~サイフォンSide~
港での激突の後、俺達はクロノという名の時空管理局執務官の案内の元、見知らぬ場所に転移された。
その内部は元居た世界の魔導船――ラグナロクにもどこか似た雰囲気を放っていた。
なのはは見知らぬ場所のせいか、不安そうに俺のバリアジャケットの裾を掴んで辺りをキョロキョロと見回していた。
『サイフォン君……ここっていったい……』
『さてな……リニス、ユーノ。お前さん達何か知ってるか?』
『恐らく時空管理局の次元航行船の中だと思われます』
『はい……?』
『えっと、簡単に言うとね。幾つもある次元世界を自由に移動するための船のことだだよ』
『あ、あんま簡単じゃないかも……』
まあ別の世界のことをあまり知らなかったらそうもなるか。俺も鏡像世界のことを知らなかったら混乱していただろうしな。
『なのはが暮らしている世界以外にもいくつもの世界があって……僕たちの世界もその1つで、その狭間を渡るのがこの船で。それぞれの世界に干渉しあうような出来事を管理しているのが、彼ら――時空管理局なんだよ』
『そ、そうなんだ』
なのはは話が壮大過ぎてあまりついていけてないのか歯切れが悪かった。
俺は今はあんま気にすんなと言って、その頭をグリグリと撫でてやった。
やめてよー!とか抗議された気がするが気のせいだろう。
「ああ、いつまでもその格好だと窮屈だろう。ここは安全だ、バリアジャケットとデバイスは解除して平気だよ」
「そっか……そうですね。それじゃ」
そしてなのはが解除したのに続いて、
クロノはそれを見てはぁ――とため息をついていた。
「君は?解除しないのか」
「身の安全を保障されたとはいえ、武装してるやつが目の前にいるんでな。俺はこいつらを守るためにも解除する気はねえぞ。ま、お前さんも解除するなら話は別だがな」
「はぁ……君と同様に僕にも艦の皆を守る義務がある。武装を解除するわけにはいかない」
「そうかい。まあ安心しな執務官殿。俺はよっぽどのことがなきゃ、自分から手を出したりはしねえからよ」
「そうあって欲しいものだが……。艦長の元に案内する、付いてきてくれ」
俺とクロノは終始ピリピリしっぱなしだった。なのはとユーノはそれを見てオロオロとして、リニスは頭を抱えていた。
悪いとは思いつつもこればっかりは譲れない。
それから俺達はクロノの案内の元、艦長とやらが待っている部屋の前に来た。
ここに来る前に俺達に話しかけていた人物が艦長と言われていたし、あの御仁が待ってるんだろう。果たしてどんな人物なのやら……
「艦長、来てもらいました」
「「「「…………」」」」
クロノが部屋の扉を開け中に入っていくのに続くと、そこは日本庭園もかくやという和風のつくりの部屋。先程までの船の内装から見てもこの部屋は異常だ。
現に地球住まいのなのはとリニスは絶句している。
いや和風なのは好きなんだが……茶釜もあれば鹿威しまで鳴ってるし、頭の中が一瞬バグってた
「お疲れ様~。皆さんど~ぞど~ぞ、楽にして」
「ど、どうも」
いち早く正気に戻った俺は艦長の勧めに従い、先に席に着いた。
皆も一瞬ハッとした表情をして座っていた。
「どうぞ」
「あ、ああ。どうも」
クロノがお茶と茶菓子を出してくれたが緑茶と羊羹だった。
徹底してるなおい
「それじゃあ早速お話……といきたいところだけど、お互いに自己紹介しましょっか!」
「「「「は、はぁ」」」」
俺達は完全に毒気を抜かれていた。あまり向こうのペースに呑まれるのは避けたいし、俺とリニスがしっかりしないとな
そう思いリニスに視線を向けると伝わっているらしく微かに頷いていた。
「それじゃあ私から。私は時空管理局の提督、リンディ・ハラオウンよ。今皆さんの乗っている船、アースラの艦長を務めています。よろしくね」
「先程も名乗ったが、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ」
「親子なのか」
「ああ、そうだ。何か問題でも?」
「いや、別にないんだがなぁ。そう嚙みつかんでくれ」
俺はさも興味なさげに執務官殿に手をヒラヒラと振った
「なっ!僕は噛みついてなんて――」
「はいはいクロノ。今のは貴方が悪いわよ。ごめんなさいね――えっと」
「黒鐵サイフォンだ。一応ベルカの騎士ってことになってる。こっちが――」
「彼の使い魔の黒鐵リニスと申します」
「あら、ベルカ式だなんて珍しいわねぇ。それにサイフォンさんは使い魔持ちだったの。どおりであれだけの実力を持ってる筈だわ」
「それはどーも」
クロノは俺の態度に思うところがあるのか、僅かに眉間に皺が寄っていた。
まだ敵か味方かもわからん相手に気を許すわけにはいかんからな
俺とリニスの自己紹介が終わったので、俺はなのは達に視線で促した。
「えっと……。高町なのはです。私立聖祥大付属小学校3年生です」
「僕はユーノ・スクライア。今の世界に来る前は遺跡発掘の仕事をしていました」
「遺跡発掘ということは、貴方がロストロギアを?」
「はい……実は――」
そこからユーノはジュエルシードを発掘し管理局に保護を依頼した際に、その手配した次元船が事故にあったことを話した。その結果、なのは達の世界に散らばったそれを俺達と協力して集めていることも。
「なるほど。自分が発掘したからその責任をと……立派だわ」
「だが、同時に無謀でもある。今回は運よく現地民の協力を得られたからよかったものの――」
「あー、説教は後にしてくれ執務官殿。今はもっと建設的な話をしようや」
「むっ!――失礼した」
「あの――ロストロギアって具体的に何なんですか?前にユーノ君達の世界の危険な古代遺産って聞いたんですが」
そういえばなのはには詳しく話してなかったな。俺もリニスに聞きかじった位だから丁度いい。
「ん~、遺失世界の遺産……って言っても分からないわよね。えっと、次元空間の中には幾つもの世界があるの。その中にはよくない形で進化し過ぎてしまう世界がある。進化し過ぎた技術や化学が、自分たちの世界を滅ぼしてしまって、その後に取り残された危険な遺産……」
「それらを総称してロストロギアと呼ぶ」
「そう――私達管理局や保護組織が、正しく管理していなければならない品物。貴方達が探しているジュエルシードもその1つよ」
リンディ提督は徐に角砂糖の入れ物に手を出すと、緑茶に入れ出した。それ自体は構わないんだが、如何せん量が多すぎる。見てるだけで胸焼けがしそうだ
俺と同じことを思ったのかなのはも微かに声をあげていた。
「あれは次元干渉型のエネルギー結晶体。流し込まれた魔力を媒体として次元震を引き起こすこともある危険な代物」
「なのはと黒衣の魔導士――フェイト・テスタロッサがぶつかった際の振動と爆発。あれが次元震だよ」
「あれが……ねぇ」
「たった1つのジュエルシードでも、あれだけの威力があるんだ。複数集まって動かしたときの影響は計り知れない」
「大規模次元震やその上の災害。次元断層が起これば世界の1つや2つ、簡単に消滅してしまう……そんな事態は防がなきゃ」
そんな危険な物だったとはねぇ。まあ願いを叶えるなんて胡散臭い力を持った石みたいだからな。そうなると、流し込んだ魔力を使って願いを叶えるとかなんだろうか?それでフェイトの母親はジュエルシードを集めてるのか……?
俺が思考に耽っているとなのは達が心配そうにこっちを見ていたので、念話で大丈夫だと送っておいた。
だが――
「だからこれよりジュエルシードの回収は私達時空管理局が「待った」……あら」
「勝手に話を進めないでくれるか?リンディ提督さんよ」
「これは次元干渉に関わる事件だ!民間人に介入してもらうレベルの話じゃない」
「俺は今提督殿と話してるんだ。黙ってな孺子」
いきなり横から入ってきたうえに、当事者無視して後はこっちでやるから手を引けだ?笑わせてくれる
「なあ、リンディ提督。1つ取引しないか?」
「ふむ。内容にもよりますが……何でしょう?」
「かあさ!――艦長!」
「いいのよ、クロノ。責任は私が持ちます。それで、取引とは?」
交渉の席には着けたか。後は向こうが飲んでくれるかだが……
「内容はシンプルさ。俺達を民間の協力者として今回の件に関わらせてくれ。ただし、その時には1つ約束してほしいことがある。そしてもし俺達を関わらせてくれるなら、俺の方からはある情報の提供と、いざという時に俺という戦力をあんたらに提供する」
「随分と曖昧な部分が多いわね。貴方の求める約束というのは?」
「もう一組のジュエルシード捜索者。フェイト・テスタロッサとその使い魔アルフ。2人の身の安全の保障だ」
「貴方達はあの子達と敵同士ではないの?」
「争い競い合っているからといって、それだけで敵なわけではないだろう。少なくとも俺はあの子達の味方だ。もちろんこいつらの味方でもあるがな」
中立の立場だなんて言っといて、もうすっかり入れ込んじまってんな……
まあそれ自体は別に悔いも何もねえんだがよ
なのはが何か言いたげにこちらを見ていたが、今は交渉に集中することにした
「――約束の内容については、まあいいでしょう。それで?貴方の持つ情報というのは?」
「俺はこの前発生した次元震に関して、1つ重要な情報を持っている。それの提供だ」
「ふむ。なのはさん達がぶつかって発生した以外に何かあると?」
「あんたらが観測してたなら、突如としてエネルギーが増幅したことに気付いたんじゃないのか?」
「エイミィ」
「はい、艦長!」
リンディ提督が名前を呼ぶとそこには茶髪の管理局の制服らしきものを着た女性が映し出された。
「次元震が発生してから黒衣の子、フェイトちゃんが封印をしようとした時に、ジュエルシードの暴走が激しくなっています」
「どうやら本当みたいね。それで貴方はその原因を知っていて、その情報を提供してくれると」
「そうだ。俺の提案を蹴ってくれてもいいが、下手したら
「ええっ!?」
「何だって!?それはどういうことだ!!」
「さてな。まああくまで可能性だ、絶対そうなると分かってるわけじゃない。俺の言葉を信じる信じないも自由だが、前向きな返答を期待したいところだな?」
手は打った。他にも指揮系統に入らない対等な協力関係も望みたかったが、流石にそれは無謀だろう。相手は組織なんだ。下手を打てば数で潰されるのがオチだ。
俺の言葉を聞き、リンディ提督は暫し悩んでいたが――
「いいでしょう。私達も切り札を温存したいし、貴方達の戦力を当てにさせてもらいます」
「艦長!?」
「提案を飲んでいただきありがとうございます、リンディ提督」
「やだー、そんな急にかしこまらなくていいのよ。貴方達はあくまで民間の協力者、私の部下ではないのだから」
「ありがとうございます」
取引は成功か……あんまりこういうことは慣れてないんだが……
やっぱり俺は剣を振るってる方が性に合ってるな
隣を見るとなのはとユーノも安堵したような表情をしていた。
俺は交渉中に凝った肩をグルグル回していると、リンディ提督とクロノが真剣な目でこちらを見ていることに気付いた
「それじゃあ早速、貴方の言う情報というのを聞いてもいいかしら?全滅というのはいくら何でも看過できないわ」
「あくまで可能性がある、という前提で話しますよ。まず、これを見てください」
俺はシュッツライゼンデに保存されていた映像を映し出した。
そこには例の黒ずくめが映っていた。
「この人物は?」
「名前、目的、素性、何もかも不明です。ですがこいつが次元震を起こしたジュエルシードを更に暴走させた人物です。過去にもジュエルシードの異相対を強化するということをやっていました」
「そんなことが……」
「暴走が酷くなった原因は分かったが、それが艦の全滅にどう繋がるんだ?」
今回の話のポイントはそこだ
「クロノ。お前さんこの艦の中で1番か2番目くらいに強いんじゃないか?」
「まあそうだという自負はある」
「いいか、この黒ずくめは俺とリニスの2人がかりでも、傷1つつけることができなかったと言えばどうする?」
「なっ!?」
「にわかには信じがたいわね……貴方の実力は先程見たけど、それが傷1つつけられないだなんて」
奴自身の特殊な力なのか分からないが、あいつはこちらの攻撃を物ともしなかった。今までは何とかなってるが本気で襲われたなすすべなくやられるだろう
「事実です。それとこの映像を見てください」
「これはサイフォンさん?身体から魔力が溢れ出てるなんて、凄まじい魔力量ね」
「カートリッジも使ってる上にブーストも……君はいったい何と戦ってるんだ?」
「さっきの奴が張った
「「っ!?」」
2人は表情は驚愕に満ちていた。それはそうだろう、あんな強度の結界そうあってたまるもんか
その後、波切で壊れなかった結界を見て2人は更に驚いていた。
「やつはこれだけのことをやってのける。そんな奴がこの艦を襲撃してきたらどうします?」
「それは確かに、全滅の可能性は否めないわね……」
「君はあの結界からはどうやって抜け出したんだ」
「流石にそれは企業秘密にさせてくれ。ただ言えるのは力でねじ伏せたってだけだ。結果、俺は入院する羽目になったがな」
俺は肩を竦めてやれやれと首を振った。実際あれ以上の強度の結界を出されると流石にどうしようもない
今のうちに何か対策を講じておくべきだろうな……
「取引の俺を戦力にっていうのはそういうことだ。奴が出てきたら逃げるための時間稼ぎくらいにはなる……と思いたい」
「――わかりました。ですが決して貴方1人を置き去りになんてしないわ。そうよね、クロノ」
「当然です。彼はあくまで民間協力者。その彼を残して自分達だけ逃げる、なんてことはできませんから」
「真面目なこって。まあその時は頼りにさせてもらうさ、執務官殿」
「さて、そうなると貴方達にはアースラに乗ってもらわないといけないけど――お家の方へのご報告もあるでしょうし、今日は家に帰ってゆっくりしていらっしゃい」
「「「「わかりました」」」」
こうしてリンディ提督達との会談が終わった。
そして各々が家族と話し合い、暫くの間、家を留守にすることが決まった。
まあうちは割と自由にさせてくれるから問題無かったが、なのはは大丈夫かねぇ……
桃子さんあたりが何とかしてくれないかなーと、そんなことを思いながらその日は眠りについた。
~アースラSide~
「すごいやー!どっちもAAAクラスの魔導士だよ!」
「ああ」
サイフォン達が帰宅した後、アースラ艦内では現在オペレーターのエイミィ・リミエッタとクロノがなのはとフェイトの戦闘映像を見ていた。
「こっちの白い子はクロノ君の好みっぽいかわいい子だし!」
「エイミィ……そんなことはどうでもいいんだよ」
「魔力の平均値もかなり高いねー!魔力だけならクロノ君も上回っちゃってるね!」
「魔法は魔力値の大きさだけじゃない!状況に合わせた応用力と、的確に使用できる判断力だろ!」
「それは勿論!信頼してるよ。アースラの切り札だもんクロノ君は!」
エイミィも本気でクロノが2人に劣っているとは思っていないようで笑みを浮かべて元気に返事をしていた。
言い合ってるように見えながらもこの2人には確かな信頼関係があった。
そして2人で映像を見てるとリンディが入室してきた。
「あっ、艦長」
「ん?ああ、2人のデータね」
「はい」
リンディはエイミィの座っていた椅子に手をかけていたが、映像を見ているとその手に次第に力が入っていた。
「確かにすごい子達ね」
「これだけの魔力がロストロギアに注ぎ込まれれば、次元震が起きるのも頷ける」
「あの子達――サイフォンさん達がジュエルシードを集めている理由は分かったけど、こっちの黒い服の子……フェイトさんは何でなのかしらね」
「随分と必死な様子だった……何か余程強い目的があるのか……」
「目的……ね」
映像に映るフェイトを見つめるリンディの表情はどこか悲しげだった。
「まだ小さな子よね。普通に育ってれば、まだ母親に甘えていたい年頃でしょうに……」
「そうですねー……なのはちゃんやユーノ君も同い年みたいだし、あんまり荒事に巻き込みたくないですね」
リンディは1児の母として子供達を案じていた。
そして映像が切り替わり、サイフォンとクロノ戦闘になった。
「そういえばこの人もとんでもないねー。魔力量自体もSに近いし、それにクロノ君に勝っちゃうし」
「今日は油断しただけだ!次は負けない」
「あら、でも彼ってベルカの騎士でしょ?カートリッジシステムを使ってないようだし、手加減してくれたのかしらね」
「――くっ!!」
「まあ、あの子も船に乗るんだしこれを機に一緒に稽古でもしてみたらどうかしら?」
「……考えておきます」
「おー、クロノ君が素直だ」
「エイミィ!!」
クロノとエイミィがじゃれている様子をリンディは微笑ましく見つめていた。
そしてふと思うのはサイフォンとフェイトのこと。
(彼はフェイトさん達の身の安全の保障を要求した。もしかしてフェイトさんの目的まで知っていたのかしら……。でも、彼のことだから話さないような気がするわね。それにテスタロッサ――クロノに1度調べてもらった方がいいわね)
リンディは次の手を打ちつつも、あの悲し気な瞳の少女を心配していた。
管理局パートなっがいな
次回は海のジュエルシード取れるとこまでやれたらいいな……厳しそ―