オラリオに求めたのは再会と斬り合い   作:幾何花なまり

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投稿からおよそ半年にしてバーが赤く埋まりました。本当にありがとうございます!!!
人生初の書き物が今作でしたので、たくさんの人に評価していただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも投稿頑張っていきますので、どうか応援よろしくお願いします。



18

 

「暇つぶしですか?」

「そう、暇つぶし。フラフラ歩いてたら、友人の夜切にリオンちゃんまでいるじゃないか」

 

 18階層での闇派閥(イヴィルス)との戦闘から一晩。私たちは今日も今日とても巡回である。

【アストレア・ファミリア】所属したばかりのリオンさんが、どれだけ尖っていたのか、揶揄いついでに輝夜とライラさんと話しながら回っていた。

 多分リオンさんは反抗期というやつだったのだろう。

 私のように反抗期だとか理由をつけて闇討ちしないだけ、随分といい子である。

 

「私たちはまだ巡回があるので」

 

 仕事をしている最中、エレンとばったり出会ったのが現在というわけである。

 とはいえ今は仕事中ということで、リオンさんが丁寧に断ったの確認して、私達は立ち去ろうとする。

 

「その巡回ってさぁ、いつまでやるの?」

「……? どういう意味ですか?」

 

 しかし、エレンによる急な質問にやって引き止められてしまった。

 質問をされたリオンさん含め、この場にいる私たち四人は唐突な質問に困惑を隠せない。

 

「言葉通りさ。毎日君たちはこの都市のために無償の奉仕をしている。じゃあ、君達が奉仕をしなくなる日って、いつ?」

「……無論、『悪』が消え去るまで。都市に真の平和が訪れた時、私達の警邏も必要なくなるでしょう」

 

 リオンさんは、いきなりおかしなことを尋ねられているというのに、淀みなく答えている。

 

 それにしても……『悪』が消え去るまで、か。

 陳腐な言葉になってしまうが、とてもリオンさんらしい志だと思う。

 私のような人間には、到底掲げることのできないほど高潔で潔白だ。

 

 こういうところに、絆されたのかな。

 

 私のくだらない羨望は、誰かに気付かれることなく会話は進んでいく。

 

「君達の『正義感』が枯れるまで、じゃないんだ」

「何が言いたいのですか?」

「見返りを求めない奉仕ってさぁ、きついんだよ。すごく。俺から言わせればすごく不健全で、歪」

 

 だから心配になっちゃって。

 そう言ってヘラヘラと笑うエレンは、私と出会った時の態度や雰囲気とは随分と違っている。

 今は……なんというか、神様らしいとでもいうべきか。

 

 リオンさんや輝夜、ライラさんの表情は険しいまま。そんな三人を気にかける様子はなく、エレンは話を続ける。

 

「君達が元気な今のうちはいいかもしれない。でも、もし疲れ果ててしまった時、本当に今と同じことが言える?」

「……男神様? わたくし達にいちゃもんとやらをつけたいので?」

 

 我慢のならなくなったのだろう。輝夜は口調こそ丁寧であるものの、その言葉には棘を多く含んでいる。

 

「まさか。俺は君たちのことをすごいなぁと思ってるよ。いや本当に。俺には絶対できっこないことを、誇りさえもって臨んでるんだから」

 

 小馬鹿にした感じが鼻につく。

 どうにも苛立ってきて仕方がない。私のことを馬鹿にするのは全く構わないが、人の為に行動している彼女たちを馬鹿にするような態度はいただけない。

 

「君達が儚く崩れ落ちた光景を目にした時……とても悲しくて、そして禁断めいた興奮を抱くんだろうなぁ、って……そう思う」

「っ……!」

 

 神々は変態だの気持ち悪いだの、そういう話はアマテラス様やタケミカヅチ様から聞いていたが……まさか私の友神もそうだとは思いもよらなかった。

 いや別に、個人もとい個神の趣味がどれだけ悪かろうと、私としてはどうでもいいし、心底興味もない。しかし、その嗜好を輝夜やリオンさんに向けようものなら、話は変わってくる。

 

「いい加減不愉快になってきたぜ、神様。うちの武闘派はどっちも沸点が低ぃ猛犬なんだ。噛みつかれる前にちょっかいかけんの、止めてくんね?」

「ええ、私も見知った神の達磨は……作りたくありませんから」

「うえぇ?! 夜切、流石にそれは物騒だと俺は思うなぁって……」

 

 ライラさんに倣って私も少々声を低くすれば、エレンは眉を下げなんとも情けない声を出してみせた。

 先ほどまでとこちら、どちらが本当のエレンなのだろうか。

 

 …………まぁ、別に今は重要じゃないか。

 

「でしたら、その口を閉じていただけたらと。とても、ええ、とても興味深いお話でした」

「そういうわけだ。リオン、輝夜行くぞ。十分神様の玩具になってやったろ。これ以上付き合っても掌の上で転がされるだけだ」

 

 私とライラさんはそれだけ言うと、さっさと離れようとする。

 

「ごめんごめん。じゃあこれで最後にするよ。質問に答えてくれたらちょっと意地悪なお兄さんはここから消える。約束しよう」

 

 そう言ったエレンは、神らしく傲慢さに溢れている。

 わざわざ私たちを引き留めておいてそれか。私もエレンに対する態度を考えるべきか? 

 そもそも、何故エレンはリオンさんや【アストレア・ファミリア】にそんなにご執心なのだろうか? 

 初めて会った時に話していた『やらなくてはならないこと』に関係があるのか。

 エレンの行動には目的があるらしいこと……共有しておくべきだな。

 どんな目的があるにせよ、今の彼はあまり好かない。

 

「……その質問とは?」

 

 

「『正義』って、なに?」

 

 

 最後に問いかけられたのはとても端的で、しかし、とても難解であった。

 

「……なんですって?」

 

「俺はさ、今とても考えさせられてるんだ。下界が是とする『正義』って何なんだろうって。全知零能の神のくせに」

 

「未だ下界に提示できる絶対の『正義』ってやつに確信が持てない。ま、それは俺がしょーもない事物(もの)を司ってるせいかもしれないけど」

 

 だからこそ、と力強く言い放ち超越存在然とした視線をリオンさんに、私達に向ける。

 

「君たちに聞いてみたいんだ。正義を司る女神、その眷属たる君達に」

「相手にすんなリオン」

 

 ライラさんがやめさせようとするも、

 

「言えないの? やっぱりわかってないのかな? 自分達が掲げているモノでさえ」

「いいでしょう、その戯言に付き合います。答えなど、決まりきっているのだから」

 

 エレンの挑発に乗るリオンさん。

 輝夜の舌打ちが聞こえる。

 

「ならば、『正義』とは?」

「無償に基づく善行。いついかなる時も、揺るがない唯一無二の価値」

「そして悪を斬り、悪を討つ。それが私の正義だ」

 

 ふぅむ……なるほど。そう言うと、エレンは口元を手のひらで隠し、考え出したようにしばし黙り込む。何度も浅く頷き、こめかみを指で数回叩いた。

 

「つまり善性こそが下界の住人の本質であり、『巨悪』ならぬ『巨正』をもって世を正そうというわけだ」

 

 ニタリ。

 そんな音が聞こえてくるようなほど、口を三日月に引き上げる。

 

「善意を押し売り、暴力をもって制す───力づくの『正義』だ」

 

 完全に頭に血が登ったリオンさんは、激情に任せてエレンの言葉を否定する。

 

「そんなことは言っていない! 巨悪に立ち向かうには相応の力を求められる! でなければ何も守れないし、救えない!」

「おっとごめんよ、馬鹿にしているわけじゃないんだ。君の言っていることはきっと間違いではないし、それくらい単純な方がちょうどいいと俺も思う。哲学や倫理で小難しく丸め込んでも、万人には届かない」

 

 両手をひらひらとさせて言葉では謝って見せるが、口元の笑みは消えていない。

 

「ただ……『悪』が同じ論法を展開した時、どうなるのか、興味が湧いたよ」

 

 そんなエレンに、いつでも刀を抜ける姿勢の輝夜が一言発する。

 

「わたくしは先程から、不快の感情が湧いて仕方ありませんが?」

 

 スッとエレンの双眸が細まる。

 哀れな羊に慈悲をかけるようなそんな瞳を輝夜、リオンさん、ライラさんの三人に向けた。

 

「悪いね。でも、これで終わりにするよ。本当にこれが最後さ」

 

 表情を改めこちらを向いたエレンと目が合う。

 

「夜切、君は『正義』についてどう思う?」

「はい???」

 

 唐突に私へ話題が振られたことで全員の視線が私に集中する。

 そんなことを私に聞かれても困るのだが……。

 

「君は【アストレア・ファミリア】に入ってからまだ短いだろう? だったらせっかくの機会だ。ここで【ファミリア】の皆に、君の考える『正義』を伝えてみるのはどうだろうか?」

 

 私は今、とてつもなく嫌な顔をしている。確信できる。

 

「絶対の正義……絶対の正義ですか」

 

 なんでそういうことを私に、そして急に聞いてくるのか。

 私は刀が好きなだけの人間である。崇高な考えや思想なんてものは持ち合わせていないのだ。

 とはいえ、この状況で答えないわけにはいかない。

 しばし考える。

 

「これは決して、リオンさんの考えを否定したり貶めたりするような意図ありません」

 

 そう前置きをしてから言葉を発する。

 

「『絶対の正義』、そんなものは存在しないのではないでしょうか?」

「ほう」

 

 リオンさんが何かを言いたそうにこちらを見てくるが、すいません、無視する。

 輝夜とライラさんは……静観という感じか。

 

「俺が聞きたい事とは少し外れそうだが……いいさ、続けてくれ」

 

 首を回し、顎に指をおいたエレンに促される。

 

「残念ながら私はお見えした事ははありませんが、この都市には『美の女神』がいるとか」

 

「イシュタル様にフレイヤ様」

「ええ、その二柱です」

 

 リオンさんが上げた名前に頷き、一旦そこで区切る。

 自分の中で整理をしながら、不敬な言い方になってしまうかもしれませんと続けた。

 

「『美を司る女神』と謳ってはいるものの、二柱いらっしゃいます」

「ああ、そうだな」

「同じく私は見たことはありませんが、ヘファイストス様やゴブニュ様は同じ『鍛治』を司る神であるとか」

 

 これを並べて私は何が言いたいかと言えば、だ。

 

「私のような田舎者がすぐに浮かんだ神だけで、既に、同一の概念を司る神が幾柱もいらっしゃるのです。ともすれば、今回の例で言うと、絶対の美も完成された鍛治も存在しないということ」

 

「であるならば、唯一絶対の正義もまた存在し得ないのではないでしょうか」

「そんなことは……っ!」

「私が言いたいのは、()()()()()()()()()は存在しないというだけで、個人や国家における正義は間違いなく存在するということです」

 

 私の故郷である極東では、アマテラス様を中心に組織されている朝廷の意向が正義として扱われていた。しかし、その中で自らの正義に従って反旗を翻した人間また、幾人も見た。

 そして私は朝廷の意に従って斬った。

 

「なら夜切、君にも問おう。正義とはなんだ?」

 

 目を細め、こちらを値踏みするように窺ってくる。

 その視線にあたりに緊張感が漂う。重く、緊迫した空気となった。

 

「さぁ?」

 

 しかしながら、私にはそんな気の抜けた返事をするしかできない。

 当然だろう。日々正義について考えている【アストレア・ファミリア】の方々ならまだしも、刀を振るだけしか能のない私である。

 そんな小難しい事を聞かれても……。

 

 アストレア様にも似たような事を聞かれたし、最近のオラリオではそういう質問が流行っているのだろうか? 

 

「そういうのは、私達ではなくアストレア様に聞いてみればどうでしょうか?」

 

 言外に、もう面倒だから早く終わらせろと伝える。

 ここまで話し込んでしまったら、時間などあまり関係ないかもしれないが。

 

「そうだな。後でアストレアにも尋ねてみよう。だから、まずはお前の話を聞かせてくれ」

 

 それでもいいと……。

 答えない限り終わりそうもない。今から答えを考えるしかないのか? 

 

 ……輝夜ならきっと『大義名分』だとかそういうことを答えそうであるが、私の考える一般的な『正義』を聞かれているわけで。

 これ、即興で考えるものではない気がするけど。その辺り神様はどうお考えで? 

 

 悲しいかな。そんなことを言えるほど私の肝は太くないので、大人しく考えたものを話す。

 

「…………『優しさ』とか?」

 

 なんだろう、この恥ずかしさ。

 なぜ私はこんな辱めを受けることになってしまったのか。私はただ、早く巡回に戻りましょうと、言っただけなのに。

 

「うーん、リオンとは随分と真逆のことを言うんだな」

 

 貴方は、なぜそう余計なことを言うのか。

 リオンさんが、親の仇でも見るような顔であなたのことを見ているぞ。

 私もよく、そういう顔で見られていたからわかる。彼らに比べたらまだまだかわいいものかと、場違いなことを考えてみたり。

 

「私が言えたことではありませんが、思いやりとか、人助けとかそういう行動の事を正義というのだと思います」

 

 うん、まぁ、普段難しいことを考えずに生きていた人間が即興で考えたにしてはいい出来ではないだろうか。

 別にリオンさんとそこまで変わりがあるわけではあるまい。

 

「いやぁ、面白かったよ。俺としてはリオンだけで充分だったが……夜切が一緒にいてくれてよかった」

「そうですか。次からは是非とも、私たちの気分にも配慮していただきたいものですねぇ」

 

 友人に向ける言葉ではないかもしれないが、それはおあいこだ。

 エレンが輝夜にそういう態度を取るのならば、私も同じ態度で接しよう。

 

「悪かったよ、身も心も美しい眷属達に、友人。時間を使わせてしまってすまなかった。でも参考になったよ、ありがとう」

「アタシはもうアンタの玩具にされんのは御免だな。もう、その胡散臭ぇ笑みでアタシ達の前に現れないでくれ」

「そこの小人族(パルゥム)と被ってしまうのは心外でございますが、わたくしも二度と、その面白みのないお顔拝みたくのうございます」

 

 輝夜とライラさんは、最早隠すことのない嫌悪と拒絶をぶつけると、別れの言葉もなく立ち去った。私はエレンに軽く目礼をして、それに続く。

 

「ちっ、なんなんだよあの神。イラついてしかたねぇ」

「ふん、どこぞの阿保が神の四肢を削いだ理由がわかったかもしれんな」

「いや、私は別にムカついたからやったわけじゃないです」

「それはそれでやべーやつだろ」

 

 そんな会話を並んでしながら、リオンさんがついてきているか確認してみれば、エレンが消えて行ったであろう人混みをじっと睨みつけていた。

 

 

 なぜだろうか。

 風に乗って、戦の始まる匂いがした。




今回のこれは、夜切くんの思う正義であって、アストレア様に答えたものとは関係ありません。

原作描写が多くなってしまうこと、削ろうとしていまいち上手い入りにできないジレンマ。書いていて力不足を感じた今話でした。

よろしければ感想お願いします。必ず返します。

アーディちゃんについて

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