俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち 作:残雪侍
2.は飛ばしても内容的には問題ないです。健全ですけど!
1. 稲妻 神里屋敷 浴室
「あ、の……ぇと、ルドっ」
「…………」
返事はできそうにない。ぐるぐると思考が乱れる。疲労と空腹は俺の理性を削り、三大欲求の勤めを果たせとばかりに下腹部に熱を感じる。
「──ぁ。うで、かくせな……」
俺はフリーナの両手首を片手で固定した。顕になった腋から胸にかけてのラインはこの世の芸術作品を全てかき集めても到達できない程に美しい。こんな素晴らしいものを隠そうとするなんてとんでもない。
「言ったよな。男はみんな狼だって」
「んっ……ゃあ」
身を捩ろうとも無駄だ。もう俺は止まらない。思えばよく耐えた方だと思う。全くこちらを警戒していないスキンシップの数々に、船での出来事。俺も男なので、流石に我慢の限界だ。
俺はラブコメ小説の主人公のように鈍感では無い。ここまで据え膳されたのなら、こちらも食わねば無作法というもの……。
「俺が望むなら、何度だって良いんだったよな」
「っ、るど。まって……」
待たない。聞き分けのない子共を躾けるようにぐりっと足に力を入れる。甘い声が漏れ抵抗を弱めたフリーナの顔にかかった髪をするりと避けて、俺はその唇に向けて顔を近づけ──。
フリーナの目から零れる涙をみた。
「爆ぜろ煩悩ッ! フリーナは俺が護るッッ───があああぁ!!」
「わああぁ!? る、ルドーっ!」
俺は大きく頭を振りかぶって、フリーナのすぐ横のタイルに思いきり頭を打ち付けた。
だくだくと頭から出血するのを感じながらフリーナの上からどいて仰向けに倒れる。これだけ血を流せば、下半身の方には回るまいよ。俺の理性が──勝った!
「フリーナ。狼は死んだ。早くここから立ち去るんだ……」
「…………むう」
ててて、とフリーナが浴室の外に出ていく。そうだ。それでいい。そのままバスタオルで身体を隠して、神の目を持ってなんでこっちに戻ってきてるんだ? あぁ。サロンメンバーで俺にトドメを刺すんだな。 いい案だと思うぞ。
「しないよそんな事……ほらこっち。頭をあげてくれ」
言われるがままに頭をあげると、後頭部に柔らかい感触と、視界にまだ少し赤い顔をしたフリーナが見えた。傍らには歌い手さん。羽のような腕を広げて俺を包み込んで来る。添い寝のつもりなのだろうか? なんにせよガンガンと響いていた頭の痛みは引いていく。
「……ばか、ばかルド。ちょっとびっくりしただけなのに」
「確かに、大馬鹿だったな。悪い……冷静じゃなかった」
「…………君、だめって言われたら止まるタイプだろう」
何言ってやがる。だめな事はダメだろ。頬を摘まれた。痛てーんだけど?
治療が終わったようで、歌い手さんが名残惜しそうにしながら帰っていった。理性が残っているうちに俺もさっさと出るとしよう。フリーナが出たらその後で……いや疲れたな。明日の朝にでも入るか。
「…………なあフリーナ。なんで俺の腕を掴む?」
「お風呂、入るんだろう? 一緒に入ればいいじゃないか」
「今俺にナニされそうになったのかご理解なさってない!?」
わかってるよっ! と逆ギレされた。バスタオル一枚の防御力で何を強くなった気でいるのだ。ぐ、血が抜けた影響か力が余り入らない。また滑って転ばれても怖いので俺は大人しく湯船に浸かった。
「「はふ……」」
やっぱりお風呂さいこー……。命の洗濯とか言われる理由もよく分かるぜ。フォンテーヌにもできないかな大衆浴場。この良さは全ての国に広めるべきだろ。
大衆浴場と言えば、俺は稲妻城で依頼をこなす時に知り合った妖怪の言っていたことを思い出した。浴場は、話しにくい事も話し合える場所であると。
「なぁフリーナ」
「……なんだい」
「昨日お前、俺が最初から稲妻人だったら──とか考えてたろ」
「っ!」
ざぱ、と湯に波が立つ。俺はすぐ横に座るフリーナと目を合わせた。その反応を見るに図星なのだろう。
唇を噛み締めて俯いた彼女は、その力を抜いて観念したように縁にしなだれかかった。
「……バレちゃった。君もわかりやすいけど、僕の隠し事も君には分かるんだね」
「俺には人を見る目があるからな。んで? なんでそんな事思うんだ」
「リドルもサテラも、稲妻に惹かれていたからさ」
父さんと母さんが稲妻に惹かれていた? 疑問符を浮かべる俺に、フリーナはぽつぽつと話し始める。
「君たちが、最初から稲妻人だったのなら。君は両親を失うことも、『剣鬼』なんて呼ばれて恐れられる事もなかった」
「昨日の君が楽しそうに稲妻城であったことを話してくれた時、思わず二人の面影が見えた。もしかしたら君もフォンテーヌより稲妻を選ぶんじゃないかと、そう思ったんだ」
どうりで、俺の両親の名前を知っているわけだ。フリーナの口から語られたのは俺の知らなかった両親の話。
地質学者のリドル=ウィークと、水文学者のサテラ=ウィークは代々フォンテーヌの環境について研究を行っている一族だった。その功績は、水神フリーナの謁見を許される程だと言えば伝わるだろう。定期的に二人はフリーナに研究成果を報告していたようだ。
「こういうと変に聞こえるかもしれないけれど、君の出産にも立ち会ったんだよ。生まれたばかりの小さな君の手に、神の目が握られていた時は中々驚かされたなぁ」
「へぇ。なのに返ってきた俺の神の目を盗んだもの扱いしやがったんだな」
「本当にそう思っていたのなら黙って通報するさ。それに、使えもしない他人の神の目を買うほど君は愚かじゃないだろう?」
そりゃそうだ。話を戻そう。
こうして生まれた俺が一歳の誕生日を迎えた時、両親はフリーナの前に謁見をした。それが最期の別れになるとは知らずに。
「喧嘩別れだったんだ。二人は前々から稲妻の文化に興味と関心を持っていたからね。終わりの見えない劇の中、幼い君を、二人を海に溶かす未来を見たくなくて、僕はもう戻ってこなくて良い……なんて言ってしまった」
「……」
「十数年たって、歌劇場で君の姿を見た時は驚いたよ。声もかけようとした。でもダメだった……瞳を絶望の色に染め上げた君を見て、両親は元気か? なんて聞けるわけがない」
「二人を殺したのは、僕なんだ。僕がちゃんと彼らを引き止めていれば、もっといい未来があったはずだ」
あるいは、最初から俺たち家族が稲妻人として生まれていれば───と?
「なめるんじゃねぇぞ」
「ルド……? ふゃ!?」
俺は隣のフリーナを抱き上げて、自分の膝の上に置いた。逃げられないように腕を回して抱きしめる。
「な、ゃ……ぁ」
「…………父さんも母さんも自分の意思でフォンテーヌを離れたんだ。お前に見放されたと思ったからじゃない。フォンテーヌを救う為に、だ」
俺は物心ついた時から両親の研究を間近で見ている。毎晩毎晩、呪文のような研究結果を話し合う二人の行動理念は全くブレずに『フォンテーヌを救う。フリーナ様の助けになる』それ一点だった。
「俺達は水で溶けちまうような脆弱な生命だったけどな。神に、自分が護ってやれなかった。なんて後悔されるほど脆くはねえぞ」
「……っ」
お前は最善を尽くした。だってフォンテーヌは救われたんだから。父さんと母さんも最善を尽くせた。なぜなら、俺が今生きてここにいるから。結果だけ見たらそれは徒労で、末路は目を背けたくなるようなものでも……その最善は誰にも否定して欲しくない。
「お前の言おうとしていたこと、もう一つ当ててやるよ。『師匠の事とか全部忘れてフォンテーヌに帰ろう』じゃないか?」
「ぅ……だ、だって」
「まあ師匠に勝ったことないからな俺。今日だって、俺にそっくりな影に大苦戦だ。先が思いやられるね」
「でも、これは俺の『最善』だ。俺が俺の人生を生きるために必要な闘いなんだよ。お前や父さん達がしたみたいにな」
ここで逃げたとしても、アレはずっと俺に着いて回るだろう。周りを巻き込んで、事を大きくして俺の心をかき乱すんだ。俺は自分の命の星座とやらを思い出した。『翁面座』……俺の運命の相手は、どうやら産まれた時から決まっているらしい。俺が神の目を手に入れた理由もきっと、この闘いの中にあるはずだ。
「……その最善で、また僕を一人にするつもりなの?」
「フリーナ」
「嫌だ。今の僕には君が必要なんだ! 僕の人生で一番大切な君がっ、またあの時みたいに僕の手をすり抜けていくなんて事───ん、むっ!?」
わーわー騒ぐんじゃねえ。深夜だぞ。大きく見開かれたフリーナの目を見て俺はしてやったりと目を細めた。なるほど、不意打ちしてやるとこんな顔になるのか。あの時の俺もさぞ面白い顔をしていた事だろう。
ぷはっ、と唇と唇が離れる。先程までの興奮が嘘のように収まったフリーナに俺は笑いかけた。
「約束したろ。稲妻で何があろうと俺はお前の隣に戻ってくるって。こう見えても、俺はもうお前に全部捧げてるんだぜ」
「ぇ、はぅ。いま……っ?」
「俺を信じろフリーナ。お前が信じてくれたなら、俺はきっと最強だ」
「ん……ううぅ」
こくこく、とフリーナが頷いた。わはは、耳まで真っ赤だな! 俺もだけど。
俺は腕の拘束を解いた。慣れないことを勢い任せにするもんじゃないな……。ぬるめのお湯だが随分と長湯してしまった。そろそろ上がろう。
「なはは、フリーナさん? あんまり密着されると俺はまた血を流さないといけなくなるんですけど……」
「……まだ、少し怖いんだ。君を信じるべきだと思うのに、臆病な
「だから、今夜は一緒にいて? ……僕に君を信じさせてよ」
「───……。あぁ、いいよ」
2. 神里屋敷 自室
断言する。挿入は無かった
大事だ。これは大事。だって言われたのは今夜一緒にいたいってだけだもんな。最高審判官様直々の命令で一緒にいるのに、護衛対象に手を出すわけが……ねっ!? だから安心してフォンテーヌで待っててくださいヌヴィレット様! 俺は虚空に向かって念を飛ばした。と言うか今だけそっぽ向いてて欲しい。なぜなら──。
「んぅ……るど、るどっ」
「はいはい……どこでも好きなようにしていいぞ。俺はお前のルドだからな」
「ぇへ。ぁー……んっ 」
挿入が無いってだけだからな。
俺の身体はフリーナに好きなようにされていた。フリーナ様、まさかの性知識0。今彼女は自分の抑えきれない性衝動を俺への独占欲に昇華して発散している。水神フォカロルスはなんて教育を施しやがったんだ! してなかった結果がコレだよ!!
鎖骨や首、腕や胸板にキスマークや歯形を付けられまくりである。流石に見える所にされるのは困るので服で隠れる位置に誘導してはいるが、俺というキャンバスに描ける範囲は限られているのでそろそろ余白が足りない。何とかしなければ。
「フリーナ」
「なぁにるど……んっ! ふ……ぁふっ」
タガが外れているのは俺も同じか。余白が足りないのなら内側を染めさせれば良いのだ。顎をくいっとあげて、唇を合わせてやればにゅるりと舌が侵入してくる。寝転んだ俺に覆い被さるようにして蜜を吸うフリーナは、さながら俺を貪っているように見える。足りない知識を本能で補って、全身を擦り付けて来る姿が愛おしくてたまらない。
「……ちゅ、ふ、はむっ、るどぉ……すき、すきっ……」
「あぁ、俺も好きだよ」
「っ! ぁ、ぁ…っふ、きゅ……っ! んうぅ……っ」
俺は体勢を変えて、覆い被さっていたフリーナを下にした。繋がった唇はそのまま、脱力しきった脚の付け根に手を這わせる。誰にも触らせたことの無い、無垢なソレを撫で付け快楽を教えてやれば……彼女は声にならない鳴き声を漏らしてびくんと身体を数回跳ねさせた。
どうやら絶頂を迎えた事で、フリーナの性衝動は収まったらしい。衣服は乱れ、荒い呼吸を繰り返して放心する姿に良くない嗜虐心が刺激されるが、それはまたの機会に取っておく。
「……えへ、えへへ。しちゃった。僕、ルドとしちゃったんだ」
したと言えばしたし、してないと言えばしてないがな。俺は腕枕をする形でフリーナを抱き寄せた。甘い香りのする髪はアロマのように俺の睡魔を刺激してくる。すりすりと身体を寄せて甘えてくる存在は幸福の具現化そのものであった。
「ね、ね。ルドっ。名前はどうしようか?」
「…………? またゆっくり考えていけばいいんじゃないかな」
「確かに……ふふ、沢山候補を考えておかないとだね」
???? フリーナが何を言っているのか分からないのは睡魔のせいか? 彼女の性知識は全て終わった後にゆっくりと教育させてもらうとして、俺はもうひとつの作戦の事を思い出した。
「……そうだフリーナ。明日の夕方は空けておいて欲しいんだが」
「……?」
「明日な、甘金島って所で花火大会があるらしいんだ。俺の任務は明日で終わるし、一緒に行かないか?」
「……! 行く、絶対行くっ!」
ぺしぺしと興奮気味に動いたアホ毛が俺の頬を叩く。ありがとう早柚! お前の提案は大成功だったらしい。明日またお菓子でも作ってやろう。
「ルド……」
「なんだよ。そろそろ俺も眠くてな……」
「君を信じてるからね。絶対にまけないで、僕の──『
「……あぁ、任せろ」
フォンテーヌを代表する大スターに『
3. 稲妻 神里屋敷
「おはようございますルドくん。昨夜はお楽しみだったようで何よりです」
「おはよう綾人さん。誓って純潔は奪ってません!」
前にも見たわこの流れ。デジャブってやつ? フリーナと一緒に起きて、時間をずらして朝風呂を頂いた後に朝飯を食べようとしたらコレだ。廊下ですれ違った綾華お嬢様におはようすると「……責任を取ろうとするその一途さは、貴方の美徳だと思います」とか何とか言われた。何なんだ? 本当に。
「おや、そうなのですか? 行きすぎた早柚のお節介を咎めたのですが……杞憂だったようですね」
「……早柚? お節介? なんの事です?」
ぼふんっと綾人さんの傍らに煙が上がった。この登場の仕方は早柚だ。昨日は夕方すぐ別れてから会ってないが、一体どうし……!?
「さ……早柚ッッッ!!」
煙から出てきたムジナの忍者は、両頬をぱんぱんに腫れさせた可哀想な姿になっていた。な…なんで……っ!
ほわんほわん、と早柚の傍らにモヤがあがった。回想シーンよろしく映し出されたのは、浴場の前か? 時間的に俺が帰ってくるすぐ前くらいだな。『女湯』と書かれた木札の前に、見慣れたムジナ装束の少女が映る。
『ふふん。拙はえりーと。主とフリーナさんの関係発展の為に、ここで湯けむりはぷにんぐをひとつまみ……っ!』
くるり、と木札が反転して『男湯』に変えられた。早柚はそれを見てひとつ頷いた後に姿を消し、程なくしてよろよろと歩く俺の姿が映ったところで回想が終わる。
「お! ま! え! かあああぁぁ!!」
「いひゃ、いひゃいっ! 何故だっ! 拙は主のためを思って!!」
関係発展どころか終わるところだったわ!! 俺は早柚の頬を引っ張った。結果オーライとするにはあまりにリスクが勝ちすぎなんだよ!
「私達も夜中は離れの方には行かないようにするので……ちゃんと避妊はするように。良いですね?」
「してねェって言ってんだろ!!」
あとトーマっ! カツ丼を持ってくるんじゃねぇ取り調べかッ! お前ツッコミ担当なんだから無理すんなよ。それは後でちゃんと食べるから食卓によろしくな。
次回『評判任務』最終戦。終わればフリーナとデートだ。九条さんには悪いが、今の俺は最強なのでさっさと終わらせて貰うとしよう。