~サイフォンSide~
リニスと使い魔契約を交わし後、俺は今のこの状況について尋ねた。
「そういえばお前さんが連れてきてくれたこの家なんだが、ここはいったいどこなんだ?」
「ここは海鳴市という場所にある、とある老夫婦の住むお屋敷の一室ですよ」
「老夫婦?」
「はい。サイフォンが眠っている間に少しだけお話したのですが、おふたりとも良い人達でしたよ」
まあ見ず知らずの人間に部屋を貸して休ませるくらいだ。何か企んでいるかお人好しのどっちかだ
その点、リニスが大丈夫だと思っているあたり裏があることもないだろう
「一応貴方が目覚めたら伺うと伝えておいたのですが……」
言い淀んでいたリニスに視線で先を促すと
「今、私達は倒れた貴方を介抱するためにこの家の場所を借りてお邪魔している状態です。本当のことや魔法のことを言うわけにもいきませんし、口裏を合わせておきませんと」
「なるほど、そういうことか。確かにこの辺一帯からは魔法の気配みたいなものは感じられないな」
「そのとおりです。実際、あの2人からも魔力を感じることはありませんでしたから」
ということは恐らく管理外世界とやらなのかもしれない
当面は魔法絡みの危険は無いとみてよさそうだ
「ちなみに、その口裏合わせだがリニスの方で何か案はないか?」
「そうですね……あるにはあります」
「どんな案か聞いてもいいか?」
「はい。まず私達の身の上ですが、とあるお屋敷に武術を教えるべく奉公していました。それで弟分であるサイフォンを養いつつ住み込みで働いていたのですが、ある日突然解雇を言い渡されます。その結果路頭に迷い住む場所を探している中、サイフォンが倒れてしまったため、2人に助けを求めたというものです」
真実に似た内容も混ざってるしあながち間違いではない。
養われてるという内容が何とも情けない限りだが、この見た目では仕方あるまい
「分かった。その案で事情を説明するとして今後はどうしようか……」
「お2人にはご迷惑かもしれませんが、新しい働き口が見るかるまでは厄介になるのはどうでしょうか?」
「まぁこんな年若い娘が路銀もなく、見知らぬ世界で働き口を探すってのも無理があるか。駄目元で頼んでみるとしようか」
「ええ。では会話はそのように」
話は纏まったので立ち上がり部屋を出ようとしたのだが、リニスはその場でんー、と唸っていた
「どうしたんだリニス?」
「いえ、先程年若い娘と言ってましたが。サイフォン、貴方は何歳なんですか?」
「え、そりゃあ……」
28歳だよと言いかけて今の自分の姿を思い出した。
今は10代前半の姿になっているのだった。
本当のことを言っても余計に混乱するだろうし、何より面倒だったのでここは誤魔化すことにした
「12歳だよ。見ての通りさ。そんなことよりさっさと……」
「お待ちなさい」
ガシッと肩を掴まれ逃げられなくなってしまう。
てか力強っ!
「貴方は妙に大人びてるというか、態度が年齢にそぐわないのです。私の目を見て言えますか?本当に外見通りの年齢なんですか?」
「ああ、勿論だとも。これが嘘をついている目に見えるか?」
俺はリニスの目を真っ直ぐ見つめ返してみせる。
こういうやり取りは慣れているんだ。誤魔化すくらい造作もない
――と思っていたがその目論見は思わぬ形で破れることになった
「サイフォン、良いことを教えて差し上げましょう」
「良いこと?」
「使い魔と主は精神がリンクしていて主の感情が分かったり、なんとなくですが考えていることが分かったりするのですよ」
まずい。非常にまずい。なにがまずいかというと目の前のリニス
冷汗が止まらず身体が動かない。
さながら蛇に睨まれた蛙の様だ。この場合は猫とネズミが正しいか
「では改めてもう一度問います。貴方は、何歳ですか?」
「……」
「…………」
「わかった!わかった!悪かった、降参だ!」
「漸く観念しましたか」
彼女はやれやれと首を振り呆れていた。
精神リンクの事は今後頭に入れておかないとまた墓穴を掘りそうだ
「俺にもまだわかってない部分があるからな。詳細は言えないが、本来なら28歳だ」
「私よりも年上だったのですね。どうりで年上を相手にしているような気分だったわけです」
子供っぽい部分もあるみたいですが、と加えていたがほっとけ
「そういうお前さんは何歳なんだ?」
「私は18歳ですよ」
「なるほど、年相応の見た目ってことか。若干それよりか大人びた印象だったが」
年の割にはリニスはしっかりしているように見えた。
家庭教師も務めたぐらいだ。自分でも言っていたがやはり使い魔として優秀だったのだろう
さて、といい彼女はこちらの肩から手を放し先へ促した
「そろそろお2人のところへ行きましょう。心配かけているかもしれませんし。貴方の年齢に関しては誤魔化していた12歳ということにしておきましょう」
「へいへい」
そう言い2人は部屋を後にした
先程までいた部屋は2階だったらしくリニスの後に続き階段を下りていき、そのままついていくと目的の場所についたのか立ち止まると
『いざとなったらこれで話を合わせてください』
突然頭の中にリニスの声が響いてきたのだ。
「これはいったい……」
『念話です。魔力を込めて相手に対して言葉を念じてください。そうすれば言葉を発しなくても会話が可能です』
そんな便利な魔法があったのか。
話だけ聞くと簡単にできそうだが……
『……こうか?』
『よくできました。それでは中に入りますよ』
思った以上に簡単で拍子抜けだったが、これもこの世界ならではなんだろうか
「
「おお、入ってくれたまえ」
「「失礼します」」
部屋に入るとそこはお茶の間のようであり畳が敷き詰められていた。
そんな中テーブルの向かい側には2人の老人が座っていた。
片方は白髪交じり坊主刈りの男性。
もう片方は綺麗な黒髪のロングヘア―の女性だった。
この2人が先程リニスが名を呼んでいた人達なのだろう。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
「いやいや、別に構わんよ。困ったときはお互い様じゃ。ささ、2人とも座りなさいな」
「「ありがとうございます」」
老人……
座りながらもう片方の女性……
そんな中で思ったのは
(この2人結構強そうだな……)
恐らく
今も2人はニコニコとしていたが戦う者特有のオーラは隠しきれていなかった。
この様子だと隠そうとしていないだけかもしれないが
「改めてご紹介いたします。ほら」
「あ、うん。サイフォンと申します。助けていただきありがとうございました」
「あらあらこれはご丁寧に。まだ小さいのにこんなにしっかりしているなんて、リニスちゃんの教育のお陰かしらね」
「そんな、滅相もありません!」
リニスは顔の前で手をぶんぶん振ってるがそりゃそうだ
本来ならこちらの方が年上なのだが、そんなことは言える筈もないのだから
老夫婦はそんなリニスの様子を微笑ましく見守っていた。
「ふぉっふぉっふぉ。おっと、そうじゃった。儂らも自己紹介せんとな。儂の名は
「
「こちらこそよろしくお願いします」
正直12歳の子供として振舞うのは無理がある...というか正直キッツイんだが……
いつかボロが出そうだなーなんて考えているとリニスに肘で小突かれてしまった。
「それで、リニスちゃんや。そろそろ何があったか話せそうかの?」
「はい。この子ともちゃんと話し合って決めました。お2人に事情を説明しようと思います」
それからリニスは先程口裏を合わせた内容を、真実味が増すように多少脚色しながら伝えていた。
というか主に対しての私情が結構入ってないか……?
「というわけで、私達は現在一文無しなうえに宿無しの状態なのです。無理を承知でお願いしたいのですが、どうか働き口が見つかるまで私たちを置い「かまわんよ」て……えっ」
最後まで言い終わる前に爺さん……
「そんな若い身で家族を養うために1人でよく頑張ったわね……」
「うむ。本当によくできた娘さんじゃ」
「あの……お願いしている身でなんですがそんな簡単に決めてしまっていいのでしょうか?」
「構わん!これでも人を見る目には自信があってな。そも君たちが何か悪いことを企んでいたらこうして家にはあげておらんよ」
カッカッカと
「リニスちゃん、住む家だけじゃなくて働き口について1つ提案があるの」
「提案……でございますか?」
「ええ、そうなの。リニスちゃんは武術を教えてたらしいし、実際その実力も高そうだから。貴女さえよければ私達の経営している道場で先生として働いてみないかしら?」
こちらとしては願ってもない話だが、何故ここまで良くしてくれようとするのかという疑問も湧いてくる
リニスも同じことを思ったのかこちらにちらりと視線を向けてくる。
『それとなく理由を聞いてみてくれないか?』
『わかりました』
「奥様と旦那様の提案はとても嬉しく思うのですが、なぜ見ず知らずの私達にそこまでよくしてくださるのでしょうか」
2人はキョトンとした表情をしていたが、直ぐにこちらの質問の意図を察したのか苦笑していた。
「急すぎてすまないね。私達の家は実はずっと子宝に恵まれなかったんだ。流石にもうそんな年ではないからね。だから子供のことを諦めていたんだが、そんな中で君たちが来てくれた」
「私達は子供のいる生活というのに憧れがあったから、嬉しくってつい気が急いじゃったのよ。ごめんなさいね」
2人はバツが悪そうに笑っていたが、その様子からは噓を言っているようには見えなかった。
恐らく本心なのだろう
『リニス。ここは2人の好意に甘えよう。この2人は大丈夫だ』
『わかりました。私も同意見です』
「疑うような真似をしてしまい申し訳ありません。先程のご提案、謹んでお受けいたします」
「いやいや、こちらこそ先生の提案を受けてくれてありがとう。これからよろしく頼むよ2人とも」
「「よろしくお願いします!」」
これで当面の生活については何とかなりそうだな
「そういえばリニスちゃんや」
「何でしょうか、旦那様?」
「そんな堅苦しい呼び方じゃなくでもええんじゃよ。一緒に生活するんじゃしお父さんでも構わんぞ!」
「ちょっと、あなた。あなたばかりずるいですよ。リニスちゃんだけじゃなくサイフォン君もお母さんって呼んで構わないのよ」
「は、はぁ。わかりました」
2人とも本当に嬉しそうにしているのですっかり毒気が抜かれてしまった。
リニスも心なしか嬉しそうだ。
これでは変に疑っていたこちらが馬鹿みたいだ。
やれやれと思っていたら突然脳内で警鐘が響き渡った。面倒な予感がするぞと
「それで、
「お父様……」
「コホン。質問というのはだね、サイフォン君もリニスちゃんと同じように武術を身につけておるのかの?」
「えっと……」
「なに、言いにくいことじゃったらええんじゃ。ただあの年にしてはえらく尋常ではない気を感じるというか。おかしなことに歴戦の戦士に似た何かを感じるんじゃよ」
この爺さん勘づいてたのか。実力があるのはわかっていたがそこまで見抜いたか
いや、そもそも子供の身体だからそのあたりの力の制御がうまくできていないのか……?
『どうします?』
『言わなくていいとも言ってるんだし、事情は言わずに武術を嗜んでることだけ伝えよう』
「申し訳ありませんがこの子の事情については私の口から語ることはできません。ただ、武術については私がかつての仕事の合間に教えていました」
「なるほどの。ふむ、折角の才を眠らせておくのも勿体ない。どうじゃ、サイフォン君さえよければ儂らの道場に通ってみんか?」
道場通いか。日常生活では対人戦の機会は殆どないだろうし、感覚を取り戻すためにも通うのは悪くないな
「お邪魔でなければ通わせていただきます」
「うむ、そうでなくてはな!じゃあリニスちゃんの初出勤時に一緒に行くかの」
「わかりました。当日はよろしくお願いします」
「リニスちゃんと同じでそう堅苦しくなくてかまわんぞい」
「わかったよ、
よっぽど嬉しいんだな
そんな訳でリニス共々、黒鐵家に世話になることになった。
その後は部屋はどうするだの、今夜は宴だと騒いでいたりと凄く賑やかだった。
父親に母親……ね。まさか別の世界で
そんなことを思いながら自分にあてがわれた部屋へと戻っていった。
次回はお勉強会。(道場はどうしようか)
多分もう2話位であの子を出すかも