最後の別れは始まりの合図
「おい!聞こえるか!!」
「直ぐに治療を!!」
「中央を開けてくれ!そこに寝かせる!」
その場は騒然としていた。
宿敵との戦いを終えボロボロになった彼女を下ろし、俺は白魔道士のソウルクリスタルにエーテルを注ぎ込み白魔導士の力を引き出す。
「目を覚ましてくれ!頼む……!!」
「サイフォン早く手を貸して頂戴!」
「わかってる!」
既に治療を行っていたシュトラ達に続き、急ぎ治療を開始した。
だが──
(治癒魔法をかけ続けているのに生命力がどんどん失われていく!?このままでは……)
「どうか目を開けてくれ……」
「なんで……目を開けてよ……。あんな別れ方、絶対に許さないんだから……!ねえ、起きなさいよ……っ!」
皆が声をかけている中、無情にも彼女の生命力は低下の一途を辿っている。
治療を行っている面々は全力で治癒魔法をかけているが状況は全くよくならなかった。
(彼女が回復しないのは恐らく先の2度に及ぶ死闘のせいで、生命力が治癒魔法で補填できないくらい低下しているせいだろう。このまま治癒魔法をかけているだけでは意味がない……何か、何か方法は無いのか!)
焦りが募る中、タイムリミットが差し迫っていたがそこでふと思いついた。
足りない生命力を補う方法を。
「皆、少し離れてくれ。俺が何とかする。治療を行ってるやつらはそのまま治癒魔法をかけながら離れてくれ」
「え、ええ。分かったわ。でもあなた一体何をする気なの?」
「説明している時間も惜しい!早く離れてくれ!」
そして皆が離れたことを確認すると、心の中で謝りながら
真っ先に異常に気付いたシュトラやラハが声をあげているが今は気にせず儀式のため魔法陣を展開する。
これより行うのは自らの命を捧げ、相手に譲渡する禁術。
そんなものを使ったりすれば目の前の彼女はとてつもなく怒るだろうが、彼女を失うことに比べれば遥かにマシだ。
例え自らの命を失うことになろうとも……
術を行使すると急激に自身の生命力が低下していくの感じ、気付けば片膝をついていた。
まともに立っていられない中、彼女の様子を確認するとこちらの生命力が減っていくのに対し回復していってるのを感じられた。
(どうやら術自体は上手くいったみたいだな……)
「サンクレッド!エスティニアン!力を貸して!この結界をこじ開けるわよ!」
結界の外に目を向けると皆が中に入ろうとしていたが通常の結界にかける魔力の
恐らく俺の生命力が消えるまでは持つだろう。
そして再び彼女に目を向けると、顔色もすっかり良くなり微かにだが瞼が動いている。
もうじき目が覚めるだろう。
そんな彼女の頬に手を添え独りごちた
「すまんな、最後まで一緒にいてやれなくて。でもお前さんならきっと大丈夫だ。暁の血盟の皆もいる。」
「サイ……フォン……?」
俺の言った事が聞こえていたのかは定かではないが彼女が返事をした。
瞼も徐々に開いていき起き上がろうとしていた。
「私は……一体……」
「まったく……我らが英雄様は……寝坊助だ……な……」
「サ、サイフォン!?」
気が付くと身体が倒れ、彼女に抱きかかえられていた。
彼女が起きたということは時間切れが近いのだろう。
すると結界の方も維持できなくなったのか皆が駆け寄ってきていた。
そしてこちらの様子を見ると絶句していた。
「あなた、その身体は……」
「これでは……もう……」
そう、身体が半透明になりエーテルの粒子が立ち昇っていたのだ。
シュトラとウリエンジェは思わず口に出していたがそれ以外の皆も察しているのだろう。
暗い表情を浮かべていた。
彼女もこちらの様子に気がついたのか目に涙を浮かべていた。
「いや……いやよ。あなたにまで逝かれてしまったら私はどうしたらいいの!?これ以上大事な人を失いたくない!!」
あの時のことを、かつて二人にとっての
(そういえばあいつとの約束……守れなくなっちまうな……)
騎士である
もう時間が残されていないようだ。
「すまんな、一緒にいられなくなっちまって。ただ、お前さんが大事に想ってくれているのと同じくらい俺もお前さんを大事に想っていた。失いたくなかったんだ。」
「でも!でも……っ!!」
理解はできても納得はできないのだろう。
俺は子供のように泣きじゃくる彼女の頬を撫でてやった。
「俺の命は星海に還り、またどこかで新しい命として生まれるだろう。だからいつか、またいつか出会えたらそれまでのお前さんの冒険を聞かせてくれ……楽しみにしてるからよ……」
「――っ!うん……うん!」
生まれ変わるまでの間に彼女が命を落とすかもしれない。例え彼女がいる間に生まれ変わっても誰か分からないかもしれない。それでもまたいつか出会える。そう信じてくれた彼女はぽろぽろと大粒の涙を流しながらも笑顔で何度も頷いた。
その様子を確認して安心して気が緩んだのか、急激に意識が遠のいていく。
もう限界なのだろう。
「――――!」
「――!」
仲間たちも終わりが近いことを察したのか必死に声をかけているが、それを聞き取ることも叶わず視界がブラックアウトしていく。
「またな……
最後に彼女の名と共に再会を願う一言を最後に、俺の身体は完全に消え去った。
消える間際に微かに聞こえたのは、俺の名を呼びながら慟哭する彼女の声だけだった。
あれからどれ程時間がたったのだろう。
意識が朦朧とする中、微かに目を開くことができた。
身体は動かず起き上がることもできなかったので目だけで辺りを見回すと星海と似た雰囲気の場所だった。
するとその中に女性のようなシルエットが確認できた。
声をかけようとしても全身に力が入らず声を出すこともできなかった。
「ほほぉ、思った通り面白い魂の色をしているな君は。どうにか完全に消える前にサルベージできたが、はてさてどうしたものか」
何か思案しているようだったが身体を動かすこともできない上に、本来なら既に死んでいる身。どうにでもしてくれと思っていたら
「おや、自分のことだと言うのにそんな投げやりな態度はいただけないなぁ。
まぁ、そんな君だからこそ自らの命を投げ打ってまで仲間を助けたんだろうけど……ふふっ」
謎の人物は鈴を転がすような声で笑っていた。
不思議と嫌な感じはせず、敵意や悪意といったものは無くむしろ好意的であった。
「よし、決めた!まずは手っ取り早く実績を作っちゃおうか。
それなら他の連中も文句言わないでしょー」
目の前の人物は暢気そうにしていたが、何故だかこの人物が将来酷い目に合う気がしてならなかった
「それじゃあ君には私の力の一部をあげるよ」
謎の人物がしゃがみこむと、その指先から黒い小さな玉が出現し、こちらの身体に入り込んできた。
「今はまだ分からないかもしれないけど、これで然るべき時がくれば私の力が君の助けになってくれるよ」
特に身体に違和感は感じなかったが勝手に人の身体になにかするのは勘弁願いたいんだが……
抗議しようにもどちらにせよ身体を動かすことができなかったので抵抗しようがなかった。
「さて、君にやってもらいたいことを簡潔に言うよ。君にはこれから君がいた世界とは別の世界に行ってもらう。そこでその世界の行く末を暫くの間、見守り導いてもらいたいんだ」
世界をときたか。随分とまあスケールの大きな話だ
「何事もなければそれでよし。何かあれば君にはその抑止力になってもらいたいのさ。まあ別の世界に行ったら君の姿形は世界の強制力によって変わるかもしれないが、私があげた力は影響を受けないから安心したまえ」
此方が声を出せないのをいいことに話がどんどん進んでいくが
――待て、今姿形が変わるといったか!?
「さて、それじゃあ私はそろそろ行くよ」
謎の人物は立ち上がるとこの場を去ろうとして背を向けた。
すると唐突に意識が遠のいていく。
待ってくれ、まだ聞きたいことが山ほどあると言うのに
その祈りが届いたのかは分からないが謎の人物は最後にこちらを振り向くと
「そういえば名前、まだ言ってなかったね。私の名前はね……」
急激に遠のいていく意識の中、最後に聞き取れたのは
「セフィリアス……セフィっていうんだ。また会おうね、サイフォン」
その言葉を聞くと同時に俺の意識は完全に意識は途切れた。
不定期更新で自分が読みたいもの詰め込んでいくだけなので気長に気楽に見てもらえれば幸いです。