変態のフリーレン   作:ゼーリエ様が1番可愛い

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服従させる(する)魔法

 

 

 

「フェルン」

「なんですか、ハイター様」

 

 修道服を着た老人が、幼い少女に話し掛けている。

 

「今日は魔族について、1つ面白い話をしましょう」

「面白い話……ですか?」

 

 少女はコテンと首を傾げながら、続く言葉を待った。

 

「魔族は昔は異形のもの──人と掛け離れた姿をしている個体がほとんどだったそうです。しかし現代に近づくにつれ、魔族は人に近しい姿を取るようになっていきました。それも、人間の視点から見て、より美男や美女に見えるような姿に……。なぜだか分かりますか?」

「……その方が、より人の油断を誘えるからでしょうか」

「そうですね。それが最たる理由でしょう」

 

 満足そうに頷きながら、老人は少女の頭を優しく撫でた。

 少女がくすぐったそうに目を細める。

 

「しかしこの変化……生物的に見れば進化でしょうか。この進化には、ある1人の魔法使いが密接に関わっていたと言われています」

 

 それが面白い話というやつなのだろう。

 老人は昔を懐かしむような目で語り始めた。

 

 この世で最も多くの魔族を屠り、無類の美形好きで有名な、とあるエルフの魔法使いの話を──。

 

 

 

 ****

 

 

 

 勇者ヒンメルの死から28年後。

 北川諸国グラナト伯爵領。

 

「衛兵が多いですね。何かあったので──」

 

 キョロキョロと街の様子を観察していたフェルンが、唐突に臨戦態勢に入った。

 杖を構え、ある集団に向けて魔法を放つ素振りを見せる。

 彼我の距離はかなり離れており、頭の上の角をギリギリ目視できるかどうかというところ。

 しかしフェルンの腕ならこの距離からでも問題なく、正確に心臓を撃ち抜くことができるだろう。

 

「フェルン、落ち着いて」

 

 そんな彼女を、隣を歩いていたフリーレンが手で制した。

 

「魔族です」

「そうだね。だけど一先ず様子を見よう。何か事情がありそうだ」

「でも、魔族は殺さないと」

 

 説得を試みるフリーレンと、魔法発動まで秒読みのフェルン。

 このままではまずいと判断したのか、フリーレンとシュタルクは2人がかりでフェルンを建物の陰へと引き込んだ。

 街中で攻撃魔法を使うのはご法度だ。誰かに見つかれば確実に騒ぎになるし、最悪の場合は投獄されてしまう恐れもある。

 いくら害獣処理のための行動とはいえ、ノータイムキルはさすがにまずい。残念なことに、それが人間の世界なのである。

 

「あんなに人が集まっているところに魔法を撃ち込んで、一般人を巻き込んだらどうするの」

「大丈夫です。建物や地面にも傷一つ付けるつもりはありません。確実に魔族の3匹だけを殺すので」

「フェルンの腕を疑ってるわけじゃないけどさ……」

 

 フェルンの殺意は留まるところを知らなかった。

 どうしてこんな風になってしまったのか。自分が育て方を間違えてしまったのか。

 フリーレンは嘆くように息を吐いた。

 

「それに見てよ」

 

 物陰から顔だけを出し、フリーレンは言う。

 

「あの先頭を歩いている魔族……凄くイケメンだ」

「…………」

 

 フェルンは無言だった。シュタルクも無言だった。

 呆れてものも言えない様子だった。

 

「あのツインテールの子もいいね。ちっちゃくて可愛い。もう1人の男の方も、いい感じに生意気そうだ。分からせ甲斐がある」

 

 シュタルクが確認するようにフェルンを見る。

 それに対し、フェルンは諦めたように首を横に振るだけだった。

 

「フリーレン様、いくら顔が良くても、魔族は魔族です」

「分かってるよ。私だって、魔族と分かり合えるとは思っていない。私の故郷は魔族の集団に滅ぼされた。エルフは美形揃いの種族なのに、それをあいつらは根絶やしにしようとした。だから、ちゃんと殺したいほど憎んでもいる」

 

 フリーレンの瞳には確かに殺意の色が灯っていた。

 寒気がするような圧を感じ、フェルンとシュタルクが思わず息を呑む。

 

「でも、それはそれとして、イケメンと美人はできるだけ長く眺めていたいんだ」

「……それで犠牲者が出たらどうするおつもりですか」

「あいつらもすぐには動かないでしょ。じゃなきゃこんな茶番をやる意味がない。何か目的があるはずだ」

 

 まずはその目的を明らかにしないとね、と言いながら、フリーレンは先行するように表通りへと戻った。

 すでに魔族たちは視界から消えている。しかし魔力探知による追跡は続けているので、不測の事態への対応も問題なく行えるだろう。

 

 フェルンも、とりあえずは殺意を引っ込めることにした。

 

 フェルンがどのような経緯で殺戮兵器へと成長したのか。

 その理由がフリーレンにあることは、もはや言うまでもないことだった。

 

 

 

 ****

 

 

「断頭台の、アウラ……!?」

 

 住人に聞き込みを行ったことで、フリーレン一行は街の現状をある程度だが把握することに成功していた。

 そこで出てきたビックネーム。魔王直下の大魔族にして七崩賢の1人──断頭台のアウラ。

 

 その名を聞いた瞬間、フリーレンは驚愕に目を見開いた。

 

「確か、勇者一行はアウラと戦ったことがあるのですよね?」

「うん。だからアウラがどんな魔法を使うのか、私は把握している」

 

 フリーレンの口が不気味な弧を描く。嬉しさを隠そうともしていない。

 フェルンは猛烈に嫌な予感がした。

 

「 『服従させる魔法』。それがアウラの使う魔法の名だ」

 

 フリーレンは満面の笑みを浮かべていた。旅行前の子供よりもニッコニコだ。

 フリーレンと付き合いの長いフェルンは瞬時に全てを察した。

 

「それじゃあ、私はアウラのところに行ってくるよ。その間に何かあったら対応よろしくね。危険が迫ったなら戦ってもいいけど、なるべく生かしておいてほしいかな」

「ちょ……」

 

 パーティーメンバーの2人に無茶ぶりを言い残し、フリーレンは物凄い速度で飛び立った。

 ご機嫌に鼻歌を奏でていたのは、きっと気のせいではないだろう。

 

 

 

 ****

 

 

 

 街から10キロほど離れた地点。

 首なしの鎧に囲まれている少女の見た目をした魔族を、フリーレンは空高くから見下ろしていた。

 

「久しぶりだね、アウラ」

「そうねぇ。80年振りかしら、フリーレン」

「正確には83年と41日だよ」

「細かいわね」

 

 フリーレンが地上に降り立つ。同時に、近くにいた首なし騎士の1体が上段から斬りかかってきた。

 魔法使いといえど、近接戦が全くできないわけではない。フリーレンは軽い身のこなしで振り下ろしを回避する。

 

「どう? 私の不死の軍勢は強いでしょ?」

 

 個々の力はそれほど脅威ではない。しかし問題は数だった。

 2体、3体と迫り来る鎧の数が増えていき、フリーレンはあっという間に囲まれてしまった。

 

 体捌きだけで避け続けるのは厳しいと判断したのか、フリーレンが魔法を使用する。

 杖の先から光が溢れたかと思うと、文字通り糸の切れた人形のように鎧たちがその場に崩れ落ちた。

 

「……驚いたわ。私の掛けた魔法が解除されている。こんなことは初めて」

 

 こんなの初めて。

 その言葉に、フリーレンは少しだけ興奮を覚えた。

 

「でも、どうしてそんなに回りくどいことをするの? 前に戦った時はわざわざ変な格好で磔にしたり音の鳴る鞭で引っ叩いたり……あら? 前から回りくどいことをしていたわね」

 

 少しだけ困惑顔になるアウラ。

 その言葉を受け、フリーレンは気まずそうに視線を逸らしながら答えた。

 

「……後でヒンメルに怒られたんだよ」

「そうなの? でも、だったら益々こんなことする必要ないでしょ?」

「どうして?」

 

 フリーレンからの質問に、今度はアウラが答える番だった。

 真っ直ぐに、目の前の宿敵を見つめながら。心底分からないとでも言いたげに、ほんのり首を傾けつつ──。

 

「だって、ヒンメルはもういないじゃない」

 

 その、人類の神経を逆撫でするような──無神経な発言に対しても、フリーレンはあくまで冷静に、解呪の魔法を使う余裕さえ見せながら返答する。

 

「夫の意思を尊重して生きるのは、妻として当然のことだからね」

「あなたたち、そういう関係だったのね」

「ヒンメルが若い頃は、1日に5回はヤってたんだけどね。でも結局、私たちの間に子供はできなかったんだ」

「聞いてないわ」

 

 ただでさえ子供ができにくいとされるエルフ。他種族との間で子をなそうとするのは、想像以上に難しいということなのだろう。

 実際に1000年以上生きてきた中でも、人とエルフのハーフなんて存在は、見たことはおろか聞いたことすらもない。

 その事実が、フリーレンにとっては少しだけ残念だった。

 

 美人のエルフと世界一のイケメン。そんな2人の間に産まれてくる子供など、美形であることが確定しているようなものだったというのに──。

 

「知ってる? ヒンメルって、私に対してだけは性欲が強いんだよ」

「だから聞いてないってば」

「ヒンメルの勇者の剣に何回も貫かれた私は、実質魔王と言っても過言じゃないと思うんだ」

「過言よ。過言以外の何物でもないわ」

 

 まさか、こんな形でかつての上司──魔王様を侮辱されるとは思わなかった。

 人を挑発するような薄い笑みはどこへやら。気づけばアウラは驚くほどの真顔になっていた。

 

「あなたと話していると頭が痛くなりそう。こんな不毛なやり取りはさっさと終わりにしましょう」

「えー、私はもうちょっとお喋りしていたいのに……」

 

 フリーレンの言葉を無視して、アウラは左手に持っていた、左右のバランスが最初から異なっている天秤を胸の前へと掲げた。

 

「『服従させる魔法(アゼリューゼ)』」

 

 そう口にした──刹那のことだ。

 フリーレンの口元が、三日月のようにパックリと割れていた。

 

 ゾクリ、とアウラの背中に冷たいものが走り抜ける。

 

「乗せたな? 私の魂を、天秤に」

 

 ……おかしい。アウラは自分の状況に戸惑っていた。

 間違いなく有利な状況のはず……いや、それどころか、もはや戦いは決したと言ってもいい局面。

 

 だと言うのに……。

 なんだ、この悪寒は──!? 

 

「正直、このまま軍勢の物量で押されていたら危なかったけれど、お前が自分の魔力に自信を持っていてよかった。……やっと、私の願いが実現する」

 

 魔族をして、悪魔のような笑みだと思えるような表情をしながら、フリーレンは言う。

 

「……どういうこと?」

「もう気がついているはずだ」

「…………」

 

 分かっている。今まで何度、この魔法を使ってきたと思っている。

 異常があれば、まず誰よりも先に使用者である自分が気づくに決まっている。

 

 しかしそれは、絶対に認めたくない事実でもあった。

 

「私は魔力を制限していた。お前は見誤ったんだ、アウラ」

 

 アウラの頬を、冷たい汗が伝う。

 

「……そんなはずないわ。それならこの私が見逃すはずがない。あなたの魔力には制限特有の不安定さも僅かなブレもなかった」

「驚いた。魔族はそこまで正確に魔力を観測できるのか。師匠(せんせい)のやり方は正しかったみたいだね」

 

 フリーレンが1歩近づいてくる。

 アウラは反射的に──まるで気圧されるように、1歩後退した。

 

「私は生きてきた時間のほとんどを魔力を制限して過ごした。その状態が自然になるほどに」

「……馬鹿じゃないの? なんでそんな訳の分からないこと……」

 

 初めて経験した感覚。

 これが死の恐怖というやつなのか……? 

 

「そうだね、馬鹿みたいだ」

 

 否。恐怖は恐怖でもこれは生物的な死に対する恐怖ではない。

 これは……。

 

「でも、お前を性奴隷(ペット)にできる」

 

 ──貞操の危機というやつだ!!!

 

「……ふざけるな。私は500年以上生きた大魔族だ」

「そうか、なら、私はこの瞬間を500年以上待ち続けたわけだ」

 

 天秤が勢いよく傾く。

 魔力の多い者が少ない者を強制的に服従させる──その効果が正しく発動した。

 

 

「“アウラ、自○しろ”」

 

 それがどんなに屈辱な命令であれ、敗者が拒否することは許されない。

 

「ありえない、この私が……………………あっ♡」

 

 

 

 

 





○に入る文字は読者様自身が勝手に想像して補ってください


例①

「アウラ、自害しろ」
「ありえない、この私が……!」


例②

「アウラ、自慢しろ」
「私は500年以上生きた大魔族! 七崩賢の1人で凄く強いのよ!」


例③

「アウラ、自転しろ」
「目が回るじゃない」
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