~サイフォンSide~
――コンコンコン
道場から帰ってきて部屋で寛いでいると控えめなノックの音が響いた。
「サイフォン、ちょっといいですか?」
「リニスか。入ってくれ」
「失礼します」
「どうかしたのか?」
「ええ。貴方のカリキュラムを作るにあたって聞きたいことがあるんです」
リニスは部屋に入ってきて目の前に座り告げた。
例の一流魔導士(騎士)育成計画の事か
別にそこまでガッチリしなくてもいいんだがなぁ
「聞きたいことってのは?」
「貴方は以前、戦闘スタイル的にベルカ式の方が合っていると言っていましたね。そこで貴方が今までどういった感じで戦っていたのか、教えて欲しいのです。それによって覚えた方がいい魔法を決める参考にしますので」
「そういうことか……。んー、正直あてにならない気がするんだがなぁ」
「それはどういう?」
「実際に見せた方が早いか」
そういって俺は立ち上がると竜騎士にジョブチェンジした。
リニスは驚きで目を見開いていた。
「今いったい何をしたのですか!?それにその姿、あなた変身魔法なんて使えたんですか?」
「いや、俺は変身魔法なんて使えないぞ。ジョブチェンジといってな、これで扱う装備や戦闘スタイルを変えているんだ。」
「なるほど……あなたの世界ではそれが普通だったんですか?」
「いや、普通ではない……というか一般的ではないな。ジョブチェンジするにはソウルクリスタルという、そのジョブ......まあ侍やナイトみたいな職業って言えばいいのか? それらが持つ技術や技能を封じたクリスタルが必要なんだ。俺はそのクリスタルから力を引き出して装備を変え、そのジョブの技を使うんだ」
「ですがそのソウルクリスタルというのはどこにあるのですか?見当たりませんが」
リニスはこちらをジーっと見つめている。
まるで手品の種を明かそうとしているようだ
「それが……俺にもよくわかってないんだが、どうやら俺の身体の中にあるみたいなんだ」
「身体の中……ですか」
「ああ。ただ文字通りソウルクリスタルが身体に埋め込まれてるとかそういったわけじゃなく、内側にあるというか身体に溶け込んでいるというか……説明が難しいな」
「リンカ―コアの様に身体の内にあるということでしょうか?」
「そのイメージでいいかもな」
確かにリンカ―コアも身体の内にあるような感じだし、似たようなものだろう
「話を戻すぞ。そんなわけで俺はいろんな戦闘スタイルにジョブチェンジするから、相手に合わせて得意なレンジを変えて戦っていたことになるな。だから覚える魔法の参考にー、なんて言われても多分全部になってしまうぞ」
「それならなぜ貴方はベルカ式が合ってると言ったんですか?」
「まあいろんなジョブになって戦うとは言ったが、得意なジョブや不得意なジョブもあったりするんでな。俺の場合はクロスレンジのジョブが得意だったからベルカ式の方が合ってると思ったんだよ」
「そういうことでしたか――わかりました」
まあこの分ならベルカ式が得意とするクロスレンジで有用な魔法を覚えていくことになるんだろう、と思っていたがその考えが
「では授業では
「……は?」
「当然じゃありませんか。言った筈です、貴方を一流の魔導士……騎士に育て上げると!貴方の戦い方を十全に活かすにはベルカ式で必要なクロスレンジだけではありません。ミッド式で使うようなミドルレンジからロングレンジの魔法も覚える必要がありますね」
「あのー、リニスさん?」
「そうなると結界魔法や治癒魔法、補助魔法も覚えないといけませんね。変身魔法が使えないと言ってましたし、そちらも必要になってきますね」
だーめだこれ。完全にスイッチが入ってる
今もぶつぶつ呟きながらメモを取っている。
そっとしておこうと思い部屋を出ようとしたが腕を掴まれた。
嫌な予感がする
「いろんな戦闘スタイルがあると言っていましたが、まだその槍を持っているのと普段の刀しか見ていませんね。他の物も全部見せてください」
「えっと……今か?」
「はい、今です」
笑顔が怖いぞリニスさんや
「戦闘スタイルの確認がしたいだけなら戦闘ジョブ以外は別にいいよな?」
「おや、戦闘以外にも使うジョブがあるのですね。それはいいことを聞きました。ではそれも見せてください」
完全に墓穴を掘ってしまった
リニスは今も笑顔でこちらの腕を逃がさんとばかりに掴んでいる。
というか足に黄色い輪っかがいつの間にか付いていて動かせなくなっていた。
「……」
「…………」
「はい……」
結局、夕方になるまでずっとリニスに付き合わされることになった。
俺、ほんとにこの使い魔の主なんだよな……?
「ったく、まさか生産職に採取職まで見せることになるとは思わなかった」
そうぼやきながらサイフォンは散歩に出ていた。
当のリニスはいいデータが取れました、期待しててください!とかいって自室に戻っていった。
これから地獄のようなカリキュラムでも作るのだろう
リニスから解放された後は手持ち無沙汰になり、黒鐵夫婦もまだ帰っておらず夕飯まで時間もあるので、探索も兼ねて外に出たのだ。
(こうして外を出歩いているとやはり別世界だということを実感するな)
モンスターもおらず、武器を携帯しなくても安全に外を出歩ける。
他にも道場に行く際には、アーモロートで見たような巨大な建造物の姿もあった。
家や店のデザインもいろいろあるし、つくづく元の世界とは違うんだな
(そういえば、道場への通り道に公園の看板があったな)
グリダニアではどんぐり遊園という子供達の遊び場があったが、この世界ではどんな感じなのやら
元の世界との違いを見るのが割と楽しかったので、そのまま足を運んでみることにした。
「ほー。意外と変わらないものだな」
大きさはどんぐり遊園とは比べ物にならないくらい広かったが、子供達が遊ぶ遊具らしきものが置いてあるのは変わらなかった。
前の世界と似たような遊具もあり、なんだか懐かしかった。
もう夕方だからだろうか。辺りに子供達の姿はほぼなかった。
そんな中、公園を一周でもしようかと思い散歩を続けていると公園の一角に目がいった。
周りに子供達がいない中、ベンチに1人ポツンと座る少女がいたのだ。
今の俺よりも小さいから恐らく5,6歳位だろうか。
その横顔は暗く俯いているようだった。
(面倒ごとには関わらないに限るんだが……)
はぁ――とため息をつきつつも少女の方へと歩みを進めていた。
どこかの誰かさんのほっとけない病のせいだろう
この時、アーテリスで光の戦士が盛大なくしゃみをしていたのはまた別のお話
「隣、失礼するぞ」
「ふぇっ?」
いきなり声をかけられると思っていなかったのだろう。
目の前の少女はキョトンとしていた。
その少女を尻目に空いている部分に腰を下ろす。
こちらのことが気になっているのか、チラチラこちらを見ていた。
とりあえず、まずは直球で聞いてみるか
「お前さん、なんで悲しそうな顔をしてたんだい?」
「え……?」
「言いたくなきゃいいんだ別に。散歩の途中で気になったから声かけただけなんでな」
「……」
「お前さんが何を悩んで悲しんでいるのかは分からんが、誰かに気持ちを吐き出すだけでも楽になるかもしれないぞ。俺に聞かせるのが嫌ってんなら独り言でもいいさ」
後はこの子次第だ。黙って立ち去るなら俺にできることはもう何もない
そのままなら……まあ喋るまで待ってみるか
夕飯は最悪間に合わなかったらリニスに連絡しよう
「……」
「…………」
そのままお互い暫くの間沈黙が続いた。
そしてそれを先に破ったのは少女の方だった。
「わたし……今ひとりぼっちなんだ」
「ああ」
「お父さんが大怪我で入院しててね……お母さんもお仕事忙しくって……」
「そうなのか」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんも、お手伝いと看病で家にいなくて……」
「ああ」
なるほど、この子は寂しいのか。
まだ小さい子なのに家族と一緒にいられる時間が少ないのではそうもなろう
「でももう大丈夫」
「なに……?」
「
そう微笑む少女の顔は、言葉とは裏腹に寂しそうだった。
最初に見た悲しそうな顔と大差ないぞ……
そして1人で全部抱え込んでしまうこの感じ、
その瞬間この少女を放っておくという選択肢が無くなった。
「なあ、なのはちゃんや」
「ふぇっ?」
「俺は最初、お前さんが悲しそうだったから声をかけたって言ったな」
「う、うん……」
「お前さんさっき、もう大丈夫って言ったよな」
「……うん」
「じゃあなんでお前さんは今、そんなに悲しそうな顔をしてるんだ……」
「それ……は……」
少女は……なのははその先を言うことはなかった。
言ってしまえば今まで我慢してきたものが崩れてしまうのだろう。
俺はそんな彼女の頭を優しく撫でてやった。
頭に触れた瞬間ビクッと反応していたが、拒絶されることはなかった。
「泣きたい時は泣いていい、寂しい時は寂しいって言ってもいい。家族に言って迷惑をかけたくないっていうなら……俺に言え」
「え……?」
「俺が、お前さんの悲しみや寂しさを受け止めてやる。だからもう我慢なんてしなさんな」
そう言って彼女の頭を撫でながら微笑みかけた。
「あ……ああっ……――うわあああああああああああああああああん!!!」
その瞬間、堰を切ったように彼女は泣きだしこちらに抱き着いてきた。
俺はそれを受け止めそのまま頭を撫で続けた。
「お父さん……ぐすっ……なのは良い子にしてるから、早く戻ってきて……うっ……お母さん……お兄ちゃん、お姉ちゃん……寂しいよう……」
「大丈夫だ、俺がついてる。お父さんもきっとよくなって、なのはの元に帰ってくる」
そのまま暫くの間、泣きじゃくる彼女を慰めていた。
「もう平気か」
「うん……」
泣き止んだ彼女は隣で気恥ずかしそうにしていた。
まあ見ず知らずの人の前であんだけ泣けばそうなるか
「あの――ありがとうございました」
「なーに、気にしなさんな。俺が好きで勝手にやったことだ」
頭を下げる彼女に俺は手をひらひらと振る。
実際途中からは私情が入りまくっていたからな
「わたし、なのは。高町なのはっていうの。なのはって呼んで」
「おう。俺はサイフォンっていうんだ。よろしくな、なのは」
互いに握手をすると、なのはが急にもじもじしだした
「あの――その。えっと……」
「うん?どうしたんだ」
「さっき……その。寂しかったら言えって、言ってくれたよね」
「ん?あー、そうだな」
割と勢いで言ってしまった感が否めないが、まあそれぐらいならお安い御用だ
「それで……あの。私と……」
「私と?」
「私と――お友達になってください!!」
今日聞いた中で一番大きな声だった。
先程まで泣いていた少女とは思えないくらいハッキリとしていた。
「うーん」
「あの……駄目……かな?」
「いや、駄目ってこたあないんだが。いいのか?俺なんかで」
「うん……サイフォン君がいいの」
「そうか」
愚痴を聞く役ぐらいだと思っていたがお友達か
リニスは使い魔だし友達とは違うから、この世界での友達第1号だな。
「わかった。俺でよければ友達になろう、なのは」
「わあー!ありがとう!これからよろしく、サイフォン君!」
改めて握手をするとなのはは嬉しさのあまり腕をぶんぶん振っていた。
本来はこれぐらい元気で明るい子なんだろうな
『サイフォンー。そろそろ夕飯の時間ですから戻ってきてください』
『リニスか。わかった、すぐ戻る』
いつの間にか結構時間が経っていたようでリニスから念話が飛んできた。
辺りもそろそろ暗くなりそうだ。
「なのは、俺はそろそろ帰るけど家は近いのか?」
「ちょっとだけ遠いかな」
「そうなのか」
なら送っていった方がいいだろうな
『リニス、友人を家まで送っていくから少し遅れると伝えてくれ』
『友人って……家を出てからの間に何があったんですか』
『まあ機会があれば話すさ。頼んだぞ』
『分かりましたよ。使い魔づかいの荒いマスターです』
急に黙ったこちらをなのはが不思議そうに覗き込んでいた。
「もう暗くなりそうだし家まで送ろう」
「えっ!いいの?」
「1人じゃ危ないからな。あまり遅くならないうちに行くか」
「うん!こっちの方だよ!」
なのはは機嫌よくスキップしていた。
俺も遅れないよう後に続いた。
「ここだよ!ここが私のおうち!」
「おー、立派なもんだなぁ」
なのはの家は黒鐵の家よりは小さいが、大き目な和風の家だった。
「うちにはねえ、道場もあるんだよ!前はお父さんたちが使ってたんだ」
「そうなのか。中々興味深いな」
何かの武術でもやってる一家なんだろうか。少なくともなのはからはそういった気配は感じなかったが
そしてなのはは玄関の前で立ち止まると
「ねえサイフォン君」
「ん?どうした」
「今度はいつ会えるかな?」
「うーん、そうだなぁ」
今のところ遠隔で連絡を取れるのはリニスだけだ。
この世界にも魔法以外にそういった連絡手段があればいいんだが
「なあ、なのは。離れていても連絡を取る方法ってあるか?」
「それって電話の事?」
「あー、分からんが多分それだ。それを使うには何が必要なんだ?」
「サイフォン君のおうちの電話番号が分かれば私の方からかけられるよ」
「家のその番号は分からんなぁ……」
念話でリニスに確認してもらってもいいが後から口裏を合わせるのが大変そうだしやめておこう
遠隔での連絡手段については
「どのおうちか分かれば番号は調べられると思うの」
「それじゃあなのは。なのはが会いたい時は黒鐵
「黒鐵?もしかしたらお兄ちゃん達が番号知ってるかもなの」
「そうか。じゃあ兄ちゃん達に聞いてみてくれ」
「うん!」
これで連絡手段に関しては大丈夫そうだな。
「それじゃあなのは。俺は帰るよ」
「うん。またね、サイフォン君」
「おう、またな」
なのはに手を振りその場を離れる。
少し進んだ先でふと振り返ってみると、なのはがまだこちらを見送っており、振り向いたのに気づくとまた手を振ってきた。
友達……か。
折角この世界でできた初めての友人だ。大事にしないとな
なのはに手を振り返すと今度こそ帰路についた。
漸く出すことができた。
次回はまた原作キャラがでるやも