~サイフォンSide~
なのはとの邂逅から数日がたった。
あれからいろいろなことがあり、日々目まぐるしく過ごしている。
まず、リニスのカリキュラム作成が終わったこともあり、本格的な魔法の授業が始まった。
元の世界でも魔法を扱っていた影響もあってか、覚えるのが早かった。
リニスも「やりがいがありますね!」とかいって腕を捲っていたがお手柔らかに頼みたいものだ。
そして授業で判明したのが、エーテルをこの世界の魔法に込めると効果が上がるという物だった。
逆も然りで、元の世界の魔法に対して魔力を込めると威力が上がっていたりした。
単純にブースターとして使うのもいいが、魔力とエーテルを交互に使い、長期戦をするというのもよさそうだ。
そして授業ではリニスの作った簡易的なデバイスを使っていた。
どうやら召喚魔法とやらで自前の素材を呼び出し、作り上げたらしい。
かつての教え子のデバイスも作ったことがあるので造作もないとのことだ。
魔法に関しては今のところは簡単な射砲撃、魔力付与や防御の魔法を教わった。
飛行魔法に関しては軽く触れたぐらいだが、慣れるのには時間がかかりそうだった。
一応、魔法陣を足場にする方法を教えるそうなので当面はそちらを使った方がいいだろう。
ちなみに魔力光は黒だった。
授業関連についてはこれぐらいだろうか。
次に日常生活。
あれから日常で着る服を買ってもらったり、携帯電話という物を買ってもらった。これで魔法を使わなくとも遠隔で連絡が取れるようになるらしい。
あの2人には頭が上がらないな
道場にもたまに顔を出しに行ったりしていた。
当然ながら今のところ負けなしだ。
リニスはというと、あれ以降何度かオスティルと手合わせしているがあちらも負けなしだ。
それどころか彼以外の師範代も軒並み倒しているらしく、早くも師範代筆頭の座にいる。
我が使い魔ながら末恐ろしいことだ。
話は変わり、今度はなのはのことだ。
なのはともあれ以降交流が続いており、度々電話で呼ばれては遊びに行っている。
幼少期に友人と遊ぶといったことが無かっただけに新鮮だった。
時折なのはの家が経営している喫茶翠屋にもお邪魔したりした。
初めて行った日には、なのはの母親である桃子さんが快く迎えてくれた。
そしてなのはの友達になってくれてありがとう、と礼を言われてしまった。
余談だが、友達になった日からなのははよく家で俺のことを話しているらしいことを桃子さんが言っていたが、それを聞いたなのは顔を赤くしながらお母さん!と怒っていた。
店を手伝っていたなのはの兄、恭也は最初こそ警戒していたが今ではそれなりに仲良くなっている。
恭也は黒鐵の道場にも行った事があるらしく、そこの家に厄介になってることを話したら今度手合わせしようと言われたが「気が向いたらなー」とだけ伝えておいた。
他になのはには美由希という姉もいるらしいが、そちらにはまだ会ったことが無かった。
まあそのうち会う時があるだろう。
父親である士郎さんはまだ入院中とのことだ。
今度お見舞いにでもいければいいんだが……
高町家との交流はそれぐらいだろうか。
平穏な日々を過ごしていたそんな中、今日は町の図書館に来ていた。<海鳴市立図書館>というらしい。
なんでそんな場所に来たかというと知見を広げるためだ。
この世界の常識、歴史。あらゆるものの知識が無さすぎるのでそれを知るためにリニスとも時々一緒に来ていたのだ。
まあ彼女は現在道場の方で指導に当たっているので今は不在だが。
ふらふらと今日読む本を物色している時に、
「んっしょ。んーっしょ!」
車椅子に乗った茶髪のボブカットの少女が、必死に腕を伸ばし上の方にある本を取ろうとしていたのだ。
周りを見ても人はおらず、自分だけしか彼女に気付いていなかった。
(まあ、これぐらいなら手間でもないか)
そう思い彼女の方に近付くと、取ろうとしていた本を取り出し差し出した。
「これでよかったか?」
「あっ……えっと。ありがとうございます」
彼女はペコリと頭を下げてきた。
よく見ると手元には今取った物の他にも数冊の本があった。
この分だと他にもありそうだな
「他にはどの本が欲しいんだ?」
「えっ?」
「ついでだ。他に欲しい本があるなら取るぞ」
「でもええん……いいんですか?」
「構わんさ。読む本を探すついでだし、気にしなさんな」
「ほならお世話になります。わたしは
「サイフォンだ。短い間だがよろしくな、はやて」
お互いに軽く握手を交わし本の散策に出る。
はやてはいろんな本を読むらしく手元にあったのも含め、小説、童話、漫画と種類が豊富だった。
「それと……それもお願いします」
「分かった」
彼女の車椅子から手を放し本を手に取る。
途中本がいっぱいで大変そうだったので移動を引き受けたのだ。
「これぐらいやろか。サイフォンさん、ありがとうございます」
「そうか。なら読書スペースに行くか。それとはやて」
「はい?」
「別にそんなにかしこまらなくてもいいぞ」
「え、そやけど……」
「遠慮しなさんな。別に気にしないさ」
「――わかった......ほならサイフォンさん、もう1個お願いしてもええか?」
「ん?なんだ」
「サイフォン兄ちゃんって呼んでもええやろか?」
「それぐらいなら別に構わんが」
「やった!おおきに!」
偶々図書館で会った子とここまで話すとは思わなかったな。
苦笑しながらはやての方を見ると、本を抱きかかえながら機嫌よさそうにしていた。
「俺はその辺でさっき見繕った本を読んでるから、また新しい本が欲しかったら呼んでくれ」
「ほんまありがとうな。その時は頼りにさせてもらうわ」
そして2人は思い思いの場所で読書を始めた。
「ふう。これで全部か」
持ってきた本を全部読み終わり、窓の外に目を向けると辺りはオレンジ色に染まっていた。
はやての方に目を向けるとあちらも丁度読み終わったのか、こっちに気付くと控えめに手を振ってきた。
「俺は読み終わったけどそっちはどうだ?」
「うちも全部読み終わったよ。ほんま本を読んでるとあっという間やわ」
「そうだな。よし、じゃあ俺が片付けておくからお前さんは帰りな」
「えっ」
はやての家がどれくらい遠いかわからんが、距離によっては親御さんが心配するだろう
そう思いはやての読み終わった本を持っていこうとすると、はやてに服の裾を掴まれた。
「ちょっ、ちょお待ってぇや」
「うん?」
「それじゃサイフォン兄ちゃんに悪いわ。せめてうちが本を持つから、サイフォン兄ちゃんは棚に本を戻してや!」
そういうとはやてはこちらが持っている本を搔っ攫うと、意地でも渡さんと言わんばかりに本を抱きかかえた。
これは説得が難しそうだな
「はぁ......わかった。ならその役割分担で行くか」
「分かってくれたならええんや」
満足げに頷くはやてに苦笑しながら俺達は図書館を周り本を返していって外に出た。
すると辺りはもう薄暗くなっていた。
「悪いな、つき合わせちまって」
「ええんよ。そもそもあれはわたしが返さなあかん本だったんやから」
こちらの時間は大丈夫だが、はやての時間が心配だったので聞いてみることにした
「でもよかったのか?暗くなってきたし親御さんが心配するんじゃないか?」
「大丈夫だよ。――
「なっ――」
家に誰もいない。少し似た話は最近聞いたがこの子の場合は違う。
文字通り本当に
「すまん……無神経なことを聞いたな」
「ううん、わたしはもう気にしてへんから。それに普通はいると思うし仕方あらへんよ」
気にしていない。そう言うはやての顔色は実際、今日話していた時と変わっていないように見えた。
俺にはそれが却って歪に感じた。
「なあ、サイフォン兄ちゃん」
「なんだ?」
「まだお願いがあるんやけどええかな?」
「時間がかかるようなことは駄目だぞ。ただでさえ1人で危ないんだ」
まあ多少時間がかかっても家まで送るくらいならしようと思ってたので問題ないんだが
大丈夫や――と言い、はやては車椅子を自分で動かし、ゆっくりとこちらを向いた。
「あんな。わたしと友達になってくれへんやろか」
「それは……」
「今日少しだけどサイフォン兄ちゃんと一緒に過ごして、サイフォン兄ちゃんが優しい人だっていうのが分かったし、なによりわたしが仲良くなりたいって思ったから。わたしの足はこんなだし、家族もおらへんから友達が誰もおらんくてな……だから!」
天涯孤独。この少女はいったいどれだけ1人でいたのだろうか。
家族に甘えることも出来ず、友と語らうことさえできなかった。それはかつての自分を見ているかのようだった。
かつて孤独だった俺はまだ光の戦士と呼ばれていなかったウルカに手を差しのべられ、そのお陰で友と呼べる者や仲間ができた。
だが、今目の前にいる少女にはそういった手を差しのべてくれる存在がいない。
それではずっと孤独なままだ。
かつての彼女と同じことができるとは思わない。だが、その孤独を和らげることくらいはできる筈だ。
――気持ちは固まった。
「サイフォン兄ちゃん?」
はやてが不安そうにこちらを見上げていた。
どうやら長いこと考えこんでたらしい。不安げな彼女の頭を軽く撫でてやり、しゃがんで目線を合わせた。
「俺でよければその申し出を受けよう。友達になろう、はやて」
「ほんまに。ほんまにええんか?」
「ああ。これからよろしく頼む」
「――うん。うん!これから友達や」
そして互いに握手を交わした。
まさかこんな短期間に2人目の友人ができるとは思わなかった。
「そうと決まったら早く帰ろうか。家まで送るぞ」
「ほんまか!ありがとうなー」
そのまま帰りながら連絡先の交換(はやてはケータイを持っていた)をしながらたわいのない会話をしていた。
そしてマルチタスクの練習も兼ねて会話中にリニスに念話を送った。
はやてを送る分、帰りが遅れそうだったしな
『リニス』
『おや、サイフォン。もうすぐ夕飯の時間ですよ。いったいどこに……』
『わるい、友人を家まで送っていくから遅れると伝えてくれ』
『またですか……そんなに遅くまでいて、なのはさんの家にもご迷惑でしょう』
『いや、なのはじゃなく別の人だ』
『…………』
『リニス?』
念話越しだが何だかため息をついているような気がする。
主に使い魔の感情は入ってこないんだがな
『サイフォン。貴方はもしやそういった趣味が……?』
『まてまてまて!どうしてそういった思考になる!?』
『貴方の元の年齢を考えればそうもなりますよ』
『ぐっ……だがなのはの時も今回も向こうから言われてそれに応じたんだぞ。断じて俺からじゃない!』
『やれやれ……どう口説いたのかは知りませんが、程々にしてくださいよ』
『おい、絶対分かってないだろ!主人の話をちゃんと聞け!』
それ以降リニスから反応は返ってこなかった。
解せぬ……
「ここがわたしのおうちやで」
「結構大きいな」
はやての家は1人で住むには大きすぎるように見えた。
そしてその家の中の方からなにか違和感...微かに魔力の残滓の様な物を感じるが気のせいだろうか。
一応記憶の片隅に入れておくとして
「その足でこんなにでかい家に住んでて大丈夫なのか?」
「通いのヘルパーさんを呼んどるから大丈夫やでー。お金の方もな、お父さんの友人のグレアムおじさんって人が遺産の管理とかしてくれてるから」
「そうか……なにか困ったことがあったら呼んでくれ。できる範囲で力になるからよ」
「うん。ありがとうなー」
「それじゃ俺は帰るよ。またな、はやて」
「ほななー」
はやてに手を振りその場を後にした。
はやての家から帰っている道中、先程感じた違和感について考えていた。
彼女からは魔力を感じるが普段使っているような感じはしなかった。もし普段から使っていたならこちらにも気付いてそうなものだしな。
もし、家にお邪魔する機会があれば聞いてみようか。
はてさて鬼が出るか蛇が出るか……
若干の不安を覚えながらもサイフォンは帰路についた。
ちなみにリニスにははやてのことを根掘り葉掘り聞かれた挙句、盛大なため息をつかれた。
解せん