オラリオに求めたのは再会と斬り合い   作:幾何花なまり

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ようやくここまできました。
長かった。

姉妹のエミュ難しすぎません?
そもそも登場回数も少なければ、語られないのでわからなすぎる。後で修正するかもしれません。薄い。


23

 

「一人たりとも逃すな! 全員無力化し、捕縛しろ!」

「ネーゼ、マリュー! イスカ達を連れて散って! 私達は奥まで行く!」

「「了解!!」」

 

「青二才、右をやれ逆は私が仕留める。夜切、お前は殺すなよ!」

「言われなくとも…………!」

「そんなに私、信用ありませんか?」

 

 突入後、第一声がそれっておかしい。

 もっと他に指示することあると思う。

 ……釘を刺されてはうっかり殺してしまうこともできないじゃないか。

 

「ならまぁ、達磨が一番安全ですかね」

「ツキサキさん! あまり過激なことは言わないでください!」

「わかりました。先輩に従いましょう」

 

 言わないでと言われただけでやるなとは言われていない。つまりはそういうことである。

 有象無象のロクでなし共の手足がどれかわからなくなっても誰も困らないし、余計に暴れられることもない。だから別に殺しさえしなければ好き勝手やってもいいだろう? 

 

「───【ルミノス・ウィンド】!」

 

 ヨミもああいうことできないかな? 

 できることなら、一度くらい私もああいう魔法を使ってみたいものである。もしかすると人を切る技術を磨くよりも面白いかもしれない。

 

「……! 道が開ける! 最深部!」

 

 ここでリオンさんの砲撃を打ち込んで雑魚を薙ぎ払ってもいいと思うが……しないのか。まあ、別にいいけれど。

 

「よぉ、来たな」

「【殺帝(アラクニア)】!」

「フィンがいねえ……外れだぜと、言いてえところだが、クソガキは居るみてえだな。あの女、多少は仕事ができんじゃねえか」

 

 流石に不意打ちは狙えないか。気付かれないのが一番楽だったんだが……私を隠せるほどの遮蔽物はなかった。そもそも一本道という時点で、おそらく師匠でも不可能である。

 いや、もちろん私も師匠もここを一人で突破して皆殺しにするくらい容易であるため、そのあたりは勘違いしてほしくない。

 

「にしても、ここまで来んのが早過ぎんだろうがよぉ。電光石火どころじゃねぇぞ。ったく……」

「言葉と顔が一致してねーぞ。汚ねえ笑みくらい消しやがれ。……何を隠してやがる」

「さぁなぁ? てめえ等をブチ殺すための算段じゃねえか?」

「ヴァレッタ・グレーデ! 施設内は制圧した! 兵士もほとんどを捕らえている! 大人しく投降しろ!」

「ヒャハハハハ! その台詞にハイそーしますと頷く悪党がいるかよぉ! 出ろ、てめぇ等!」

「伏兵?!」

「まだこんなに?!」

 

 有象無象がどれだけ現れようとも、覆すことのできない戦力差であることは明白だが……悪足掻きか? 

 しかし以前のような閃光、或いは会議で言っていた爆発物が設置されているかもしれない。油断はするべきではないか。

 

「達磨にされたい変わった人がいるものなんですねぇ」

「馬鹿なことを言っていないでとっとと切れ!」

「殺さないようにですね? わかってますよ」

 

 

「乱戦、最後の抵抗というわけですか……!」

 

「あ、ああああ!」

「な……君は?! こんな幼い子まで巻き込んで……!」

 

 この声はあの子の? …………どうする? 

 彼女の近くにいるのはアーディさん。Lv3の実力者で、そこらの有象無象にやられることはないだろう。

 囲んでくる信者を切り捨て蹴り飛ばし、振り払いながら考える。

 

「よくも同志をっ!! 貴様あぁぁあぁあ!!!!」

「煩わしい」

 

 叫び声をあげて私を取り囲む信者どもを、時には目を突き刺したり腕や脚を切り飛ばしたりして転がす。

 とにかく早く向こうへ行かなくてはならない。私は彼女を連れ戻すと約束したのだから。

 

「があああぁぁあっっつ!!!」

「っ?!」

 

 その焦りがよくなかったのか、まだ動く気概の残っていた獣人に足を噛まれたことで体勢が崩れる。

 それを大きな隙と見た信者どもが群がり、私を殺さんと十を超える刃が迫る。

 

「夜切?!」

「ツキサキさん!!」

 

 アリーゼさんとリオンさんの悲鳴に近い声が聞こえた。

 心配してくれるのはありがたいのだがしかし、この程度で死ぬのなら私は極東でとっくの昔に死んでいる。

 噛みついてきた獣人をそのままに、無理矢理足を振り上げることで迫り来る刃から身を守る盾とする。

 ざくざくと身体に吸い込まれていくのを見届け、お礼に外を出歩けぬよう脚を切り付ける。

 

「ぎゃあああ?!」

「このっ! 卑怯者め!!」

「黙れ」

 

 仲間を刺すことに忌避感はあるのか、義憤に滾る者が苛烈に攻め立てるが私に届くことはない。というか、お前は獣人の盾に怒る事ができる人間じゃないだろうが。

 

 動揺している隙に一通り切り飛ばしたことで、一旦の余裕が生まれた。

 

 ふむ…………そう言えば獣人は生命力が高いと聞いている。

 ならばいいだろうということで、腹いせに無駄に立派な耳を切り飛ばし、それに加えて顎を踏み砕く。二度と光が見えることのないように丹念に瞳を潰してやった。

 そのまま首をへし折ってやろうかと思ったが、輝夜に嫌われたくはないのでやめておこうと思う。

 

「とはいえ、輝夜! 寛容な私もそろそろこの鬱陶しい雑魚共を殺してしまいそうです!」

「お前のそれは知っているが我慢しろ!!」

「わかってます!! ……命拾いしたなぁ? 駄犬が」

 

 私に噛み付いておいて想像以上の反撃をくらったからか、私を見る周りの目が恐怖に染まっているように感じるが……妥当だろうに。殺されなかっただけ感謝しろ雑魚。

 ぐちゃぐちゃになった顔を見ていると再び腹が立ってきたので、潰した顎を無理やり開いて切り飛ばした耳を口に詰めてやった。

 私の足じゃなくて自分の耳でも食っていろ馬鹿が。

 最後にもう一度足を振り上げて叩きつけることで、喉の奥の方に詰め込んでおいた。何かが砕けた音もしたが気のせいだろう。

 

「お前、それは殺しだろ」

「言いがかりですよ、ライラさん。食べればいいじゃないですか」

「食べればって、お前そりゃあ……まあ、それもそうか」 

 

 食べたくないなら吐き出せばいいし、頑張って咀嚼すれば腹に収まって息はできるはずなので、万が一死んでもそれはもう間違いなく自殺である。

 都合よく私の周りに信者(雑魚)が消えたので、一息に少女へ向かって走り出す。

 

「ナイフを捨てて! 戦っちゃダメだ! 君みたいな子に武器を持たせる大人の言うことなんか、聞いちゃいけない!」

 

 どうやら間に合ったらしい。

 子どもの前に血まみれになった姿で現れるわけにはいかないので、ヨミに頼むことで付着した血を啜ってもらう。

 

「こんばんは。こんなところにいるなんて感心しませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄さん……」

「随分とあなたのことを探してしまいました」

「ごめんなさい」

「いえ、気にすることはありません。こうしてまた会えたのですから」

「……うん」

「ここから出て先生達のところに戻りましょう? 私も一緒に行きますよ」

「先生達の……ところに」

「はい。あなたが戻ってくることをみんなが待っていますよ」

「みんな……?」

「ええ、先生も。他の子達も」

「……本当に言ってるの?」

 

 数日前の天真爛漫とした少女からは想像できないほど低い声に、夜切は調子を崩される。何故か会話を始めてからなり続けている警鐘を無視して言葉を選ぶ。

 

「……確かに亡くなってしまった子はいましたが、それも全員では───」

「みんなじゃないって…………お兄さんはなんにもわかってない!! やっぱり神様の言ってた通りだった!」

 

 少女の絶叫に目を見開く。

 

「お兄さんは、私の弟達のことなんてどうでも良かったんでしょ?!」

「そんなことはありません」

「私たちを誰か他の子の代わりにしてるって!」

 

 そんなことはない。

 夜切はそう答えようとしたが、しかし本当にそうだろうかと疑問がよぎる。

 命や桜花、千草に重ねていないと、本当に、一切の誤魔化しも偽りもなく言い切れるだろうか。

 

 そんな思考は少女に首を絞められた衝撃でかき消される。

 必然的に鼻が触れ合う程の距離に少女の顔が近づく。今日、初めてしっかりと顔を見た気がした。

 絶望と憤怒に染まりきった瞳を涙で一杯にして、恨みと憎しみが支配した顔をしていることを知る。

 

「私にとってのみんなはもういないの!!!」

 

 だって、と言葉を区切り息を吸い込む。

 

 ああ、この顔はよく知っている。戦の後に何度も見た顔だ。

 

「お兄さん達が助けてくれなかったから!!!!」

 

 一度決壊した感情の激流は止まることはない。

 堰を切ったように、夜切に対して──それに留まらず【アストレア・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】ひいては、守ってくれることのなかった冒険者全てへの怒りが溢れ出す。

 

「一緒にお昼を食べるはずだった先生も! 私のためにたくさん考えて選んでくれるはずだったあの子たちも!!」

 

 大切な人を何度も失った経験を抱えて生きていくには、あまりにも小さすぎる手が首から離れ、あらん限りの力で夜切の頬を張った。

 

「みんな、みんな死んじゃったんだよ! なんで?! なんでなの?! なんであの子達が死んじゃったの?! ねぇ! なんとか言ってよお兄さん!!」

「…………」

 

 少女の悲痛な叫びに言葉を詰まらせる。

 お前に戦う力がないからだ、相手が大人ならばそう返しただろう。しかし、目の前にいるのは護られるべき少女。

 助けられなかったのはヴァレッタを殺さずに生捕りにする判断をしたからだと、言われてしまえば何も言い返せない。

 そんなことを考える夜切だが、ここで沈黙は最も選んではいけない選択であった。

 

「何も言えないよね?! そうだよね!! だってお兄さんはそんなの気にしてないから!!」

「そんなことはありません。私はあなた達のことを───」

「神様言ってたよ。お兄さんはあの子達が死んじゃったあの日、すごく楽しそうだったって!! すごく楽しそうに人を殺してたって!」

「ここへ来てから、誓って殺しはしていません」

「違う!! そんなことはどうでもいいの! あの子達を殺したやつらがいくら死んでもいいよ! でも、なんでお兄さんはあんな中で人を助けないの!? なんで先生達を助けてくれなかったの?! 悪い人を切るのが楽しかったから?」

「それ、は……」

 

 大切な人を助けてもらえなかった人間に、他の人間を助けていたと言って何になる? 

 

「っ! なんでそんなことはないってすぐ言えないの?! 人を助けてたって言えないの?! ほらやっぱり!! やっぱりお兄さんも私の弟と先生を殺した人と同じなんだ!!!」

「そんなことないよ! お兄さんはたくさんの人を救って───」

 

 アーディは夜切のヨミによる治療を行っていることを知っている。それがなければ死者は遥かに大勢となっていたため夜切を庇うが、少女にとってそんなことは関係のない話だ。

 

「うるさい! お姉さんは黙って! お姉さんだって変わらない!! 冒険者は私たちを守ってくれるんじゃなかったの?! 何にもできないくせに!」

「……お前なんかに! 強くなりたいなんて言わなきゃよかった!!」

 

 肩で息をして俯く少女にかけるべき言葉を、夜切とアーディは持ち合わせていなかった。

 

「神様…………」

 

 首を折ったままの少女のつぶやきを、夜切とアーディは至近距離ゆえに拾う。

 

「私を」

 

 これまでにないほど大きな警鐘が夜切脳内に響くが、その原因がどこから来るものなのかわからない。

 少女がゆっくりと胸から取り出したそれを見てようやく確信に至った。

 

「やめなさい!!!」

 

 咄嗟に叫ぶ夜切。

 これが大人ならば迷いなく腕を切って飛ばしただろう、しかし相手は守るべき子どもで助けると約束した少女だった。

 生まれてしまった一瞬の迷いはあまりに致命的。

 

「私を……みんなのところへ連れていって」

 

 少女の無垢で純粋な祈りは、確かに神へと届いた。

 

「───────────────」

 

 捧げられた祈りに答えるように、凶悪な轟音が夜切とアーディを巻き込んで炸裂する。

 衝撃、震動、爆風、爆熱。

 受け止めきれないほどの光が世界を支配する。

 

「「「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!?」」」」

 

 意識外から飛び込んできた圧倒的なまでの情報量に、リオンやアリーゼは耐えきることができず、なすすべなく肌を焼かれ髪を焦がし吹き飛ばされた。

 神の恩恵によって強化された肉体を貫通するほどの熱とともに、感じたことのない閃光が視界を白く染め上げ塗り潰す。爆音は一瞬にして聴覚を奪い、爆風によって壁に床に叩きつけられたことで平衡感覚は失われる。

 

 地下深くに眠るモンスターの唸り声のような震動が建物全体を揺るがした。柱は所々砕けて崩れ、冒険者の身を隠す遮蔽物となっていた鉄製のカーゴはひしゃげ飛び散り、轟音を立てて粉砕した。

 

 冒険者のほとんどは受け身すらとることを許されず、爆熱と爆風に翻弄される。

 轟音が鳴り止み、パラパラと舞う砂埃がだんだんと晴れゆく。

 激しい耳鳴りが治り、明滅した視界が回復していく。ふらふらと立ち上がったリオン達の目に飛び込んできたのは。

 

「……………………え?」

 

 リオンは理解を拒んだ。

 

「………………うそ」

 

 アリーゼは凍てつかせた。

 

「……………………自爆した?」

 

 ライラは二人よりも遥かに早く、現実を把握した。

 

 壁にへばり付いたのは焼けた鮮血の跡。

 地面は抉られ、無惨な煙を吐くのみ。

 中心から離れたところには、折り重なるようにして焼け焦げた2体。

 

 辛うじて身体は泣き別れしていないものの二人とも腹が大きく抉られており、爆熱によって焼かれてしまったのか焦げた血と肉の臭いが鼻をつく。

 

「───ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 絶望を加速させる『悪』の哄笑。

 放心する冒険者達を他所に、ヴァレッタは因縁の相手を吹き飛ばし焼き殺したことに歓喜し、狂喜し絶頂にも似た気分を味わう。

 その最高の気分のままに、愉悦に浸り嘲笑をもって冒険者をさらに追い詰める。

 

「見てるかァ、邪神(かみさま)ぁ!! てめーがたぶらかしたガキが、冒険者を───ッガァ?!」

「何を高笑いする余裕がある、ゴミムシめ」

 

 一番の脅威であり恨みのある冒険者(夜切)を無様に殺すことができたと確信したヴァレッタの左胸を輝夜の小太刀が貫く。

 差し込んだ刃を捻ることで、致命傷を与え仕留める───

 

「──────は?」

 

 はずだった。

 

「ぐっ、てめぇ!」

 

 否、貫き捻り抉れた。それは確かだ。

 しかしそれは致命傷とはならず、激痛に身を焼くにとどめられてしまう。

 

 殺すことができなかった事を理解した輝夜は、すぐさま背中を蹴り飛ばしながら小太刀を引き抜き、硬直を狙った反撃を許すことなく離れる。吹き飛ばされたヴァレッタは、爆発の中心部である夜切とアーディからはかなり大きな距離が生まれた。

 

「馬鹿な、私は確実に貴様の胸を貫いて…………?」

 

 夜切のような超回復の手段のないはずのヴァレッタは、間違いなく殺せたはずだ。しかしなぜ? 

 そんな疑問が生まれるが、今は考えている暇などない。

 

 二人が爆発の巻き添えになったことに愕然とし動けない冒険者たちの認識を上書きするような輝夜の行動に、さらに混乱は広がり輝夜の他に、闇派閥さえもが動くことができない。

 

「何を呆然としている?! お前たちは冒険者だろう?!?! ならばさっさとイレギュラーを飲み込め!!」

 

 痺れを切らし、未だ衝撃から立ち直ることのできない【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】に檄を飛ばす。

 

「てめえはアストレアの【大和竜胆】、次に会った時は必ず殺す!!」

 

 ポーションを浴び左胸の傷を癒したヴァレッタは、恩恵のない一般人ならばそれだけで気絶してしまいそうな、恐ろしいほどの殺気を含んだ眼光を飛ばす。

 

 ヴァレッタが動き出した事で、否応なしに事態も急変する。

 

 何が起きているのか、なぜ輝夜は平然としているのか。

 

「全員、倒れている連中から離れろぉ!!」

 

 何も理解できないままで、しかしこれから起こるであろう次弾を察知したライラはなりふり構わず叫んだ。

 

「吹き飛ぶぞ!!」

 

 切迫したライラの警告が耳に入るのが早いか、同時に倒れ伏し再起不能となったはずの闇派閥の信者は叫び声を上げながら、懐に仕込んでいた『装置(スイッチ)』に手をかける。

 

「「─────────っっ!!」」

 

 アリーゼが地面を蹴り離脱し、輝夜が夜切とアーディを守るように覆い被さる。

 

「主よ……この命っ、どうか愛しきもののもとへえぇぇぇ!!!」

 

 悲壮な叫び声とともに、新たに爆炎の華が咲いた。

 

「「ぐううぅぅっ〜〜〜〜〜〜〜〜?!」」

 

 爆発の余波に全身を殴られ、少女達の身体が凄まじい勢いで飛び、床を削っていく。

 それだけでは終わらない。

 闇派閥の兵は双眼を血走らせ、涙を流し、手足を震わせながら。自らを『兵器』と変えて、最後に愛を叫びながら、次々に自身の役目を終える。

 

 絶え間ない轟音と爆撃が冒険者を襲う。

 対峙していた【ガネーシャ・ファミリア】の多くが爆発に巻き込まれ、一部が瀕死に追い込まれるも、すぐさま癒されまた焼かれる。

 それはシャクティやライラ、リオンも例外ではない。

 全方位から発生する衝撃に煽られ、倒れんだ。

 

「『火炎石』に『撃鉄装置』の機構! 完璧じゃねえかァ!」

 

 爆発の効果範囲を理解しているヴァレッタは、あらかじめ及ばない位置へと移動している。

 

「くそが、クソッタレが! てめえ、仲間を全員!」

 

 装備の成果を確認し、カーゴの上で高みの見物を決め込む女の顔に刻まれるのは、凶笑だった。

 ライラの激憤を込めた怒号に返すのは嘲笑だ。

 

「はっ! ようやく気付いたかぁ? 施設を制圧? 兵士を捕らえた? ──関係ねえよ」

 

 刺された箇所が痛むのか片腕で左胸を抑えながら、しかし片腕は大袈裟に広げたヴァレッタは冒険者達を嘲笑う。

 

「なぜならそいつらは『戦力』じゃねえ───ただの『花火』だからなぁ!!」

 

 

「ちっ、周囲から爆発が連鎖して……!」

 

「一発目が『合図』だ。もう止まらねえ」

 

 ───じゃあな、冒険者(バカ)ども。くたばりやがれ。

 

 

「シャクティ、ライラ、輝夜! 脱出っっ!!」

「わかってる……! でも、リオンよせ! やめろ!」

「アーディっ、ツキサキさん!!」

「阿呆! 行くなっ! 生き埋めになるぞ!」

「でも、アーディが! ツキサキさんが! あそこに、あそこでぇっ!」

「アリーゼ、ライラ、待って! まだ二人があそこに!」

「「……っ!!」」

「輝夜ぁ! ツキサキさんがっ! シャクティ!! アーディがっ、アーディがぁぁ……!」

「……………………………………っ」

「何を呆然としているシャクティ! とっとと逃げるぞ、リオン!!!」

「だけど……輝夜、アーディと、アーディとツキサキさんが!」

「あの化け物があの程度で死ぬならとっくの昔に朝廷が殺している!」

 

「アレが死んでいないならアーディも死んでなない! 夜切に真っ二つにされた私が言っている!! いいから行くぞ!!!」

 

「…………ッ!! アリーゼ、行けぇ! 脱出する!!」

「アーディ! ツキサキさん!!」

 

 

 

「ぁあ……ああぁ……」

「うわぁああぁあああぁぁぁあ!!!!」

「そっちへ行っちゃダメ! こっちへ───!?」

 

 ネーゼの叫びにも似た指示に従わず、パニックになり闇派閥の信者の方へ走っていった女は、腹を切られて絶叫とともに崩れ落ちる。

 無力感を振り切りながら、一人でも多くを救わんと声を上げようとした瞬間、女を光が包み込めば瞬く間に傷が癒える。

 

「なんだこれは?! クソ、死ねえぇええ!!!」

「あ、ぁあ?! やめて! いやぁあああ!」

 

 切れども切れども傷は治り続ける。

 被害者と加害者、それだけでなく第三者までもが異常な事態に気が狂いそうになる。

 確かに胸を貫いた、確かに腹を裂いた。そのはずだ。ならば何故? 何故死なない(死ねない)?! 

 

「っ! やめろ!!」

「ぐっ! がぁああ?!」

 

 理解が追いつかずその蛮行を見逃してしまったネーゼは、自責の念に駆られながら闇派閥を吹き飛ばし女を助け出す。

 

「おい、大丈夫か?!」

「あ、ああ…………あぁああああぁぁああ!!!!!!!」

 

 呼吸はある、傷跡などどこにもない。しかし、何度も何度も執拗に切りつけられた女の精神は既に狂っていた。

 

「なんで? なんなんだよこれは?!」

 

 人殺しは確かに悪だと言えるだろう。

 しかし、果たして何度も死の淵から掬い上げ、精神が狂って尚も無理矢理に生かすことは正義なのか。

 

 

 

 

 

「助けてぇ冒険者様ぁ!!」

「こっちだ、急げ! 都市の中央ならっ!!」

 

 爆発が市民を巻き込んだおそろしく身勝手な心中は、民衆の腕を弾け飛ばし臓物を露出させ、命の灯火をそれ以上の爆炎をもって呑み込む。

 

「クソが! クソがクソがクソがぁ! 混乱してる! これじゃあアタシらの指示なんて届くわけが─────は?」

 

 だが次の瞬間にはまるでそんな事実はなかったかのごとく、手足が再生され溢れた臓物は収まるべき腹の中へと収まっている。

 

「なんだ…………これ? どういうことだ?」

 

 酷く冒涜的な光景を見せられているように感じる。

 確かに、確かに死んではいないだろう。呼吸もある、意識もある、傷などどこにも存在してあらず、爆発に巻き込まれ殺されそうになった事などなかったかのようだ。

 しかし

 

「あぁぁああああ?!?!?!」

「俺の、俺の腕がぁぁ?!?!」

「いや、私さっき死んで……?」

「ぎゃぁあああ! いたいいたいいたいいたいたいいたい!!!!」

 

 しかし、周りには死んでしまった者達の痛みに引き攣った顔がそこかしこに転がっており、確かに爆発はあったのだと訴えかけてくる。

 抑えきれなくなった恐怖は、絶叫となって発露された。

 

「っ! いいから落ち着け! お前らは生きてる大丈夫だ!!! とにかく都市中央に向かえ!!!」

 

 ライラが辺りを見れば同じように爆発に巻き込まれ、それでも死ねなかったものは即座に癒され狂ったように叫び続けている。

 そうなれば他の信者に見つかるのは当然のことで、同じように爆発に巻き込まれる。それで死ぬことができたものは、ある意味で幸せだったのかもしれない。死ぬ事ができなければ即座に癒され再び巻き込まれる。

 

 死の寸前にあった人間が瞬く間に復活するのはまるで神の御技のようだ。奇跡が起きているように錯覚する。

 だが、それは本当に救いとなっているのだろうか。

 

「…………アレを生かして助けることが、本当に正しいことなのかよ?」

 

 無事でよかったなと、言えるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ああぁぁ…………! うあああああ!」

 

 辺りを見回すだけで溢れていく死の数と、死の淵から無理矢理蘇らせられたことで発狂する人間たちに囲まれたリオンは、絶望の表情で立ちすくんだ。

 

「何を突っ立っている間抜け」

 

 胸ぐらが掴まれ、空いた拳がリオンの頬を突き刺す。

 

「ぐっ?! か、輝夜…………?」

 

「さっさと剣を執れ。何を木偶と化している? 今、私たちのすべき事はなんだ?」

 呆然とするリオンに、輝夜は冷徹な表情のまま淡々とすべきことを語る。表情とは裏腹に、胸ぐらを掴んでいる手は言葉を重ねるごとに強く締まっていき、表れていない激情が垣間見える。

 

「し、しかし、でもっ……だって……こんなこと、あっていい筈がない! こんな地獄絵図が!」

 

 潔癖なエルフの生娘には目の前の現実が受け止められない。

 夜切の行きすぎた行動を見てきた事で多少は耐性がついてきたとはいえ、この『悪』の大逆は、あまりにも重く、惨すぎた。

 受け入れられる限界値はとうに超え、もはやこれが現実だとは到底思えない。

 

「現実から目を逸らすな、たわけぇ! 絶望の虜になるな、青二才! 考える暇があるなら一人でも多く敵を切り捨てろ!!」

 

 しかし、輝夜はリオンに現実を否定して逃げることを許さなかった。

 

「敵に情けをかけるな! 貴様の迷いが守るべき人間を殺すぞ!!! わかったならさっさと動いて一人でも多く命を救え!!!」

 

「夜切とアーディの二の舞を増やすな!!」

 

 リオンの目が見開かれ、どうしようもない感情が胸の奥から噴き出してくる。

 

「ぅううぁああああぁあああっ!!!!」

 

 木刀が砕けてしまうのではないかというほどの力で握り締め、人々に襲いかかる闇派閥を切り捨てる。

 今、リオンが動けている理由に『正義』の二文字など存在しない。

 あるのはただ、友を殺された憎しみと怒り、その激情に従って身体を動かし敵を切るということのみだ。

 

 

 

 

 

 

「「うふふふ! あはは!」」

 

 悲鳴と絶叫が響き渡る通りに相応しくない、無邪気な『姉妹』の笑い声。

 

「ねぇ見てディナお姉様! はじめはあんなに自信たっぷりだったのに!!」

「見てるわよ、ヴェナ! 私達はまだまだ動けるのに、もうそんな元気はないみたいだわ!」

 

 (ディナ)と呼ばれた一人は金の髪を持つ白妖精(ホワイト・エルフ)

 (ヴェナ)と呼ばれた一人は銀の髪を持つ黒妖精(ダーク・エルフ)

 

 それぞれ左右に涙を模したような奇怪な刺青を刻み、今も繋いだ両手に指を絡めあい、無垢な妖精のようにはしゃいでいる。

 

 その視線の先にいるのはスティレットによって致命傷を負わされ、膝をつき動くことのできない【フレイヤ・ファミリア】の幹部でありLv5の第一級冒険者。褐色の肌を無数の傷で痛め、薄紫にも見える銀の髪は血に濡れている。漆黒の外套は無惨に切り裂かれ、外套としての役割をもはやはたしていない。

 

「あらヘグニ、もう喋ることすらできないの?」

「その程度の実力で私達と戦おうとしていたなんて、とっても無謀で素敵!!」

「「でもそんなのじゃ足りないわ、ヘグニ!!!」」

 

 頬を染め、淫靡にそのしたいをくねらせる。その様子は、ここが戦場ではなく街中で、姉妹が見下ろしている男が血に塗れ瀕死でなければ、恋する乙女達のように見えたのかもしれない。

 

「あの人ならもう何度も私の腕を飛ばしているもの!」

「あの人なら姉妹(わたし)の身体に何度も触れてくれるもの!」

 

 恍惚とした表情を浮かべながら歌うように語り続ける。

 

「私達の痛みも苦しみも!」

「愉悦も快楽も!」

「「全て理解してくれるのよ!!」」

 

 

 

 首にスティレットが振り落とされ───

 

「っ」

 

 ───ずにピタリと止まる。

 

「私たち夜切と約束していたんだわ?」

「そうね、だから人も殺してないわね?」

 

 武器を収めて手を繋いだ姉妹は、ニコニコと無邪気な笑みを浮かべてから離れた。

 

「「見逃してあげる!」」

 

「そのまま帰って女神様によしよししてもらうといいわ!」

「それは名案ね! 特別に私たちもしてあげる!」

 

 動けないヘグニへと近づき、愛玩動物を可愛がるようにして頭を撫でる。

 抵抗することなどできず頭に触れられ俯いたヘグニの表情は伺うことはできない。

 

「「よしよし。私達より弱いのによくがんばりました!」」

 

「ほら、ヘグニ、あなたの顔を見せて! きっと綺麗な顔をしているのでしょう?」

「下を向いていないで私達を見て?」

 

「………………………………………………殺す」

 

 憎悪に染まったヘグニの顔を見てなお、姉妹は笑い続ける。

 

「ヘグニからの熱烈なアピールも嬉しいけれど、でももう遅すぎるの!」

「あと少し早ければ浮つくこともなかったかもしれないわ!」

 

 愛する女神が褒めた相貌を『汚物』に晒し、その上ベタベタと触れられた。その、あまりの屈辱に血が滴るほど強く拳を握り締める。

 どんな手段を弄しようともこの『妖魔』だけは───と考えるヘグニに、否、冒険者全てに更なる絶望が叩きつけられる。

 

 だって、とより一層笑みを深める姉妹。

 

 

「「私達L()v()6()になったんだもの!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あは」

 

 幽鬼の如し足取りの剣士が一人、闇派閥の集団へと足を進める。

 

「あはは、はははははははははははは!!!!!!!」

 

 突如として耳に入ってきた狂笑に、集団の足が止まる。

 

「もう我慢しなくていいんですね? もうつまらない有象無象に手加減なんてしなくていいんですね?」

 

 もう、

 

「もう、殺してしまってもいいんですよねぇ?!」

 

 愉悦と嘲笑、何よりも恐ろしいのは声に含まれる狂気。

 幽鬼の纏う雰囲気に集団は、恐怖で足をすくめることしかできない。

 

「ははは、あっはははははははは!!!!!」

 

 確かに【()()()()()()()()()()()】のツキサキヨキリは、邪神によって作られた舞台から既に降ろされた一役だろう。

 

 しかし。

 

 しかし、それはあくまで【アストレア・ファミリア】の人間として。

 

 それはすなわち【アストレア・ファミリア(正義の使徒)】という枷が外れたというだけではないだろうか。

 

「神よ! 私を───あえ?」

「俺たちの痛みを知れ───え?」

 

 振るわれた銀閃は瞬く間に数人の闇派閥の首を落とし、断ち切られた首からは噴水のように血が吹き出す。

 元より男は部外者。

 

「同志達よ! 何をしている、敵は男一人!! 殺せぇえええ!!!」

 

 血飛沫を全身に浴び白かったローブを真っ赤に染めたリーダーと思わしき信者は、死がすぐ側に迫っていることを理解して絶叫を上げた。すぐさま指示を飛ばすが、もう遅い。

 

「ぎゃぁあああ!」

「俺の、俺の腕がぁ?!」

「あああぁぁぁあ?!?! ごぼれでるぅ?!?!」

「やめ、やめてえぇぇ?! いやだ見たくない! 切らないでっ───」

 

 命乞いは許されず、裂かれた腹から腑を引き摺り出され眼前でそれを、無価値だと言うように切る。

 浮かべているのは満面の笑み、もとい嘲笑。

 

「罪人に裁きをぉおおおおおお───お?」

「殺さないで!! 殺されたら私は夫に─────」

「死ねえぇええええ!!! ごぼっ」

 

 自爆をしようともそれより速く刀が振るわれ、腕ごと首を切り落とされる。

 

「いや! いやよ! 私はこんなふうに死にたく、ごぼっ?!」

 

 先ほどまでは死ぬ覚悟もできていたはずの信者は誰も彼もが、嗤笑しながら歩み寄ってくる死の姿を目の前にして、このままでは意味のない理不尽な終わりがもたらされることを理解させられる。

 決死の覚悟も生きようとする足掻きも全て例外なく、無慈悲な一刀のもとに切り捨てられるのだ。

 

「ここで死んだら俺はぁ!!!」

 

 死神との契約は『()()()()()、冒険者を()()()()()()()暁には、死んだ愛しい者に会わせてあげよう』というもの。

 故に、それができず殺されてしまえば、愛しいものに会うことすらできない。果てに待っているのは、無価値で無意味で何も残らない無駄死。

 

 そんな結末は嫌だと叫ぶが、それすら既になんの意味も持たない。

 死をもたらす悪鬼からすれば価値のない騒音で、気にかけるものになど値せず、嘲りに染まった鬼の嗤い声を聞くだけで意思が砕けてしまうような弱者の殺意や覚悟など、そよ風にすら劣る。

 

「あ───」

 

 何よりこの男を殺せたとて、そもそも冒険者などですらない。

 恩恵のない人間が戦えるなどと考えることのない者には、まさかただの人間が理由なく殺すためだけに迫ってくるなどという発想はない。

 

「くくくくく、あはは、あーはっはっはっはぁ!!!」

 

 気がつけば辺りには生きた人間の気配はなくなり、数十の屍の山が作り上げられていた。そのどれもが首と胴体を芸術的なまでに美しく切断されており、首を刎ねることを極限まで効率化した末に生まれたものであることは、誰の目にも明白である。

 

 下手人は歓喜に満ちた笑い声を上げながら都市を歩き回り、その背に無数の死体の山を築いていく。

 

【ファミリア】の肩書き()はもはや意味を成さず、守るべき子どもは既に祈りと共に果てた。

 

 

「つまらなかった余興もこれで終い」

 

 

 止まることなく滴り流れる血で道を作り、長い髪を結んでいた紐をほどく。一本にまとまっていた、闇に溶けてしまいそうなほど黒い長髪は、滑り落ちるようにして広がった。

 

 

「此処に在るのは極東の人斬り(月咲夜切)唯一人」

 

 

 既に多くの血を啜った刀を拭えば、白銀の刀身が姿を見せる。

 

 

 

 ─────宴を始めましょう

 

 

 

 刃が映した燃え盛る都市を前に、悪鬼は一人、酷薄に嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アストレア・レコード 邪悪胎動

 ───或いは、羅刹遊楽   了

 




間話を挟んで正義失墜に行きます。

語彙と表現力を高めて二章を書きたい。
特に姉妹はメインキャラにしたいのに情報が足りない。【フレイヤ・ファミリア】のエルフに関してはもはや興味がない。読み込んできます。

匿名を解除しまして、リクエストを受付中です。何か読みたい間話があれば、活是非とも動報告のコメントの方にお願いします。
アンケートを実施しますので、良ければそちらの回答もよろしくお願いします。その他の選択肢を選んでくださった方は活動報告の方にコメントを残していただけると助かります。

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正義失墜の視点

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