槍の勇者が原因でピィピィ言うだけのお話   作:私は鳥になりたい

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中オチの章

「ちょ、ちょっと待ってユリアさん! ここ、ここ往来だから! 人の目があるから!!」

「あ……ああっ……!」

 

 絶対服従の意味も込めて、偽名の「リア」ではなく本名の「ユリア」と名乗ってみました。その結果、尚文を困らせてしまいました。

 そりゃあ(大通りで土下座なんてすれば)そうなる(衆目に晒される)わけです。

 

 しかも尚文は盾の勇者です。

 「盾の勇者が女を土下座させてるぞ!」「やはり盾は悪だ!」「排除しなきゃ!」みたいなことにされるのは必然。

 多分、この時点でアトラとリファナの二人から「やっぱりコイツ敵だな、排除しよう」と結論付けられてもおかしくないわけで。

 

「申し訳ございません!! 違う、違うんです! どうか話を、話を聞いて下さい!!」

 

 その可能性を思いついてしまった時点で、混乱の極みに達したんでしょうね。

 私は尚文に縋り付いて、必死に弁明と釈明を繰り返していました。

 

 少し考えれば、それが悪手だというのはわかり切っているのに。

 

 

 

 

 

「……それで、なんであんなことをしたんですか」

「大変申し訳ございません」

「謝罪ではなく理由を話してください」

 

 あれから場所を移動して、今は例の武器屋にいます。

 迷惑を承知の上で、無理を言って、迷惑料も払って、武器屋の個室を一時的にお借りしました。

 現在はアトラと二人っきりで、彼女に詰問されている真っ最中です。声が絶対零度です、めっちゃ怖い……

 

 ちなみに尚文とリファナは、店の方で装備を選んでいます。

 迷惑料も装備の購入費用も全部私がポケットマネーで出しました。

 

「まず私は敵じゃないです。あのクソビッチ女神の先兵でもないです」

「ふむ……?」

「というのも――」

 

 始めに、そう切り出してから、今までの経緯について詳しくお話しました。

 するとどうでしょう。

 アトラの表情が、みるみる微妙な物になっていきました。こう「あちゃぁ……やっちゃったぁ……」という感じのソレに。

 

「――というワケです」

「ごめんなさい」

 

 話を終えたところ、アトラから謝られました。

 そして語られる、彼女の側の事情。

 

 まずこのアトラですが、本物のアトラでした。

 本編で盾に吸い込まれて、それでもなお尚文のことを慕い続けていたあのアトラです。

 

 そしてこの世界は、凄く簡単に説明すると「アトラが作った、アトラが尚文とキャッキャウフフ体験をするための乙女ゲーみたいな世界」でした。

 槍のやり直し機能に、盾の中のアトラ(本体)がちょっとだけ干渉して、都合の良いパラレルワールドを作った。

 その世界で、ラフタリアの代わりにメインヒロインになって最終的に尚文と結ばれて気持ちよく終わる。

 

 そんな、一時的かつ個人的な楽しみのためのもの――だったはずなのに。

 何かバグでもあったのか、それとも聖武器が呼んだのか、はたまた天文学的な確率で発生してしまった保証対象外の例外的誤作動なのか。

 私という異物が混入してしまいました。

 

 そうなれば当然運営(アトラ)としては訝しむわけです。デバッグ(排除)しなきゃと思うのも当然なわけです。

 

 ですが、私が気にするのはそこじゃない。

 

「えっと、つまりこの世界には槍の勇者(ですぞ)が入ってこない……?」

「そうなります――」

「やった!!」

「――きゃっ!!」

 

 思わず言葉を遮って喜んでしまったけれど、これは仕方ないでしょ!?

 だって、死の危険性がなくなったんだもの!!

 

 なーんだ、これなら無理することもなかった、の……か……20年……20年くらい必死になったのに……え、全部無駄……?

 

 

 

 縁を切ってもらうために子供の頃から絶妙なやらかし具合を必死で続けたり。

 

 無理を言って武術と魔法の教師を個人的に付けて貰ったり。

 その師匠に凄くしごかれ続けたことで「才能がある」と見いだされて、別のルートに進みそうになったり。

 

 (ナナ)だけはアレ(タクト)に染まらないように助けられないかと、色々頑張ってみたけど結局ダメで枕を涙で濡らしたり。

 

 コロシアムでパンダやゾウと激戦を繰り広げて、最終的に意気投合して呑みに行ったり。

 

 下心満載で寄ってきた転生者の中に七星勇者(偽物)がいて、うっかりそれを倒しちゃったから一騒動があったり。

 

 ビアンコを雛から育てる過程で重い病気に苦しんで、それを救う為に高価な薬が必要だったり。

 

 薬の代金を捻出するために潜ったダンジョンで、女性ばっかりの傭兵団と一緒になって共闘でドラゴンを倒したり。

 その後、お礼にと傭兵団をちょっと手伝ったら陰謀に巻き込まれて、祭器と呼ばれる重要アイテム争奪戦に関わったり。

 

 船を破壊するほど巨大なイカの魔物を必死で倒したり。

 

 

 

 アレ全部無駄ぁ!? 役に立たない経験だったの!?

 

 い、いや待った!

 槍が一瞬で理不尽にならないだけで、だけどこの世界には槍がいる! アレ(タクト)もいる! 死亡フラグはまだそこら中に満ちている!!

 油断はダメ、ここからがスタートライン。

 あの経験は無駄じゃなかった、全部必要な事だった。

 

 ……よし、持ち直した。

 

 持ち直したついでに、一つ聞いておこう。

 

「ところで、なんでリファナがいるの? 話の流れから察するに、アトラ一人の方が都合が良いんじゃ……」

「あの子のナオフミ様への想い、少しくらいは叶えてあげようと思ったので」

 

 どうやら、盾LOVE勢の心の琴線に触れたから、みたいです。

 

 なのでやり直し機能の応用で、上手いこと魂みたいなものを引っ張り上げたとのこと。

 リファナもリファナで、アトラの計画を知った上で乗ったらしく。むしろ全力で協力しているとのこと。

 エンディング条件は二人でお嫁さんになるのだとか。

 

 そうそう、最初に姿を変えていたのもリファナの仕業だったようです。

 この国で亜人は迫害されるから、最初は幻覚で姿を偽っていた。加えて「まさか普通のモブっぽい男だと思ったのに、中からこんな美女が! 素敵、結婚して!!」という流れがワンチャンあるかも、という期待からだそうですよ。

 二人とも大人の姿、凄い美人です。大人ラフタリアに負けないくらい。

 これ、尚文が落ちるのも時間の問題ね。

 

 

 

 

 

 さて、生存ルートが見つかった以上は私のやることは一つだけです。

 

 全力で太鼓持ちになる!!

 運営(アトラ)を味方にすれば勝ったも同然!!

 

 なのでまず、魔法使いに転職しました。

 剣の修行!? そんなもん要らんかったんや!! 鎧も剣も武器屋の親父さんに引き取って貰いました。

 尚文・アトラ・リファナと三人とも前衛ですからね、だから私は後衛――目立たないところで魔法の援護をしておきます。

 お三方は前線で思う存分に愛を育んでください。

 

 さらには「リファナって、本当に博識なのね」「アトラは良いお嫁さんになれるわね」と言った感じで、暇があれば二人をヨイショして尚文から好感度を稼がせます。

 やってることは「先輩マジでパネェっスから! マジリスペクトしてますから!!」ってアレですね。

 原作知識だとか強化方法の共有だとかは、アトラたちの方がよく知っているので。その辺りを中心にガンガン持ち上げて行くだけの簡単なお仕事です。

 でも運営(アトラ)に気に入られるためだから、仕方ないよね。

 

 あとは奴隷紋。

 これは私たち三人、全員入れて貰いました。それとビアンコも、尚文が主になるように魔物紋の再登録も。

 全部差し出しますよ! ごめんねビアンコ! でもその人良い人だから!! クィーンになっても出来るだけ喋らないでいると、沢山可愛がって貰えるわよ!!

 

 とまあ、そんな感じで日々は過ぎていきました。

 赤ビッチや国や三勇教やらが何か仕掛けてきているようですが、運営(アトラ)には勝てません。むしろそれを利用して好感度を稼いでいるくらいです。

 私としては槍の恐怖からは大部分解放されたし、私のゴールはもう見えているしで実に安泰……

 

 ……そっか、ゴールはもう見えているのか。

 

「あの、アトラ。少しいい……?」

 

 だったら、ちょっとくらいはイタズラしてもいい、よね……?

 

 

 

 

 

 

 ――それから一ヶ月程の時間が流れて。

 

「初めまして美しいお嬢さん方。俺は槍の勇者、北村元康です」

 

 波の前日、龍刻の砂時計にて到来の時間を調べていたところ偶然にも(・・・・)槍の勇者たちに出会いました。

 思わず身構えてしまったのは内緒。落ち着け、私……大丈夫、大丈夫だから……「ですぞ」とか言われないから……

 

「お名前は?」

「アトラ」

「リファナ」

「リア、です」

 

 ぶっきらぼうな返事をしますが、そのくらいで元康はへこたれません。

 手を取ろうとしてきたのでそれをサッと躱して、全員で尚文の後ろに隠れます。

 

「おやおや、照れ屋さんだね」

 

 うわぁ……

 ポーズ決めてるけれど、この三人にそっちのルートは絶対にないから。

 

 

 

 そして、最初の波も無事に終わってお城のパーティへ。

 お料理を堪能していたところに元康がやって来て「決闘しろ!!」からのクズ王が強権発動で無理矢理戦わせるというお約束の流れになりました。

 

「や~ら~れ~た~(棒)」

 

 盾と槍の決闘――その最中、赤豚ビッチが外から放った魔法を受けて、尚文がピンチに。そこを元康が鮮やかな逆転勝利(笑)を決めました。

 尚文が決闘に負けたことで、私たちは奴隷紋を解除されます。

 

「アトラちゃん! リファナちゃん! リアちゃん! もう大丈夫だ、尚文は俺の手で退治した! 君たちは自由だ!!」

 

 満面の笑顔で私たちへと駆け寄ってくる元康。

 きっと頭の中では「無理矢理働かされていた私たちを助けてくれてありがとう! 素敵、抱いて!!」という展開でも想像しているんでしょう。

 走ってくる勢いのまま抱きつこうとしてきたところで、アトラとリファナの姿が陽炎の様に揺らめきました。

 

「ぬわーっはっはぁっ!! ようやく元の姿に戻れたわい!!」

「おうともよ!! 今までは窮屈でしかたなかったん! ばってん、これでようやく自由に暴れられるもんじゃきに!!」

 

 揺らめきの向こうから現れたのは、よく陽に焼けた浅黒い肌を惜しげもなく晒した筋骨隆々の男性二人でした。

 身に纏っているのは(ふんどし)一つだけ。

 声は低くしわがれているものの、聞きようによっては渋く素敵な声でした。具体的に言うと「ぶるぁ!」とか「この馬鹿弟子がぁ!」とか今にも言い出しそうな声です。

 見た目と声とが相まって、とある特定層にだけはとてもとても需要がありそうな、とっても頼れる親父殿といった風貌です。

 

 二人の姿を見た瞬間、元康が石化しました。

 

「……う、うわあああああああああああぁぁっ!?!? だ、誰だあああああぁぁっ!!」

「ぬわぁんじゃ、つれないのぉ!! ワシじゃワシ、アトラじゃけぇ!!」

「リファナじゃきに!! お前さんが自由の身にしてくれたんじゃろうが!! 忘れたとは言わせんぞ!!」

 

 フレンドリーに肩を組もうとするものの、元康は光の速さでそれを避けます。

 

「アトラちゃんにリファナちゃん!? う、嘘だっ! だって二人とも姿が……」

「ああ、アレは盾の勇者様の願いで幻影を被っとっただけじゃ!!」

「なんせあの姿でないとナオフミ様は納得してくれんからのぉ!!」

「……ひっ!」

 

 二人が一歩近付けば、三歩は逃げる元康。

 

「なんじゃあ? どうして逃げちょるけぇ!? おんしがワシらを自由の身にしてくれたんじゃけえの!! あがぁな窮屈な格好しちょるんは、もう限界じゃったわい!!」

「ほうじゃほうじゃ!! じゃけえ、助けてくれちょった槍の勇者にゃ、たっぷりとお礼をせにゃあならんの!!」

「あ、ああ……」

 

 たっぷりとお礼という言葉で、何を想像したのやら。

 元康は周囲に救いの目を向けますが……あまりの出来事に、周囲の兵士は勿論のこと。クズ王もビッチ王女も全員が固まったままです。

 というか、目を逸らしていますね。

 

 だってこれ、槍の勇者が自分で撒いた種だもん。

 奴隷から解放されたんだから、お礼をするのは当然だもん。

 

 お、今度は元康が私に視線を向けました。

 

 まだだ……まだ笑うな……

 

「リ、リアちゃん……まさか君も……いや、君だけは違うよね!?」

 

 と一縷の希望を託すように声を掛けたところでトドメを刺すべく、私も変わります。

 アトラたちと比べればまだ若く静観な男性の姿、ただし格好だけは当然の様に褌一丁ですが。

 そしてここで決め台詞を一つ。

 

「……性欲を持て余す」

 

 その途端、槍の勇者が崩れ落ちました。

 

「う、うわああああああああああぁぁっ!! 来るな寄るな触るなああああぁぁっ!! お前らなんかいらない! お前たちなんて救うんじゃなかった! さっさと尚文の所に戻れええええっっ!!」

 

 うわ、最低……

 その心の底からの魂の叫びが城中に響いたところで、私たちは元の姿に戻りました。

 

「はぁ、結局それが本音なんですね。奴隷の解放というお題目を利用して、女性を口説きたかっただけなんでしょう?」

「……へ? リ、リアちゃん……????」

 

 今更説明するまでもありませんが、一連の流れは全部お芝居――というか、私が思いついたイタズラです。

 奴隷紋が解放されたところで、リファナの幻影で私たちの姿をガチムチ男へと変身させる。その上で元康に迫ることで、本音を引き出させて赤っ恥をかかせるというもの。

 

 尚文にもアトラにもリファナにも説明済み了承済みという、手の込んだ一品。

 それも、前日に砂時計前で出会った時も素っ気ない態度を取っていた時点から仕込み。私たちが無理矢理従わされていたという印象を強めて、姿を変えさせられていたという理由付けです。

 効果は抜群でしたね。

 

「少し試しただけで馬脚を現すなんて……見損ないました槍の勇者様、もう二度と近寄らないでください」

「ま、待ってくれ! これは違う、違うんだ!!」

 

 さっさとその場を後にします。

 ざわざわとした喧騒に混じって「槍の勇者って……」とか「これが勇者か……」みたいな呟きが聞こえてきました。

 

 

 

 

 

 はぁ~……気持ちよかったぁ~……

 今まで散々、見えない影に怯え続けてピィピィ泣いてきたんだもん。これくらいはやり返してもいいよね?

 

 ようやく溜飲が下がったっていうか、ぐっすり眠れそう♪

 

 

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