大陸から大陸へ渡る時もいつも海の上を走っている。
海流の穏やかな日に突然津波が起こったらそれはだいたいシュネルスくんのせいです。
「面倒のことになったな…」
ソリテールを撒き、やっと王都へ向かえると思った矢先に新たな追っ手が現れた。
厄介な事にその追っ手はあの魔王を倒した勇者一行である。
恐らくクヴァールがいた村で目撃証言を得て再集結し、追跡していたのだろう。
(やはり角も隠しておくべきだったか……猛省)
道中で出くわした時は、エルフの魔法使いに問答無用で攻撃魔法を撃たれた為今はそれから逃げている。
ただこのまま逃げ続けるのも面倒なので、何処かに隠れる必要があった。
幸い、隠れる場所の宛はある。
「15年振りだ……覚えていてくれるといいが」
そこは彼が嘗て滞在した事のある村だった。
村の人間ともそれなりに親しくしていたので、匿ってくれるかもしれないと思いここに来たのだ。
村の中に入るなり、村人達が魔族が入って来たと騒ぎかけるがそれがシュネルスだと分かると途端に歓迎ムードになった。
「シュネルス様だ!」
「シュネルス様が来訪されたぞ!」
「シュネルス様!」
村人達に取り囲まれていると、奥から一人の青年が歩み寄って来た。
その顔には見覚えがある。
「お久しぶりです、最後にここに来られたのは15年前でしたか」
「エイベル……息災であったか」
「15年前に貴方がこの村に張ってくれた結界のお陰で、私も村も健在でございます」
エイベルは彼が15年前ここに来た時にはまだ幼い村長の一人息子だった。
今やその面影を僅かに残しつつも頼もしい荘厳な顔付きとなっている。
「今は私が村長をしております。それで、本日は何用でこの村へ?」
「すまぬエイベル、少々厄介な連中に追われている。暫しここに匿ってはくれぬか」
勿論礼はする、と言葉を付け足すとエイベルは快諾した。
「それは勿論!村の者達もきっと喜びますよ」
「ありがたい」
こうして彼は村に再び滞在する事になった。
しかし彼には一つ盲点があった。
それはあのエルフの魔法使い、フリーレンの魔力探知能力。
◇◆◇◆◇◆
一方で勇者一行は逃げた魔族の行方を追い、既に彼のいる村から100kmも離れていない森の中を歩いていた。
「どうだ、フリーレン?」
「うん、微かだけど確かに近い。もうすぐ辿り着くと思う」
フリーレンの魔力探知を頼りに追跡していた彼らは順調にその距離を詰めつつあった。
「にしてもあの魔族、随分と逃げ足が速かったですね」
「ああ、俺ですら目で追えなかった」
シュネルスとフリーレンが接敵した際の様子を見ていた僧侶ハイターはそう言い、隣にいたドワーフの戦士アイゼンもそれに同意する。
「何より厄介なのがあの加速の時に発生する衝撃波だ。アイゼン以外は立つことすらままならなかった…」
「フリーレンが防御魔法を咄嗟に張らなければ我々は木っ端微塵に吹き飛んでたかもしれませんね……」
思い出すのはシュネルスが逃げる為に一歩を踏み出した瞬間に発生した攻撃魔法による爆発と見紛う程の衝撃波。
アイゼン以外、ヒンメルでさえも剣を地面に突き刺してそれに掴まって吹き飛ばされないように堪えることしか出来なかった。
フリーレンは現在それに対する対策を考えている所だった。
その時彼らの行く先から人が一人、こちらに向かって歩いて来ていた。
「ちょうどいい、あの人からも何か情報が得られるかもしれない」
そう思い声を掛けながらヒンメルが近寄るが、その男は珍妙な格好をしていた。
戦士なのか全身に使い古された無骨な鎧を纏い、背中には巨大な黄金色のハルバードを背負っている。
何より目を引くのが彼の顔を覆い隠す奇妙な白い犬の面。
やや雑に描かれた犬の顔面を模した面を見たハイターとアイゼンが思わず吹き出す。
「ん?私に何か用かな」
「あー……突然すまない、この辺りで魔族とか見たりしなかったか?」
「魔族……ああ……この先にある村にいると思う。額に一本角の奴だ、さっき見た」
「っ!!ありがとう!皆、先を急ごう!」
見知らぬ旅人の話を聞いて村が襲われているのではと考えたヒンメルは仲間達と共に走り出す。
「さて……また落としたルーン拾いに行かなきゃ……」
◇◆◇◆◇◆
道中で出会った旅人の情報のお陰で、次の日の朝には勇者一行は村に到着していた。
突然乗り込んできた勇者一行に村人達は一瞬呆けるが、それがシュネルスの追手だと察した。
「これは、勇者様ご一行がこのような僻地の村に何用で?」
彼らを出迎えた村長のエイベルは他の村人だとボロが出てしまう事を恐れて自分から話しかけに行った。
「ここに魔族が一匹逃げ込んだ疑いがある。何か心当たりは無いか?」
「はて?魔族がこんな所に来た事は今まで一度とてありませんよ」
村長の返答を聞いたヒンメルは、フリーレンに目配せする。
「村の一番奥の教会から強い魔力を感じる。間違いなく中に一匹いるよ」
「じゃあ黒だな」
アイゼンの言葉を合図にヒンメル達はズカズカと村の中に入り込み、教会へと向かう。
必死にヒンメル達を引き留めようとするエイベル。
不安そうに彼らを見る村人達。
人間が魔族を匿うという異常事態にあった彼らは取り敢えず教会へ辿り着いた。
「お願いですどうかおやめ下さい…!」
「やっぱり、ここに魔族を匿ってるんだな」
そう言ってヒンメルは扉に近付くが、中から先に扉が開かれた。
「もうよい、これ以上隠し通せぬ。まさかこれ程の腕利きの魔法使いがいるとは……」
中から一本角の魔族が出てきた瞬間、ヒンメルとアイゼンは武器を構え、フリーレンとハイターはほぼ同時に攻撃魔法を放った。
本日のシュネルス最高速度:1789km/h
次回、シュネルスくん師(ヘンナ=イ=ヌー)より授かりし「秘剣」を披露する。