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ホームに着くと、輝夜は息を荒くして膝をついた。
「なんだあの化け物は?!」
どうやらさっきの女性の覇気とでもいうべきものに圧倒されていたらしい。
「だから喋らなかったんですか? 別に喋っても殺されませんよ」
「お前は、アレを相手に何をしてるんだ?!」
「あの距離なら何かしようとしてきても、首を落とせますから」
何より、いつかの竜に比べれば大したことはない。
冒険者が、黒竜をなかなか倒せずいるのも納得である。
封印から覚めたばかりの瀕死の竜ですらあれ程だったのだ。片目が潰されているだけで、これまで活動していた竜が弱いわけがない。
「それにしても、結局敵か味方かわかりませんでしたね」
「私も知らない人間だった。オラリオ側であるなら一度は見たことがあるはずだ。あれほどのやつなら……すれ違う事があれば忘れん」
「そうでないあの女性は、敵として仮定して考えるべきだということですね」
「そうだ。……くそ、私もびびってないで名前くらい聞いておけばよかった」
そういえば名前を聞くのを忘れていた。輝夜が知らなければ、オラリオの人間ではないだろうと思って考えもしなかった。他に誰か知っている人がいるかもしれないのに。まあ特徴は覚えている。アストレア様に神々の中で共有して貰えばいいだろう。
「で、お前はアレに勝てるのか?」
「私ですか……あの人はおそらく魔導士というやつです。しかも、剣や拳を使えるような。技術で負けるようなことは絶対にありませんが、隔絶した力の差というものはどうにも覆せませんからね」
「勝てないと?」
「近づければ負けませんが、遠くから一方的に嬲られたら勝てませんね」
私の技術は切ることできる距離にないと発揮できないのだ。冒険者様のように剣からビームなるものが出たり、斬撃を飛ばしたりするなどという攻撃はできない。
タケミカヅチ様曰く、古代には我流で
「正直に答えてくれ、アレと私はどれくらい戦えると思う?」
「そうですねぇ」
輝夜とあの女性の間には、文字通りレベルが違いすぎるであろう事はわかった。技術面は実際戦ったわけでも、見たわけでもないのではっきりした事は言えないが…………。
「不意打ちが決まって、しっかりと刀を振る事ができれば腕の一本使い物にならなくさせる事はできると思います」
Lv 3以上の人間がどれだけ硬いのかわからないからなんとも言えないが。まあ、竜よりは硬くないだろう。
「
「私でも切れるようになると思うか?」
「切れますとも。ちょっと工夫は必要ですが、私みたいな非力な人間でも切れるんですから」
これくらいは当然ですと続ける。
簡単ではないが、やってやれない事はないのだ。
【ステイタス】のない私でもそれができるなら、それがある輝夜はもっと簡単にできるはずだ。力や速度は私よりもあるのだから、上手くそれを刀に伝えることさえできれば他の物も簡単に切る事ができるようになるだろう。
「今夜アストレア様に【ステイタス】を更新していただく」
「成長してるといいですねぇ」
「……あれだけ切られたし切ったんだ。成長してるに決まっているだろう。あわよくば、スキルか発展アビリティが増えて欲しいところだ」
「たとえステイタスに現れなくても、私との鍛錬は絶対に無駄ではありませんよ。数値に現れるものが全て、なんてことはないのですから」
私がもし
私にスキルが発現するとしたらどんなのだろうか? 少し気になる。
「輝夜! 夜切!」
「おや主神様がいらっしゃったようですよ輝夜」
「っ! ……主神様自らお出迎えさせるなんて、私もずいぶん偉くなったことで」
「その状態で言っても格好つきませんねぇ」
「うるさい」
「いいのよ。それよりも大丈夫だったかしら?」
アストレア様が輝夜のところへ駆けて行き、背中をさすりながら問いかける。どうやらかなり心配していたようだ。確実に輝夜よりも強い人間と、もしかしたら戦うかもしれないのだからその心配も納得というもの。
「戦闘になることなく帰ってきました。輝夜は当てられてしまったようですが」
「ひとまず、椅子に座りましょう? 夜切、輝夜に肩を貸してあげて」
「承知しました……輝夜、ほら手を出してください」
「悪いな……んっ」
あの程度でここまでなってしまうとは……全く情けない。
私は輝夜に肩を貸し、リビングへと運んでやった。
「なんだ? そんなにジロジロと見て」
風呂に入った輝夜は相変わらず薄着である。あまりにだらしないので、子供達には風呂上がりすぐに服を着るようによく教えた。反面教師というやつである。
「下着で動き回るものじゃありませんよ。あと、なんでその身体からあんな力が出るのか不思議に思っただけです」
この細腕で私の腕など簡単に握り潰せると思うと、全く不思議でたまらない。組み手もしてみた事があるが、勝負にならなすぎてすぐにやめてしまった。
なぜ急所を殴っているのに 平然としているのだろうか。その時の輝夜の表情と言ったら…………私は久しぶりに恐怖を感じた。
「あらあら、私の身体に興味がお有りで?」
「輝夜の身体というか、神の血の方に興味がある」
二柱の神の血を混ぜて人間に恩恵を与えたらどうなるんだろうか。爆発でもするんだろうか。
「なんだ、つまらん。襲ってやるくらい言えないのか?」
「私が押し倒したとて、返り討ちに合うだけですよ……」
「私が受け入れるかもしれないだろ」
「ははは、受け入れてくれるんですか?」
「さぁな」
もしかしたら、とニヤリと笑いこちらに寄ってくる。
私は身の危険を感じてアストレア様を呼ぼうと口を開こうとした。
「こうやって、逆に襲ってしまうかもしれんな」
しかし、息を吸ったところで輝夜に口を抑えられたことで、動けなくさせられてしまう。
「んー! むむむー! むむむむー!」
「ん? そんなに声を上げようとしても誰も助けには来ないぞ?」
なんで私は組み伏せられてるのかさっぱり理解できない。
本当にどいてくれ。アストレア様だとかファミリアのメンバーに見られて困るのは私なのだ。
「輝夜そろそろ話を…………あら、お邪魔だったかしら」
「アストレア様っ?! これは!」
「けほけほっ」
危うく窒息させられるところであった。私の身体能力があまりにも、あまりにも弱すぎる。一般人目線で見れば私も大概なはずだが、恩恵があると次元が違うようだ。
この問題を解決できないと、いざという時に厳しいか?
「リオンさんに見られなくて良かったと思うべきではないでしょうか?」
「少し黙れ」
「これ、私悪くないと思いますが?」
「仲がいいとは思っていたのだけど、そういう仲だとは思っていなかったわ」
アストレア様は、少し恥ずかしげに言う。輝夜は死んだ目で沈んでいる。私はそれを冷たい目で見ている。
「ひとまず、あの人について情報を共有しましょう」
「そうね。じゃあお願いできるかしら」
アストレア様は私たちに話すよう促す。
「では、私から。歳は二十代中盤から後半。灰色の髪に黒のドレス、外套を羽織っていました。雰囲気からしておそらく魔導士でしょう」
「それに加えて、推定Lvは6以上と言ったところでございましょう」
「私がみた所大病に侵されているようで、長時間の行動は難しいと思われます。とはいえ、暴れられたらかなりの被害が出る事は間違いありません」
わかった事はこれくらいでございます。と輝夜が言う。
名前は? と言う顔をしたアストレア様であったが、私と輝夜が首を振ったと事で何か察したようだ。
申し訳ありません……。
「……分かったわ。これからロキとフレイヤに会ってくるの。伝えておくわ。アリーゼたちが帰ってきたら、あなたたちが伝えてくれるかしら?」
「承知しました」
じゃあ行ってくるわと、アストレア様はロキ様とフレイヤ様に会いに行った。
ロキ様にフレイヤ様かぁ。
「輝夜」
「何でございましょう?」
「ロキ様とフレイヤ様というのはどんな方なんですか?」
ああ、と頷き少し考える素振りを見せる輝夜。
「酒好きな神と色ボケな神」
「何ですかそれ……」
「都市最強派閥の主神だ」
「それは聞いたことありますねぇ」
確かロキ様の派閥は、フィンさんやリヴェリアさんがいるところだったはずだ。フレイヤ様はなんだか知らないが。
「私フレイヤ様の方はよく知らないんですよね」
「Lv 5を複数人、都市最強Lv 6を抱えてるファミリア」
「しかし、都市最強ですか……」
「切り掛かるなよ。剣術狂い」
ジトっとした目を私を見る輝夜。
お前は私を何だと思ってるんだ。
「流石の私でも、仲間を切ったりしませんよ」
「わたくしを切って張ってしてくださった方がおっしゃると……説得力に欠けますねぇ?」
「返す言葉もございませんねぇ」
私が顔を逸らして黙ったのを見てため息をつく。やめろ。あれはあくまで訓練というやつで……誰彼構わず切り掛かるなんてことはしていないわけで。
つまり私も切る相手は選り好みしたいと言うわけである。
なんの力もない人間を切ったところでなんら成長は得られない。切るなら強い人間である。
…………なるほど、確かに都市最強様に切り掛かりそうである。
「それで? そんな貴方様に傷物にされてしまったわたくしは、たまったものではございませんが? どう責任とってくださるので?」
とりあえず私は無視を決め込むことにした。こうなったら、何を言おうと言いくるめられて泣かされるのだ。私は下民で輝夜はお貴族様。渡り歩いてきた世界の差である。
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「長い灰の髪をもつ美人の魔導士……ですか?」
「ええ、推定されるレベルは6以上でございます」
「Lv6以上……【猛者】と同レベルなのかよ」
アストレア様は未だ帰らず、先に帰宅してきた【アストレア・ファミリア】のメンバーと情報を共有している。
どうやらリオンさんやライラさんにも心当たりはないらしい。聞けばこの都市に長くいるのはアリーゼさんらしい。聞くならアリーゼさんにとのことらしい。
「Lv 6というのはそんなにも強いものなんでしょうか?」
「つえーなんてもんじゃねぇぞ」
Lv5のヴァレッタなる者との差はただの一つ。そこまで恐ろしい実力があるとは思えないが。
「Lvは1と2の差よりも、4と5、5と6の方が隔絶した差があるんですよ」
「なるほど、そうでしたか……勉強になります」
この都市にいればいずれ会うことにはなるだろし、今すぐ知りたいというわけでもない。ヴァレッタよりも強いと覚えておけばいいだろう。
ヴァレッタ何某は次会った時には、四肢切断からの尋問だと決めてある。道で見つけて切りつけても、輝夜だって許してくれるはずだ。
辻斬りしてもいい人間がいるなんて、やはりこの都市は最高である。神々の言う
「そういえば最近輝夜と月咲さんは朝晩と訓練していると聞きましたが」
「はい、確かにしてますよ」
「どんなことをしてるんでしょうか?」
「どんな……そうですねぇ」
チラリと輝夜の方を窺うと、何を考えているのかよくわからない笑みを浮かべていた。何かもうちょっと反応が欲しいところである。
「まぁその……あれです。剣の打ち合いですよ」
「斬り合いの間違いではありませんので?」
「輝夜は静かにしていてください」
「切り合い?」
今私はリオンさんと切り合えるかどうかの瀬戸際なんだ。君が何か言って終えばできなくなるかもしれないだろう。
輝夜の一言でリオンさんに少し不信感が湧いていそうではないか。
「リオンさんは木刀を使っていらっしゃるとか」
「え、ええ」
「わたくしが教えて差し上げたと言うことをお忘れなく」
「輝夜が……」
尚更期待できる。
「やめておけ」
いいところだったのに、水を差さないでおくれ。
「……なぜだ」
「剣術狂いの頭がおかしいからな」
「頭のおかしい剣術狂い…………失礼な」
「残念ながら事実でございます」
嫌味を言う時だけ丁寧な言葉遣いになるのはなんなんだろうか。普段から丁寧な言葉遣いである私を見習って欲しい。
「だが、訓練だと」
「お前は人に腕を斬り飛ばされたことはあるか?」
「は?」
止めろ輝夜。それを言ってしまったら、リオンさんがやってくれなくなるだろう!
私の制止も虚しく輝夜は続ける。
「袈裟懸けに斬られたことは? 或いは胸を突き刺されたことは?」
「輝夜、何を言って……?」
「この気狂いが訓練だと称してやったことを
「月咲さん」
「…………どうかなさいましたか?」
「その胡散臭い笑みをやめろ夜切」
リオンさんの私を見る目は完全に、謀反人を裁かんとする処刑人の目である。
「輝夜の言っていたことは本当ですか?」
「お前ヤバいヤツだな」
「ふ、ふふふ、ここまで来たら仕方ありません。皆さんにも実際に体験していただく他にありませんね」
「やめろバカ」
「いてっ」
「余計なことをするな、私が相手してやるから」
「…………私はステイタスのないただの人間なんですよ?」
「ただの人間はステイタスのある人間を切れん」
少しは加減して欲しいところである。
とはいえ、そこまで言うならやめておこうかなぁ。
「輝夜が言ってることがマジならあたしは遠慮しておくぜ」
「……私は」
訓練で腕を斬り飛ばされるなんてごめんだぜと続けるライラさん。治るから問題などないと言うのに。リオンさんはどうしようか悩んでいるようだ。
「はぁ……もしこの頭のおかしい男と訓練するというなら、こいつは寸止めにさせておけ」
「ええ、ええ。私にかかれば薄皮一枚で留めることも、寸止めすることもできますとも」
「…………輝夜のライバルと聞いていた月咲さんの実力も気になりますし、それでお願いします」
よく言ってくれたリオンさん。
リオンさんの返事を聞いて、私の方に視線を寄越した輝夜はため息をついて言った。
「死ぬなよリオン」
「そこまでなんですか?!」
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アーディちゃんについて
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