~ヴィータSide~
約1ヶ月程前の10月27日。きっとその日がアタシ達の運命の分岐路ってやつだったんだろう。
その日は、はやてが通院する日で皆で病院に行っていた。そしてその日の夜にアタシ達4人は、はやてに内緒で集まってシグナムとシャマルがはやての主治医の石田先生から聞いた内容を告げた。
石田先生からは、前にはやての足の病気は原因不明の神経性麻痺だと聞いていた。その麻痺が徐々に足から上に進行していて、内臓機能の麻痺にまで発展する危険性があるらしい。
アタシ達は皆で話し合って1つの結論に至った。はやての病気の原因は闇の書にあるのだろうと。闇の書に秘められた強大な力が、まだ未成熟なはやての身体を蝕んで呪いの様に浸食しているんだと。
そしてはやてが闇の書の持ち主として認められたことで、今まで緩やかに進んでいたそれが加速していった。
僅かではあるけど、アタシ達守護騎士を維持するために魔力を使っているのも要因の1つかもしれないとシグナムは言っていた。
はやてに死が迫っていることを聞いて、アタシは自然と涙が零れていた。
信じたくなかった。優しかったはやてが死んじゃいそうなことも、アタシ達の存在そのものがはやてを苦しめているんだということを……
でも……だからこそ――っ!
「はやてを――助けなきゃ!!!」
アタシは流れる涙を抑えることもせず、あらん限りの声で叫んだ。
何がなんでも……例えどんなことをしてでも、はやてを――アタシ達の優しい主を守らなきゃ!!
皆暗い表情で顔を下げていたけど、アタシの叫びを皮切りに覚悟を決めた顔をしていた。
「……。シグナム、どうする?」
「――
唯一つの道。それは、はやてを闇の書の真の主として覚醒させること。はやての病気が闇の書を制御できていないことからきているんだとしたら、闇の書を完成させて真の主として認められれば、その力を制御して病気の進行を止められる筈だ。
アタシ達は直ぐに行動に移った。日付を跨ぎ夜もすっかり更けた時間に廃ビルの屋上に集まり、各々のデバイスを構えた。
「主の身体を蝕んでいるのは、闇の書の呪いとも言えるようなその強大な力だ」
「はやてちゃんが闇の書の主として
「我らが主の病は消える――少なくとも、進みは止まる……!」
「はやての未来を汚したくないから、人殺しはしねえ――だけど……それ以外なら!!」
アタシの言葉を最後に、世界を渡る転移魔法陣を起動するとそれぞれがはやてにデザインしてもらった騎士甲冑を身に纏った。
「申し訳ありません、我らが主。唯1度だけ――貴方との誓いを破ります!」
シグナムの決意の一言の後にアタシ達はその日、闇の書の魔力蒐集の為に世界を渡った。
集めるのは人間ではなく、リンカ―コアを有した特殊な生物から蒐集していたけど、やっぱり人間より効率は悪かった。
それでもはやてやサイフォンに怪しまれないように全員ではなく、日々誰かが魔力の蒐集に出向くことで、結果としてページは半分弱集まった。
サイフォンは遊びに来る時に若干訝しんではいたけど、シャマルが闇の書の力を借りて隠蔽魔法をかけていたから、闇の書の魔力は溜まっていないように見えていただろう。友達を騙しているようで気は引けたけど、そうも言ってられないからな
そして、
この街にはサーチした限り、大きな魔力反応が大まかに3つある。一際大きいのは恐らくサイフォンだろう。蒐集できれば大幅にページを稼げそうだが絶対にそんなことは出来ない。
アイツはアタシ達にも普通に接してくれたし、この世界のことを教えてくれたりもした。飯も美味いしな。何よりはやての大事な友達だ。そんな奴から奪うような真似はしたくない
2つ目に大きいのはサイフォンと魔力反応が似ていたことから、恐らくアイツの守護獣だろう。確か前に話した時にいるって言ってたしな。だからこれも除外。
最後の1つ。2つ目とは差が殆どないけど、これもかなり大きい。今日、アタシ達はこの魔力を蒐集する。
今まではサイフォンとその守護獣のどちらかが街にいて、街中で目立ったことは出来なかったが、今日はそのどちらもいない絶好のチャンスだ。
サイフォンの事だからこの魔力の持ち主の存在に気付いてそうだけど、どうして放置してるんだろうな?
――いや、今はそんな細かいことはどーでもいい。とにかくサイフォン達に気付かれない内に魔力を蒐集して、一刻も早く闇の書を完成させる。今考えるのはそれだけだ。
アタシは街の中心地から広域探査の魔法を使い、魔力反応を探した。案の定、魔力反応は以前確認したのと同じものがあった。
《大型魔力反応を発見しました》
「おう。――やるぞ、グラーフアイゼン」
《
目標を逃がさないように結界魔法を発動して、アタシは直ぐに魔力反応のある方に向かって行った。
魔力反応は最初に発見した位置から徐々にこっちの方に向かっていた。向こうも結界に閉じ込められていることが分かってるだろうし、戦いやすい場所に移動しようとしてるんだろう。
(進んでる方角的にアタシの位置はバレて無さそうだな。それなら――)
アタシは魔力反応が向かっているであろうビルの真上に先回りして上空に待機した。
出てきた瞬間を一気に叩いて直ぐに終わらせてやる。あんまり時間をかけてサイフォン達と鉢合わせるわけにもいかないからな。
待つこと数分。魔力反応が上に登ってきているのが分かる。もうすぐだ
そして屋上のドアが開け放たれた瞬間、はやてと同じ位の年齢の子供が出てきた。とはいえ、あれだけの魔力反応があったんだ。デバイスみたいなのものあるし、きっと魔導士――油断しないで全力で叩き潰す……!
「先ずは一発――行けえええええ!!」
《Schwalbe fliegen》
アタシは拳よりも一回り大きなサイズの鉄球を召喚し、アイゼンで思いっきり叩きつけた。
予め組み込まれた魔法の効果によって、打ち出された鉄球は紅い軌跡を帯びながら目標に向かって高速で向かっていった。
《来ます。誘導弾です》
「――っ!?くっ、ううううううううう!」
バリアを張られてもそれごとぶち抜けるように撃ったつもりなのに、目の前の相手はバリアを展開したまま耐え凌いでいた。
やっぱ一筋縄じゃいかないか。なら次の手を打つだけだ!
相手は今も初撃を防ぐのに意識を割いている。そこでアタシは奴の後ろに急接近し、アイゼンに魔力を盛大に籠めて思いっきり振り抜いた。
「はっ!?」
「でやああああああああああああ!!」
初撃の誘導弾を左手で防ぎつつ、アタシの放った一撃は右手で受け止められた。でもアタシの一撃はそんなもんじゃ止まらない……!!
アタシはアイゼンを振り抜くと、その勢いのまま身体を回転させて更に魔力を上乗せさせた一撃をお見舞いした。
「テートリヒ――シュラーーーク!!!」
凄まじい衝撃音と共にバリアとアイゼンが激しく激突した。バリアとアイゼンが激しく魔力の火花を散らしながら拮抗していると、足場の方が耐えきれなくなって屋上の一角が破壊された。相手は崩れる足場諸共落下していたけど、手応えが無かった。恐らくアタシの攻撃の勢いを利用して逃れたんだろう。
瓦礫に紛れて落下していく姿を確認したアタシは、追撃をかけるべく追いすがった。
「レイジングハート――お願い!!」
《Standby Ready. Setup》
落下していく中で相手はデバイスらしきものを握り締めて叫んでいた。バリアジャケットを展開される前に仕留めないと面倒だ……だったら!!
アタシは指の間に3個の鉄球を召喚してそれを放ると、アイゼンでまとめて叩きつけた。
《Schwalbe fliegen》
「せやあああっ!」
放たれた鉄球は三方向から目標に向かっていき、命中すると派手な爆発音を上げて炸裂した。
まともに喰らえば撃墜は免れない一撃だ。
――でも
「ちっ、やっぱり空戦魔導士か」
「いきなり襲いかかられる覚えはないんだけど!どこの子――何でこんなことを!」
相手は健在でバリアジャケットを展開していた。
何か言ってるけど関係ねえ。アタシのやることは目の前の魔導士をぶちのめして、魔力を蒐集することだけだ!
アタシは指に次弾を2発準備して一気に距離を詰めようとした。
でも流石に相手もこのままなにもしないってわけにはいかないらしく、魔力スフィアを展開して迎撃してきた。
「教えてくれなきゃ――分からないんだから!!」
拳大のスフィアからは十分な魔力を感じた。そして思った以上の速さで迫ってきたスフィアに対してアタシはバリアを展開して防御に回った。
すると初撃を受け止めている間に反対方向からいつの間にかもう1つの魔力スフィアが向かってきていた。
さっきの意趣返しって訳かよ……上等じゃねえか!!
アタシは最初のスフィアを受け止めているバリアを解除して一瞬だけ得意な防御魔法、《パンツァーヒンダネス》を展開した。
アタシを囲うように出現した多面体のバリアは2方向からの攻撃を完全に防いでいた。
着弾と同時にかなり大きな衝撃が来たけどこの程度ならなんともねえ
バリアに衝突した衝撃で発生した煙に紛れるようにアタシはアイゼンを構えて突撃した。
「っんのやろおおおお!!」
「話を――聞いてってばー!」
《Divine Buster》
「――なっ!?」
反撃が来るのは予想していたけど問題はその攻撃だ。馬鹿みたいな大きさの砲撃がチャージも無しに放たれたのを見て、アタシは突撃を中断して即座に回避行動に移った。
間一髪のところで砲撃を避けることはできたけど、回避した拍子に帽子が飛ばされて
はやてがデザインしてくれたアタシの騎士甲冑の帽子には、アタシの大好きなのろいウサギが付いていた。
その帽子があいつの砲撃によって霧散した。
それを見た瞬間アタシの中で何かがキレた。
よくも――よくもやってくれたな!!!!
「――っ!?」
「グラーフアイゼン!!ロードカートリッジ!!」
《Explosion. Raketenform》
アタシの呼び掛けに応えたアイゼンはカートリッジをロードすることで、ハンマーフォルムから強襲形態のラケーテンフォルムに姿を変えた。
ハンマーの先端は鋭利なスパイクが、その反対側にはロケットの推進機構が出現した。
変形を確認したアタシは魔力を高めてアイゼンから噴射させ加速すると、さっき以上の速度で突撃した。
「なっ!?」
「ラケーテン!!」
「はっ、速い!」
「でりゃああああああああああ!!」
相手も強襲してくる相手に慣れてるのか逃げるのが結構上手かった。
でも、その程度の速さじゃアタシとアイゼンは振り切れねぇぞ……!
徐々にその距離が縮まって射程圏内に捉えたアタシは、身体を回転させて遠心力を付けると一気に肉薄した。
「ハンマアアアアアアアアアアア!!!」
「ぐっ、うううううううううう――っ!きゃあああああああああああ!?」
アイゼンの一撃は相手の展開したシールドを穿ち、デバイスに罅を入れるとそのまま地面に叩き落とした。
アタシはまだ続いている加速に更に魔力を籠めて速度を上げ、さっきみたいに遠心力を付けると、魔導士を叩き落とした位置に向かって急降下してアイゼンを振り下ろした。
「でえええええりゃあああああああああああ!!!」
《Protection》
「くっ!?」
相手はシールドを張って防ごうとしたけど、その防御はピキピキと音を立てて今にも割れそうだった。
アタシはさっきの怒りを込めてアイゼンに魔力を更に送り込み、推進機構の噴射を爆発的に高めた。
「ぶち抜けええええええええええええええええええええ!!!!」
《Jawohl!》
「きゃああああああああああああ!!」
アタシの渾身の一撃は相手のシールドを砕き、その衝撃で勢いよく近くの噴水まで吹き飛ばした。
相手は完全にダウンしたようで、立ち上がってこない様子を見てアタシはさっきまでの怒りが冷めていくのを感じた。
やりすぎた感じもするけど直撃の瞬間、バリアジャケットが事前に弾けていた。多分あれで威力を緩和してるみたいだし生きてるだろう
アイゼンから使ったカートリッジを排莢して倒れた魔導士に近付くと、アタシは闇の書を手元に呼び出した。
「う……ああ……」
「闇の書――蒐集」
「うっ!?く……あああああああああ!!」
「…………。っ!?」
目の前の魔導士から魔力を蒐集していると、結界内に誰かが入り込んでいることを感知した。でもこの魔力反応……かなり大きいくせに今まで感じたこと無いやつだ。
アタシの張った結界はあくまで中にいる奴を閉じ込めるためのものだ。そのためか外から入ってくるのは簡単だ。
もしかしたらコイツを助けに来た仲間かもしれない……
《接敵まで、あと16秒》
「ちっ、こっちはまだかかるってのに」
《問題ありません。将が来ました》
「シグナムが?――それに、シャマルとザフィーラまで」
アイゼンからの報告と同時に近くにシグナム達の魔力反応を感じた。でかい魔力反応を狙うことを話したから応援に来たのかもしれない。
実際あまり時間はかけてられない。サイフォン達に勘づかれる前に急いで――
「サイフォン……くん……たす……け……」
「っ!?」
今――何て言った?
コイツはもしかしてサイフォンの知り合いなのか……?
だとしたらアタシは、はやての大事な人の――アタシ達の友達の身近な人を傷つけたことになる。
迂闊だった。あのサイフォンがこんな大きな魔力反応を見過ごす筈がない。となると考えられるのは親しい間柄の人物か、或いは放っておいても問題ないと判断したか。
だけど今回は恐らく前者だ。闇の書の完成を焦ったせいでそんなこと考えもしなかった……
でも、もう手遅れだ。それならやれるだけのことはやっておかないと……!
取り返しの付かないことをしたことに手が震える中、アタシは覚悟を決めた。
(今はとにかく魔力を蒐集しきって、シグナム達と合流しよう。その後は痕跡を隠しきって直ぐに離脱しなきゃ……!)
ヴィータが魔力蒐集に集中している中、結界内では新たな戦いが始まろうとしていた。
相変わらずの気まぐれ亀更新ですがA’s完結までは何とかやりきりたいですね