逆行運河/葬送のフリーレン   作:ヒビたまり

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逆行運河/葬世無念 3

 "無を生み出す魔法(ラーガフォイア)"とは自滅の魔法。

 

 不可逆性の原理を無視して時間移動を可能とするのは、この魔法によって生み出されるものが何も無いから。

 

 "無を生み出す魔法(ラーガフォイア)"の発動条件は『別の誰かに殺されること』。

 フリーレンに殺されたことを起点にして"無を生み出す魔法(ラーガフォイア)"を発動している。

 

 私は黄金郷のマハトを倒した後のフリーレンに殺された。そこから時間逆行が始まって私は生きていた頃のマハトたちに出会った。

 

 マハトたちに出会って……私は自分の在り方を知る。

 自分が時間を逆行する魔法を使う魔族であること。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

 ――500年前の私はマハトに魔族の真理を教えた。

『魔族は無を怖いものだと思わない』

『死ねば無になる単細胞が無を怖がるはずない』

 

 死んだ魔族は塵になり、何も残さず無に消える。

 魂さえも消える。

 

 もし仮に魔族に魂があったとしても、魂の眠る地に魔族が行くことはない。天国や地獄で人を殺したいという発想も、自分たちの手で地獄を作るという発想もない。

 ……あのソリテールすら"死後の魂の行方"を考察しないから。

 

 死に怯えない。無に怯えない。悦ぶことすらない。

 そして死後に天国や地獄に行けないことをどうとも思わない。

 

 ああ。なんともはや。彼らは無生物だ。罪も罰もないんだね。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 マハトと出会ったばかりの私には、2つの道が存在した。

 

 ニーベンの存在を誰にも知られず、無名ゆえに無敵の存在として、永遠に時間を遡り続ける。魔族の肉体構造と精神構造なら不老不死を実現できる。でも私はこのルートを選ばなかった。

 

 500年前のマハトの伝言によって、永遠から遠ざかる光を示された。

 

 私は魔族を利用する。私は復讐を詐称する。誰に対しても無念を振りまく。

 

 ――――私は、死の恐怖を魔法に転用するのが楽しい。

 

 ――――私は、魔族らしくない私でいい。

 

 ――――私は、自由に、想うままに育っていい……!

 

 何も無い人生を拒絶するために! 生きる実感を喰らうために!

 殺されることを願っていいんだ!!!

 

 生きる人生(コト)が楽しいと気づいてしまった。

 私は魔族でありながら生命の解答にたどり着く異常個体となった。

 

 じゃあまずは。誰に私を殺してもらおうかと思案する。

 私を殺す相手はすぐ思いついた。

 

 人間では寿命が足りない。

 ゼーリエや他のエルフは"無を生み出す魔法(ラーガフォイア)"を使うほど愚かじゃない。

 

 葬送のフリーレン。

 魔族を必ず殺すエルフ。人間の情動に鈍感。ミミックに必ず嵌まるほどに愚か。すごくちょうどいい。私を殺しているから復讐だって言い張れる。

 

 いつかフリーレンに"無を生み出す魔法(ラーガフォイア)"を使わせる。

 贅沢を言えばエーラ流星を見ながらフリーレンに殺されたい。

 …………私を殺した責任はきちんと取るべきだよね?

 

 

 

 ◇

 

 

 

 けれど願望の成就は困難を極める。

 

 自業自得、因果応報、報いを受けるから願いは叶わないといった話じゃなくて。

 

 私は500年前にマハトと会った事実に束縛されている。500年前まで遡るという事実が確定しているから500年以内に死ぬことはできない。原因と結果を変える力は"無を生み出す魔法"には無い。私を殺せるのは500年以上遡れる生き物に限られた。だから私を殺す相手にエルフを選ぶしかなかった。

 

 魔族は本能的に私を殺そうとしないだろうし。

 マハトとソリテールがあれだけ『無念』に怯えるなら、全知のシュラハトが私の対策をしないわけがない。

 

 さらに私の肉体は相当のひねくれものだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 死のうとすれば生き足掻く。恨まれようとすれば功績を残す。生きた人間は食べたくなくなり、死んだ人間で満たされてしまう。

 

 悩ましい体だよ。しかも魔族の情緒はこういった悩みをどうでもいいものと処理する。根本的な歪みを自覚しているのに、それを解決する行動を起こせない。

 

 結局私にできたのは――魔族らしく魔法の研究をすることと、未来のフリーレンが"無を生み出す魔法(ラーガフォイア)"を使いたくなるように過去を仕込むだけだった。

 

 

 

 私とヒンメルとゼーリエが戦ったあの日の王都。

 ヒンメルに殺されそうになった時、生存本能が暴走した私は"この世に二つある魔法(ヒメルリーア)"を使ってヒンメルと"私"を2人ずつに増やした。

 

 ヒンメルの増員(エルフの宝物)はフリーレンとゼーリエを遠い未来で修羅場らせるためにやったこと。

 

 あとはゼーリエが途中退場した時のために()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という保険を兼ねていた。

 

 私の増員には別の意図がある。

 

 王都に残った私が望みを叶えて殺されても、王都の外で待機する私が存続すればマハトとの因果は破れない。辻褄を合わせられる。

 そして、生き続ける私が居るのだから暴走する生存本能を抑えることができる。これが大きい。

 

 魔族の生存本能がゼーリエとヒンメルを負かしてしまうのは想定外だった。

 自制しなければと思ったのだ。

 

 あのバケモノ(ORT)に勝てるイメージは思い浮かばない。

 暴走に身を任せ、撹拌の渦を広げ続けて蜘蛛を呼び込む事態は、生き足掻く魔族の本能であっても拒絶することを認めてくれた。

 蜘蛛の相手なんて人類にさせればいい。私は遠慮する。体験版(憐憫の人類悪)をあげるからあとは頑張れ。

 

 人としての望みを叶えようとする私と魔族の本能を満たす私が分離することで、撹拌の渦の拡大――蜘蛛の降臨を避けることに成功した。

 

 私は"生き続ける方の私"。

 

 マハトに伝言を残し、大魔法使いたちに功績を残し、フランメの両親に花畑を出す魔法を教えてフリーレンの起源を根腐れさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その役目を終えたあとは

 

 特に楽しいこともなかったので

 

 50億年、生きた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 ――――――

 

 ――――

 

 ――

 

 

 

 時刻マイナス50億年。

 魔族の巡礼は終わりを迎える。

 

 復讐の時きたれり。これより逆行運河を開始します。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……………………あれ」

 

 寝覚めが悪い。という久しぶりの感覚。

 ぐるぐる頭を回すほど世界は明瞭になっていって、さっきまで見ていた夢を忘れる。

 酷い悪夢を見ていたような。でもなんの出来事もない50億年は一瞬の出来事。記憶に残るものがない。

 

「ん?」

 

 星空が夜を照らす森の中。

 ――目の前に、見覚えのある少女が倒れている。

 

「んん?」

 

 白い髪のエルフ。これ、フリーレンじゃん? なんで?

 

「えーっと、なにこれ。なんか私、サーヴァントになってるんだけど」

 

 フリーレンの右手には赤い痣――令呪があった。重なり合う植物の葉のような形。そこから発する魔力が私の霊核と繋がっていた。

 

「うわぁ……うわぁ…………。お前がマスター? 耐えられない。遠慮する」

 

 自分の胸に手を突っ込んで"不可解な形を与える魔法(カリカチュア)"を発動する。

 3つある宝具の1つを変換してフリーレンとの契約を破棄、霊体から人間の体へと受肉する。変生とも言う。一個の生命となって地上に降り立つ。

 

「これでよし」

 

 フリーレンとの契約を切って、めでたく自由の身になる。

 まずは状況確認。

 どうして私がサーヴァントになっていたのか。どうして目の前にフリーレンがいるのか。

 

「おーい、お前も起きろー」

 

「がはっ!?」

 

 寝転がっているフリーレンのお腹を蹴って無理やり起こした。

 なんか一切躊躇なくフリーレンを蹴ってるけど………………まぁ、いっか。

 

「…………っ」

 

「起きた? それじゃあ教えて、フリーレン。何したの?」

 

「お前は……誰だ」

 

「こっちが先に質問した。ねぇ。()()()()()使()()()()()()()()()()()

 

 フリーレンの腹を踏み、ごりっと圧を加えながら尋問する。フリーレンは悲鳴を上げるタイプではないけど、柔らかい急所を押せばさすがにダメージは入る。うぐ、と苦悶の声を上げる。

 

 私を敵とみなしたフリーレンが杖を出して魔法を発動させようとする。私は時間を巻き戻してその杖を奪っておいた。フリーレンは杖を盗られているのに気づかず魔法を発動しようとして、盗られていることに気づいて魔法が止まった、という現象に上書きする。

 

 何が起こったのかわからなくてびっくりしているフリーレンのお腹をさらに踏む。めきっ、と地面が少し沈むくらいの力を込めた。

 (はらわた)が車に轢き潰されたような衝撃。体が真っ二つになりそうな圧力。少女の意識は明滅を繰り返す。

 

「…………が、……あ、……あぐ、……ぐ」

 

「力抜くから、ちゃんと答えてね」

 

「…………! はぁ、はぁ、はぁ…………」

 

 喋れなくなっていたので足の力を緩めてあげた。フリーレンの呼吸が整うのを待つ。

 意識を取り戻すと敵対的な目を私に向けてくる。隙を探ろうとしているのか。ゼーリエに似て戦闘狂だ。相手を考えろ。

 

「今のは、何」

 

「会話を伸ばそうとするな」

 

 固有時制御・三重停滞。フリーレンの心拍、血流速度、神経伝達、生体活動の速度を3分の1に下げる。すぐさま固有時制御・五倍速。超減速からの超加速によりフリーレンの全身の血管が破裂した。白かった少女の肌はまたたく間に赤く、赤く染まる。

 全身の細胞を針で刺されたような鋭い痛み、血管を火炎で焼かれたような激しい痛みが少女を襲う。

 

 内臓から噴出した鉄の味の水が少女の胃に流れ込み、喉へ、口へ逆流する。

 聞くに耐えないうめき声を上げながら致死量の赤黒い水を吐き出す。

 心臓、内臓、血管の破裂。大量の血液の消失。わずか数秒が過ぎるまでに減速、爆発加速、失血を味わった少女の脳は赤とも白とも黄色とも分からないおぼろに包まれ、気絶する。

 

 私は時間を逆行させて固有時制御をなかったことにした。

 あと数分放っておけば間違いなく死んでいる真っ赤な肉片を、損壊する前の状態に戻した。

 

「…………。…………。…………? …………!!」

 

「あのさぁ。50億年だよ? 50億。分かる? 10億が1000年の1000倍の1000倍ね。お前の500万倍ってこと。それだけ生きた魔族が"全能"にならないわけないじゃん。こうして人間に戻れたのは嬉しいよ。嬉しいけどさぁ……………………手加減してこれってこと、分かれよ」

 

 人のカタチを取り戻したことでようやく発露される、人としての正当な怒り。

 今ここに至る魔神。100年足らずでゼーリエを超える。50億年でどれほどおぞましくなったのか、誰も想像できやしない。

 フリーレンは全能を手に入れた魔神の怒りを浴びるのである。

 

「――お前が、憐憫の獣、ロスト?」

 

「ちがわい。あー、そういえばもう魔族じゃないから、最初の名前を名乗っていいや」

 

 捨てたはずのもの。魔族として生きた50億年で一度も口に出したことはない。どうでもいいと思っていた。魔族の感性では死後の世界と同様に、前世のことなんてどうでもいいと考えるから。

 私は人間に戻ることができた。魔族に転生する前の自分を思い出した。ようやく、ようやく、大切な自分の価値を取り戻したのだ。

 

「私はアオカ」

 

 この世界に転生する前。遠いかつて人間だった頃の名。

 

「といっても異世界の死人の名前をこの世界に刻むつもりはないよ。復讐を果たしさえすれば積年の慚愧は消える。アオカという死者はこの世界からいなくなる。誰もその功績を思い出すことはない。それでいいよね。あと一度きり。"無を生み出す魔法(ラーガフォイア)"を使って終わりにする」

 

 空中に"無を生み出す魔法(ラーガフォイア)"の魔法陣を貼る。ドラートが使っていた魔力の紐でフリーレンを縛り上げて魔法陣にくくりつける。

 

「――抜けない。それにこの魔法陣は初めて見る。いったい何をするつもり?」

 

「さっきの質問に答えるなら、何するか教えるよ」

 

 ()()()()()使()()()()()()()()()()()。答えろよフリーレン。

 

 さっきの仕打ちが効いたか。私の睨みが怖かったか。拘束されたフリーレンがびくりと震える。

 神は答えは知っている。けど、だからこそ、罪人には告解させねばならない。

 フリーレンがどんな間違いを犯したのか。私にはそれを言わせる義務がある。

 

「…………"死者を呼び出す魔法(ガイストビーシュロン)"」

 

 それはあの王都で"望みを叶えようとする私"が使った、死者の魂を召喚する魔法。

 

 死んだ人間と再会するために使うのが正しい使い方。

 間違っても、死んだ人間の魂を凌辱するために使ってはいけない。

 

 この魔法で呼び出せるのは"死んだ人間の魂"に限られる。魔族を呼ぶことがないから安心だったのに。……どうしてこうなってるの?

 

 ねぇ。ねぇ。ねぇ。

 

 ほら。なんで?

 

 なんでその魔法を使ったの?

 

 

 

「…………死者の炎を解析したかった。"死者を呼び出す魔法(ガイストビーシュロン)"は、悪用すれば災いを招く。死者の炎に焼かれる。憐憫の獣を招く。そう言い伝えられていた。でも憐憫の獣が先生だと聞いたから、死者の炎を解析すれば先生を助ける手がかりになると思った」

 

「――――――――――――。そうですか」

 

 

 

 フランメを助けたくて憐憫の獣を解析しようとした結果。

 "死者を呼び出す魔法(ガイストビーシュロン)"で絶対に召喚してはいけないものを召喚した。

 

 ああ。そういえば。"万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)"もそうだったね。フリーレンは"万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)"を食らって魔法を解析してた。

 

 同じことか。同じことなのか。馬鹿すぎて救いようがない。

 

「"死者を呼び出す魔法(ガイストビーシュロン)"で誰を召喚しようとしたの?」

 

「…………明確な誰かをイメージしてなかった」

 

「当ててあげる。憐憫の獣をよく知る人。フランメを助ける方法を知っている人を無意識に願った。でしょ?」

 

「…………なるほど」

 

「あはははは。だから私が召喚されたんだ。フランメを助ける方法を知る、死んだ人間の魂。間違いなく私だね!

 

 あはははははは。はははははははは。ははははははは。ははははははは。あははは――――」

 

 

 ◇

 

 

 魔族だった時は黒い泥を纏い鋭く尖っていた私の手は、人として召喚されたことで女性らしい手に戻っている。細い指。少し長い爪。指にはそれぞれ1つずつ指輪が嵌まっていて、私の手にはソロモン王のように10個の指輪がある。

 全能の指輪。50億年が凝縮する究極の魔導の結晶体。全能を与え、魔神を名乗るに値する力を手に入れる。

 

「全能は人生に必要ない。未練を感じる前に使ってしまおう」

 

 私はすべての指輪を外す。魔力を使って指輪を宙に飛ばす。そして10個の指輪は、まるで天球儀を(かたど)るように、フリーレンと魔法陣の周囲をまわり出す。

 

「――――アオカ、これは」

 

 魔法陣に50億年の魔力が溜まっていく。稼働し始めた魔法陣が極光を放つ。

 自分が何を仕出かしたのか分からず、これから何をされるのかも分からず、フリーレンは不安そうにこちらを見る。

 

「フランメが助かる方法を教えてあげる。冥土の土産にね」

 

 憐憫の獣ロストは"私のようなもの"を対策するために作った防衛機構である。

 裏バイトの怪異のように、死後の世界を地獄に変える脅威が現れた時。魔族だった時の私のように、死者を利用する悪意が生まれた時。滅ぼさなければならない脅威が現れた時、ロストは稼働する。

 死者を守るために防衛機構は作らなければならない。冥界の門番は居なければならない。魂の眠る地(オレオール)を見つけたフランメには死者を守る義務がある。

 起動条件は至ってシンプル。オレオールに外宇宙の脅威が迫った時。死者の魂を悪用しようとした時。人類が全滅した方がまだマシな未来に陥った時。

 死者の安寧を守るための防衛機構であり、死者の安寧が失われた時のための自滅機構である。

 フランメを助ける方法は困難だけどこれもシンプル。

 憐憫の獣の代わりとなる防衛機構を人類が発明できればフランメは責務から解放される。

 

 ――――すべてを知らないまま生きるのが正解だった。そうすればいつか、人類が新たな冥界の門番を発明して、フランメを解放できたかもしれないのに。

 

「じゃあ、お前が…………先生を…………」

 

「正確にはもう一人の私がやったことだけど。まあ芽吹かなかったとはいえ私もフランメやフランメの家族に不安の種を植え付けた。私はお前の敵だよね」

 

「――――――――! ッ! ぐ、ぐ……、なんで、この、お願いだから……、先生を、助けないと! 私は、お前を、アオカを、殺さないと……、殺さないと、……殺す。殺してやる…………ッ!!」

 

 暴れて拘束を解こうとするフリーレン。もがく。うごめく。抗おうとする。

 

 ――――魔法は止まらない。

 

『座標固定:エーラ流星がよく見える丘』

『発動条件:10の指輪の魔力をコストに"無を生み出す魔法(ラーガフォイア)"を強制的に発動します』

『推定移動時間:50億倍に加速するため、"100年"移動にかかる時間体験は"0.6秒"を予定しています』

 

 

 

 蜘蛛の巣に捕まった蝶。もがれた羽が動かない。罠にかかった獲物は口や足しか動かせない。心のどこかで助からないことを感じ取ってフリーレンは恐怖する。目の前の自分を殺す捕食者をせめて視線だけで殺したいとばかりに憤慨(ふんがい)する。フリーレンは怒りの表情を浮かべながらぼろぼろ泣き始めた。 

 

「……分からない。この魔法は何なんだ。私を殺そうとしてるんだろう、アオカ。いったい、どんな魔法で殺そうとしているんだ」

 

「? 殺すつもりなんてないけど」

 

「えっ」

 

「その魔法陣はフリーレンをとある時間・とある場所に送り届ける。"無を生み出す魔法(ラーガフォイア)"の魔法陣だ。これからフリーレンは100年前に移動することになる」

 

「それになんの意味が?」

 

「…………カイネウス。グウィディオンとギルヴァエスウィ。それとも助かるのか。まあ、いいや。どうとでもなりなよ」

 

「なんの話?」

 

 

 

「カイネウスという粗暴な男は、元々神に犯された女だったという話。グウィディオンとギルヴァエスウィは知らなくていいよ。だってそうなると決まったわけじゃない。じゃあ知らなくていいよね。結果を語る者がいなければ、観測は確定しない。希望を捨てるな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「…………………………………………」

 

 

 

「私がいたところの死刑は4つのボタンがあってそのうち1つが罪人を死に至らしめるボタンになってる。1人1つ、4人の執行人が同時にボタンを押す。どのボタンで罪人が死ぬか分からなくなってる。分からなくていい。知らなくていい。死刑に値する罪人だとしても、執行人は殺人の重みを背負いたくない。だから、本当に死んでいるのかどうか、分からないようにする」

 

 

 

「……………………」

 

 

 

「100年前に行った先でフリーレンがどうなるか? 知らないよ。知りたくもない。だってそれが最高の復讐なんだから」

 

 

 

「……」

 

 

 

()()()()。人殺しに対する最高の復讐はね。そいつのことを忘れて、幸せな人生を送ることだよ」

 

「――ッッッッ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!! 誰か助けて!!」

 

 フリーレンは理解した。

 その行為自体の恐ろしさ。それを実行する人間の怖さ。そして、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 叫ぶ。泣く。懇願する。死ぬより酷い目に遭うのが怖くて、無になるのが怖くって、フリーレンは死ぬ気で命乞いをした。

 少女の懇願を聞き流す。……それが嫌なら、呼ぶなよなぁ。

 

 臨界に達した魔法陣は光帯を作る。時空に孔を開ける。少女が孔に吸い込まれていく。指輪とともに虚無へと消えて。跡には何も残らなかった。




―――――逆行運河/葬世無念 実行を完了しました。



☆無実のニーベン
ドイツ語で「neben」。意味は隣。

ハッピーエンドの条件は服従させる魔法(アゼリューゼ)でニーベンの暴走を止めること。
ビターエンドの条件は誰かがニーベンと一緒にエーラ流星を見てニーベンを満足させること。
バッドエンドの条件は最後までニーベンの正面と向き合うこと。Fateの運命構図は逆効果。

外見のモデルはFGOのエフェメロス。内面のモデルはThisコミュニケーションのデルウハ殿。
欲望を満たせば有益になる悪魔。合理のみで動く怪物。
幸運値マイナス。大体悪いけどたまに悪くない。
王都で暴走したニーベンはThisコミュ最終巻のTASウハ殿に影響を受けました。


☆アオカ
ニーベンの前世。本名・新渡戸 青花(にとべ あおか)。
漫画やアニメが好き。曇らせが好きなだけの普通の人間だった。
第三の人生では幸せになれたと思う。


☆葬送のフリーレン
何も語ることができなくなった。
ニーベンが許しても50億年が許さない。
カイネウスしても許さない。グウィディオン⇔ギルヴァエスウィしても許さない。

グウィディオンとギルヴァエスヴィは、動物に変身させられて、子供を産ませ続けられる罰を受けた兄弟。
この兄弟は3年で許された。けれどアオカは、フリーレンは許すつもりがない。
魔族に復讐しようとした者が、永劫に魔族の仔を生み続ける罰を受ける。

生々しく書くわけにはいかないので、逆行運河を完了させたところでこの小説を終了します。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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