~フェイトSide~
わたしは部屋の中で膝を抱えて座り、今日のことを思い返していた。
時空管理局の介入。それが意味するものは大きかった。次元世界における管理世界に住んでる住人ならば、その強大さを知らないものは殆どいないだろう。
でもそんな相手に対して怯むことなく立ち向かった人がいた。
(また、守られちゃったな……)
わたしがピンチの時に駆け付けてくれる、あの人に……
あの人は――サイフォンはどうしてわたしなんかを助けてくれるんだろう……?
母さんの期待にも応えられないような、わたしなんかを……
会う度に迷惑をかけてしまう、わたしなんかを……
わたしは……会いたかった……知りたかった、喋りたかった!
会って……サイフォンと話がしたかった……
「でも……駄目だよね……」
いま私が行っても、きっとまた迷惑をかけちゃう。サイフォンはきっと時空管理局と一緒にいてジュエルシードを探すんだろう。
そうなるとサイフォンとはほんとに敵同士になってしまう。それだけは……嫌だった……でも!
わたしはいつの間に流れていた涙を拭い顔を上げた。
(今はジュエルシードを集めて、母さんの願いを叶えることだけを考えよう。そしてそれが終わったら……叶うことなら、サイフォンとゆっくり話をしたい)
わたしは覚悟を決め、今後の動きを練っているとアルフが探知魔法妨害のための準備から戻ってきた。
「駄目だよ……管理局まで出てきたんじゃ――もうどうにもならないよ!」
「大丈夫だよ……」
「大丈夫じゃないよ!ここだっていつまでバレずにいられるか……」
アルフは不安げな表情でこちらを見てきた。
わたしの力不足でこの子にも不安な思いさせちゃってるな……
「あの鬼ババア……あんたの母さんだって、フェイトに酷いことばっかする!!――あんな奴の為に、もうこれ以上……」
「母さんのことを悪く言わないで……」
「言うよ!!だってあたし、フェイトが心配だ……!フェイトはアタシのご主人様で……アタシにとっては世界中の誰よりも大切な子なんだよ……!」
拳を握り締めるアルフの手からは血が滲んでいた。
それだけわたしのことを想ってくれてるんだ……
「群れから捨てられたアタシを拾ってくれて……使い魔にしてくれて……ずーっと優しくしてくれた。フェイトが泣くのも悲しむのも――アタシ嫌なんだよ……!」
さっきまでのわたしと同じようにアルフも泣いていた。そんなアルフの頭をわたしは優しく撫でた。いつの日かあの人がしてくれたように
「ごめんね、アルフ……。だけど――それでも、わたしは母さんの願いを……叶えてあげたいの。母さんのためだけじゃない、きっと自分のため。だからあともう少し、最後までもう少しだから……わたしと一緒に頑張ってくれる?」
「約束して……。あの人の言いなりじゃなくて、フェイトはフェイトの為に、自分のためだけに頑張るって。そしたらアタシは必ずフェイトを守るから」
「うん……ありがとう、アルフ」
その夜、2人は改めてジュエルシードを集める決意を固めた。
フェイトは愛する母の為に。そしてアルフは愛する主人の為に。
~なのはSide~
アースラから帰ってきた日の夜。わたしはお母さんと一緒に洗い物をしていた。
この後、お母さんに大事なことを話すために。
お父さんたちは外に剣術の練習に行ったから、今はわたしとお母さんの2人だけ。
お父さんなんかは絶対止めそうだから良かったのかも。
「さあ、これでお終いっと。さて、それじゃあ大事なお話って何?」
「うん……」
わたしとお母さんは台所からリビングに場所を移して、話していった。
お母さんに話したのはユーノ君に出会ってから今日までのこと。
魔法のことは言えなかったけど、言える限りのことを。
それからその為に少し家を空けないといけないこと。
そして……寂しそうな目をしたあの子のことを。
「もしかしたら少し危ないことかもしれないんだけど、大切な友達と始めたことを最後までやり通したいの」
「うん……」
「心配かけちゃうかもしれないんけど」
「それはもう!いつだって心配よ!お母さんはお母さんだから、なのはのことが凄く心配!」
そうだよね……やっぱり心配になっちゃうよね……
その言葉に止められちゃうかなって思ったけど
「だけどね」
「え……?」
「なのはがまだどっちにするか迷ってるなら、危ないことは駄目よ!って言うと思うけど。でも、もう決めちゃってるんでしょ?友達と始めたこと、最後までちゃんとやり通すって」
「あっ……」
お母さんはわたしの手を両手で包み込むと目をしっかりと合わせてきた。
「なのはが会ったその女の子と、もう1度話をしてみたいんでしょ?」
「うん……」
するとお母さんがこっちにきて頭を撫でてくれた。
「じゃあ、いってらっしゃい。後悔しないように、ね。お父さんとお兄ちゃんはお母さんがちゃんと説得しといてあげる」
「うん……ありがとう、お母さん!」
「それにそのお友達の中に、どうせサイフォン君もいるんでしょ?」
「えっ!?ど、どうして分かったの!?」
「さっきも言ったでしょ?お母さんはお母さんだからって。あの子がいるってことはリニスちゃんもいるでしょうし、それならお母さんも安心してなのはを任せられるわ」
お友達の詳しい内容はぼかしてたのに……やっぱりお母さんには敵わないなぁ
「それじゃ、今日は沢山お話ししましょうか。明日からもなのはが寂しくならないように、ね」
「うん!」
高町家のリビングは、その日遅くまで明かりがついており、なのはは家族とのひと時を過ごしていた。
~サイフォンSide~
俺はまだ日が昇らないような時間にふと目が覚めた。今日はなのは達とアースラに行く日だ。出発にはまだまだ時間がある。
俺は気晴らしに散歩にでも出ようかと思って部屋を出ると、縁側にリニスが腰かけていた。
ここからじゃその表情は良く読み取れなかった。俺はそんな彼女に近付いていくと向こうも俺に気付いた。
「おはようございます、サイフォン」
「おはようさん。早いな。出発にはまだ結構あるぞ」
「お互い様じゃありませんか」
「それもそうか」
俺は苦笑しながらリニスの横に腰かけた。
そのまま何もない時間が暫く続くと、リニスが口を開いた。
「前に言っていたプレシアのことを覚えていますか?」
「ああ」
「管理局が出てきた以上、貴方にも伝えた方がいいと思ったんです。彼女の目的を」
「ああ」
前にリニスが言えなかったこと。フェイトの母親……プレシアが成そうとしていることを。
「彼女は……プレシアは自分の娘を
「何だって?」
どこかで似たような話を聞いた気が……。死んだ娘を生き返らせようとしている……妹……ママ……
「
「――っ!?どうしてその名前を!?」
「あ、ああ。実は以前変な夢を見たんだ。それは死んだ子の魂の夢みたいで、死んだ自分を生き返らせようとしてる母親が妹をいじめてるって」
「そんなことが……」
正直俺も信じられなかった。こんな偶然があっていいのか?寧ろ何か作為めいたものを感じるが……今は捨ておこう
「リニス。もしかしてフェイトの姉の名前は――」
「ええ。アリシア・テスタロッサです。なんですが……」
「どうした?」
「サイフォン。どうか私に誓ってください。これから聞く内容がどんなものであっても、貴方はフェイトに今まで通り接してあげると」
そんなの確認しなくても――と言おうと思ったが、リニスの目はこれまで見たこともないくらい真剣だった。
「わかった、誓おう」
「ありがとうございます……。――実は……フェイトは普通の人間ではないのです」
「普通の人間ではない?」
「はい。あの子は……アリシアの情報を元に作られた
「なん……だと……。フェイトはそのことを知ってるのか?」
「いいえ、このことはフェイトもアルフも知りません。」
「そうか……」
――――クローン
元となる人物の情報からその人物の複製を作る技術。元の世界でもその技術は存在していた。クリスタルタワーに関連する事件で出会い、そして別れた。彼らは普通の人と何ら変わりなかった。そんな彼らと接していたからだろうか。俺はフェイトがクローンだと言われても嫌悪感の様な物は一切湧かなかった。
黙りだした俺を見てリニスはこちらを不安そうに見ていたが――
「安心しろリニス。俺はな、過去にクローンの人たちとも会ったことがあるんだ。あの子がクローンだからといって、あの子への態度を変えることはないと改めて誓おう」
「サイフォン……ありがとうございます……!」
「だがこれではプレシアの目的が理解できた。願いを叶える宝石と言われるジュエルシードの力を使って、死者の蘇生……あるいはそれに類することをしようとしてるのか」
「恐らくは」
これでアリシアと会った夢とも辻褄が合う。だがそうなるとフェイトは母親にいじめられてるのか?母さんの為にと頑張るあの子を……
沸々と沸きあがる感情を俺は抑え込んだ。この感情は捨てなければいけない。あの子は……アリシアは母親も助けてくれと言ったんだ。その願いを叶えるためにも今は我慢だ
俺は大きく深呼吸してリニスに向き直った。
「一先ず、フェイトやなのは達にはこの内容はまだ言わないでおこう。この事件が終わって、落ち着いた時に伝えていくか」
「わかりました」
「そろそろいい時間だな。準備をして集合場所に行くぞ」
そして俺達は出発の準備を行い、集合場所へと向かって行った。
俺達はなのは達と合流し、ジュエルシード捜索のためクロノの案内で、またアースラへと来ていた。
そして今は任務内容の通達と俺達のアースラスタッフへの紹介のため、艦の主だった面々が集まっていた。
「というわけで本日より全艦クルーの任務はロストロギア、ジュエルシードの捜索と回収に変更されます。また、本件においては特例として問題のロストロギアの発見者であり、結界魔導士でもあるこちら――」
「はい!ユーノ・スクライアです!」
「それから彼の協力者でもある、現地の魔導士の」
「黒鐵サイフォンと申します。よろしくお願いします」
俺が名乗りお辞儀をすると、何故か場が一瞬ざわついた。
耳を澄ませると、あの人がクロノ執務官を~とか、昨日と別人みたい~とか口々に言われていた。
モニタリングしてた人もいたんだろうが、昨日の一件はどうやら艦内でも話題になってたらしい。
何とも居心地悪いことだ
「皆静かに!ごめんなさいね、サイフォンさん」
「いえ、大丈夫です」
「そう。それじゃあ次に――」
「黒鐵リニスです。サイフォンの使い魔です」
「た、高町なのはです」
「以上の民間協力者4名が、事件の捜査に協力してくれます」
「「「「よろしくお願いします」」」」
打ち合わせの前に言われたのだが、意外にも完全に指揮下に入るわけではないようだ。
万が一、黒ずくめが来た時のことを考えると、自由に動けた方が都合がいいからだそうな。
後手に回った結果、最悪の事態になった……なんていうのは避けたいしな。まあ規律を乱すようなことはしないようにと、厳しく釘を刺されはしたが。
「今後の方針についてだけど、これからはジュエルシードの位置特定は私達がするわ。場所がわかったら現地に向かってもらいます」
「「「「はい!(了解)」」」」
「それまでは身体を休めたり、訓練したりして備えておいてね。艦内も立ち入り禁止以外のところは自由に歩いてもらって構わないから」
そしてその場は解散となった。俺は部屋に戻ろうとしていたが、何故かなのはも付いてきた。
「どうしたなのは?」
「うん。あのね、サイフォン君に聞きたいことがあるの」
「ふむ。なら俺の部屋に行くか」
「うん……」
そういえば昨日交渉中に、何か言いたそうにしていたがその件なんだろうか?
俺の部屋に入り2人でベッドに腰かけると、なのはは言いづらいのか黙ったままだった。
そのまま暫くのあいだ沈黙が続くと、覚悟が決まったのかなのはがこちらを向いた。
「ねえサイフォン君」
「なんだ?」
「サイフォン君は……フェイトちゃんと知り合いだったの?」
「知り合いも何も一番最初に襲われたのは俺だぞ?」
「誤魔化さないで!わたしが聞きたいのはそういうことじゃないって、わかってるでしょ……」
やはりこの子は聡明だな……しっかし、なんと話したもんか……
俺が頭を捻り考え込んでいると
「もう1つ聞いてもいい……?」
「いいぞ」
「サイフォン君は……やっぱり
「それは……」
今まで言ってこなかったことだ。ユーノと出会い、あの子がこの世界の住人じゃないと知った時から、恐らく薄々感づいてはいたんだろう。
「そうだ。俺はこの世界とは別の世界から来たんだ。でも、どうしたんだ急に?」
「前々から不思議に思ってたの。フェイトちゃんの魔法はサイフォン君の魔法と同じ感じがするって。サイフォン君の魔法の先生のリニスさんも……」
「気付いてたのか……」
「だから、もしかしたら前からフェイトちゃんと知り合ってたのかなって……。それで……わたし達に黙ってたのかなって」
そこまで気付かれていたとはな。なのはにはある程度話しておくべきか……
「なのは。お前さんには謝らないとな」
「ふぇっ?」
「確かに俺はフェイトのことを知っていた。会話をしたこともある。でもそれは、俺が襲われた日の翌日のことだ。それ以前の……俺がこの世界に来る前のあの子のことはよく知らない。だが、黙っていたのは事実だ。すまなかった……」
「うん……」
場は再び沈黙に包まれた。するとなのはが俺の手を握ってきた。
「あのね、サイフォン君……お願いがあるの」
「なんだ?」
「わたしに……フェイトちゃんのことを教えて。それと、サイフォン君が内緒にしてたことを」
「――中にはどうしても喋れないことがある。それでもいいか?」
「うん。話せることでいいから……教えて」
「わかった」
それから俺はなのはに、フェイトと初めて会った時のこと。あの子が母親の為に頑張っていたこと。それからリニスがフェイトの母親の使い魔で、俺が彼女と一緒にジュエルシード集めにおいて中立の立場でいたことを話した。流石にアリシアの話やクローンの話は出来なかったが……
「黙っていて悪かったな。俺自身もそうだったが、彼女を――リニスをフェイトやお前さん達の敵にはしたくなかったんだ」
「うん……」
「お前さん達の期待を裏切るような真似をしてすまなかった……だが俺は――なのは?」
なのははベッドから立ち上がり俺の正面に立つと、顔を両手で挟んできた。
その表情には怒りや悲しみの色は無く、穏やかな物だった。
「大丈夫。わたしはサイフォン君を怒ったりなんてしないよ。内緒にされてたのは寂しかったけどね」
なのはは、にゃははと笑うと、真っ直ぐにこちらを見つめてきた。
「サイフォン君が中立の立場になってた時も、わたし達を大事に想ってくれてるのはわかってたよ。あの時も……
「――なっ!?」
「やっぱり……そうだったんだね」
しまった……これじゃ自らばらした様なものだ。リニス以外には言うつもりも無かったんだが……
「どうして……気付いたんだ?」
「うん。最初にお見舞いに行った帰りにね、お父さんが目を覚ましたって連絡が来た時に、もしかしたらサイフォン君が一緒にお見舞いに行ったからかもって、冗談で思ってたんだけど。お医者さんからはそれからも順調に回復してるって言われてて、まるで軌跡でも起きたんだと思ってたの。でも、わたしは今実際に奇跡みたいな力を使っててサイフォン君もそれを使えるから……」
「なるほど……魔法との出会い、それと俺も魔導士だと知ってあの時に魔法を使ったんじゃないかと思ったのか。やれやれ、ほんと末恐ろしい子だよお前さんは……」
この子には敵わんな……この調子じゃ何もかも見透かされそうだ
「だからね、あの時はお父さんを助けてくれて……わたしに寂しい想いをさせないようにしてくれて……ほんとうにありがとう……!」
「なのは……」
目の前の少女は泣きながらも笑顔で笑っていた。
俺はそんな彼女の頭を泣き止むまで優しく撫でてやった。
「もう、いいのか?」
「うん、大丈夫。ありがとうね、サイフォン君」
泣き止んだなのはは泣いているところを見られたのが恥ずかしいのか耳まで真っ赤になっていた。
「わたしね……サイフォン君」
「ああ」
「あの子と……フェイトちゃんと友達になりたいんだ」
「いいんじゃないか?あの子もきっと喜ぶさ」
「だといいんだけど。……だからね、もしもの時は」
「任せろ。俺がなんとか助けてやる。だから安心しろ」
「うん!」
俺はその後、なのは部屋まで送ると部屋まで戻った。
フェイトはアルフがついているとはいえ、一人ぼっちだ。その出生からすると友もと呼べる者もいないだろうし、何より母親に虐待をうけている。
そんなあの子を――
「俺は救えるんだろうか……」
その問いに答える者は誰もおらず、部屋に響くのみだった。
詰め込み過ぎて海のやつ入れらんなかった。次回で海やってその次は……うん。あれですな