大魔族「師匠は変な犬」   作:COTOKITI JP

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足の速さだけが取り柄です

 

現代までこの地に蔓延り、魔王亡き今も人類文明を蝕み続ける魔族。

 

その起源は木陰から獲物(人間)をおびき寄せるために「たすけて」と人間の声を真似た魔物だという。

 

神話の時代からの話であるため、信憑性には欠けるが現代の魔族の習性を知れば納得は出来る。

 

この最初に人間の声を真似た魔物が何者であるかは、地球上で知る者は殆どいない。

 

ただ、僅かな正体を知る者達は彼の事をこう呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「始まりの獣」と。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

《魔王討伐より2年後》

 

 

 

 

美しい庭園があった。

 

世界中の様々な種類の草花が咲き乱れ、大地を彩る。

 

来た者を別世界に迷い込んだと勘違いさせてしまいそうなその光景の中に、人影が2人。

 

花を眺めているエルフの女と、額から1本の角を生やした魔族の男。

 

 

 

「ここには来るなと言った筈だが」

 

エルフの女、「ゼーリエ」は不機嫌そうな顔で魔族の方を見る。

 

「すまない。旅の道中たまたま行き着いた故、安否確認と近況報告の為立ち寄らせて貰った」

 

魔族の男は悪びれもなく麻袋片手に淡々と答える。

 

「シュネルス、例えお前がどういう目的で行動してようがお前は魔族であり人類の敵だ。自覚はあるのか?」

 

「安心しろ、ここに来るまで誰にも見つかっていない。言われた通り魔力制限をしているから探知もされていない筈だ」

 

確かにゼーリエが魔力探知で確認すると、余程の腕利きの魔法使いでなければ看破出来ない程には魔力の隠匿が出来ていた。

 

この世界で暮らすために彼女が彼、「シュネルス」に叩き込んだ方法だ。

 

本来の魔族の誇りに反する行為であったが、ゼーリエの言葉を聞いたシュネルスは意外にも素直に魔力制限を受け入れた。

 

「それとゼーリエ、ついでに差し入れを持ってきたぞ。腐敗の賢老が封印されている村の商人が売っていた」

 

「クヴァールか」

 

麻袋から包みを取り出し、ゼーリエに手渡す。

 

中に入っていたのは円柱状のパンに似た菓子だった。

 

「何だこれは?」

 

「俺にも分からん。皆が皆、違う名称で呼んでいた故……」

 

イマガワだのオオバンだのベイクドモチョチョだの、どうやらこれの正しい名前は定まっていないようだった。

 

 

「まあ兎に角、近況報告に来たんだろう?折角だから聞いてやる」

 

庭園の中心に備えられていた椅子に座り、シュネルスもテーブルを挟んで反対側に座る。

 

「南方と西方の大陸を回った。同じ国でも地域による文化の違いの激しさが印象に残る。やはりそこが我々と人間の違いだと改めて分かった」

 

紅茶を時折口にしながら、シュネルスは静かに語り続ける。

 

曰く、魔族を信仰する辺境の部族の祭りに招待され危うく族長の娘と婚約を結ばされかけ。

 

曰く、雲にも届く巨大な山脈を駆け上がり。

 

曰く、小さな島程のサイズの蛸に海中で襲われ撃退し。

 

曰く、現地で学んだ未知の魔法の数々を魔導書に記し。

 

 

 

曰く、兎に角駆け回ったと言う。

 

 

「……それで、人間は理解出来たか?」

 

空になったティーカップを置き、ゼーリエは問う。

 

「いや、まだまだ足りない。旅路は未だ先が見えぬ」

 

「その台詞、500年前にも聞いたぞ。諦めるという気にはならないのか?」

 

「諦めようとは思わない。共存の道を目指すなら、まず我々(魔族)の方から歩み寄らねばならん。その為に人間の生き方を調べておるのだ」

 

共存の道への志を語るシュネルスにゼーリエはため息をつく。

 

かれこれ数千年単位で似たようなセリフを聞き続けているのだから、無理も無い。

 

「無理だと思うがな…魔族に人間の精神構造を植え付けるなんぞ……」

 

「やってみるまで、可否は考えないようにしている。……もう俺は行く」

 

「何処に?」

 

「魔王様の城だ。墓が残っていれば何か供え物でもしてやるつもりでいる」

 

 

 

 

そう言って庭園の外に出ていくと、彼は凄まじい爆発音と共に視界から消えた。

 

「私有地の地面破壊しやがって……」

 

 

 

彼の名はシュネルス。

 

嘗て魔王軍で七崩賢の候補者に名を連ねていた大魔族。

 

 

彼を知る者はこう呼んだ。

 

 

 

速駆(はやかけ)のシュネルス」と。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ここに魔族が来てただってぇ!?」

 

村人にそう言って詰め寄るのは青髪の(自称)イケメン勇者、ヒンメル。

 

彼は今、クヴァールが封印されている村に来ていた。

 

今日は年に一度の封印の状態を確認する日だったのだ。

 

「え、ええ…しかし損害は一切出ておりませんのでご安心を」

 

「どんな奴が来たんだ!?何をしに!?」

 

物凄い形相で更に詰め寄るヒンメルに村人は慌てて答える。

 

「その魔族はクヴァールの様子を見に来てそれから……」

 

「それから…?」

 

「えっと……信じられるかは分かりませんが、家の屋根の修理や農作業を暫く手伝った後お土産を幾つか買ってそのまま帰っていきました……」

 

「……」

 

今、ヒンメルの脳内には小宇宙が広がっていた。

 

想像の遥か斜めを行く答えに日々魔族との戦いを繰り広げて来た彼の頭は理解を拒もうとしていた。

 

「魔族が?人間の手伝い?お土産買って?そのまま帰る?」

 

最早脳内がクエスチョンマークだらけのヒンメルはポカンと口を開けながら他の村人達の話も聞いていた。

 

「ええ、魔族が現れた時はどうなるかと思いましたが…家の屋根の修理を手伝うと言い出した時は私の耳がおかしくなったのかと……」

 

「彼、魔族だし無表情だけど意外とノリがいいよ。魔法で畑仕事手伝って貰った上にウチのじゃがいもまで買ってくれたよ」

 

「はい、確かにウチで菓子を買っていかれました……最初に見た時は略奪に来たと思って死を覚悟する所でした…」

 

「んな馬鹿な……」

 

 

村人達は揃ってその魔族の善行を語った。

 

魔法による洗脳も疑ったが、ヒンメルの勘はそれを否定している。

 

であればこれは悪い夢か、と思い頬をつねっても痛みはそのまま。

 

「まあ兎に角、その魔族は名前名乗らなかった?」

 

「はい、確かシュネルスと名乗っていました」

 

「シュネルス……!」

 

その名前には聞き覚えがあった。

 

魔王討伐の旅に出ている時、魔王軍の幹部にそんな名前の大魔族がいた事を思い出す。

 

ヒンメル達は彼と戦ったことが無いためどんな魔族かは知らない。

 

「そんな大魔族がここに……まさか、クヴァールの封印を解く気か……!?」

 

この事を他の仲間達にも知らせなければ、とヒンメルは走り出した。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「流石に墓は残っていなかったか」

 

道中で立ち塞がる魔物達を蹴散らしながら北側諸国の魔王城に辿り着いたシュネルスは墓が無いことを確認し、少し残念そうに項垂れる。

 

「仕方ない、引き返すか」

 

次は王都か聖都辺りにでも寄ろうかと、そう思いながら彼は再び大爆発と共に走り出した。





本日のシュネルス最高速度:1430km/h
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