変態のフリーレン 作:ゼーリエ様が1番可愛い
「私はもっと人間を知ろうと思う。……性的に」
「もう十分だろう」
****
勇者ヒンメルの死から28年後。
中央諸国ヴィレ地方。
フェルンが1人前になり、ハイターが亡くなり、2人旅を始め、アイゼンと再会し、
フリーレンとフェルンは幽霊に連れ去られたという行方不明者を探すため、並んで峠道を歩いていた。
「……ここで魔法が使われた形跡があります」
村の住人が言っていた、最近人が消えた場所。そこに辿り着くのと同時に、魔法使いである2人はすぐに異変に気がついた。
「どんな魔法か分かる?」
「幻影魔法です。幻を利用して獲物を誘い込む魔物がいると、魔法生態学の本に書かれていました」
弟子の回答に、師匠は満足そうに頷きながら補足した。
「
「そんなもので誘えるのですか?」
「その人にとって大切だった人の幻を見せるんだよ」
それだけ聞くと脅威に思えるが、しかし
高密度の魔力をぶつけるだけで簡単に離散してしまうからだ。早い話、攻撃魔法を放てばいい。
「撃てる?」
「当然です。偽物だと分かっているのですから」
フェルンは迷う素振りすら見せずに答えた。
「ハイターに命乞いされたとしても?」
「……それが幻影だと分かっているなら、たぶん」
しかし具体例を出されてしまうと、自信満々に確約することはできなかった。
「……霧が出てきたね」
痕跡を辿ってしばらく歩いていると、周囲の状況に変化があった。
フリーレンの言葉を受け、フェルンが周囲への警戒を強める。
そんな彼女に向けて、背後から声が掛けられた。
「フェルン」
懐かしい声。聞き慣れた響き。
振り返ると、そこには自分の育ての親──ハイターが優しげな笑みを浮かべながら佇んでいた。
幻影だと予め教えられていたのに、一瞬本物だと思ってしまった。それほどまでに、記憶の中にある姿とそっくり瓜二つだった。
「一段と魔法使いらしくなりましたね」
穏やかな声色で、話し掛けてくる。
「あなたがいい子でいたから、少しだけ化け──」
「
そんな彼の胸のド真ん中を、フェルンは圧縮して殺傷力を極限まで高めた一般攻撃魔法で撃ち抜いた。
「……フェルン」
フリーレンの口から、思わず呆れたような声が洩れる。
いや、間違ってはいない。これが正しい対処法だ。
しかしそれにしたって、親の姿を模した存在を迷いなく撃ち抜くとは……。我が弟子ながら末恐ろしい。
せめてもう少しセリフを聞いてあげてもよかったんじゃないだろうか。そういえば腐敗の賢老クヴァールと戦った時も、恐ろしいほどの殺意を宿して
戦闘狂──というやつだろうか。
「終わりましたよフリーレン様。本体もぶっ殺してやりました」
「……うん、ありがとう。上出来だよフェルン」
これでもう安全。
そう思ったフリーレンの背後に、気配が現れる。
「フリーレン」
「そうか、2体いたの──か……」
振り返る。
その瞬間、フリーレンがピシリと固まった。
「ひ、んめるだ……」
「……え?」
「ヒンメルだぁぁぁぁぁ!!」
「いや、あの……フリーレン様?」
そこに居たのはヒンメルだった。しかも年老いた姿ではない。若かりし頃のヒンメルだ。
ヒンメルは老いてもイケメンだったが、やはり全盛期には及ばない。老人のヒンメルと若人のヒンメルなら、フリーレンは若いヒンメルの方が好きだった。
「撃て」
「うわぁー、30年ぶりの生ヒンメル……やっぱ銅像よりイケメンだね。
「僕を撃て、フリーレン」
「いやいや、待ってよヒンメル。せっかくの再会だよ? もうちょっとだけお話しようよ」
自分を撃てと繰り返すヒンメルと、恋する乙女のような表情で楽しそうに会話をしているフリーレン。
初めて見る師の姿。長い付き合いだからこそ、フェルンは困惑していた。
困惑しながら、杖を構える。
「……『
「でね、今はこのフェルンって子と……ああっ!? ひ、ヒンメルぅ!??」
迸る極光。
ジュッ、と音を立てて、ヒンメルの幻影は消し飛んだ。
「何してるのフェルン!?」
「それはこっちのセリフです。何してるんですかフリーレン様」
「そりゃあ、確かに私が悪いかもだけど……でも、いきなり撃つことないでしょ!?」
「いいじゃないですか。本人も撃て撃て言ってましたし」
「よくないよ! お喋りもちょうどいいところだったのにぃ!」
「これから
「うわぁーん、お母さんのバカぁ〜!」
「誰がお母さんですか」
それからフェルンはフリーレンを慰める──なんてことはせず、スタスタと先を歩いて行ってしまった。
その足取りは軽い。
フェルンは魔物を2体も殺せて大満足だった。
****
それからしばらく後。
フリーレンとフェルンの旅に、新たな仲間が加わった。戦士のシュタルクだ。
現在は紅鏡竜を倒し、戦利品を漁り終えたところだった。
「どう? 透けて見える」
「見えますが、あまり面白い魔法ではありませんね」
「そうだね、フェルンからすれば、私はつまんない身体かもね」
新たに習得した『服が透けて見える魔法』。
その魔法を使い、フェルンはフリーレンを、フリーレンはフェルンを、お互いに観察し合っている。
「おおぅ、おー、ほうほう、なるほどなるほど」
「……そんなに面白いですか? 私の身体なんて、フリーレン様は見飽きているのでは?」
「いやいや、直接見るのと服を透かして見るのとじゃ全然違うよ。服で胸が潰れている感じとか、下着が食い込んでいる感じとか……なんというか、とてもいい」
「うわっ」
フェルンは咄嗟に自らの身体を服の上から両手で隠した。
今使っているのはあくまでも『服が透けて見える魔法』。手のひらを透かして見ることはできないため、正しい対処法と言えた。
「……なによ」
お互いをあらかた見終えた2人の視線は、必然的にその場にいるもう1人──シュタルクへと向かうことになった。
「ちっさ」
「ちっさくねーよ!」
あまりの発言に、シュタルクが強く反論する。
「うーん、ハイターが規格外なだけで、シュタルクのが特別小さいわけじゃないと思うよ? ヒンメルもそのくらいのサイズだったし。……いや、ヒンメルはもう少し大きかったかな?」
「具体的に人と比べるのやめて」
「大丈夫。大事なのは大きさや長さじゃない。硬さだから」
「生々しい慰めもやめて」
シュタルクは真顔のまま両手で股間を隠した。
「そういや、フリーレンと勇者ヒンメルは夫婦なんだっけか?」
「そうだよ」
昔を懐かしむような顔で、フリーレンが空を見上げる。
「あれは魔王と戦う前日のことだったかな。『全員で生きて帰れたら結婚しよう』って突然ヒンメルに言われてね。その言葉の通り、王都に戻ってすぐに結婚したんだ」
「……よく無事だったな」
「ギリギリの戦いだったよ」
さすが勇者。フラグなんてものともせず、自らの力で幸せを勝ち取ったらしい。
「そういえば、シュタルクだけ裸を見られるのは不公平だよね」
「……ん?」
唐突な物言いに、シュタルクは頭上に疑問符を浮かべる。
「なに? 俺にも魔法を教えてくれんの?」
「違う違う。そうじゃないよ」
残念ながらシュタルクに魔法の才能はない。
そのため一生を費やして努力したところで、『服が透けて見える魔法』は覚えられないだろう。
だから、別の解決策を用意する。
「じゃーん、服だけ溶かす薬〜!」
荷物からとある薬瓶を取り出したフリーレンは、玩具を自慢する子供のような顔でそれを掲げた。
そんな彼女のことを、フェルンは冷たい視線で見下ろしている。
「この下品な薬、買った時に返品しろって、私言いましたよね?」
「えー、そうだったかな〜?」
とぼけるフリーレンに魔族を見る時のような目を向けながら、フェルンはフリーレンに詰め寄った。
バシっ、と服だけ溶かす薬をひったくる。
「あっ」
そしてそれを、フリーレンの頭の上から、ダバダバと一気に降り注がせた。
「あ、あっ、あああぁぁ〜!」
ジュワジュワと音を立てながら、フリーレンの着ていた衣服が溶けていく。
薬はかなり強力なものだったのだろう。煙が晴れる頃には、フリーレンの服は綺麗さっぱりなくなっていた。
上も、下も、下着さえも、全て余すところなく消え去っている。
服にカウントされなかったのか、髪留めと、イヤリングと、それと革靴だけはそのまま残っていたが、しかし大事なところは丸出しなのに完全な裸ではないという点が、余計にいかがわしさを強調させていた。
「ちょ、フリーレン様、隠してください。シュタルク様が見ています」
「服を溶かしたのはフェルンでしょうに」
フェルンの指示を、フリーレンはスルーした。
腰に手を当て、ほとんど平らな胸を張りながら、その場で堂々と仁王立ちしている。隠すどころか、むしろよく見なさいと言わんばかりの体勢だ。
「…………見てないよ」
「嘘つかないでください。指に隙間ができてますよ。……シュタルク様のえっち」
フリーレンに隠す気がないのなら仕方ない。フェルンはシュタルクの眼球の方をどうにかすることにした。
「まあまあ、フェルン。私はこう見えて、1000年以上生きた魔法使い。私から見れば、シュタルクなんて赤ちゃんみたいなものだよ。赤ちゃんに裸を見られて恥ずかしがる人はいないでしょ?」
「……だったらなぜ、フリーレン様は頬を赤くしていらっしゃるのですか?」
「恥ずかしくなくても興奮はするからだね」
「変態じゃないですか」
「そうだよ。今更気づいたの?」
シュタルクの両目を押さえながら、フェルンは嘆息した。
「さて、これであとはフェルンだけだね」
「……え?」
嫌な予感を覚え、フェルンはシュタルクの視界を塞いだまま、フリーレンの方に首だけで振り返った。
その手には小瓶が握られていた。色も形も、つい先程見た『服だけ溶かす薬』が入っていたそれと全く同じものだ。
「……いったい何本持っているんですか」
「まだあと1本あるよ。もしもの時のために複製しておいたんだ」
確か高級品とか言ってなかったか? とフェルンは呆れを滲ませた視線で得意顔の師匠を見つめた。
趣味嗜好や普段の言動がおかしいから忘れそうになるが、彼女は人の寿命の何倍もの時間を生きている熟練の魔法使い。魔法薬学の分野においても、その才能は遺憾なく発揮されるらしかった。
「ふふっ、ほらほらどうする? シュタルクのシュタルクは見ておいて、自分は何も見せてあげないの?」
とても楽しそうな顔で小瓶を左右に揺らすフリーレン。
本気で襲って来られたら、フェルンは抵抗する間もなく服を溶かされてしまうだろう。2人の間にはそれだけの実力差が存在している。
「へいへーい、フェルンビビってる〜」
サドもマゾもどっちもいける女。それがこのエルフの正体だった。
野外プレイも羞恥プレイも何でもござれ。1000年という長い長い時の中で、彼女はあらかたの性癖を網羅していた。
「……分かりました」
シュタルクの目元から手を離し、そのまま後ろに、ゆっくりと歩を進めるフェルン。
そして、ある程度の距離を取ってから、フェルンはその場で服を脱ぎ始めた。
わざわざ服を溶かされるのは効率的ではない。今着ているのはお気に入りのやつだし、そうでなくとも自由に使えるお金は無限ではないのだ。普通に勿体ない。
故に、フェルンは自らの手での脱衣を選択した。
「お、おい──」
「シュタルク様は黙っていてください」
男と女の裸の価値は同等とは言えないのだし、なにも無理して脱ぐ必要はない。
そう思って止めようとしたのだが、しかしシュタルクの言葉はフェルン本人の声によって呆気なく遮られてしまった。
シュルシュルと、衣擦れの音だけが木霊する。
「…………どうぞ」
やがて、フェルンは服を脱ぎ終え、生まれたままの姿になった。
上着も、下着も、靴下も、脱いだものは全て足元に畳んで置かれている。
「……何してるんですか。早くこっちを見てください」
「いや、でも……」
「フリーレン様のことは見られて、私のことは見られないんですか? シュタルク様は、ロリコンの変態野郎だったのですか?」
「……そういうわけじゃ、ないけど」
「だったら、ちゃんとこっちを見てください」
「えぇ……なんでこんな強情なの……」
両手を横に広げながら、その時を待つフェルン。
その後ろで、フリーレンはその辺に生えていた大木に向かって渾身のセクシーポーズを決めていた。
「ほ、ほんとにいいんだな? 目を開けるぞ? 後悔しないな!?」
「いいから、早くしてください。このままだと風邪を引いてしまいます」
「……分かった」
シュタルクは覚悟を決め、恐る恐る目を開けた。
視線の先──思ったより近くに、フェルンは佇んでいた。
頬を朱色に染めながら、もじもじとしている。真っ直ぐに向けられる双眸に耐え兼ねたのか、所在なさげに視線を彷徨わせていた。
当たり前だ。いきなりこんな状況に置かれて、平静で居続けられるどこかのエルフの方が異常なのだ。
ましてやここは屋外。村からある程度離れていて、更には竜の住処のすぐ近くとはいえ、人が通りかかる可能性は決して0ではない。浴室や寝室で無防備な姿を晒すのとはわけが違う。
そんな極限のシチュエーションにおいて、しかしフェルンは律儀にも身体を隠そうとはしなかった。
フリーレンのように胸を張るほど堂々に、とはいかないが……それでも秘すべき女性の部分は、正面にいるシュタルクからは鮮明に確認できていた。
後ろでフリーレンが変な舞を踊っていたが、そんなものシュタルクの瞳には映らない。
1000歳年上の凹凸の少ない肉体と歳の近い少女の豊満な肉体。
どちらの方がいいかなど、わざわざ答えるまでもないことだった。
シュタルクの好みというより、それは男の本能に従った至極当たり前の選択と言えた。
「……あっ、おっきくなってる」
その後、全く相手にされなくて不貞腐れたフリーレンは、忍び足でフェルンの背後へと近づき、無理やり背筋を伸ばさせるようにして、素っ裸の少女を羽交い締めにしたのだった。
****
そのから更にしばらく経ち、帰還する際。
フリーレンは、フェルンを辱めた罰として着替えの着用を許されず、全てをさらけ出した格好のまま村へ戻ることになった。
「え、フェルンは服を着たのに私はこのままなの?」
「いいじゃないですか。変態なんですから」
「いや、普通に寒いんだけど」
「私も寒かったんですから、それくらい我慢してください」
「えぇー……」
村に到着すると、フェルンとシュタルクは竜を倒した英雄として、村人たちに温かく迎え入れられた。
それと対照的に、フリーレンは露出狂の変態として衛兵に捕まっていた。
フリーレン「私の時点で半分くらいは覚醒していたから、この勝負は引き分けかな」