槍の勇者が原因でピィピィ言うだけのお話 作:私は鳥になりたい
気がついたら赤ん坊になっていました。
ここがどこなのか、自分が誰なのかすらわからない。
完全手放し、手がかり一切無しの状態です。
ほとほと困り果てていると、父親とおぼしき男性がメイドを連れてやってきました。
そして私の事を抱き上げながら、なにやら聞いたことのない言語で喋っています。どうやら私に何か言っているようですがさっぱり理解できません。
多分ですが「大きく立派に育つんだぞ」とかそういうことを言ってるんだと思います。
それと彼は、話の途中でときどき「ユリア」と呼んでいました。
なのでおそらくですが、これが私の名前なのでしょう。
名前のイメージからすると女の子ですかね?
などと思っていると、父はさらにとんでもないことを言いました。
良く聞こえませんでしたが「フォーブレイ」と言った様です。
……なるほど。盾の勇者の成り上がりかぁ……
となればまずやることは決まっています。
父親が部屋から退出したのを見計らって「女神のアホ。策士気取りの力押ししか出来ない無能。ビッチ。尻軽。アバズレ。チート使うしか能の無い大馬鹿。相手が自分よりちょっとでも強いと全力で逃げるチキン。もう2年くらいして喋れる様になったらお前の事を片っ端からバラしまくってやる! 全力で邪魔してやるからな!」と言う感じの、思いつく限りの罵詈雑言で罵って――正確には頭の中で念じてみました。
待つことしばし。
何も起こりません。
ということはあのクソ女神はもう消えているか、はたまたあのクソ女神の管轄外の存在ということですね。
ならばとりあえずは安心です。
フォーブレイの貴族の娘ならば、ある程度は悠々自適に生きていけるはず。
目立ちすぎず、かといって無能すぎず、平穏無事に。
そう思っていた時期が、私にもありました。
産まれて二年ほど経った頃でしょうか。
言葉も分かって喋れる様になってきた頃、父親がとんでもないことを言い出しました。
「お前の弟のタクトだ! ユリア、姉弟仲良くするんだぞ」
「……ふぇ?」
赤ん坊を抱きながら、私に紹介してくる父の姿……そして"タクト"という弟の名前……
注意深く耳を澄ませば聞こえて来るのは「アルサホルン」だとか「フォブレイ」などといった固有名詞の数々。
……フォーブレイじゃなくてフォブレイかよ!! しかもタクトの姉かよ!!
この瞬間、私は全力で生存ルートに直進する方向へ舵を切ることを決めました。
だって私、アレの姉ですよ?
どう考えても勇者たちに狙われるに決まってるじゃないですか!!
仮に「成り上がりルート」で進んだ場合を考えてみましょう。
アレの親族というだけで白い目で見られると思います。下手をすれば、濡れ衣を着せられてオマケで処刑されかねません。
そうでなくても「姉だろ!」という酷い言いがかりの結果、無用な不幸がダース単位で降りかかってくると思います。
……ですが……そのくらいならまだマシです。
もしも、もしも……「やり直しルート」だった日には……
い、いやだっ!! 絶対にやだっ!!
槍の勇者が「ですぞー」と言いながら、スナック感覚で殺しに来るんですよ! 絶対に間違いなく!!
タクトの姉なんて、どう考えても殺されるじゃないですか!!
絶対に「アレの妹もクズだったのですぞ! ならば姉もクズに決まっていますぞ! まとめて始末するのが世界の為ですぞ!」みたいな思考で殺されるんですよきっと!
……錬にゲーム感覚で殺されたガエリオン(父親の方)の気分がよくわかります。こんなの、死んでも死にきれん!!
この瞬間から、生き残る方法を模索しました。
一瞬だけ浮かんだ「姉とかそんなキャラいたか!?」という疑問は棚上げしました。家柄からすれば、いてもおかしくないし。そもそもそんなこと気にしている余裕は一切無し!
考えた結果、大雑把な概要としては「盾の勇者の仲間になって、庇って貰えるくらい友好度を上げること!」です。
これだけが唯一無二の手段……というか多分、コレしかあり得ません。
なので弟が産まれてからというもの、親に頼んで必死で鍛えて貰いました。何年も掛けて武術と魔法を鍛え上げました。
成長すると「家なんて継がずに冒険者で生計を立てる」とワガママを言い続け、最終的に親子の縁も切ってもらいました。
確かウチはフォーブレイの王家に連なってたみたいだけど、知ったもんか。
弟がやってくれるよ、色んな意味で。
ある程度時間が経過していくと、弟はもう魔法を使ったり新発明(笑)をしたりと、麒麟児(笑)っぷりを発揮してくれていました。
なので、縁切りはそれも後押ししてくれたんだと思う。
縁を切られたことで、弟と妹が私のことをもの凄く下衆を見るような目で見てきましたが、気にしません。
というか弟! お前、私のことをエロい目で見てただろ! 知ってるんだぞ!! なにが「実姉ルート」だ!! お前の呟き、ちゃんと聞こえてるんだよ!!
とにかくこれで半分くらいは目標達成ですが、まだ安心できません。
人の縁なんて、そんな簡単に壊れる物ではないんですよ。次は盾の勇者からの庇護を強固な物にしないと!
ということで。
自由になれたので、現在は冒険者として生きています。
冒険者になってから気付いたのですが、盾の勇者たちが召喚される正確な日時も、その頃のタクトが何歳くらいだったかも分からない(知らないし、覚えてない。仮に描写されていたとしてもそもそも覚える気が無い)のですよね。
描写とかから、アレが18歳くらいの頃? かなとは思うんですけど……
つまりは指標となる部分が「世界に波が来るタイミング」しかないわけで。
逆に言うと「そのタイミングを逃してはいけない」わけです。
だって私、女です。
盾の勇者がやさぐれてしまうと、女の身で「仲間にして」とか言っても無理だと思います。一概に全部が全部無理ではないかもしれませんが、やさぐれる前の方が絶対にマシ!
具体的には、劣化やり直しルートといった感じを目指します。
原作再現なんて知ったことですか!
ゼルトブルを基本の拠点として、冒険したりコロシアムに出たりもしています。これでも私、コロシアムではちょっとだけ有名人なんですよ。
白騎士リアっていう名前で――
……あ、忘れてました。現在の私の名前ですが「リア」と名乗っています。
本名の「ユリア」だと、万が一にも繋がりを疑われる可能性もあるからね。
安易な名付けと思う無かれ、リアなら本名に近くて反応もしやすいので便利なんです。
白騎士って異名だけは、よくわからないんですが。勝手に名付けられました。
おそらくは私の装備とか剣術とか、光属性の魔法を使うからだと思います。
ただまあ、有名になると困ったこともあるわけで。
「お前が、白騎士のリアだな」
「……貴方、誰?」
「俺の名前はショーゴ! 七星勇者になる予定の男だ!!」
「はあ……それでそのショーゴさんが何か?」
「俺の女にしてやる!」
「…………」
とまあ、こんな具合で。沸いて出てくるんですよね、転生者が。
ゼルトブルの特色が原因なのか、こういうのが集まりやすくなってるんですよ。
多分、多くの転生者が私のことを「コイツは仲間になるNPCだぜ」とか「女騎士だ! ベッドの上でクッコロさせてやるぜ!!」とか思ってるんですよきっと。
おまけに――
「ちょっと! ショーゴが声を掛けてくれてるのよ!! なんとか言ったらどうなの!?」
隣には量産型ビッチもいます。
ですが一人ということは、まだ低レベルですね。これがもう少し滞在歴が長くて強い相手だと、取り巻きがもう1人2人増えているんですけど。
「……間に合ってます」
「まあ、待てよ。損はさせない――ぐおおおおっ!!」
「ショーゴ!!」
せっかく私が穏便に断ろうとしているのに、肩を掴んできました。なのでその手を掴んで捻り上げます。
「貴方にはもっと相応しい相手がいると思うので、他を当たってください。行くわよ、ビアンコ」
「グアッ!!」
適当に痛めつけた所で手を放すと、愛馬――もとい、愛フィロリアルに跨がりその場を去ります。
この子、ちゃんと雛から育てたんですよ。
白い羽毛が綺麗な雌フィロリアルで、雑種であっても気にならないくらい良い子。白いから
フィロリアルも、当然槍の勇者対策の一環です。
盾の勇者とフィロリアルが合わさって庇うことで、最強に見える。逆にどっちからも庇われなかったら頭がおかしいのに殺られる。
やれることは、やっておかないと。
……やれること、か……
「いい加減、
「グア?」
「ということでビアンコ、このままメルロマルクまで行くわよ? 走れる?」
「グアアァァッ!!」
任せておいて! という声が聞こえてきそうなくらい、良い鳴き声でした。
「ふむ、形になってきたようじゃの」
「ありがとうございます師匠」
移動すること1週間くらいで、メルロマルクで入国。そこから目的の場所を探すことで更に10日。
ようやく見つけました、変幻無双流のお婆さんです。
このお婆さん、エスラスラ=ラグラロックって言うんですね……知らなかった……
というか名前があったんだ! ずっとババアって呼ばれてたし、なんなら自分でもババアって名乗ってたし……
とあれ、師匠に弟子入りしました。
やれることはやっておかないと!
本編が始まった頃には病だったかで倒れていた覚えがありますが、今はまだ元気です。
加えて幸いなことに私にも才能はあったらしく、直接指導を賜っています。
こういう技能があるってことを直接教えれば、私の利用価値も上がる! 利用価値が上がれば盾の勇者に庇って貰える!
打算しかありませんね。
お金を稼いでいたのも、こちらに弟子入りするための前準備みたいなものです。
安直な考えだけど、金額を「分かり易い誠意の形」として見せようと思ったので。
「お昼ご飯の用意、できましたよ」
「おやもうそんな時間か? では、昼休憩とするかの」
修行をしていると、師匠の息子さんがやってきました。
彼はこんな風に修行中の私の身の回りのお世話をしてくれています。といっても、食事を用意してくれるくらいですけどね。
「いつも美味しいお食事を、ありがとうございます」
「い、いえ! リアさんのお口に合えば幸いで……」
こうして声を掛けると、顔を真っ赤にしています。
……なにこれフラグ? こんなフラグいらないんですけど。
「ふむ……どうじゃリア? このまま息子の嫁にならんか?」
「へ……?」
だーかーらっ、こんなフラグいらないんですってば!!
「達者でな~」
「師匠ありがとうございました」
とまあ、長きに渡る修行を受けまして、合格を貰えました。
なので師匠に見送られながら巣立ちます。
さてこれからはメルロマルクを拠点として活動しておきましょう。
私の年齢から察するに、そろそろ控えておいた方が良さそうですからね。
「確かこの国の最初の波は……」
「グァ?」
「……な、名前は覚えていないけれど亜人優遇の、えっと……エクレアの領地!! そこに行くわよビアンコ!!」
「グワッ♪」
まあまだクラスアップはしてないんですけど。
アレは、ちょっと特殊なコネがいるからね……でもレベル以上の強さはあるから。
むしろレベルは低めの方が良いかしら……?
セーアエット領へと向かいながら、そんなことを考えていたわけですが――
「もおおおおっ! 数が多いっ!!」
「グアアアッ!!」
到着した途端、波に巻き込まれました。
タイミングが良すぎです。しかもこれ、最初の波ですね。
ガンガン沸いて出てくる敵を斬り捨て、魔法で薙ぎ払っています。ビアンコも身体能力で戦ってくれています。
いますが、波の勢いは止まりません。
近くの村とか大丈夫なの……? 名前は知らないけれど亜人の村。
確かこの波で滅ぶんだっけ? アレ、被害にあったのを良いことに人間が滅ぼして奴隷にしたんだっけ?
あとセーアエット領の他の街とかも、被害を受けているんでしょうね。
なんとかしたいんだけど、私だけじゃ……
「ふっ! はあっ!!」
「てえぃっ!!」
ふと気付けば、冒険者らしき人たちがちらほらいました。
あの人たちも予期せず発生した波に巻き込まれたんでしょう。取る物も取らずというか、必死になって戦っています。
腕前はピンキリみたいですけれどね。
初心者に毛が生えた程度のもいれば、やたら強いのもいます。
私も彼女たちに負けないようにと頑張りました。低レベルの子たちをフォローしながら。
そんな彼ら彼女らの活躍と、遅れてやって来た兵士たちの奮戦もあって、波はようやく止まりました。
私もビアンコもなんとか生き残れました。
はぁ……大変だったわ……
現在私は、メルロマルクの城下町にいます。
波と戦って静めた冒険者ということで、連行されました。
連行というと聞こえが悪いですが、事情を聞かれたというのが正しいですね。
事情聴取の終了後は、せめてもの報償ということで銀貨と一晩の宿を貰いました。
自由になったのでメルロマルクで改めて冒険者登録を行い、しばらく活動していたときです。
「そこのお前、冒険者のリアだな?」
「はい? 確かに私はリアですけど……」
街中で兵士に声を掛けられました。
「お前の活躍を見込んで頼みがある。城まで来て貰おうか」
「お城まで? 一体何の用でしょうか」
胡乱げな眼差しを向けていると、兵士が溜息を吐くと声を潜めます。
「詳しくはまだ言えんが、四聖勇者様が召喚されたのだ。お前はその仲間として選ばれた」
「え……わ、わかりました!」
あらびっくり、まさか初期仲間に選ばれるなんて。
バルーン相手に苦戦しているところを手伝って、上手いこと取り入ろうと思っていたものの、これは渡りに船。逃す手はありません。
一も二もなく飛びつきました。
お城に行ったところ、とある一室に案内されました。
そこでは既に10名ほどが集まっており、なるほど初期メンバーなのだと納得。
……あ、あの人多分燻製さんだ。
「さて、お前たちに集まって貰ったのは他でもない。既に聞いているだろうが、四聖勇者様が召喚された。お前たちにはその従者となってもらう」
私が入室したところで、案内してくれた兵士が仕切り始めました。
壁にスクリーンのような物が出てきて、そこには四人の男が映し出されます。
「各自相談、熟考した上で仕える勇者を選ぶが良い!」
なるほど……いわゆる面通し。
重複しないように、予めこうやって打ち合わせしていたんですね。
「ただし! 分かっているだろうが、盾の勇者を選ぶ必要は無い」
うわぁ、悪い顔。
言いたいことを言うと、兵士は出て行きました。
そして始まる「どの勇者が良いか?」の討論会。私は適当に「剣の勇者で」と言っておきました。
まあ、いざ本番になったら裏切るんですけどね。
一人でもいれば、赤豚ビッチもしゃしゃり出てこないでしょうし。クズ王も物言いは出来ないでしょう。
ふっ、勝った!!
長年の苦労が報われるまで、もうあと一歩!!
「さあ、未来の英雄たちよ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」
3人
3人
3人
3人
……3+3+3+3って、いくつでしょーか!?
正解は12です!!
あれれー、おっかしいぞー? なんで綺麗に等分されてるのかな? かな??
本当なら偏った挙げ句、0人の部分があったはずなのに。
そこを私が無理矢理ねじ曲げて、1人にするはずだったのに。
なんで?
仲間の数が平等なので、勇者たちも特にクレームは無し。
王や赤豚ビッチがコメカミをピクピクさせながら何かを言いたそうですが、ここで「これは何かの間違いだ!!」とか言い出せば四聖勇者たちから信用がガタ落ちすると分かっているらしく、何も無し。
こうして、4人パーティが4組出来たので(一見)順風満帆に旅立ちました。
「あの――」
――ちょっと良いですか?
城を出てすぐ、自己紹介のタイミングで、事情を尋ねるべく二人の冒険者――尚文を選んだ私以外の二人――に話しかけようとします。
ですがそれよりも早く、件の二人が尚文へと近寄ったかと思えば二人の姿が揺らめき、一瞬にして別の姿に変身しました。
それまでは男性の姿だったのが、一瞬で女性に。
「私は
「
……は!? え、っと……その名前って確か……
偶然!? いや、それにしては出来過ぎてる……どっちか片方だけならまだしも、二人揃っては絶対おかしい……
ということは本物!? でもなんで!? この二人がここにいるはずが……まさかやり直しみたいな感じで!?
混乱する私に、アトラとリファナの二人は睨むような目を向けてきました。
……あっ! ああっ!! まさかコレ、私のことを敵って思われてる!?
赤豚ビッチが妙な策を張り巡らせてきたって、下手をすれば波の先兵だって思われてる!?!?
「ユリアと申します。従順な奴隷になりますので、どうか命だけは助けてください」
純度100%の自己保身な考えから、私はそれはそれは綺麗な土下座をキメました。
※ 構想1日・執筆1日
web版を途中まで読了、書籍や漫画やアニメは見てない。
(なので大オチが被っているかもしれません)