オラリオに求めたのは再会と斬り合い   作:幾何花なまり

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お待たせしました。お久しぶりです。

本編はそれなりに書けていたのですが、こっちがなかなか書けないという面倒な事態になってました。
今週中にもう一度更新できるように頑張ります。


グラン・カジノ②

「夜切、話がある。少し二人きりになれないか?」

「承知しました」

 

 深夜に押しかけてアスフィさんを脅し……ごほん。お話しして、私とライラさんのドレスとスーツの採寸仕立てを請け負ってもらうことに成功した翌日の昼。

 私はタケミカヅチ様と向かい合って座っていた。

 

「話は聞いている」

 

 話。

 誰から何をどんなふうに聞いたのか。

 

「何のことでしょうか。それといった心当たりはありませんが……」

 

 私最近は……というか昔から問題行動なんて起こしてないはずなんだけど。

 少し前に甥っ子君に協力したのがやりすぎだって話? いやあれはヘルメス様が私は朝廷の人間だからいけるって言ってたから信じただけだし。私悪くないし。

 

「とぼけなくていい。俺はお前を責めるつもりもないんだ」

「はい?」

「伝えてくれなかったのは水臭いと思うが、俺はむしろ祝福してる」

 

 ますますわからない。

 いいこともした覚えはもちろんないし、慶事など私にあるわけがない。

 強いて言えば、それこそアンナさんを助けてくれという老夫婦の懇願を聞いて準備をしたくらいである。とはいえそれは所詮準備であるし、これを祝う訳がない。

 

「私にはタケミカヅチ様が何をおっしゃろうとしているのかわかりません」

「昨日の晩のことだ。わからないか?」

 

 昨日の晩……目の隈が酷く疲れ切った様子のアスフィさんの仕事が一息ついたところで押しかけて仕事を増やした。

 

「こ、ここ、心当たりがありません!」

「それで誤魔化せると思ったのか……?」

 

 いやでも待て落ち着け、これはロクでもない事をしただけである。

 祝うとおっしゃっているのならば、これがバレたということはない。そうだ、しっかりしろ私。

 私の慌てた様子を見て息を吐きまあいい、と続けるタケミカヅチ様。

 申し訳ないが私は何がいいのかすらわかっていない。下手をして藪から蛇が飛び出してきたら嫌だからなんとなく話を合わせる。

 大丈夫なんとかなる。怒られる雰囲気ではないし、行き当たりばったりでどうにでもなるはずだろう。

 

「それで…………お前は本気なんだな?」

「はい?」

「それは、【ファミリア】の軋轢が生まれることもわかった上でのことか?」

 

 少々の間ができる。

 私はタケミカヅチ様の言葉選びを不思議に思いつつも、胡座をかいて腕を組み目を伏せて考える様子を黙って眺める。

【ファミリア】間の不和となると……やっぱりアスフィさんの事か? 

 いやでもヨミで元気にしてあげたし。祝われるのに不和とはどういうことか。

 本当になにもわからないのでかなりまずい。

 

「【アストレア・ファミリア】とは長い付き合いがある。お前のやらかし一つで積み重ねてきたものが崩れることもわかっているな?」

 

【アストレア・ファミリア】ということは輝夜達と私に何か……? 

 リオンさんが歳下趣味だった事を揶揄ったくらいである。

 そういえば、リオンさんは甥っ子くんが甥っ子だと知っているのだろうか。知らなかったとすればそれなりにそれなりなアレだと思う。

 

 まぁ今はそんなことどうでもいい。

 

 他には何かあったか………………ああ! なるほど! 

 

 ようやくタケミカヅチ様の真意が理解できた。

 さすがタケミカヅチ様だ。昨日ライラさんに話したばかりなのに、もう知っているなんて。私の考えていることなどお見通しだということだろう。

 

「彼女に負担を強いてしまっていることの自覚はありますし、これに失敗は許されないことも理解しているつもりです」

「…………」

「介錯なしに腹を切る。私は今、それくらいの覚悟を持っています」

 

 知られることなく静かにすませようと思っていたがしかし、タケミカヅチ様が私のやろうとしていることを既に気がついているというなら話は早い。

 失敗することはないだろうし万が一ボロ負けしても問題ないものはあるので、ここぞとばかりに強い言葉を使って主張する。

 私の言葉を聞いて黙って耽っているタケミカヅチ様に続けて伝える。

 

「5000万ヴァリスほど、私の蓄えから使わせていただくことはできませんでしょうか」

「いいだろ…………5000万!? お前どれだけ盛大な事をしようとしているんだ!?」

「まあ確かに高額ではありますが、500万や1000万では私の実力では心許ないのです」

 

 というか、盛大なこと? 

 いや、まぁ、盛大なことと言えばそう……なのかなあ? 

 カジノに正面から乗り込んで、ギャンブルに勝ってアンナさんを助けようとしているわけだから。盛大と言えば盛大だろうか。

 血祭りにはならない予定なので安心してもらいたい。

 

「まあ……お前達がそれでいいならいいんだが、流石にそれは高すぎる気も」

「それで喜んでくれる方がいますので」

 

 賭博の金が足りなくなって一人娘を質に入れた親は頭がおかしいと思う。そういう人間は心底どうでもいいが、しかし彼女が働いていた花屋のご夫婦はそれはもう大層心配していた。

 恩恵がない見掛け倒しの剣士だと話している私のような極々一般的な人間(ヒューマン)の常連客に頼み込むくらいだ。切羽詰まっているのだろうことは明らかである。

 

「いや、でも、多分……そんなには要らないんじゃないかなぁ」

「タケミカヅチ様、どうかお願いします。今こそ私の蓄えを使う時なのです」

 

 私は賭け事が下手くそだから……というかほとんどルールがわからないのでどうせ負けるけど、ライラさんは勝てるだろうし、ついでにうまくいけば報酬ももらえて儲けになる可能性は十分にある。

 そもそも私は金に対する執着はさほどないので、いくら使おうと構わない。

 でも私が思い切って使おうとするとタケミカヅチ様が怒るから……。

 人助けの為に使う今回のような時ならば許してくれるはずだ。

 

 …………なぜ私は元服などとうの昔に過ぎているというのにまだ金の管理をされているのだろうか。無駄遣いなんてしてないはずなんだけど。

 

「ま、まぁ、あれはお前の給料だったからそれはいいさ」

「ありがとうございます。これで心置きなく行うことができます」

「何か不安なことがあればなんでも俺に聞いてくれ。そういうこと(結婚に関して)が得意な友神もそれなりにいる」

 

 つまり、いざとなればタケミカヅチ様を通じて他の神々も協力してくれるということだろう。

 ありがたいことこの上ない。

 失敗することはないと思うが、万が一の時の保険として神々の後ろ盾があるというのは心強い。

 

「わかりました。もしかすると、すぐに頼ることになるかもしれません。その時はよろしくお願いします」

「おう! 任せておけ」

 

 話はこれで終わりのようで、私は頭を下げてから退室する。

 

 

 

 

 

 それにしても…………なんでアンナさん救出作戦を祝福するなどとおっしゃったのだろうか? 

 そういうのは全て終わってから言うものではないのか。

 或いはもうタケミカヅチ様の目には成功している様子が見えているのか。それなら私も安心して動けるのだけれど……はてさて。

 

 そんなことを考えながら自室へ戻ると、なぜか部屋の中央に金色の狐が。

 

「夜切様! お待ちしておりました」

「春姫?」

 

 どうしてここに? と思わず口に出そうになったが、それを飲み込んで平静を装う。私は一応こんな人間でもこの子たちの兄代わりの様なもの。

 ならば妹分が衣服をはだけさせながら私の部屋に居ようと気にしないのだ。

 

 などとでもいうと思ったか? 

 

 言うわけないだろうが! 

 

 春姫も流石にもう十六歳つまりは大人なのだから男の部屋に無防備に入るべきじゃないと思う。身内贔屓を抜きにしても春姫はそこらの女神よりも美しい子であることは一寸の疑いようもない事実。春姫を気に入ったクズに嵌められて連れ去られた過去があるのだから本当に気をつけて欲しい。もちろん、そんなことがあったのだから男が嫌いになっても仕方がない、どころかむしろ至極当然なことだと思う。にも関わらず、こうして私に接していてくれているのは信頼の証だと思えばは嬉しいが、もし誰も彼もにもこんな事をしているとしたら春姫が危ないのだ。

 後でゆっくり言って聞かせなければ。

 

「あの、タケミカヅチ様とのお話は終わりましたか?」

「ええ。ちょうど終わったところですよ」

 

 無意識なのかなんなのか、着物の裾から金色が右に左にちらちらと覗かせている。かわいい狐耳も忙しなく動いている。

 目は口ほどに物を言うなんて諺があるが、この子は耳と尻尾の方が何よりも雄弁に気分を語るらしい。

 

「昨晩はどちらへ?」

「タケミカヅチ様に続いて春姫まで、急にどうしたんですか?」

「お願いします。夜切様、とても、とても大切なお話なんです」

 

 何が何だかわからないが聞かれて困ることではないし、タケミカヅチ様に言ったら怒られそうだからやめておいたけど、春姫ならいいでしょ。

 

「ライラさんとスーツとドレスの採寸に行ってきただけですよ」

「スーツ!? ドレス!? 採寸?」

 

 耳と尻尾をぴんと立たせた春姫にそうですよ、と肯定の意を示す。

 さすが万能者(ぺるせうす)。なんでもできる。

 

「夜切様は以前、春姫を幸せにしてくださると言ってくれましたよね?」

「そんなことも言いまし………………え?」

 

 いやいや待て、そんなことは言っていない。そう答えようとした私だがすんでのところで口をつむぐ。

 彼女の幸せを願っていないわけではないし、ここで否定したらそう言った意味にとらえかねない。彼女を傷つけたくないのならば、ここはひとまず黙ることが正解か? 

 

 ちなみに正確には、春姫が幸せになれるまで私が守ると言ったはずである。

 五年ほど前のことなので定かではないが、「私があなたを幸せにする」なんてことを間違っても口にするわけがないのだ。

 それを言うにはあまりにも人を殺しすぎている。

 

「私にできるのは、あなたが幸せになる手伝─────」

「春姫は、妾でも愛人でもいいのです」

「いくら…………………………は?」

 

 気づいたら私の腕に体重を乗せてしなだれかかっている。

 ほんの少し前までは膝に収まるくらいだったのに、いつのまにか大きくなっていたことを今更ながら感じる。

 重くなったなぁ、と口に出したら怒られること間違いなしなことを考えながら、やんわりと春姫の肩へ手をやる。

 

「夜切……様」

 

 顔がとても近くなる。

 少しでも動けば鼻が触れてしまいそうな距離。

 

「あの、離してもらえませ──ぐへぇ」

「嫌でございます!」

 

 優しく押して離れさせようとしたところ、逆にますます強い力で抱きしめられてしまった。

 

「あ、あの、春姫? 押し倒さなくてもいいんじゃありませんか?」

 

 顔全体を朱色に染めたまま私を離すまいとのしかかる春姫を諭そうと試みるも、どうにもあまり効果はなさそうである。

 遂には腕を掴まれて逃げられなくなってしまった。

 

「私は貴方と違って恩恵がないのでそんなに強く掴まれては折れてしまいます」

「ライラ様とそれはもう激しいことをしていたのにわたくしの抱擁は─────」

「なにを考えているのか最早見当もつきませんが、おそらくそれは間違っていると思いますよ」

 

 私の上に跨りながら、目をぐるぐると回している。

 どかしていいのか悪いのか。

 ずっとこんな体勢でいるのも辛いのでゆっくりと体を起こし、春姫を下ろしてやる。

 なかなか落ち着く様子はないので背中をさすってしばらく待つ。

 

「…………申し訳ございません、夜切様」

「気にしなくていいんですよ」

 

 ようやく落ち着いたのか、恥じらうように顔を逸らして私に謝る。

 別に気にする事はないのに。

 

「わたくしのわがままを聞いて欲しいのです」

 

 唐突。

 

「いいですよ」

「本当ですか?」

「ええ。私が春姫の言うことを嫌がったことはありますか? なんでも言ってください」

 

 春姫のお願いなんて可愛いものだろう。

 こらまでは一緒に寝て欲しいとか、撫でて欲しいとか、そういうものだったし。

 どこかの誰かさん(輝夜様)にも見習って欲しい。

 

「本当の本当の本当に?」

「本当です。アマテラス様に誓えますよ」

 

 なら、と深く息を吸うと春姫は私の目をまっすぐに見つめた。

 

「これからもずっとわたくしと一緒にいてくれますか?」

 

 ──────。

 

「ずっと、というのは難しいかもしれませんね。ほら、私は恩恵がありませんし、貴方達よりもずっと早く寿命が来ますよ」

 

 答えになっていない返答に、小さく首を振り私の手を小さくて細い指が包み込む。

 

「わたくしは夜切様や命ちゃん達、タケミカヅチ様とずっと一緒にいたいです」

 

 握った手を胸の辺りに持ってくる。

 それは私には祈りのように見えて。

 

「夜切様はどうですか? わたくしたちとはいたくありませんか?」

「そんなわけありません」

「でしたら、わたくしはしっかり言葉にしてもらいたいのです」

「……春姫」

「夜切様はわたくしと一緒はいやですか?」

 

 覚悟を秘めた瞳に嘘をつくことはできなかった。

 

「私もあなたと居ることができればと、ずっと前から思っています」

 

 そう、春姫に答えて内心自嘲する。

 やはり私はろくでなしだと。

 

 居たいと思っても、それが叶うことなどないと思っているのだから。

 私はきっと血に塗れた私がこの子達と居続けることを認めることなど出来はしな──────

 

「わっ?!」

 

 突然抱きしめられた驚きで考えていたことが飛んでいった。

 

「ちよ、ちょっとどうしました?」

 

 私が尋ねるのが早いか、いやそれよりもはるかに素早く部屋から飛び出すと、何かを言いながら廊下を駆けていく春姫。

 今まで見た中で一番早いかもしれない。

 

「タケミカヅチ様ー!! 春姫はお認めいただくことができました〜!!!」

 

 認める? 

 

「春姫? 春姫?! ちょっと待ちなさ───」

 

 行ってしまった。

 …………まあ、いいか。春姫ももう大人。好きな人の一人や二人作っていつのまにか私の手から離れていく事は間違いない。

 

 なんだか朝からひどく疲れた気がする。ギルドに行って金を受け取って、それをライラさんに手渡して今日の予定は終わりだ。

 

 乱れた服装を整え、羽織りを身につけて外へ出る。

 私も何か、人に誇れることがあればいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アストレア」

 

 夜切が春姫と話をしている頃、【アストレア・ファミリア】の本拠地である『星屑の庭』に、珍しく神の来客があった。

 

「あら、タケミカヅチ? 珍しいわね。どうかした?」

 

 それを出迎えたのはこの屋敷の主人である【正義の女神】アストレアだ。

 普段より慈愛に満ちている瞳は、交流は多いものの本拠地に踏み入ることはなかった男神の突然の訪問に驚きの色を濃く映している。

 

「ああ。本当なら手土産でも持ってこようかと思っていたが……すまない。かなり緊急性がある話故、準備できていない」

「いいのよ。いつも夜切から貰っているもの」

 

 それで、と一旦区切るアストレア。

 

「緊急の用事って? 何かあったのかしら?」

「…………子供たちのから何か聞いていないか?」

「特別言われたことはないわよ」

「そうか、アストレアにも言っていないとなると……本当に誰にも言ってなかったのか」

「今日は輝夜とリューがいるけれど大丈夫かしら?」

 

 勿体ぶってなかなかはっきりしないタケミカヅチの様子に、かなり深刻なことなんじゃないかと不安になってきたアストレア。

 自分の眷属と夜切が何かよくない事に巻き込まれているのではないか。

 そんな思考がよぎる。

 

 まぁ間違ってはいない。

 

「いや……いや、ここで話すのはあまりよくないな。個室のある店にでも行かないか?」

「ええ、そうしましょう」

「悪いな」

 

 

 

 

 

「って事があったんですけどどう思います?」

「アウトだろ。間違いなく」

「ですよねぇ……私はどうすればいいんでしょうか」

「知らねえけど、それ輝夜に話すなよ? ピリピリしてんの嫌なんだよ」

「そんなぁ、ライラさん。私とあなたの仲じゃないですか」

「どんな仲だよ」

 

 どんな仲? 

 

「ん、んん…………僕と君は夫婦だろう? 全く、僕の妻は冗談がうま」

「くたばれ」

「え? 純粋な暴言?」

「ほら、あれだよ。お前の妄想」

「いやでも」

「でもも何も、それがそうじゃなきゃ惚れてるだろ」

 

 私の妄想だと言われてしまえば、むしろそれの方が正しい気もしてくる。

 普通に考えて自分を国へ連れて帰るために【ファミリア】の主力を壊潰して半壊状態へと追い込んだ人間に惚れるとかあり得ない。

 聞けば、そこまで酷い扱いもされていなかったそうだし。

 しかし春姫を娼婦にしようなど、神々が許そうと私が許さない。

 

 それはともかく、春姫はちょっとばかりませていたり、感性が豊かで素晴らしい想像力を持っている子だが割と一般的なの常識の持ち主。そんな娘がいくら小さな頃から関わりがあるとはいえ、いやむしろ関わりがある分、一人で【ファミリア】と戦える暴力を隠して接していたなどと知れば恐ろしく感じるに決まっているだろう。

 

 つまりあれは春姫かわいさに生み出した私の幻覚であると。惚れられていると考えるよりもよっぽどあり得る。

 

 しかしながら、それはそれで非常によろしくないのである。

 本気でタケミカヅチ様に介錯を頼まなくてならないのかもしれない。

 

「というかお前、そろそろいい加減にしろよ? なんでそう思わせぶりな態度とるんだよ」

「思わせぶりなつもりはないんですがねえ。誰に対してもこんなですし」

「…………んな事してるといつか痴情のもつれで刺されるぞ」

「ははは、私が刺されるわけないじゃ…………嘘ですよね?」

「しーらね。アタシから言えんのは、思わせぶりはやめろよってくらいだ」

 

 いや私のは思わせぶりとかそういうのではないし、しっかり考えてから最大限相手に配慮した返答である。

 私のろくでなしの本性をこれで隠してきたのだから間違いはないはずだ。

 大抵の人の目には私はいい人として映っているはず。

 

「春姫がお前の『一緒にいる』をプロポーズだと思ってタケミカヅチ様に言ってたらどうするんだよ?」

「いやいや、そんなわけないじゃないですか。だって私ですよ? ろくでなしじゃないですか」

「でもタケミカヅチ様を呼びに飛び出したんだろ?」

 

 それは別に関係ないと思うが。

 

「んで? どんだけ金はあんだよ?」

 

 元手が少ないとどうにもできねえぞと、頬杖をつくライラさん。

 私の大変な苦悩など興味もないようだ。

 もう少し私に興味持ってくれてもいいと思います。

 私にとって非常に重大な問題に直面しているというのに。

 

「…………私の貯蓄から5000万ヴァリスほど」

「多すぎじゃねえの?流石に」

「というか私、誰彼構わずこんな事を相談するような節操のない人間じゃあないんですよ?」

「だからそういうとこだって言ってんだよ」

「はい? それはどういう?」

「わあ~すげえ金持ち〜」

 

誤魔化された気もするが……まあいい。

 金に関しては幼い頃から朝廷に勤めていた間の給料ゆえ当然である。

 私のような子どもにもしっかり払ってくれるアマテラス様(朝廷)はやはり素晴らしい。

 

「本当はもう少しあると安心だったんですがねえ」

「お前どんだけ負けるつもりなの?」

「負けても金払いが良ければ上客として扱われるはずです」

 

 上客というよりも正確にはむしろ

 

「カモ扱いされると」

「そういうことです」

「ま、アタシの腕にかかればうまぁく勝って、いい感じに負けてやるから安心しろよ」

「頼りにしてますよ」

「最終的にプラスマイナスマイナスくらいにしてやる」

「そこはプラスにしてくれてもいいんですよ?」

「収支がマイナスでも買われた人が戻ってくればプラスだろ」

「でもそれ勝たないと帰って来ないんじゃ……?」

「金は残ったところから山分けな」

「明日の稼ぎはライラさんの腕にかかってますからね? 大丈夫ですよね???」

「任せとけって。掃き溜め出身の手癖の悪さ見せてやるよ」

「私は私のロクでもない手癖がでないように気をつけますね」

 

 お医者様のヨル先生は、五年前にからとっくにオラリオのお尋ね者である。まさか月咲夜切までおたずねものになるわけにはいかないのだ。

 

「つーか、にしてもよく5000万なんてポンと出せるな」

 

 国の最高機関で10年以上働いていたのだから当然である。

 それもとびっきり過酷で後ろ暗い部分を。

 普通に生きている人間からすれば、私の金はロクでもないものだと思うかもしれないが、一応お国のために尽くして得た報酬であるから怒らないで認めて欲しい。

 

「ほら、些細な日常が戻ってくるには安いと思いません?」

 

 些細な日常ねぇ、と()()()というやつでこちらを見てくるライラさん。

 5000万で日常が買えるなら買う人間は数え切れないほどいるはずである。

 

「お前、普段何してんの?」

「普通の生活ですよ」

「最近【アストレア・ファミリア(ウチ)】来ないだろ?」

 

 私だって暇じゃないのである。

 五年だか八年だか前は観光気分でいたから遊び呆けていただけで、タケミカヅチ様達とこちらへ来てからは真っ当な仕事をこなしている。

 

「だからなにしてんのかなって」

「まあ、強いて言えば道場の手伝いとかですね」

「……道場?」

「ええ、タケミカヅチ様が直接教えてくださいますよ」

 

 私はそれの手伝いをしているのである。

 不意の事故で痛めてしまった箇所があろうと、ヨミで治せるので安心して通っていただくことができます。

 

「【アストレア・ファミリア(アタシら)】でそれ知ってるやついる?」

「ほとんどが女性で冒険者になりたい子どもたちもそれなりにいる、といったところですね」

「……お前みたいなバケモンがうじゃうじゃいるなんて事はねえよな?」

「一応私は生まれてから今日まで刀と生きてきましたから。流石に私と同等以上の方はいらっしゃいませんねえ」

「冒険者と戦える一般人とかいないんだな?」

「そんなに疑わなくても……いませんよ」

 

 そんな一般人がいてたまるものか。私だって恩恵のある人間を切れるようになったのは十歳ごろだ。タケミカヅチ様と師匠のもとで五年くらい。

 こんなと言ってはアレであるが、道場で鍛えたからとかなんとか言って一、二年で勝てるようになるわけがないのである。

 

「ま、とりあえずお前にはゲームのルールを詰め込む」

「え? ライラさんが全部やってくれるんじゃないんですか?」

 

 完全にそのつもりであった。

 

「は? お前それアタシがいなかったらどうするつもりだったんだよ」

「その時は、まぁ、ね?」

「何度も言ってますが私だってゲームが弱いわけじゃないんですよ」

 

 ルールを覚えていないだけで。

 

「そういうのを論外って言うんだぞ」

「こちらで()()()するなら勉強するんですが」

 

生憎そういう機会はなかったのだ。

 

「ひとまず、ボコボコにしてやるからそれで覚えろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜切とライラが?」

「ああ」

「それは……その、勘違いとかじゃなくて?」

 

 もちろん俺もそう思った。とはタケミカヅチの言。

星屑の庭(ホーム)』から神々御用達密談にもってこいな店へと場所を変えたアストレアとタケミカヅチの二人はひどく真面目な顔をして話し合っている。

 

「それも夜切に確認したが、あいつは何かあれば腹を切るとまで言ったんだ。俺から見ても嘘はなかった」

 

 ならば()として子どもを祝福しないわけにはいかないと、タケミカヅチは語る。

 内容はもちろん、夜切とライラの結婚(大誤報)という話である。

 タケミカヅチは夜切の反応からほぼ確信している一方で、アストレアはいささか懐疑的な姿勢だ。

 

「しかし……棒振りのことしか頭にないようなアイツが、結婚するとはなぁ。俺は本当に嬉しいよ。よかった。成長したなぁ」

 

 幼い頃から夜切を世話してきた親心から感涙にむせぶタケミカヅチに、アストレアは「多分何か勘違いしているわよ」なんて言葉をかけることはできなかった。

 空気を読んだわけである。

 この場において、今回この結婚騒動において考えるのであれば、読んでしまった、とも言えるかもしれない。

 

「私からもライラに聞いてみるわ。何か間違いがあったらいけないし、これはあまり広げないようにしましょう」

「……………………あ、ああ、そうだな」

「タケミカヅチ?」

 

 長い間を作ってから返事をしたタケミカヅチ。

 その反応にアストレアは嫌な予感に頬を引き攣らせながら、聞かなくてはならないと尋ねる。

 

「あなた、広めたの?」

「違う。断じて俺は広めてない。俺は広めてないが……俺がこの事を初めに聞いたのは夜切じゃないんだ」

「それはどういうこと?」

「【タケミカヅチ・ファミリア(うち)】の子ども達の中の一人が俺に教えてくれたんだ」

 

 それなら確かに少しは広がっているだろう。

 

「でも、進んで広めようとする子なんているのかしら?」

「命も、千草も桜花も……この事は知らない」

 

 アストレアの尤もな疑問に寒い顔をしてつまりだ、とタケミカヅチ。

 

「これを一番初めに知ったのは春姫なんだ……!」

 

 ようやくタケミカヅチの歯切れの悪さの理由を察したアストレア。

 

「それ、は…………そうね」

 

 もうみんな知ってるんじゃない? どうにかその言葉を飲み込んで、席を立つ。

 

「今日の休みは……輝夜とリューね」

「なるほどな。俺もさっきそれを見て───」

 

((まずい…………!!!))

 

 ここへ来て二人の意見は完全に一致した。

 素早く会計を済ませて店を飛び出す。もはや人目を憚る余裕などない。

 

「みてー! 女神様と男神様がはしってるー!」

「あら、愛の逃避行かしら?」

「なに? 女神様と男神様が結婚!?」

「あれはアストレア様! と……誰だ?」

 

 周囲の雑音など耳に入らない。

 いくら零能とはいえ、タケミカヅチは武神。当然動けるが、しかしアストレアはそういうわけにもいかずだんだんと距離ができる。

 

「すまん、アストレア!」

「え? きゃっ!」

 

 それに気がついたタケミカヅチは一言断ると、アストレアを抱き抱える。

 同時に民衆から歓声が起こるが以下略

 

 

 

『少し出かけます』

 

 駆け足で戻ってきた二人を迎えたのは、そんな置き手紙であった。




春姫とタケ様との会話している時頭悪くなる現象。

正義失墜の視点

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  • リュー
  • 輝夜
  • その他
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