~サイフォンSide~
士郎さんのお見舞いからひと月が経った。
士郎さんは俺達が去ってから暫くすると目を覚ましたらしい。
そのまま順調に快方に向かっていったらしく、今ではもう起き上がって喋れるようになったらしい。
完全回復にはまだ少し時間がかかりそうだが、一安心だ。
リニスには案の定、怪しまれたので事情は説明しておいた。
あの時、病室で士郎さんの手に触れた際に幻術魔法を展開して、なのはと美由希には何事もなかったかのように見せたのだ。
その間に俺は白魔法<リジェネ>……継続治癒魔法を士郎さんにかけた。
高位の回復魔法では傷の治りが早すぎておかしいと思われそうだったから、徐々に回復するリジェネを使ったのだ。
流石に1度の回復では長く持つ筈もないので、こっそり夜中に忍者で病院に忍び込み、術をかけなおしていたのだ。
夜中に抜け出していたことについてはリニスも気付いていなかったようで、少し怒られてしまった。
士郎さんが元気になりつつあるお陰で、心なしかなのはは笑顔が増えた。最近では士郎さんとの会話を嬉しそうに聞かせてくれる。
士郎さんも俺に会ってみたいと言っていたらしいが、暫くは家族水入らずで過ごしてもらうために遠慮していた。
そんな中、今日はというと八神宅の前に立っていた。
今日ははやてに家に招待されたのだ。
今までも普通に遊んではいたのだが、家には入ったことが無かったのだ。
うちに来ないかと言われても、何だかんだ理由をつけて避けていたからだ。
原因は言わずもがな。最初に家の前で感じた謎の魔力のせいだ。
機会があれば行こうと思いつつも、踏み込めないでいたのだが、つい先日
「そっか。サイフォン兄ちゃんはそないにうちに来たないんやな……」
なんて泣きそうな顔で言われてしまい、そんなことはないぞと宥めたら
「ほな今度遊ぶ時はうちに来たってな!」
泣きそうだった顔なんてどこにもなく一瞬で笑顔に切り替わっていた。
末恐ろしい子だ……
今も妙な魔力を感じながらも腹を決め、インターホンを押した。
――ピンポーン
はーい!
家の中からはやての声が聞こえ、少しするとドアが開いた。
「おはようサイフォン兄ちゃん。いらっしゃい!」
「おはようはやて。お邪魔するぞ」
「うん、入って入って」
はやてのことは大丈夫だとわかっているが、何があるか分からないので警戒はしつつ中に入っていった。
入ってみると中は結構広く、リビングとダイニング、キッチンが同じ場所になっていた。
「お茶出すさかい、適当にくつろいでてや」
「ああ」
俺はソファーに座ると意識を魔力のある方へと向けた。
(この感じだと……恐らく2階にあるな)
1階にはそれらしい気配もなく、辺りを見回しても見当たらないので間違いないだろう
「お待たせ―。はい、どうぞ」
「あ、ああ。ありがとな」
はやての出してくれたお茶はとても良い香りがした。淹れ方がいいのだろう、味も美味しかった
「結構なお手前で」
「ふふっ、おおきに」
「これならはやてが料理に自信があるって言ってたのも信じられそうだ」
「あー、まだ疑ってたん?今日のお昼はわたしが作るから期待しててや」
「ははっ、楽しみにしとくさ」
その後も他愛のない話をしたり、トランプで遊んだりテレビを見たりとゆっくりとした時間を過ごした。
するとあっという間に昼になった。
「もうお昼になってもうたんか。ほな、腕によりをかけてご飯つくろか」
「なあ、はやて。家の中を少し見て回ってもいいか?」
「別にええけど……そないおもろいもんなんてあらへんよ」
「まあ中が広いし少し気になってな。入っちゃ不味い部屋とかはあるか?」
「んー、特にあらへんけど。あ、でもわたしの部屋はちょお恥ずかしいから……その……」
「わかった。お前さんの部屋には入らないでおくよ」
「うん、おおきに」
はやてがキッチンに向かっていくと、俺は直ぐに2階に上がっていった。
そして魔力の反応を辿り進んで行き、とある部屋の前で立ち止まった。
ドアの前にははやてと書かれた札がかけられていた。
どうやら目的の物はここらしいが……
はやては入って欲しくなさそうだった。それなら――
「戻るか」
そのまま引き返すことにした。今回は魔力を宿した何かが確実にあるというのが分かっただけ良しとしよう。
もしかしたら今後はやてに見せてもらうことがあるかもしれないしな。
そう結論付け、普通に辺りを散策してみることにした。
暫くするとはやてに呼ばれた。どうやら昼ご飯ができたようだ。
「お待たせ―。今日のは良くできたんやで」
「ほおー、パスタか。美味しそうだな」
「せやろー。ほな、いただきます」
「いただきます」
はやてが作ったパスタは見た目はシンプルで、細かく刻んだベーコンとキャベツが入っていて上には黒コショウがまぶしてあった。
味の方はというと
「これは……美味いな」
「ふふっ。お口にあったようで何よりやわー」
はやての腕前は自分で言うだけあってかなりの物だった。パスタの湯で加減もさることながら、味付けが絶妙だった。
「ごちそうさま。想像以上に美味かったぞ」
「お粗末様でした。そう言ってもらえると嬉しいわあ」
はやてが食器を持って行こうとしていたので、それを手で制し代わりに持ってやる
「もてなされてばかりじゃ申し訳ないからな。俺が洗うぞ」
「そんな、そないなこと気にせんでええのに。――ほな、お願いします」
「おう」
そしてキッチンに向かうとはやても一緒になってついてきた。
どうかしたんだろうか
一先ず気にせず食器を洗いだす
「サイフォン兄ちゃんも料理するんやったっけ?」
「ん?ああ、そうだな」
「ほなら今度、サイフォン兄ちゃんの料理も食べさせてもろてもええかな」
「別に構わんぞー」
「やった!今からその時を楽しみにしとるわ」
はやては嬉しそうに横で鼻歌を歌っていた
よく考えたらこの子は1人になってから誰かの手料理をあまり食べたことが無いんじゃなかろうか
そう思うとその喜び様にも納得がいった。
(その時はちょっと張り切ってみるか)
そして洗い物を終えてはやてと一緒にリビングに戻った。
俺がソファーに座るとはやても同じ様に座ろうとしていたので、抱きかかえて下ろしてやった。
「なんや、なんか気恥ずかしいな……」
「これぐらい気にしなくてもいいだろうに」
「そんなの無理に決まってるやんか!」
バシバシと肩を叩かれてしまった。
女心はよく分からん
一頻り叩くとはやてはこちらに寄りかかり肩に頭を乗せてきた。
「サイフォン兄ちゃんはもう少し女心を勉強した方がええわ」
「当機体に該当する単語は登録されておりません。ピーっという音が――はやて、いたいいたい」
「んなアホみたいなこと言うからや」
はやてに今度は脇腹をドスドスと叩かれてしまった。
場を和ませるジョークだったんだが……やはりアラグの機械の真似事は駄目だな
やがて満足したのかこちらに体重をかけてきた。
「ツッコミ疲れて眠くなってきたわ」
「寝てもいいんだぞ」
「でも……お客さんほっといて寝るなんて」
「なら俺も軽く寝るから気にせずゆっくり寝てな」
「ほなら……遠慮なく寝させてもらうわ。おやすみ、サイフォン兄ちゃん……」
「おう、おやすみ。はやて」
うつらうつらとしている頭を撫でていると穏やかな寝息が聞こえてきた。
今まで誰もいなかった分甘えられている……んだろうか。
今もこちらに体重をかけ寝息を立てているはやてを見やる。
少しでもこの子の孤独を埋められていればいいんだがな……
そう思っていると急激に眠気が襲ってきた。
そのまま仮眠を取ろうと思い目を閉じると意識が途切れた。
目を開けるとそこは不思議な空間だった。
辺りは暗く周りには何もなかった。
足元は水面のように揺れているがしっかりと踏みしめることができた。
「ここはいったいどこだ?俺は確かさっきまで寝て……」
そこまで言って気付いたが何かがおかしい気がする。
夢なのに意識がハッキリし過ぎているのだ。
頬を抓ると感覚はあるが目が覚める気配はしなかった。
「どういう夢なんだ、こりゃいったい」
立ち止まっていても仕方がないので辺りを探索してみることにした。
「おーい。誰かいないかー?」
声を出してみるも当然ながら反応は返ってこなかった。
仕方なくそのまま歩き続けることにした。
その後、暫く進んでいると人影の様な物が見えてきた。
あれがこの夢の主なのかね
「おーい、そこのあんた」
「お前は……」
謎の人影の正体は背の高い銀髪の女性だった。
「お前さんが俺をここに呼んだのか?」
「いや。私はお前を知らないし、何故お前がここにいるのかも分からない」
そういうと彼女はこちらを睨みつけていた。かなり警戒されているようだ
「お前は何故、我が主の夢の中にいるのだ」
「お前さんの言う主が誰なのか知らんが、もしかして八神はやてという名前か?」
「――っ!お前は何者だ?」
「その反応は合ってるんだな。俺ははやての友達だよ。今だってはやての家に遊びに来て一緒に昼寝してたんだからな」
はやてのことを主という謎の女性。考えられる可能性としては家にあった謎の魔力反応くらいだが……
「我が主の友人だと?お前の様な輩を私は見た覚えがないぞ」
「そりゃそうだ。今日初めて来た上に家でははやてにしか会っていないからな。それとも、お前さんは家の中にいたのか?」
「お前に答える義理はない」
「こっちは答えてやったっていうのにな。まあいいさ。それで、どうやったら信じてくれんのかね」
「…………」
彼女はこちらを睨んだまま沈黙を貫いている。これじゃ取り付く島もないな
「なら自己紹介だ。俺はサイフォン、あんたは?」
「なに……?今サイフォンと、そう名乗ったのか?」
「あ、ああ。そうだが……それよりあんたの――」
「すまない!」
いきなり頭を下げられてしまった。どういうことだ?
「あー、なんだ。よく分からんが顔を上げてくれ。いきなり謝られてもこっちも困る」
「ああ、すまない。主が新しいご友人の名を私に語りかけていたのを呼んでいたのを覚えていたからなんだ。その名がサイフォン、君だったからだ」
「そういうことか」
「先程までの無礼を詫びよう。すまなかった」
そういって彼女はまた深く頭を下げた。
「気にしなさんな。誤解が解けたんならそれでいいさ。それよりお前さんに聞きたいことがあるんだが」
「何だろうか?」
「はやてを主と呼んでるが、お前さんはなにもんなんだ?」
「それは……」
彼女は俯くと押し黙ってしまった。
そして暫く待つと意を決して語り始めた。
「私は――<夜天の魔導書>の管制人格だ」
「夜天の魔導書……?」
「主と旅をして各地の魔導士の技術を蒐集して研究するためのもの
「だった?今は違うのか」
「今の私は壊れている。歴代の持ち主の誰かがプログラムを書き換えたせいでシステムが暴走してしまっているんだ。そのせいで我が主は……」
「なっ……」
言葉を紡ぐ彼女の顔はとても悲しげだった。
そしてその言葉が意味するのは恐らくはやての足のことだろう
「その暴走とやらはどうにかできないのか?」
「駄目なんだ。修復しようにも、既に私の中から夜天の魔導書本来の姿が消されてしまっているんだ」
「そんな……なら魔導書の破壊……は駄目か。お前さんまで消えちまうか」
「いや、そもそも破壊自体ができないだろう。今の魔導書は破損した個所を再生する機能が暴走して、無限に再生してしまうんだ」
「滅茶苦茶だな……」
暴走しているうえに壊せず、直すこともできない。とんでもなく厄介な代物だな
頭を抱えていると彼女がこちらをジッと見ていた。
「サイフォン。君に頼みがあるんだ」
「頼み?」
「ああ。恐らく君はここでのことを忘れてしまうかもしれないが、聞くだけ聞いてほしい」
「わかった」
「まだ多少猶予はあるが、遠からず今は封印されている魔導書の封印が解ける。そして魔導書本体が我が主を正式に主として認め、その身体を更に蝕みだすだろう」
「猶予がどれくらいか分からないのか?」
「もって3年……いや、それより短いかもしれない」
3年……思ったより猶予があるとみるべきか少ないとみるか……。まだ情報が足りないな
「魔導書が主として認めてしまえば、我が主はいずれその命を散らしてしまうだろう。だからどうか……どうか我が主を救ってほしい……!」
管制人格はその瞳に涙を浮かべていた。
彼女は本当に主思いなのだろう。
「事情は分かった。でもまあ元からはやてに何かあったら助けるつもりではいたんだ。ここでのことは忘れるかもーなんて言ってたが心配するな」
「すまない。感謝する......」
「それにだ――俺はお前さんも助けたいと思ってる」
「私を……か?」
管制人格は言われていることがいまいち理解できていないのか頭に疑問符を浮かべていた。
「元はと言えば今までの持ち主の誰かのせいで夜天の書が暴走しちまったんだろ。お前さんだって被害者さ」
「だがそのようなことは――」
「出来ないってか?やってみなきゃ分らんさ。昔――俺の側にはな、周りがどれだけ無茶なことだと思っても、それをやり遂げちまうすげえやつがいたんだ。最終的には世界1つ救ってしまうほどにな。これくらいのことで根を上げてたら、俺は胸を張って
「君は……」
「だから安心しろ。俺が必ず、はやてとお前を救ってやる」
そう言って彼女に手を差し伸べた。
管制人格は躊躇いがちに手に触れようとしたが、その距離が徐々に離れだした。
「これは――!?」
「主が目覚めようとしているのだろう。どうやらこれでお別れのようだ」
「そうか……俺は今日のことを忘れない。だからお前さんも俺の言った事を忘れないでくれ」
「――わかった。約束しよう」
そして徐々に視界が暗転していくなか、優し気に微笑む彼女の姿が見えた。
「ん……うーん」
随分と長い夢を見ていたような気がする。
だが大して寝た気がしなかった。
「覚えて……いるな」
夢の中でのこと。管制人格との会話はしっかりと覚えていた。
そもそも何故はやての夢と繋がったのか。
「これも超える力……なのかね」
かつていた世界では稀に超える力と呼ばれるものに目覚める人がいる。
俺もその1人で、言葉の壁を超える力を発現していた。その影響でこの世界でも言葉が通じているんだと思っているんたが……
(夢の壁を超える力なんて聞いたこともなかったがなぁ)
1人でうんうん唸っていると、はやてが身じろぎしていた。
彼女も目覚めだしたのだろう。
「おはようはやて」
「ふわぁ~、よう寝たわー。サイフォン兄ちゃんおはよう」
「お互い寝すぎたみたいだな。もう夕方だぞ」
「ほんまや!折角遊びに来てくれたんに、なんか勿体ないわぁ」
しゅんとするはやての頭を軽く撫でてやり
「まあ、別に今日はゆっくりする日ってことでいいんじゃないか?遊ぶのはまた今度来た時でもいいさ」
「また……来てくれるん?」
「おう。はやてさえ良ければな」
「わぁー!うん!また来てや!約束やで」
「おう」
そして俺ははやての家を後にし、帰路についた。
帰り際、夕飯を食べていかないかと誘われたが今日は夕飯の当番だったので丁重にお断りした。
そして帰りの道中、リニスに念話で喋りかけた
『リニス、ちょっといいか?』
『どうしました、サイフォン?もしかして――また遅くなるのですか?』
念話越しなのに何故かジト目で見られている気分になる。
というかまたってなんだ、またって
『今はもう帰っている途中だ。変な勘繰りをするな』
『そうでしたか。それで、何かあったんですか?』
『そも辺はその時が来れば連携する。それより授業の方なんだが、デバイス作成の授業も入れてくれ』
『作成って……デバイスマイスターにでもなりたいんですか?』
『まあ自分でメンテナンスできるようにもなるだろうし、覚えておいて損はないだろう?』
言ったのは本当のことだが、半分は夜天の書絡みで考えていることがあるからだ。
『私は構いませんが……その分スケジュールも更にハードになりますよ?』
『覚悟の上さ。頼む』
『はぁ……貴方が何を抱え込んでるか知りませんが、わかりました。ただ、抱え込み過ぎないで私にも相談はしてくださいね』
『分かってる。ありがとうなリニス』
これでデバイス作成については問題ない。
後は管制人格の言っていた猶予に間に合うかどうかは俺次第だろう。
サイフォンは決意を新たに今後の方針を練っていった。
もう2回ぐらいで原作行けるかと思ったけどそんなことはなかった(
も少し頑張りますかね