変態のフリーレン   作:ゼーリエ様が1番可愛い

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石鹸がよく泡立つ魔法

 

 

 その後、従えたアウラと色々な(・・・)ことをやっていたフリーレンの元に、リュグナー、リーニエ、ドラートの3人が襲来した。

 上司の身に異変があったことを察知し、急いで応援に駆けつけたのだろう。

 

「アウラ」

「『服従させる魔法(アゼリューゼ)』」

 

 しかし状況はすでに手遅れ。

 相当な実力者であるはずの首切り役人たちを、瞬く間に支配下に置くアウラ及びフリーレン。

 人権を持たない人型愛玩動物が1匹から4匹に増えた瞬間だった。

 

「フリーレン様」

「なあに、フェルン」

 

 そんなフリーレンたちの元に、今度は旅の仲間であるフェルンとシュタルクが到着する。

 

「殺していいですか?」

「えっ、私を?」

「違います。魔族をです」

「だよね、ビックリした……。ダメだよ。この子たちはもう私のものだからね」

 

 フリーレンは背後に控える魔族たちを見回しながら言う。

 その姿はまるで、魔族を束ねる長そのものだ。その気になれば、フリーレンは魔王にだってなれるのかもしれない。

 

 その時は自分がその魔王を討伐することになるのだろうか。

 フェルンは亡きハイターに答えを求めるように空を見上げた。

 

「“アウラ、おすわり”」

「わん」

 

 そんな幼き魔法使いの心配をよそに、目の前で信じられないような光景が展開される。

 フリーレンの命令を受けたアウラが、抵抗する素振りすら見せずに犬の真似をしたのだ。

 

「ほらね、もう害はないでしょ」

 

 低くなった頭を、ワシワシと撫でつけるフリーレン。

 

 なんて姿だ。これが断頭台と恐れられた、七崩賢にも名を連ねる大魔族の末路だと言うのか。

 抹殺対象であるはずの魔族を目の前にしているにもかかわらず、フェルンは思わず同情的な気持ちになった。

 

「フリーレン様、やはり殺してあげるべきだと思います。その方がアウラたちも喜ぶはずです」

「? 何を言ってるのフェルン。殺されて喜ぶ生物がいるわけないでしょ。拷問を受けているわけでもあるまいし」

 

 いや、これは一種の拷問だろう──とフェルンは思った。

 彼女たちはこれから、長い時間ずっと生き恥を晒すことになる。それこそ、フリーレンの身に何か起きるか、魔法に不具合でも出ない限り半永久的に。

 

「でも、旅に連れていくわけにはいきませんよね」

「……ダメかな?」

「ダメに決まってます。元いた場所に返してきなさい」

「アウラは捨てられた子犬じゃないんだよ?」

「先に犬扱いしたのはフリーレン様じゃないですか」

 

 もちろん、元にいた場所に返せというのは冗談だ。

 犬のような扱いを受けている現状においても、アウラは全身が総毛立つような圧力を放ち続けている。

 こんな危険な存在を、野放しにできるはずもない。

 

「アウラはどうしたい?」

「その質問に答える前に、この体勢をやめてもいいかしら」

「ああ、まだおすわりしてたんだ」

「あなたがやらせたんじゃない」

 

 その後、何故かフリーレンにお手をさせられてから、アウラは立ち上がった。

 

「で、私はどうしたいか──だったかしら」

 

 先程までの失態などなかったかのように、優雅な立ち姿のままアウラは口を開く。

 

「そうね……あなたたちを今すぐにでも殺してやりたいわ。特にフリーレン」

 

 その言葉に、フェルンとシュタルクは武器に手を掛け警戒心を強めた。

 一方のフリーレンは特に身構えることもなく、呆れたような顔になるだけだった。手を伸ばせば届くような距離から離れようとすらしていない。

 

「そういうこと言ってると、本当にフェルンに殺されちゃうよ?」

「あなたが許可を出せば、この人間の小娘も今すぐ私の魔法であなたの支配下に置けるわ。そうしたら全部あなたの思い通りになるじゃない」

「ダメだよ。フェルンは大事な仲間だからね」

「そう? みんな仲良くミミックにでも食われて死ねばいいのに」

「ミミックに食われてもそう簡単には死なないよ。100回近く経験している私が言うんだから間違いない」

「……なんでこんなやつに負けたのかしら」

 

 アウラがフリーレンの命令に絶対服従であることは、おすわりやお手の件からも明らかだ。

 しかし忠誠を誓っているかというとそうではない。隙さえあればフリーレンを騙し討とうという魂胆を持ち続けていることは、言動からも容易に察しがつく。

 そのことから、フェルンはあることが気になった。

 

「あの、フリーレン様。アウラの魔法は、意思が強ければ抵抗が可能だと聞きました。首を落とした方がいいのではないでしょうか」

「え、首を? そんなことしたらせっかく整ってる顔がなくなっちゃうよ?」

 

 フリーレンはありえないとでも言いたげに目を丸くした。

 ありえないとツッコミたいのはフェルンの方であった。

 

「でもまあ、大丈夫なんじゃない? 抵抗できるなら、すでに抵抗してるはずだし」

「そんな適当な……。願望が含まれていませんか?」

 

 フリーレンは何やら確信を持っているようだが、フェルン的には操られているフリをしていて、いざという時に裏切るつもりなのではという疑念が拭えないでいた。

 

「人間のような強い意思とか感情とかは、魔族(こいつら)には無縁のものだよ」

 

 

 その後、いつまでもこんな目立つところに留まっているわけにはいかないということで、アウラたちは街から離れたところで一旦身を潜めることになった。

 支配下に置いたから大丈夫という言葉を、今まで戦争を繰り返してきた人間たちが信じるわけがないし、信じたところで納得するはずもない。

 

 以上の理由から、アウラとその配下たちは纏めて討伐してやったと、グラナト伯爵にはそう報告するつもりだった。

 これで街の住民たちは魔族の恐怖から解放され、安心して暮らしていけるようになるだろう。

 

 フリーレンたちは街を救った英雄として感謝された。

 手渡された報酬を、フリーレンは当たり前だとでも言いたげな表情で受け取った。

 

 フェルンとシュタルクは罪悪感と申し訳なさで死にそうだった。

 

 

 

 ****

 

 

 

 グラナト伯爵領から少しだけ離れた地。

 辺境の村。

 

 魔族という種族についての知識があまり浸透しておらず、また、住人たちの警戒心も薄そうな地域。そういう場所を、フリーレンはアウラたちの隠れ場所として選んでいた。

 それはちょうど、勇者一行が旅の序盤に訪れ、子供の見た目をした魔族に滅ぼされそうになっていた村のようなところだった。

 

「え、あの角は……」

「まさか魔族……?」

 

 村の一部がざわりと騒がしくなる。

 

「大丈夫。普通の魔族は悪い魔族だけど、その4人だけはいい魔族だからね」

「おお、そうなのですね」

「それなら一安心だ」

 

 警戒している様子を見せていた村人たち。しかし、フリーレンが一言説明するだけでこの有様だ。

 実際に魔族に目をつけられたら一巻の終わり。今まで村が存続できていたのは、ただ単に運が良かっただけだと思われる。

 

「何か困ってることとかある?」

「……それが」

 

 村の長を担っている老人が、深刻な顔で話し始める。

 その内容は、村の近くに強力な魔物が住み着いてしまい、とても困っているというものだった。すでに被害者も何人か出てしまっているらしい。

 

「分かった、私たちが討伐してくるよ。報酬によっては村を長期的に保護することも可能だけど、どうする?」

「それはとてもありがたい話ですが……如何せん渡せるようなものが……」

「何か村に伝わる魔法とかないの?」

「うーん、そうですね……『石鹸がよく泡立つ魔法』はどうですか?」

「いい魔法だね。報酬はそれでいいよ」

 

 引き受けたはずのフリーレンは、しかしさらに会話を続けた。

 

「で、一応の確認なんだけどさ」

「? はい」

 

 周りから聞こえないよう、村長の耳元で囁くように問い掛ける。

 

「人に言うのがはばかれるような……ちょっとエッチな魔法を知ってたりしない?」

「!?」

 

 フリーレンと同じようにして、今度は村長の方から顔を近づけ、小声で返事をする。

 

「……『スカートが捲れる神風を起こす魔法』、なんていかがでしょう」

「ふふっ、いいね。最高だ」

 

 2人はガッシリと固い握手を交わした。

 エロは人を繋げる。そこに人もエルフも関係なかった。

 

「ねぇ、アウラ。アウラの魔法って、魔物相手にも効果があるの?」

「さあ? 人間と魔族以外には使ったことがないから分からないわ」

「なら実験だね」

 

 結論から言うと、アウラの『服従させる魔法』は問題なく魔物に通用した。

 お互いの魂を比較するという性質上、生物相手にならば問答無用で効果を及ぼすらしい。

 

 その結果、アウラは村人から魔物使いと認識された。

 新たな職業の誕生だった。

 

 

 その後は旅の疲れを癒すため、あるいは死臭を落とすため、魔族の4人とフリーレンは一緒にお風呂に入ることになった。

 魔物という脅威を取り払ってくれたお礼として、村長宅にある1番大きなお風呂を使わせてもらえたのだ。

 覚えたばかりの『石鹸がよく泡立つ魔法』も大活躍だった。

 

「泡立ちすぎて何も見えないじゃない」

 

 さすがに男の見た目をした魔族と肉体的接触を持つのはヒンメルに悪いと判断したのか、リュグナーとドラートの身体は自分で洗わせ、フリーレンはアウラとリーニエだけを丁寧に洗ってあげることにした。

 それを、アウラは嫌そうに、リーニエは気持ちよさそうに受け入れていた。

 

 リーニエはフリーレンのお気に入りになった。ツインテール仲間ということもあり、フリーレンは彼女のことを娘のように扱った。

 

 

 

「私だけこんな仕打ち、おかしいじゃない。…………んっ♡」

 

 フリーレンはリーニエに対しては甘々の対応だったが、アウラの言葉は当然のように全部無視していた。

 

 

 

 ****

 

 

 

 それからおよそ1週間後。

 

「アウラ、後はよろしくね。村の警護をしつつ、少しずつ行動範囲を増やして、顔のいい魔族がいたら仲間にしておくんだよ。もちろん、何があっても人を殺すのは禁止ね。あと、自分より魔力の多い同僚を見つけたら真っ先に私に報告するように。それと──」

「うるさいわね。何度も言われなくても分かってるわ」

「あと……そうだ、私が呼んだらすぐに駆けつけること」

「できれば一生呼ばないでほしいわぁ」

 

 そうして、フリーレンたち人間組は北へと旅立った。

 

 





アウラは世界の支配者になれる器の持ち主。
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