~サイフォンSide~
はやての誕生日から3週間が経過していた。あれからも彼女達は仲良く過ごしているようで、はやてからはよくメールで連絡が来ていたのだ。
俺の方も様子見がてらはやての家に行く機会を増やしたりしているので、ヴォルケンリッターの面々とも最初の警戒していた時と比べ、それなりに仲良くなっていた。
シグナムやザフィーラは相変わらず寡黙だが表情は穏やかな物になっていた。ヴィータは八神家に菓子の差し入れを持って行くと心底美味しそうに食べてくれるので、持って行き甲斐があった。なんだか餌付けしてるみたいではあったが
シャマルにはちょくちょく料理を教えている。あの時感じた勘は間違っていなかったようで、シャマルの料理の腕前は壊滅的だったからだ。なのはに続いて二人目の生徒の誕生だ。
その他にあったこととしては、なのは達と一緒にフェイトに定期的にビデオメールを送ることになった。折角友達になったのに裁判の間、何も連絡が取れないというのもかわいそうだということで、リンディさんの計らいでやり取りができるようになったのだ。
なのははすずかやアリサ達にもフェイトの事を話して、皆で友達になろうと考えているようで撮影の時には2人を呼んでいるようだ。俺の方は最初はリニスに遠慮して彼女だけ撮影していたんだが、フェイトの返事のビデオメールで俺とも話したいといわれて、それからは参加するようになっていた。
様子を聞くに保護責任者のリンディさんの元で良い子にしているようで、普通の生活をおくれているようだ。アリシアも元気なようで、フェイトと仲睦まじく過ごしているようだ。
そんなことがあり日々退屈しない生活を送っている中、今日はミッドチルダ式の名前の元にもなっている第1管理世界ミッドチルダの管理局本局に来ている。何故そんなところにいるのかというと、クロノに依頼していた施設の利用許可が下りたのだ。今はクロノの案内で件の施設、<無限書庫>へ案内されている。
「忙しい中わざわざ悪いな」
「息抜きも兼ねてるからね、気にしなくていいよ。入館証も渡しておくからなくさないようにしてくれ」
「了解。――そういや裁判の方は調子はどうだ?」
「フェイトの方に関しては心配しなくてもいい。元々あの子は利用されていただけだし、ほぼ確実に無罪になるだろう。今も保護責任者の母さんや僕達の元で問題なく過ごしているしね」
「そうか……」
恐らくクロノが上手いことやってくれたのだろう。今まで酷かった分あの子には幸せに過ごしてもらいたいものだ。だがフェイトに関しては……か
「君に依頼されていた方に関してだが、まだ少し時間がかかりそうだ。その変わり、新しく分かったことがある」
「どんなのだ?」
「プレシアの発言と当時実験に携わっていた人間からの聴取で分かったんだが、実験に際して十分な安全が確保されていない中、上からの圧力で実験が強行されたそうだ」
「そんなことが……。そうなるとプレシアは全ての責任を押し付けられた可能性があるわけか」
「裁判記録を見るに恐らくは。まだ他にも裏を取る必要はあるがそういった状況だということは認識しておいてくれ」
「わかった――ありがとなクロノ」
根が深そうな問題だが、今は本職のクロノを信じて待つしかないか……
その後はここ最近のフェイト達の様子を聞いたり、なのはのことを話していると、目的の場所に辿り着いた。
「こりゃ――すごいな」
「初めてみると皆そういった反応をするよ」
部屋の前で中の様子を覗いていたが、地球ではまずお目にかかれない光景だった。アーテリスにあったグブラ図書館よりも更に本が多く、内部には重力が無いのか人や本が浮かんでいた。
「あれ?クロノに――サイフォンさん!?」
「よお、ユーノ。元気にしてたか?」
「やあ」
かつての事件で知り合った緑髪の少年ことユーノが驚いた様子でこちらに近寄ってきた。
「いったいどうしてここへ?」
「ちょいと調べ物があってな。クロノに頼んでここの使用許可をもらったんだ」
「そうだったんですね。僕はここの司書になりましたから、よければ調べ物のことを手伝いますよ」
「そりゃ助かるが……仕事はいいのか?」
「今はそこまで忙しいわけでもないので大丈夫ですよ」
「そうか……悪いな。助かるよ」
これだけ膨大な量の本の中から探すとなると、時間がいくらあっても足りないだろうからな。
「それじゃ僕はまだ仕事があるからこれで失礼するよ。帰る時にはユーノに言って転移してもらってくれ」
「わかった。またなクロノ」
「ああ。また」
クロノが退出したのを見届けて俺は早速本探しに入ろうとした。
「サイフォンさんは何を調べようとしてるんですか?」
「そうだな。ロストロギアのことを調べようと思ってるんだ。それもベルカのものだ」
「ベルカのロストロギアですか……。でも急にどうしたんですか?」
「また前みたいに海鳴市にロストロギアが来た時の備えの為だな。事前に知っておくことで少しでも早く事態の収拾ができるようにしときたいんだ。ベルカなのは……まあ半分俺の趣味だな。ベルカ式を使ってるからそっちの方が知りたいってだけさ」
「そうだったんですね。わかりました、それじゃあロストロギア関連の本が多くあるところに案内しますね」
「頼む」
俺はユーノの案内で無限書庫内を進んで行った。書庫内はかなり広く案内無しでは迷子になりそうなほどだった。
「にしてもとんでもなく広いな。お前さんはどうやって本を探したりしてるんだ?」
「僕達の部族はこういった調査や探索といったことが得意で、それ用の魔法も用意してるんですよ。無限書庫みたいな本の調査には検索魔法と読書魔法を使ってますね」
「なるほどな……。なぁユーノ。その魔法、俺にも教えてくれないか?」
「いいですよ。それじゃあ実際にベルカのロストロギア関連の本を探しながら練習しましょうか」
俺達はロストロギア関連の本が多いエリアに付くと早速検索魔法を使って探していった。
無限書庫は膨大な量の本があり、調べ物にはうってつけに見えるが現実はそう甘くないらしい。何でも本が多すぎて殆ど整理されておらず、調査を行うにもチームを組んで年単位で行うらしい。
そこの司書になっているあたり、ユーノは同年代の子供と比較してもやはり優秀なのだろう。
教えてもらった検索魔法は、指定した範囲内の対象の文字――この場合は表紙の文字を読み取り、設定した文字と一致するようならその本を手元に引き寄せるというものだ。ユーノはこれに翻訳の魔法も混ぜたりして、あらゆる本に対応しているらしいが俺は覚えたてなのでミッドチルダとベルカで使われていた文字を基準にした。
読書魔法は魔法で複数の本のページをめくり、その際にページに書かれた内容をスキャンして脳内にインプットするものだ。魔導士は普段からマルチタスクで魔法を行使したりしているので簡単なように思えたが、頭に入ってくる情報量が多すぎて慣れないと直ぐに疲れるそうだ。
実際俺も数冊試しただけで疲労感が凄かったが、ユーノはやはり慣れてるだけあって次々と本を読み進めていった。
この日は夕方までユーノと一緒に探していたが、これといった成果は上げられなかった。まあ今回はユーノに教えてもらった魔法の練習になったと思っておこう。
ユーノに帰還用の手続きをしてもらうために俺達は無限書庫を出た。すると背後から何かがこちらに走ってくる気配を感じた。特に敵意も感じなかったので俺はのんびりと振り向こうとしたが――
「サイフォン!!」
「ぐえっ」
突然背中に何者かが突撃してきた。俺は倒れないように身体を支えると、突撃してきた人物に目を向けた。
「アリシア?お前さんなんだってこんなとこに」
「久しぶりサイフォン!それと、それはこっちの台詞だよー!来てるなら連絡してくれれば良かったのに!」
「いや、まさか本局にいるとは思わなかったからな」
「クロノから貴方がここにいることを聞いて連れてきたのよ」
アリシアの駆けてきた方向から声をかけられ、そちらを向くとそこには
「リンディさん、貴方でしたか。どうも、ご無沙汰してます」
「久しぶりねー。ビデオメールで見てはいるけど、元気にしてたかしら?」
「健康そのものですよ」
前回の事件でもお世話になった、次元航行船アースラの艦長ことリンディさんがいた。
「アリシアと貴方がいるってことは――」
「ええ、もちろん彼女もいるわよ。ね、フェイトさん」
「……」
リンディさんが後ろを振り向くと、その陰に隠れるようにしてフェイトがこちらを覗いていた。
「よお、フェイト。元気にしてたか?」
「う、うん……元気にしてたよ」
フェイトはおずおずといった様子でこちらに近付いてきた。
こうやって直接ゆっくりと話すのも久しぶりだな。
「フェイトってばなにもじもじしてるの?サイフォンが来てるなら会いたいーって言い出したのフェイトじゃない」
「おっ、お姉ちゃん!!」
「なんだ、そうだったのか。とはいえ、ビデオメールで見たりしてるからそんなに久しぶりって感じでもないんじゃないか?」
「ううん。わたしはこうやってサイフォンと直接会いたかった。だからこうして会えて嬉しいよ」
「そっか……」
折角友人になったのにすぐ離れることになったからな。再会を喜んでくれてるなら嬉しい限りだ
「じゃあ手続きは僕の方で進めておくから、サイフォンさんはフェイト達とゆっくり話してて」
「おう。悪いな」
ユーノが気を利かせて先に行ってくれたので、俺はお言葉に甘えることにした。
「サイフォンは今日はどうしてこっちに来たの?」
「ああ、ちょいと調べ物があってな。クロノに頼んで無限書庫を使えるようにしてもらったんで早速来たんだ」
「調べ物ー?何調べてるの?」
「ロストロギアのことだよ。ジュエルシードみたいに海鳴市にまた来ても困るからな。事前に色々調べようと思ってな」
「へー、そうなんだぁ」
暢気そうなアリシアの返事に俺は苦笑しつつ、その後も互いの近況について話を広げていった。
「そうか……フェイトは嘱託魔導士試験の勉強か」
「うん。実技系は問題ないだろうってクロノが言ってたから、今は筆記の勉強中」
「アリシアは今は魔法の勉強中なんだったか?」
「うん!前より魔力量がかなり増えたから、制御できるようにならないとねって」
アリシアは俺とジュエルシードの力で蘇ってから、魔力量に変化があったのだ。元々はEクラスだったのが今ではA+まで跳ね上がっているそうな。なのはやフェイト達程ではないとは言え、同年代の中でも相当高いそうだ。
「フェイトさんも来てくれるし、なのはさんも近々試験用の勉強をするみたいだから、あともう1人優秀な人材がいてくれたら大助かりなのよねぇ」
「そりゃ大変そうですね。頑張ってください」
「あら、つれないわねぇ」
「何度も言われてたらそうもなりますよ」
俺は肩を竦めてやれやれと首を振る。クロノはたまにだが、リンディさんにはしょっちゅう勧誘を受けてるからだ。
するとフェイトが俺の服の裾を掴み、こちらを見上げてきた。
「サイフォンは嘱託魔導士にはならないの?」
「今はまだ……な。やりたいこともあるし、将来どうするかはっきり決めるまでは保留って感じだ」
「そうなんだ……。でもわたしも――なのはも、サイフォンが来てくれて一緒に働けたら嬉しいな」
そう言って微笑むフェイトの顔を見て俺は心の中で小さくため息をつく。どうにも俺はこの子達には弱いらしい
「まあなんだ。前向きに考えてはおくから、気長に待っててくれ」
「うん……!」
「いいなーフェイトは。わたしも早くサイフォンと一緒に働けるくらいになりたいなぁ」
「お前さんはまず魔法の基礎を固めて魔力を制御できるようにならないとな」
「ぶー。わかってるけどさぁ」
「そういやアリシア。お前さんデバイスはどうするかはもう決まってるのか?」
確かフェイトのデバイスはリニスが作ってたが、この子のも彼女が作るんだろうか?
「え?うーん……特に考えてなかったけど……。そうだ!サイフォン、わたしのデバイス作ってよ!」
「んぁ?」
「えっ!?」
唐突なことすぎて頭が追い付いてなかった。フェイトも驚いた様子でアリシアを見ていた。
「リニスに聞いたけどサイフォンもデバイス作れるんでしょ?ならわたしのも作ってよ!」
「作ってよって――簡単に言ってくれるなぁ」
「そうだよアリシア。サイフォンだって調べものとかで忙しいだろうし」
「えー。サイフォン――駄目?」
背中にくっついていたアリシアは正面に回り込むと、上目遣いで瞳をうるうるとさせながらこちらを見ていた。
「はぁ――俺もやることがあるからな。その片手間でもいいならいいだろう」
「ほんと!?」
「あくまで片手間だからな。時間がかかるってことだけは覚えといてくれ」
「うんうん!全っ然大丈夫だよ!ありがとうサイフォン!!」
アリシアは抱き着いて頭を腹にグリグリと押し付けてきた。つくづく甘いなとは思いつつも、こうして頼られるのも悪くないなと思う自分がいた。
「いいなぁ」
「ん?なんか言ったか、フェイト」
「う、ううん!なんでもないよ。なんでも……」
「そうか?」
歯切れが悪いのが気になったが、本人がなんでもないと言ってるんだし気にしないでおくか
その後も会話に花を咲かせているとユーノが迎えに来たので、そこで俺達は別れることになった。
暫くは無限書庫に通い詰めになるだろうし、その時にまた時間があればフェイト達と話をするのも悪くないな。とはいえ、メインは闇の書の事だ。はやての為にも急がないとな
サイフォンは決意を新たに本局を後にした。
――その様子を遠くから観察している存在に気付くこともなく。
次回はヴォルケン回かなと。前日譚編はもう2,3回やって本編入りできるといいなぁ
でも次回作候補でもある世界樹Ⅲもやりたいし悩ましいですね。