俺はフォンテーヌ生まれ稲妻育ち 作:残雪侍
大豆アレルギーの親分のため、料理に使ってる味噌は米味噌です。大豆くんのポテンシャルを甘く見てたね。
1. 稲妻 神無塚 九条陣屋
「集合集合ッ! 早くしろ貴様ら豚汁など食べている場合か!」
「豚汁じゃねぇ『荒瀧・炊き出し無双────だぁっつ!?」
「飲んだか? 飲んだな! ではさっさと走れ!」
走ってんじゃんか。俺は喉を焼きながら通り過ぎて行った荒瀧muso soupの余韻を感じつつ九条陣屋の前、兵士達が整列する広場まで到着した。
もう少しバタバタしているかと思えばそういうことも無く、二色混合した兵隊はひとつのズレもなく整列し開戦を待っている。
「九条さん、ルドさんも! あまり時間がありません。陣形を整え次第『剣鬼』を迎え撃ちます」
「悪いな遅れた。こっちは準備できてるから直ぐに出られるぞ」
「『剣客』! お前は俺と行動だ。敵軍の薄くなった場所を突破して敵将のところまで連れていく」
視界の外から元気な獣耳がカットインしてくる。俺はゴローに連れられて部隊の先端の方へと進んだ。
歩きながら作戦を聞いているが、最初に考えたものとそう変わらない。俺たちを味方で囲んでちょうど敵陣のど真ん中をかき分けていくイメージだ。周りの兵士の負担がデカいが、後述する戦法上致し方ない。
「『剣客』、お前を中心とする部隊をひとつ編成した。稲妻の為、珊瑚宮様のため、力を貸してくれ」
「呼びにくいだろルドでいい。勿論、持てる全部の力で協力させて貰う。よろしくなゴロー」
「わかった! ん……? 俺はお前に名を名乗ったことがあったか?」
こまけーことは気にすんなよ。俺は疑問符を浮かべるゴローの肩甲をバシバシ叩いてなははと笑った。これから背中を合わせることになるんだ、しっかり頼むぜ。
「ンじゃあ一番槍は俺様に決まりだな! なんなら敵将まで討ち取ってやってもいいぜ?」
「親分が着くなら私も……邪魔にはならないよ」
「一斗、忍さんも助かる。ところでその短剣かっこいいですね」
改めてどうなってんだ荒瀧派。男の浪漫を分かってる奴しかいねえな! でかい男がでかい大太刀担ぐのも、明らかにギミックが仕込んでありそうな剣もそそられる。伸びるのかな。伸びるよねそれ。
じゃあ──やるか! 俺はガっとゴローと一斗を両脇に肩を組んだ。忍さんもほら! やらない? そう……。叫ぶ
「俺たちこれより臨時部隊『イワシ一番隊』! 一蓮托生連帯責任、袖振り合うも多生の縁だ!」
《稲妻〜……
男三人、おぉー! と空が割れんばかりに声を出す。気合いは十分。見てるかフリーナ。責任を感じて、たった一人で戦おうとしていた俺にこんな頼りになる仲間ができたぜ……でもさぁ。
荒瀧一斗: 岩元素
久岐忍: 雷元素
ゴロー: 岩元素
ルド : 水元素
この編成、バランス悪くない?
2. 稲妻 神無塚
黒い波が動いている。まばらに、滅茶苦茶に、意味すら持たずに。
生気のない顔が、貼り付けた笑みを浮かべてこちらへ歩を進めてくる。俺の隣にいた兵士が何かを見つけて顔をひきつらせた。槍を持つ手に力が入り、掠れた音を喉から鳴らす。見覚えのある顔を見つけてしまったのだろう。あれは、そういう軍団だ。
「皆さん、心を強く持ってください。あれに中身はありません。この地に染み付いた血と無念から形を取った幻影にすぎません」
「見知った顔があるでしょう。殺めた顔もあるでしょう。ですが、あれは我らの同胞ではありません。私たちの刃を鈍らせる為の下劣な策です」
「神を思い、民を思い、家族を思って散っていった英雄たち……その覚悟をすら利用する悪意を私たちは許しません。これは彼等の信念を守る為の戦です!」
「どうか、ご助力を!!」
海祇島の現人神の巫女。彼女が風元素に乗せて放った声は全兵士に行き渡った。
地の底から湧き上がるような鬨の声が上がる。震える者はもういない。この場の全員が覚悟を決めた戦士の顔になった。
さて、元抵抗軍がここまでかっこいいことしてくれたんだ。稲妻本土の総大将も負けてらんねえな? 俺の視線に気がついた烏天狗が小さく舌打ち。その羽を広げて浮かび上がる。
「────全軍」
「突撃ッッ!!」
《おぉおおおおぉッッッッ!!!》
《ははは、ははァハハハッッッ!!》
雄叫びと狂笑。ふたつの波が動き出す。俺達もそれに続いて進軍を開始した。
骸の群れの動きはもうあの頃の俺と比べて大差はない。動きの読みにくい独特の足さばきに、大勢に囲まれた時が一番真価を発揮する多対一特化の剣術流派。並の兵士なら相手にならない事は元『剣鬼』の俺がよく知っている。
だからこそ。俺のよく知る戦い方をしてくれてありがとうよ。
「『包囲殲滅陣』!」
「多対一で戦うな、突出する者は押し込んででも多対多に持っていけ!」
九条さんの号令でこちらの波が変わる。それは漁師が使う網のように、敵軍を二分割して取り囲んだ。
骸が『無銘』を使おうとして、その独特な足さばきを披露する直前、隣の骸がその動きを阻害し呆気なく槍に貫かれる。飛びかかる者は弓で撃ち落とされ、あるいは押し戻されてその数を減らしていった。
「作戦はちゃんと機能してるな! 一人で好き勝手に暴れてた奴の動きを脳なしが大人数で真似してんだ。滅茶苦茶になるに決まってるだろ!」
「これが『剣鬼』の弱点──奴らが連携に慣れる前にここを突破する!」
「任せなァ! 振り切られずに着いてこいよルドッ!」
陣形を裂いて突破口を作る第一段階。続いて俺たちイワシ一番隊の一番槍がその穴を広げ、横からの邪魔をなだれ込んだ兵士が防ぐ第二段階。数は薄くなっているとは言え、敵陣ど真ん中の骸はまだまだ多い。
「オラァ!」
豪快一閃。一斗の振り上げた大太刀が骸を捉え、五体程まとめて土塊に還す。残心を待たずに両脇から切りかかる骸の右側を、分割して鞭のようにしなる剣が刻む。やっぱそれ伸びるんだ! かっこいい!!
「───ふッ!」
俺は左側から一斗を狙う骸の前に躍り出た。狙いを変更した刀の軌道を銀の剣でいなし、返す刀で両断する。すかさず忍さんと同時に半歩後ろに下がり、残心を終えた一斗の追撃!
「どりゃア!! がーはっはっ!! 見たか! これが荒瀧派の」
「親分。頼りにしてるから手を動かしてくれ」
「一斗。一番槍が止まんな次が来るぜ」
「掛け合いも連携のひとつだろうがっ! というか俺様の活躍をもっと称えやがれ!」
確かにな? 鬼族の膂力は凄まじいの一言だ。読みやすい大振りの攻撃なんて『剣鬼』の俺にはいいカモのはずなんだがな。攻撃範囲が広いせいで全くいなせていない。剣風で身体が浮いて技が活かせていないのも理由の一つか。
でも称える程じゃなくてなぁ。今俺たちが敵陣ど真ん中で軽口叩く余裕があるのはどう考えても───。
ドガガガガガッ!
「ルド、一斗っ! 俺が援護するから怯まず前へ進んでくれ!」
ドガガガガガッ!
「そこッ! 陣形が崩れかけている……っ、佐々木、嶋! 支援に迎え!」
ドガガガガガッ!
「見ていてください! 珊瑚宮様ァ!!」
「なんなんだ? あの連射速度」
君昔からそんなんじゃなかっただろ。あんなのが戦場に出てたら嫌でも記憶に残るはずだ。
小柄な体躯で俺たちの周りを駆け回り、いつ矢を番えていつ撃ったのか見えない速度で矢を放つゴローに俺はドン引きした。クロックワークマシナリーの自動小銃だってあの速度で弾を撃つことはないぞ。あれで味方に指示まで……総大将すごい。規制が入らない程度に頑張ってくれ。
「そら、俺たちも負けてらんねえぞ。このままじゃこの戦の主役がゴローになる」
「関係ねェよ! 結局最後は美味しいとこ持ってきゃ良いんだ!!」
だよなァ! 俺は飛びかかってきた骸の首を刎ねた。ワンパターンな上に単調な動き。俺の流派を使っているのにこんなものか。これじゃあ『無銘』が雑魚狩り専門のしょっぱい流派だと思われちまうな。一斗の観察は終わった。俺も少し豪快に行ってもいいだろう。
俺は水元素を銀の剣の周りに纏った。刀身を二倍以上伸ばし、重く、太く──密度を増していく。
「一斗。結晶反応頼む。数を一気に減らすぞ!」
「お? おぉおッ!!」
困惑と興奮が同時に来たような声を出した一斗と同時に敵陣に突っ込む。速度と勢いが十分に乗った所で、俺は肩に担いだ銀の剣を思い切り振り下ろした。
「せぇ───のォ!!」
岩元素+水元素の結晶反応。剣に纏った水は鈍く光る
「「がーっはっはッッッ!!!」」
一斗と前後入れ替わりながら大剣を振り回す。純粋な暴力の嵐、近づく者は瞬時に土煙に変わる。鞘が砕けて元の剣に戻った時には辺りに泥人形だったものが散らばるのみ。骸の残骸ってな。
「……名付けて『ルド=ウィークの聖剣』ってとこか?」
「ルドてめえ今の! 俺様の!」
「てか重てえ。こんな質量の塊、勢いに任せねえと振れたもんじゃねえわ」
さすがに体格と身体能力までトレースするのは無理だな。俺は背中をバシバシ叩いてくる一斗から体を避けつつ僅かに残った鉱石を振り落とした。
「親分、ルド。見えたよ。あれが敵将だ」
ぬっと陰から出てきた忍さんの報告通り、ゆらゆらと歩を進めてくる骸どもの隙間から因縁の落ち武者の姿が見える。分断は上手くいっているようで前方の肉壁は薄いが、孤立すればするほど厄介なのが『無銘』だ。ここからが本番って事だな。
「ルド! なぁルド公! もっかい! もっかいやろうぜさっきの!」
「いや話聞いてな? 重ってぇんだわアレ。さすがに『剣鬼』の周りに配置してるやつが同じ強さとは限らんし」
「ンなもん真正面から叩き潰すのが荒瀧派だろうが! 今度は二人でキメまできっちり……!? っぶねぇルドッ!!」
「は──っぁ!?」
ガクンと衝撃。そして反転。空と大地が逆さまになった視界で、俺は一斗に胸ぐらを掴まれて空高く放り投げられたのだと気づく。
抗議の声は口から出てこない。俺が口を開く前に目の前を黄金色の体躯が通り過ぎていった。その牙を一斗に食い込ませて。
「一斗ォ!!」
「どわああアァァァ!?!?」
《なんだ、獣域ハウンド!? どこから───》
《こ、こいつら……っ! 骸が
《ァ、ああァ!? 足、俺の足……ぐぎャッ!!》
「ッ! 落ち着けお前たち! 陣形を維持しろ!」
対空時間を利用して最大限状況を観察する。獣域ハウンド……冒険者協会で名前を聞いたことがある。奴らは空間を裂いて出現する
骸の動きが加速した。間違いなく『無銘』の足さばきだ。急に奴らが連携を始めたわけじゃない。奴らは依然として自由に、滅茶苦茶に動いている。
足と足。身体と身体が接触する瞬間。空間が裂けて互いの干渉を避けている。
「……ッバケモンがよ。忍さん! ハウンドの親玉を追って一斗を助けてやってくれ! ゴローは引き続き兵士を守れッ!」
「わかった!」
「了解した……! ルドは!?」
俺はどうするか? そんなもの決まっている。
俺は空中で銀の剣を鞘に納めて刀の柄を握りしめた。着地地点は『剣鬼』のすぐ前、護衛のように陣取る骸五体の眼前!
「さっさと勝負を決める────ッ!」
着地と同時に抜刀。火花を散らして迫る三本の刀をいなして実体化したままの胴体に技を叩き込む。すり抜けるのは一部だけみたいだな。残り二体。俺は地面とほぼ平行になるほどに身を低くして突っ込んだ。
「邪魔……ッだ!!」
逆袈裟。一体を両断して飛び上がったまま身体を捻って残りの首を刎ねる。泥に還る前の体を踏み台に再加速した俺は、そのまま『剣鬼』に刀を叩き込んだ。
「───かヵッ」
「アハッははははぁは!!」
「ふざけた行進は終わりだ『剣鬼』ッッ!」
鍔迫り合いに入ったまま俺達は大きく戦場から離れた。俺の刀を弾き、距離をとった剣鬼が自分の腕を斬りつけ血を流す。お仲間呼んで袋叩きにでもするつもりか? 一度やられたことを対策しないわけねェだろ!
「やらせるか──よッ!!」
「…………ァ?」
俺が懐から出した護符を地面に叩きつけると同時に、そこから紫電が迸りドーム状の結界を作り出した。血を呼び水に地面から這いでるはずだった骸が動きを止め、元の土塊に戻る。
神子さんの作ってくれた護符により、この場の地脈は誰の影響も受け付けなくなった。この中でいくら血を流そうが、もう戦力は増えない。ゴロー達が倒す骸も後は減る一方だ。ついでに、この結界からはどちらかが勝つまで出ることは出来ないし、外から邪魔も入らない。
「さぁて……一騎打ちの時間だ。お前も曲がりなりにも武者の格好してんなら、潔く受けるよな」
「……る、ド」
掠れた声だ。喉まで炎で炙られたような、声帯を無理やり開いて音を出しているような痛ましい声。
剣鬼はゆらゆらと幽鬼のように、しかし今の俺と遜色ない程の技の冴えを想像させる構えをとる。
兜の隙間、包帯に覆われた顔の、唯一覆われていない口元。ひび割れた唇をさらに裂いてどす黒い血を滲ませた剣鬼が笑った。
「ルド! ルド! ルドルドルドッッ! クフ、アァははハッ!!」
「……あぁ、俺がルドだよ。俺だけがルド=ウィークだ」
何度も、何度も何度も何度も名を呼ばれる。俺はいつかの胡桃の怪談を思い出した。本物を殺して成り代わる無貌の泥人形。こいつがこんなに嬉しそうなのは、自分が本物になるチャンスが巡ってきたからなのかもな。
だが、お前にフリーナは任せられない。俺という存在を、役を譲ることはできない。
「元『剣鬼』『無銘』のルド=ウィーク」
「新たな『剣鬼』に、一騎打ちの決闘を申し込む」
一斗はきっと大丈夫だ。あの男があんな犬コロ一匹に遅れをとるわけがない。援護に行った忍さんもきっちり二番手として仕事をしてくれると思う。
ゴロー達は珊瑚宮さんや九条さんがいるならすぐ立て直せるはずだ。ここからどこまで被害を少なくできるのか、それは俺がこいつをどれだけ早く倒すことができるかにかかっている。
俺は刀を下段に構えた。同じ流派の同じ構え、凪いだ心で宣言する。
「いざ尋常に───勝負」