨が折れそうだが……。
「主っ! 無事か!?」
数ならこちらも揃ったようだ。ぼふんと煙が上がってムジナが俺に飛びついてきた。後方からは大人数が移動してくる足音が聞こえる。なんか多くない? 早柚のやつどれだけ引っ張って来たんだよ。
「ナハッ、ハハハ」
「──なっ! おい消えんなっ!」
ばしゃんと、影が泥のように崩れていく。逃げるつもりだ。こいつ形勢が不利と見た時の切り替えが速すぎる! 俺かよ、俺だったわ。
このまま逃がしてやるわけないけどな。俺は剣鬼に飛びかかった。首を狙った一閃は、まるで水面を切ったような手応えで受け流される。この短期間で成長したのか!?
着地した俺が振り向いた時には剣鬼は消滅していた。ただ逃げられただけじゃない。そこら中に転がっていた死体まで消えている。胸糞悪い想像が頭をよぎるぜ。
「…………おい、ルド=ウィーク。これはどういう状況なのか、詳しく聞かせてもらうぞ」
「おぉ、なんか兵士の数が多いなと思ったら九条さんの隊だったか。いやまじで聞いてくれ。話すことがありすぎるんだわ」
ピシッとした聞き覚えある声、早柚が呼んでくれたのは九条さん達だったようだ。人選のチョイスが素晴らしいね。ドヤ顔で寄ってきた早柚の顎をこちょこちょして褒めてやる。
俺は帰りが遅くなることを神里屋敷に伝える事を早柚に頼んで、九条さんにドナドナと連行された。
5. 深夜 神里屋敷
「はー……つっかれた。腹減った。でも疲れた」
草木も眠る丑三つアワー。俺は神里屋敷に戻ってきた。九条さんめ、事情聴取とか言いつつほとんど俺への説教だったじゃんよ。イレギュラーが起こっているとわかった時点で近くの天領奉行に報告しろだと? それはそう。
疲れからか、ぶつぶつと独り言を垂れ流しつつ風呂場へ向かう。今日は風呂に浸かってゆっくり眠るとしよう。
「っと、そうだ。深夜の風呂利用は木札を確認しなきゃなんだよな」
俺は風呂場の扉にかかった木札を確認した。深夜に風呂を利用するやつなんざ限られていると思うが、状態は男湯。よし、湯けむりハプニングは無さそうだ。
脱衣場で服を脱ぎつつ、明日の事を考える。次はいよいよ評判任務最後の難関、九条さんの依頼だ。本人にも明日は覚悟しておけと言われたので一筋縄でいきそうにない。
それともうひとつ、早柚と一緒に考えたフリーナのワクワク稲妻イベントをこなさないとだ。本当は帰って話すつもりだったがこの時間だ、もう彼女は眠っているだろうし明日誘ってみよう。
「ま、ぜーんぶ明日だ明日っ! 今日は貸切風呂でゆっくり寛がせて貰お……」
「─────ぇ」
なんで? 湯けむりの中から俺の視界に飛び込んできたのは、一糸まとわぬ俺の護衛対象の姿で。扉を閉める反射行動も忘れて俺は視線を縫い付けられてしまった。
掛け湯をしていたのだろう肢体は程よくしっとりしつつも水滴を弾くハリを持ち、咄嗟に持っていたボディタオルで身体を隠そうにも、同じく湯に濡れたそれはぺたりと張り付いてその美を強調するのみだった。
フリーナがびっと俺を指さす。サロンメンバーを呼ぼうとしたようだが、神の目を持っていない状態でそれは使えない。ぴんと立てた指がへにょっと曲がった。
「な、なにゃななんで……っ! 木札は確かに」
「男湯になってたな」
「き、君はなんでそんな冷静なッ! あっ」
「──ッ! 馬鹿っ!」
石鹸を床に置くんじゃねェ──! 後ずさったフリーナがギャグ小説よろしく石鹸を踏んずけて後ろに倒れる。俺は全ての思考を放棄して飛び込んだ。
「……はっ、 はっ」
「はァ……怪我は、してないな。良かっ……」
硬いタイルに飛び込んだせいで膝が痛いが、フリーナはどうやら無事なようだ。俺は彼女の後頭部に回した掌を退けた。そして事態の深刻さに気づく。
固く握りしめられたフリーナの左手にはボディタオルがある。それは、彼女に残された最後の砦が突破された事を意味するわけで。
ぱち、と互い違いの瞳と目があった。紅潮した頬、キョトンしとした表情は何が起こったのか理解していないようだ。湯気に蒸された髪が少し顔に張り付いて、形のいい唇に視線を誘導している。
そのまま目線を下に移動させると、荒い呼吸で上下する、控えめながらもしっかりと存在を主張する双丘が。隠せるものも無くなりふるふると揺れる頂上の薄桃色と相まって極上の果実を連想させた。
露出の少ない服を好む彼女が普段見せる事のない、しかし何度も抱えた事のある細い腰は熱によって薄く桃色が差し、臍に溜まった水滴を見て思わずごくりと喉が鳴る。
極めつけは……片膝に当たっているふにっとした感触。数ミリ、前に足を動かすと、びくんっと反応がある。
俺の太ももを挟んでくる横方向からの柔らかさがフリーナの太ももの柔らかさだとするなら……これ、これは。
確かめるのも怖くなって俺はもう一度フリーナの顔を見る。状況を飲み込めてきたのであろう彼女もまた。白い肌を真っ赤にして「はわ」と声を漏らす。
俺は。フリーナを。押し倒していた。