逆行運河/葬送のフリーレン   作:ヒビたまり

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襲来:勇者の敵

 ハイターと分かれてから70年。

 王都。

 

 魔王討伐を果たした勇者一行の凱旋パレードまであと1週間といったところか。

 

 笑顔ふりまく街の人々にとって凱旋パレードは1週間前の出来事。

 

 『葬送のフリーレン』の始まり。半世紀(エーラ)流星と凱旋パレードをこの目で直接観たいがため、王都に潜り込んでいた。

 

 街のど真ん中、勇者一行の彫像建設予定地に大勢の人間がいる。けれど私に気づく者はひとりもいない。時間逆行の魔法を常に発動しているから通常の時間を進む人間たちに私の姿は見えないのだ。

 

 はっきり言って私の"無を生み出す魔法"は無敵、無法に近い。やろうと思えば勇者を含めて王都にいる人間すべてを殺し回って食べ尽くせるだろう。

 

 まあでも当然、人殺しはしない。

 人を食べる魔族の本能は、墓荒らしで抑えることに成功した。

 

 魔族は自己の欲求を最優先にすれば人を食べなくても生きられる。黄金郷のマハトのように。

 

 ハイターと別れてから70年。これまで私は魔法の研究に没頭していた。その結果、魔族の本能は(しず)めることができた。人を食べたい欲求に打ち勝ち、ついに誰一人殺さずにこの時代に来れたのだ。

 

「なんとかなるものだよ」

 

 誇らしくなってふんと鼻を鳴らす。

 私ほど人間を殺していない魔族はいないと思う。

 

 無実のニーベンは悪事を働かない貴重な魔族である――!

 

「さあ。ヒンメルに会いに行こうか」

 

 じゃあハイターやフェルンにしたように、ヒンメルにも罠を仕掛けて、フリーレンに復讐をしよう。

 

 70年間魔法の研究をしたのは今日この時のため。復讐のためにいくつものオリジナル魔法を考案した。準備は万端。

 

 ヒンメルはこの街のどこにいるのだろう、と思った瞬間、無意識に体が動いた。わけがわからないまま体が勝手に動き、その場から飛び退いていた。

 

「――――ハッ!?」

 

 稲妻のような斬撃が私の立っていた場所を通り抜ける。もし躱していなかったら体は真っ二つだっただろう。今私は殺されるところだった。

 

「何が起きて…………えっ」

 

 裂かれた地面から土煙がのぼる。そして土煙の先には人影がある。

 水色の髪。精悍(せいかん)な顔。白いマント。青い服。両刃の剣。――――勇者の剣。

 

 

 

 勇者ヒンメル。魔王を倒して世界を救った英雄。探していた人間は突如として私に襲いかかってきた。

 

 

 

「まだなにも悪いことしてないのに!?」

 

 本物の勇者による襲撃に気が動転して、小悪党みたいな台詞を口走った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ふざけてしまったけど、ふざける状況じゃない。

 魔王を倒した勇者に狙われるこの状況は魔族からすれば致命的すぎる。

 

「勇者ヒンメル!」

 

 相手の動きを止めるためにその名を叫んだ。勇者ヒンメルと会話をする意思があることを示す。

 

「……君は、無実のニーベンだ」

 

「うん。そうだよ」

 

 ヒンメルは足を止めて私との会話に応じてくれた。ほっと胸を撫で下ろす。

 

 私はまず一番気になることを質問した。

 

「ヒンメル。お前はいったいどうやって『この時間』に入った?」

 

「"時間を遡る魔法"。この魔法が僕の体にかかっている。だから僕は『逆行する時間の中』に入ることができた」

 

「ピンポイントで対策されてた!」

 

 誰だよ! その魔法使ったやつ! ゼーリエか!? それともフリーレンか!? 誰が私を殺しに来てるの!?

 

「君には教えない」

 

「残念。……一応聞くけど、ヒンメルが『逆行する時間の中』に入ってきた理由ってなに?」

 

「君を倒すため」

 

「知ってた」

 

 頭を抱えたくなる。分かっていたことだけどヒンメルは私を殺すためにここにいる。彼にとって一番大切な人物――フリーレンを守るために、ヒンメルはここで私を殺すつもりなんだろう。

 

 ヒンメルが私を叩く理由として最上のものである。

 

 私はフリーレンの人生を台無しにする存在。ヒンメルが私を見逃すはずがない。

 きっとどんな言葉を吐いたところでヒンメルの決心は変わらない。彼は魔王を倒す冒険で多くの魔族の嘘を見聞きしてきたのだから、いまさら私の言葉で剣を鈍らせない。

 

 ここで私はヒンメルと戦わなければならない。

 

「まじで戦いたくないんだけど……」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「お前は私を殺すつもりだろうけど、私はお前を殺す気はないんだよ」

 

 私は()()()()()の未来を変えられないからヒンメルを殺せない。

 

「数十年後にもう一度私とヒンメルは再会する。ここでヒンメルを殺したり大怪我を負わせたりしたら(フリーレンに殺される)私の未来が変わっちゃう。だから殺さない」

 

 ヒンメルとは70年経ってから再会する。といっても――再会するのはヒンメルが()()()()だけど。生きてる間に再会するとは言ってない。

 

「未来が変わらない限り。私は無敵!」

 

「なら未来も変えよう。ニーベン、今ここで君を倒し、そして未来のフリーレンも助けてみせる」

 

「――――――」

 

 私は呆気にとられる。そして大口を開けて牙を剥きながら笑った。

 

「あっっっっははははははははははははは!!!! あはははははははははははははははは!!!!!」

 

「……なにがおかしい?」

 

 いいや。できるはずもないことを堂々と吠えられたら笑いたくなるよ。

 

 

 

()()()()()

 

「っ!?」

 

 

 

 ヒンメルが動揺する。

 それは魔族が知るはずのない、勇者一行だけが知る秘密の旅。

 

「未来を変えるつもりなんてないくせに」

 

「なぜそれを知っているんだ!」

 

「過去に迷い込んだフリーレンを未来に送るため、石碑の約束を守るつもりのくせに! フリーレンの未来を維持しようとしてるお前が! 未来を変えるなんて軽々しく言うな!」

 

「答えろ! ニーベン!」

 

「言うわけないだろ! バカ勇者!」

 

 私は黒い爪を鋭く伸ばす。ヒンメルは勇者の剣を構える。もはや局面は決定的に。会話での和解は不可能であり、無実のニーベンと勇者ヒンメルの戦いが始まる。

 

「人間と戦うのは初めてだ。全力で楽しませてもらうよ」

 

「待て。それは嘘か? 冗談か?」

 

「え、本当のことだけど」

 

「そうか。なら、やっぱり君は人の心が分かるんだね。――君には心がある」

 

 ヒンメルにも私の心が暴かれた。いやまあ、先に私の心を暴いたのはヒンメルで、ハイターはヒンメルからそのことを聞いていたというのが正解か。

 

 だったら隠さなくていいや。

 

「そう。この世でただひとり、心を持った魔族がこの私。けれどその心は『人食い』の心。魔族となにも変わらない。いいや魔族よりたちが悪い。悪意をもって隣人に仇をなす。――ヒンメル、私は『勇者の敵』だよ」

 

 あるいは。人はそれを『魔王』と呼ぶのだろう。

 

 違いがあるとすれば、『人類全体の敵』ではなく『勇者個人の敵』という差があるだけ。

 

「これなるは異邦より降ちた獣。黒い爪跡。人生を台無しにする魔法。殺されるために生きる間違った人生。魔族として生きる唾棄すべき人生。不幸にしてくれよ。運命を壊してくれよ。

 

 お前にできるものならね! 運命(フリーレン)を保障しようとする――勇者ヒンメルに!」




☆ニーベンの運命
この小説において『ニーベンの運命はニーベン本人には変えられない』という原則を作っている。
心が生える前のニーベンはその運命をどうでもいいと思っていた。心が生えた今のニーベンは、その運命を誰かに変えてほしいと願っている。


ちなみに『アウラ生存ルート(ギャグ展開)』にすればあっさり解決する。アゼリューゼで"無を生み出す魔法"を封じたらまるっと解決する。

『ニーベンをしもべ(サーヴァント)にする』が一番スマートな方法だったり。
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