朝から輝夜と剣を合わせた。
一時間ほど行ったが、ほとんど私が一方的に切るような形になっていたので、かなり消耗しているように見える。傷はヨミが治してくれるとはいえ、痛みもあれば精神的な負荷を減らすような事はできないので、消耗してしまうのも当然のことだろう。
私も輝夜のスキルには驚かされた。
スキルによる一撃自体は対処できたが、それに加えての爆風や焔を巧く受けることができず吹き飛ばされ、それだけでかなりの火傷を負ってしまった。
私の弱点は、魔法などによる面の攻撃だと云うことを知れたのは収穫であろう。精霊によって魔法などはある程度軽減できるとはいえ、私の身体は所詮鍛えた一般人。軽減されたものの余波だけでも、相応に負傷する。
恩恵持ちと戦うにあたって、私の身体の耐久性が低いのが大きすぎる問題だと感じられた。これは恩恵を貰わなければ、どうにも解決できないであろう所じゃないだろうか。或いは、精霊達に今まで以上の防御性を求めるか。
どちらにせよ、今すぐにどうにかできる部分では無さそうである。
今回は昨夜のように血痕を残さずしっかりと処理をしたので、ここへ来て驚かれる事はないだろう。
食事を摂り、出ていく【アストレア・ファミリア】の面々を見送る。
それに続いて私たちも外へ出るのかと思っていたのだが、アストレア様はこの場で少し話をしたいとおっしゃった。断る理由もないので、対面に座って話を聞く。
「ここでの生活はもう慣れたかしら」
「そうですね。皆さんが良くしてくださるので、慣れてきた所です」
当たり障りのない会話から始まったが、何を聞かれるのだろう?
まだここにきて二日程度しか経っていないので、何か特別話すような事はないように思える。初日はここへ着いただけであるし、昨日は私も仕事に混ざっていたので私だけで何かしたと云う事もない。
「輝夜ったら、あなたから手紙が届くたびに嬉しそうにしていたのよ。それに貴方が来てからは、それまでよりも楽しそうに見えるわ」
「私も輝夜から手紙が届けば浮かれていましたから、彼女もそのようで安心しました。私だけとなると恥ずかしいので」
「輝夜に伝えてあげたらどうかしら? きっと喜ぶわよ」
「ははは、機会があれば伝えたいと思います」
そんな事はいいので話を進めましょうといえたらいいのだが、あいにくそれを言う度胸? は私にない。
「ごめんなさいね。ついつい揶揄ってしまったわ」
「これくらいでご勘弁を」
まだほんの触りしか、というより本題に入る以前も以前なのに、すでに私は疲れている。友人の
「ふふ、そうね。……じゃあ本題に入りましょうか」
アストレア様の雰囲気が変わる。
神々しく、神秘的で静謐で、それでいて爛々と燃る焔の様な。そんなオーラとでも言うべきものが私を襲う。
タケミカヅチ様とはまた違った
そんな物騒なものを出してまで一体私に何を聞こうと言うのだ。これじゃあ『お話』ではなくて『脅し』じゃないか。
アストレア様は、一切の嘘を許さないとても言うように私の目を見て問うた。
「───貴方にとって正義とは、一体何?」
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あの質問は、【アストレア・ファミリア】に入団するときに皆答えているんだろうか。入団試験から、厳しい問いかけをするなと思うが、自らの芯となるものが無ければやっていくことができないのだろう。
それはともあれ、このまま居ても良いとおっしゃってくださったので、私の『正義』は少なくともアストレア様がお認めならないような『正義』ではなかったのではないだろうか。
【アストレア・ファミリア】から追い出されることがなさそうで、ひとまず安心である。
それはともあれ、アストレア様に団員と認められた(であろう)私は、孤児院に炊き出しをしに来ている。
大きな鍋に具材を入れ、煮込む。出来上がった食事はやって来た子供達や大人に配る。温かい食事が届き、嬉しそうにしている子供達を見るのはとてもいい。極東での生活を思い出す、といってもほんの一週間ほど前のことではあるが。
やはり、子どもたちは笑って暮らしている方がいいのだ。
私のような人殺しが言えることではないし、今のオラリオでは難しいのであろう。しかし子どもが無意味に殺され、虐げられるような事にはなってほしくないと思う気持ちに偽りはない。
「お姉さんご飯ありがとう!」
「喜んでくれて私も嬉しいですよ。あと、私はお姉さんではなくお兄さんです」
「でも髪長いし、『私』って言ってるじゃん! 私って言うのは女の子が遣うって私知ってるよ!」
「なるほど、それでは物知りな貴方に新しい事を教えてあげましょう。男も『私』という言葉遣いをする事もあるんですよ」
「ふーん。変なのー!」
「貴女ももう少し大きく慣ればわかるようになるはずです……たくさん食べて大きくなってくださいね」
へ、変なの……。子どもに言われると何か心に来るものがあるな。『私』というのはやめて、『僕』という風に戻した方がいいのだろうか?
バイバイという子どもを見送り、次々と現れる人達に配膳する。
今日は仕事でないはずだったのだが仕事をしている気がする。子どもたちと触れ合うのは好きだから別に問題はないけれど。
「貴方は【アストレア・ファミリア】の新人さん?」
「先日入団したばかりの新人です」
「男の人も入れたのねぇ。…………みんな可愛いじゃない? 好きな子、いたりするのかしら?」
「あはは、皆さん素晴らしい方々ですから。私では到底釣り合いませんよ……はい、どうぞ。溢さないように気をつけてくださいね」
なんだろう、今日はそういう事を聞かれる日なんだろうか。
私は子どもだったから優しく対応しただけで、大人と長く話すつもりはないぞ。まだまだ列は残ってるんだ。どいたどいた。
ようやく長い行列を捌き切った……。
私の想像よりも人が多く、あの量で足りるかどうか不安であったが、どうにか最後の人まで渡し切ることができてよかった。こんなに大勢の人間に食事を配るのは初めてだ。戦うことよりも疲れるかも知れない……が、やってみれば意外にも楽しめた。
私が【アストレア・ファミリア】の人間だとわかると、皆態度が軟化する。昨日も実感した通り【アストレア・ファミリア】は都市の人間からかなり愛されているようだ。
「夜切ご苦労様。貴方も食べたらどうかしら? 美味しいわよ」
私が配り終わり休憩して良いと許可が出たので、近くにあったベンチに座って一息ついていると、アストレア様が私の分の食事をとって来てくださった。立ち上がり、皿とスプーンを受け取る。
「ありがとうございます」
「隣に座ってもいいかしら?」
「ええ、私などの隣でいいのでしたら」
「なら、お邪魔するわ」
意図せずアストレア様と隣り合って座る事になってしまった。
この状態で私は食事をしなければいけないのか……。
ま、まあ大丈夫だ。女神に見られながら食事をするだけ。何も緊張する事はない。食事の作法は一通り学んでいるし、貴族と食事をしても咎められる事がない程度にはできていた。だからなんの問題もない。
「…………いただきます」
「召し上がれ」
……食べづらい。女神にこれほど近くで見られながら食べるのは初めてだ。そもそも隣に座らせていただく事すら初めてだ。
タケミカヅチ様。今私は下手な戦場に出るよりも緊張しております。できる事なら貴方様と代わりたく存じます。
「あ、これ美味しい」
異国の都市でベンチに座り、青空の下食事をする。
このスープはすごく美味しいし、景色もいい。これだけでもオラリオに来た甲斐があるかも知れない。
ようやく旅行のような事ができたような気がする。
「ふふ、貴方も子どもらしいところがあるのね。そんなに美味しかったかしら」
「これは……恥ずかしいところをお見せしてしまいました。このスープはとても美味しいと思います」
「そう言ってくれると嬉しいわね。私も作った甲斐があったわ」
さっきまで緊張してたのに、旅行っぽいなと思ったらそれもどこかへ行ってしまった。適当な事考えて生きているな、私。
「ごちそうさまでした。……では、私は片付けをして来ます」
「なら、私も手伝いに行こうかしら」
アストレア様と連れ立って、片付けをしに戻る。どうやら孤児院の子供達も協力してくれるようで、腕をまくって元気に洗い物をしている。
そう言えばアストレア様が子どもたちと関わっているところを見ていなかったなと思い、隣を見れば、慈愛に満ちた笑みを浮かべ眩しいものを見るように目を細めるアストレア様がいた。
その姿は、『正義の女神』というよりも『聖母』とでも形容されるように思えた。
すぐに視線を戻し、子どもたちの手伝いをする。
私のことを「お姉さん」と呼んだ女の子が一人で食器を洗っていたので、手伝おうと声をかける。
「私も手伝いますよ」
「あ! おね……お兄さん?」
お姉さんと言いそうになっていたが、言い直したので許してあげよう。私は断じて女ではない。極東男児としての誇りを持っているのだ!
「貴女は一人で洗い物ですか?」
「うん! 私がお姉ちゃんだからやってるの! 他の子は……あっちでアストレア様と洗ってるよ!」
少女が指差す方を見れば、アストレア様が洗った皿を受け取り拭いている子供達がいた。決してこの少女が幼くないという訳ではないが、確かにこの少女と比べればかなり幼い。
「貴女も一人でやれてえらいですね。せっかくですから私も手伝いましょう。……何をすればいいですか?」
「うーんとね、お皿拭いて欲しいな!」
「任せてください。私も少し前まで似たようなことをしていたので、皿洗いに皿拭きは得意ですよ」
孤児院の先生から布巾を受け取り、少女が洗っていった皿を順番に拭いていく。少女の手際の良さから、普段も同じように仕事をしているのだと感じられた。
この歳で家族のことを考えられるのは本当にすごいと思う。私がこれくらいの時は、刀を振るうことしか考えていなかった。
「私ね、大きくなったら冒険者になりたいんだ」
「なるほど。夢を持っているのはいい事ですね」
「お兄さんも【アストレア・ファミリア】の人って事は、冒険者なんだよね! どうしたら私も強くなれるかな?」
「…………そうですねぇ」
【アストレア・ファミリア】には私よりもいい答えが返ってくるであろう方々がいるのに、よりにもよって、私にその質問をするのか。
「貴女はどう云う強さが欲しいのですか?」
「うーん? ……あの子たちを守れるの!」
「…………ならば、どんな時でも決して折れない強い心を持ちなさい。挫けそうな時も、どんなに辛い時も笑いなさい。貴女のその素敵な笑顔は間違いなく、あの子たちを守り支える柱となります」
少女はポカンとした表情で私を見つめている。
多分聞きたかったのは、どうやったらたくさんモンスターを倒せるのか、Lvを上げるにはどうすればいいのかとか、そう言った事だろうというのはわかっている。
けれど、私にはこの少女の姿がいつかの彼女の姿と重なってしまった。純粋に人を案じることのできる、守りたいと言えるこの子に同じ轍を踏んで欲しくない。
私の言葉を信じた結果、絶望なんてして欲しくない。
こんなのは私が勝手に思って押し付けているという事はわかっている。私が責任を持ちたくないと思っていることもわかっている。
それでも私などとは違って、『いい子』を私の言葉でこちら側へと引き摺り込む事はできない。してはいけない。
今朝も理由を付けて、彼女を再びこちらへ連れて来てしまっている私がこんな事を言える立場ではないけれど。
私が教えることの出来る『強さ』は
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私は炊き出しを完全に終え、オラリオの街を適当に歩き回っていた。
アストレア様と二人で。
うーんおかしい。私は輝夜に会いにここまで来たというのに、今のところあまり絡めていない。輝夜の休みを聞いていなかった私が悪いな。仕方あるまい。
「私じゃなくって輝夜と一緒に来たかったのかしら?」
「いえ、そんな事は……輝夜と休みが重なればそこで誘ってみようと思っています」
「私からアリーゼに伝えておくわ。安心して」
「そこまでしていただくわけには……」
「いいのよ。輝夜の雰囲気があんなに柔らかくなっている所を見たのは初めてだもの。子どもたちの新たな一面を見せてくれたお礼よ。気にする事はないわ」
そう言う事なら、ありがたく受け取っておこうと思う。神に対して何様だと言う感じだが。
そこでふと直感が働いた。
アストレア様に断って、微精霊たちをそちらへ飛ばす。
「何か見つけたの?」
「いえ、気にするようなことではありません」
精霊たちによれば、いたのは病人らしい。とは言っても強い気配を纏っているらしいので、アストレア様を連れていくのはまずいだろう。
私は【アストレア・ファミリア】の人間。病に苦しんでいる人がいたのなら、見捨てるわけにはいかないだろう。
今夜にでも、輝夜を連れてご対面しようじゃ無いか。
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