オラリオに求めたのは再会と斬り合い   作:幾何花なまり

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夜切くんのイメージ崩れるかも……ひとえに私がまともに戦わせてあげることができていないせい。


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「アタシについてきてよかったのか?」

「はい。ライラさんといるのが一番動きやすいので」

「輝夜の目がこえーからやめて欲しいんだが」

「戦力が集中するのはよくないというのもありますよ」

 

 そんなことを話しながら人混みを並んで歩く。

 今日はギルド主催の炊き出しの日である。空は久しぶりに晴れ渡っており、絶好のお祭り日和だ。

 これまでも私からしたらたくさん人がいるなという感じであったが、今日はこれまでの比ではなかった。オラリオにこんなに人がいたのかという感じ。どこに隠れていたのだろうか? 

 

「でも、これ襲われたらひとたまりもありませんね」

「お前、これを見て一言目がそれってマジか?」

 

 闇派閥(イヴィルス)の面倒臭さを信頼しているだけである。

 この炊き出しを襲って損をすることがない。むしろ、私たちギルド側は全ての民衆を守ることは難しいだろうから、お釣りが返って来ることだろう。

 

「だな。けど襲ってくるか? ここだけでもかなりの冒険者がいるぜ?」

「どうでしょうか。この祭り壊せたら民衆に与える不安は大きいですし、ギルドや冒険者に対する信頼も損なえます」

 

 そう考えれば、襲撃があってもおかしくない。

 

「とはいえ、ギルドがこうして開催したということは、その程度織り込み済みでしょう」

 

 襲撃があっても民衆を守れると考えたか、襲撃が起きないと踏んだか。

 どんな理由があろうと、ギルドとフィンさんだろうか? は問題ないと考えたのだろう。

 

「ま、アタシ達にできるのは、何か起きたら民衆を守ることか」

「そうですね」

 

 と、不審者不審物を探しながら歩いていると、後ろから幼い声がかかる。

 

「あ、お姉さ……お兄さん!」

「ん? どうしたお嬢ちゃん……って、夜切の知り合いか?」

「ええ。久しぶりですね」

 

 私の姿を見かけて声をかけてきたのは、アストレア様と定期的に行っている孤児院の少女だった。

 ライラさんにそれを伝える。

 

「お兄さんお姉さんとデート?」

「まぁそんな感じです。さすが、見る目がありますね」

「えへへ、でしょー」

「ちげーよ」

「あはは! 振られちゃったね!」

「ですねぇ。私は悲しいですよ」

「何言ってんだお前ら……」

 

 天真爛漫な子である。

 子供達といえば、タケミカヅチ様達に宛てた手紙の返事によると、みんな元気にやっているそうだ。春姫も元気だろうか? 手紙には彼女のことは書かれていなかったので、少し心配なところもある。来週にでも子供達に会いに一度帰ってもいいかもしれない。

 

「そんなことより、珍しく今日はあなたは一人ですね。下の子達はどうしたんですか?」

「えっとね、先生と一緒にご飯貰いに行ったよ!」

 

 というと、輝夜やアリーゼさん達がある方向かな。

 なら、一通り周ったらそちらに顔を出しておこう。色々私もおさわになったし。

 

「お兄さん!」

「はい?」

「ん! 手!」

 

 私に掌を向けてん! ん! と主張してくる少女。

 

「手を繋ごうってことですか?」

「うん! お家まで一緒ね!」

 

 チラリとライラさんに視線を投げれば、別にいいんじゃねぇのか? みたいな視線が帰ってきたので、少し躊躇ってから少女の手をとる。

 血に塗れた私の手でこの子の手を握ることに、少し罪悪感を感じてしまった。まあ……今更か。

 

「……いいですよ。私達はもう少しまわらなくてはいけないので、お家に着いたらしっかり先生を待てますか?」

「私待てるよ!」

「えらいですね……なら行きましょうか」

 

 歩き出すのかと様子を見ていると、じっとライラさんの方を見つめたまま、動かない少女。

 

「な、なん……どうしたのかな?」

 

 流石に少女相手になんだよとは言えなかったようで、口元をひくつかせながら言い直している。珍しい光景を見た。

 

「お姉さんも、手!」

「あ、アタシも? いや……」

「ん!」

「いやだから」

「ん!」

「……わかったよ。ほら」

「じゃあしゅっぱーつ!」

 

 少女は繋いだ手をブンブン振ってスキップしながら進んでいく。

 ライラさんはそれをなんとも言えない顔でみながら、されるがままになっている。

 

「こうしていると、親子みたいですね」

「あん?」

 

 唐突な言葉にライラさんは困惑顔。少女もキョトンとした表情で小首を傾げている。

 

「お兄さんとお姉さんがお父さんとお母さん?」

「いえ、私が父親で二人が娘」

「ぶっ飛ばすぞ」

「すみません」

 

 ライラさんが変な顔してるから、ちょっとした冗談で場を和ませようとしたが失敗した気がする。

 しかし、けたけたと少女は笑ってるので私も怒られた甲斐があったものである。それを見たライラさんも、笑っているので本気で怒ってるわけじゃなさそうだ。よかった。

 

「それはそれとして、後で話があるから逃げんなよ?」

「…………はい」

 

 

 

 

 

 少女を孤児院へと送り、それから再び通りへ戻ってきた私達。

 お昼時ということもあって、今までより人が多くいる。

 ……これ、突然襲われでもしたら民衆を誘導することはできないんじゃないか? 

 ライラさんも同じことを考えているのか、難しい表情だ。

 

 近くに冒険者らしき人間もあまりいないし、かなり厳しそうだが……どうなることやら。

 

 そこまで考えた瞬間、遠くから爆発音が聞こえてきた。

 

「まずいですね。どうしますか?」

「パニックになったらやべぇが、幸い近くに人手はある。アタシ達は向こうに向かうべきだな」

「承知しました」

「アタシは冒険者の指示してから向かう! お前は先に行け!」 

「ライラさんもお気をつけて」

 

 既にライラさんは、屋根を伝って冒険者の元へ移動して声をかけている。

 私も早く行こうか。

 

 

 

 ───

 ──────

 ─────────

 

 

 

 

「きゃあっははははは!!! いい悲鳴が聞こえてくんじゃねぇか」

 

 私が路地裏を抜けて現場に向かう途中、聞き覚えのある声がした。

 自身の気配を消して姿を確認すれば、先月工場で取り逃した女と全く同じ容姿。

 返り血を浴びた事でコートは赤黒く染まり、顔に飛び散った血痕が残されている。確か名前はヴァレッタ。

 

「はあぁあぁああ〜【アストレア・ファミリア】のガキ共も、ドワーフのクソジジイも馬鹿ばっかりだぜ! きゃはははは───ぐかっ?!」

 

 思い出すと同時に背後から忍び寄り、ゲラゲラと品のない大笑いをしている女の首元──師匠曰く声帯に短刀を突き刺し、引き抜く。

 少しズレると太い血管を傷つけてしまい、死んでしまうので多少の慣れが必要である。

 

 急な襲撃に驚愕と憤怒に染まった瞳でこちらを見てくるが、悪いな。私も苛立っている。よくもこんな日に騒ぎを起こしてくれたものだ。

 

 まさか襲われると思っていなかったようで、未だ切られた動揺で硬直している様なので、そのまま流れに任せて脚の腱を切る。

 負傷者を治療できる人間が必要だろうから早く現場に行くために、暗殺まがいなことをしたが……抵抗されることもなく切れてしまった。

 極東ならそう簡単にはいかないのだが、まぁ……運が良かったと思おう。

 

 動揺から回復しきれない状態で、腱を切られたことによって崩れて落ちたヴァレッタの身体を蹴り飛ばし、向かいの壁にぶつける。

 

「かはっ?!」

 

 初めに喉を傷つけたおかげで空気が漏れるだけのようだ。

 おそらく声は出せないと思うが、万が一にでも助けを呼ばれても面倒なので、何度か足を振り下ろすことで話すことのできぬよう丹念に顎を砕く。

 これだけやれば、助けを呼ぶことや指示をすること、ましてや魔法の詠唱などできないだろう。

 

 ついでに、腕の骨も折って手を潰しておく。

 こんな時に抵抗されても面倒だから仕方ない。私のようにか弱い(恩恵のない)人間からすれば、その握力すら単純ながら脅威である。

 と、そこまでして気がついた。

 

「血をそのままにしたら呼吸ができなくて死んでしまうかもしれませんね…………まぁ、死んだら死んだでいいか」

 

 ヴァレッタの落とした大剣を拾い、彼女の身体に突き刺すことで壁に縫い付けて人を呼ぼう……と思ったがやはり、せっかく動けなくしたのに死んでしまっては勿体無いか? 

【アストレア・ファミリア】の人間的にも殺しは御法度か。

 それに、おそらく十分な人員が配置されているだろうが、人を呼ぶのは迷惑になりそうである。

 

 そこで手に持った大剣を遠くに放り投げ、何がどう間違っても取られないようにする。

 ヨミを呼び出して出血だけ止めてもらった。私がお願いしておいて言うことではないかも知れないが、私に憑いてきてくれる精霊様は随分と器用らしい。

 私も医療は師匠から学んだが、どうにも縫合がうまくいかなくて諦めた。切るのはうまくいくのだけどどうしてだ。

 ヴァレッタさんには、是非ともヨミに感謝して欲しく思う。

 

 止血をしたら次は衣服を剥いで、他に武器を持っていないか調べようとするも暴れるので、何度か壁と蹴鞠をしてやればしばらくして動かなくなった。

 暴れなくなったので持ち物を調べ始めたわけだが……以前持っていた閃光手榴弾や、爆発物も持っていることはなさそうである。ポーションらしき物を持っていたが、万が一毒物だとするとまた面倒であるし、普通のポーションだろうと回復されるのは面倒。つまりどちらにせよ面倒である事に変わらないので、ヨミに飲ませて処理する。

 

 ぽやぽやして気分は上々と。

 ……なるほど、どうやら中身はポーションだったらしい。

 

 瓶の中身は兎も角、こうして結果出来上がったのは、腕を折られ脚を封じられた上に、喉と顎を潰され声を上げることすらできず、衣服を取られ申し訳程度の布をかけられた意識不明の闇派閥(イヴィルス)幹部である。

 

「放置するわけにもいけませんし……どうしましょうか」

 

 壁当てを始めたあたりから、ひどく怯えた目をこちらへ向けてきた気がするが気のせいであろう。こいつが普段やっていることは、これ以上に非人道的なはずだろうに。

 そもそも、ヴァレッタさんがもう少し骨のあるやつなら、私も殺す気で襲えたのだ。中途半端に強いから、こうして痛めつけなくてはいけなくなってしまった。恨むなら自分の中途半端さを恨むんだな。

 

「っと……まぁ、抱えていけばいいか」

 

 本当は足を持って引き摺るくらいの扱いでいいと思うが、意識を取り戻されても困るので抱えて連れて行こう。なるべく起こさないように気をつける。運んでいる最中に意識を取り戻した気配があれば、もう一度同じことをすればいいだろう。

 

 

 

 

 

 ───

 ──────

 ─────────

 

 

「やはりとても歪で、『悪』よりも醜悪なものだ」

 

「貴方はああああああああぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「リオン、何してん───」

 

 ───ドゴン!!! 

 

「「っ?!」」

 

 リオンがエレンに掴み掛かろうとしたその瞬間。

 遠くから何かが吹き飛ばされ、壁に激突。それでもなお勢いを殺しきれず、受け身を取ること無しに転がる。

 想像もしていなかった出来事に誰もが動揺し、動けずにいるとこの場に似合わないほど普段通りの声がかかる。

 

「おや、エレンにリオンさんじゃありませんか。人命救助ですか? 私もちょうど手が空いたので手伝いますよ」

 

 そんな言動と共に現れたのは、足を赤黒く染めた男。

 リオンとエレンが何か言おうと口を開く前に、真っ先に声をかけたのは輝夜。

 

「夜切! どこに行っていた?!」

「騒ぎが起きた場所に向かおうとしたら見知った顔があったので、捕縛しました」

 

 ほら、この人ですよ。そう言って、リオンとエレンの横を通り抜け先ほど飛ばされてきた物体の方へ歩み寄る。

 抱き抱えて皆が見える位置まで連れてきた。

 砂と血で汚れてしまっているが、桃色の髪。顔は下半分が砕かれており、人物の判定は有名故に身体的特徴を加味した面影から辛うじて判別できるものの、一般人ならば認識できないほどの状態。腕と脚は本来の可動域から大きく逸脱し、おかしな方向を向いている。指 

 全身を打ちつけた衝撃によるものだろう。肌は赤紫に変色しており、その身に受けたダメージの大きさを物語っている。

 

「これは……【殺帝(アラクニア)】?!」

「ええ、闇派閥(イヴィルス)幹部ヴァレッタ・グレーデその人ですね」

 

 Lv 5の闇派閥(イヴィルス)幹部の状態を見て異様な空気が流れた。しかし、元凶である夜切は気にする様子もなく飄々としている。

 

「おい、コレは治せるんだろうな?」

「勿論ですよ。助けを呼ばれたり、暴れられたりしたら面倒なので一度潰しただけです」

「何したらこんなことになんだよ」

「何したら? まずは喉を裂いて声を出せないようにして……」

「後で聞くから説明すんな!」

 

 ライラの無情な断りに、聞かれたから答えただけなのにと、納得ないかなそうな夜切に反応することなく無視する。

 

「Lv5、そんな状態でもそうそう死なないだろう。今はとにかく早く一般人の治療にあたれ!」

 

 輝夜が夜切に向かって檄を飛ばす。

 

「承知しました───ヨミ」

 

 夜切はそれに頷き、精霊を呼ぶ。

 ふわりと光が溢れると、辺り一面が柔らかく暖かい光に埋め尽くされる。光が広がっていくに連れてだんだんと、痛みに喘ぐ声が消え悲鳴や泣き声が落ち着いていった。

 

「ひとまず見えている方は癒しましたが、生き埋めになっている方が残っているはずです」

 

 さっと見渡してそれを確認した輝夜は、間髪入れずに冒険者に指示をする。

 

「わかった! 全員聞いたな? さっさと動け! 人を助けろ!」

「っ…………くそっ!」

 

 冒険者が動き出した時には既に、近くにいたはずの神は姿を消していた。

 

 

 

 

 ───

 ──────

 ─────────

 

 

 

 あれから瓦礫に潰された人を助けたり、亡くなってしまった方々を遺族の方に引き渡したりして、日が暮れてしまった。

 終わってみればという話になってしまうが、今回の催しは民衆のギルドに対する不信感が湧いただけになってしまったように感じる。これで襲撃の被害を小さく抑えられれば話は違っただろうが、あまりに被害が大きすぎる。

 ヨミやヒーラーの尽力によって、死ななかった人間もいるが、それでも相当な数死んでいる。というか、ヨミがいなかったらほとんど死んでいるんじゃないだろうか。

 

 ギルドは何を考えているのだか。少し考えれば襲撃くらい想定できるだろうに。

 ……まぁ、考えても仕方がないか。私のような人間にはお上の考えなどわかるわけがない。

 

 何はともあれ、ヴァレッタは【ガネーシャ・ファミリア】の手によって護送されたし、ヨミについて行ってもらって、向こうに着いたら指示に従って治してもらうように伝えておいた。ひとまず今日の仕事は終わったとみていいだろう。

 

 

 そう言えば……孤児院の子供達はどうなったんだろうか。

 一番上の子は私と会った場所にいたから無事だろうが、先生と下の子達は被害が大きいところにいたようなので心配だ。

 明日は定例会議で、私も参加しろと言われたので行けそうにない。明後日にでも顔を見に行こうかな。

 




コーラスを聞きながら気分よく帰ろうとしていると、頭のおかしい男に暴行を加えられたあげく(装備的な意味で)全裸に剥かれて誘拐される女の子ヴァレッタちゃん28歳。

原作のベートさんに殺されるのとどちらがマシなんだろうか。

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アーディちゃんについて

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