ポンコツ力写札使いの報告書   作:猫の手

2 / 5
前回盗賊に捕まっていた女の子の再登場。

ちょっと変な属性を詰め込んでみました―――これは許されるんだろうか?


2話:積み込みデッキと融合召喚

 

 村で唯一の医院。

 

 麻雀牌をじゃらじゃらと混ぜる音が響く。他所から来た人間からは不思議なのだが、アルカトラズでは別に不思議なことではない。ここの医院長は腕がよいが根っからの麻雀好きで暇を見つければ入院患者を巻き込んで麻雀大会を開くのだ。

 

 ちなみにこの街に来たのはギルドマスターのマスク・ザ・ロックに麻雀で負けたからと言われている。真相は謎であるが、暇があればマージャンをする様子を見る限りそうあったとしても不思議ではない。

 

「院長、勝手に入るぞ」

 

「おう、慣れるまでは面倒を見るんじゃぞ」

 

 ユサの声に反応して雀卓から手を振る院長。麻雀をしながらも釘を刺すことを忘れない。マスク・ザ・ロックの鶴の一声により盗賊に捕まった女の子の面倒をユサが見ることになったのだ。曰く、拾ったんだから責任を持つこと―――だそうだ。

 

 強制的に身元引受人になったユサは退院の手伝いにやってきたのだ。入院費は件の依頼人の報労金から出ているが、足が出ないか戦々恐々している。

 

 遠くで「ロン」という声と悲鳴を上げる院長の声が聞こえた。どうやら、順調に負け星を増やしているようだ良いことである。そんな院長の悲鳴を聞きながら、病院の階段を上がり二階の病室へと向かう。

 

 プレートにはシノノメと書かれている。これが盗賊に捕まった女の子の名前である。ダ・イーザ相手に抵抗し続けたことが原因か。本格的にひどい目に合う前に救出ができたようだった。身体の怪我だけで済んだのは幸いである。

 

 ドアをノックすると中から入ってよいと返事があった。ガチャっとドアを開く。柔らかな光を集めたような亜麻色のロングヘア、未だ未成熟なプロポーションの幼い顔立ちの少女がそこにいた。未だ少女であるが、少しだけ女へと足を踏み入れた妖しい美しさがあった。

 

 ただしその美貌も明らかに男物っぽいぼろ着に身を包んでいたら台無しである。否、浮浪者に変装したとも取れないことはないか。ちなみにサイズが合わないらしく、パツンパツンであった。

 

 既に退院の準備は済んだのだろうベットに腰を掛けて状態で本を開いていた。

 

 ユサはそれを見てぐうっと唸る。自分の貸した服がパツンパツンなのだ。自分がどれだけひょろいのか思い知らされていた。美貌に見とれるよりもよりもその現実に打ちのめされながら、ユサはシノノメに声を挨拶をする

 

「おはよう。準備はできてるみたいだな」

 

「オハヨ!もちろん。いつでも出かけられますよ。」

 

 そういうとシノノメは本をぱたんと閉じた。タイトル名は『甲賀デスシャドー流忍術指南書』だ。シノノメ曰く、桜皇に伝わるニンジャの修行法をまとめている本らしい。ちなみに古本屋で1ゴルで売られていたそうだ。

 

 それは偽物じゃないかと思ったが、流石にそういう突込みをするのは無粋だと考え止めている。逆鱗の可能性もあるし……ただ、著者の名前がやたらと書かれていることと、明らかに桜皇ぽくない名前しか羅列されていないことは気にしない方がよいのだろう。

 

「おっけー。んじゃ、まずは装備買い揃えよーか。宿はもうギルドマスターにお願いしているから最後に回れば良いし」

 

「ありがと♪、街中だけど装備してないと不安だし。」

 

 感謝の意を示すつもりか。シノノメはユサをギュッと抱きしめる―――そのバストはヘイキンテキであった。前世の記憶が役得だとユサに囁くが、これはあれである。弟分をかわいがる姉という構図だ。身元引受人としては受け入れるわけにはいかない。

 

 ペシンとデコピンをしようとするがさっとよけられる。身体能力の差は段違いである。ユサがよけられたことに不満を漏らす。

 

「むー、よけるなー」

 

「照れなくていいのに」

 

 益々の弟分扱いである。唸るが、ここでそれに乗ると負けである。こほんと咳ばらいをすると話題を変える。さっさと移動をするべきだろう。ユサはこういう部分で女性に勝てる気がしない。

 

「―――店に行くよ。」

 

「ヨロシクオネガイイタシマス。この街のこともいろいろと教えてね。」

 

 再び、変わった言い回しをしたシノノメに対しユサは確認のために問いかけてみる。

 

「りょーかい。そいや、変わった言い回しだけど……」

 

「この本に書かれていたニンジャの言い回しだよ。彼らの言葉とか作法も学んでいるんだ。」

 

 そういってシノノメは『甲賀デスシャドー流忍術指南書』を見せる。どうやらニンジャの言い回しらしい。本当なのだろうか。益々怪しさが増してくる。とはいえ、シノノメは一人でダ・イーサを正面を斬って戦い、依頼人を逃がしてのけた猛者である。強さの秘密に嘘はないのだろうが……

 

「あー、疑っているね。拙はこの本を読んで、ニンジュツとかカラテを学んだんだよ」

 

 えへんとヘイキンテキな胸を張る。どうしたものかと考え、まぁ強いならそれが正解なんだろうと、『甲賀デスシャドー流忍術指南書』についての疑問をゴミ箱に投げ捨てることにした。

 

「本だけで強くなるってのはすごいな。オレはそういうセンスないからなぁ」

 

「ふふん、頑張ったからね。そのうちどんなものか見せてあげるよ」

 

 シノノメの能力についてはマスク・ザ・ロックも調べたが元居た冒険者ギルドでは優秀とお墨付きが付くぐらいであった。将来的にAランクに到達するだろうと期待された新人である。ただ、怪しげなニンジュツの使うけど……

 

 ブルーアイズホワイトドラゴンの倍以上の攻撃力を持つ理不尽が相手でもなければそうそう負けることはないのだ。そういう理不尽はまれによくいるのだが……

 

 荷物は色々と破壊されたため、リュック1個分である。鎧も剣もないため、購入しなければ安心して街をうろつくこともできないだろう。ユサは亀のゲーム屋二号店へと案内を始めた。

 

 

 

 

 

 

 冒険者ギルド"旅人の試練"に冒険者たちの喧騒が響き渡る。普段の過疎化したギルドとは違う賑わいだ。初めて"旅人の試練"に来たシノノメは目を丸くし、感嘆の声を上げる。

 

「ゴウランガ―――拙のいたギルドと比べ物にならない」

 

 ゴウランガってなんだろう。ユサは首をかしげるがニンジャの言葉なのだろう。深く突っ込むのは止めよう。

こんなにたくさんの冒険者が来たのはユサにしても、初めての経験であるが話は聞いている。それは、ここアルトカラズの街ができた切っ掛けでもあるのだ。

 

「首領どんぐり採取の解禁が間近なんだよ。」

 

「あー、ここが産地だったんだ」

 

 ユサの説明にシノノメが納得と頷く。首領どんぐりは栄養価が高く長期保管が聞く食材だ。冬の備えや大襲撃のときの保存食として重宝されている。取れる産地が限定的なため、採取すれば採取するだけ売れる食材なのだ。

 

 商人達も買い付けのためにやってきており、この時期のアルカトラズは毎日が祭りとでも言える賑わいを見せている。

 

 冒険者たちが前祝と称して宴会を開いている。この時期の風物詩である。ヴィヴィアン・ウォンが必死になって調理場で鍋を振るっていた。分身しているかのような動きで料理を仕上げていく。―――どうやら下拵えができる人が休みのようだ。ウェイトレスはいるが料理ができるのが彼女一人のため、目を回しながら仕事をしていた。

 

 ヴィヴィアンとユサの目が合った。彼女の眼はぐるぐる回っており、獰猛な笑みを浮かべる。そして怒鳴りつけるようにユサに仕事の依頼を行う。

 

「ユサくん!!お仕事よ!!料理のヘルプに入って!!」

 

 もはや悲鳴のような声。これを断ることが不可能である。ユサは仕方ないと諦めた。どちらにしろギルドマスターからシノノメの止まる冒険者向けの宿の情報を得るだけなのだ。手伝ったところで問題はない。

 

 茶道楽であるユサは料理の腕もそれなりである。具体的に言うとヴィヴィアン・ウォンが下拵えなら合格。味付けは要修行というレベルである。

 

「賄いだすからさ。カウンターで適当に食べてて、オレはヘルプに行ってくる」

 

「カラダニキヲツケテネ!」

 

 戦場に赴けんとするものに対する言葉。シノノメからみてもあれは断れないだろうと理解したのだろう。余計なことを言わず、大人しくカウンターに座った。

 

 ユサは大急ぎで食堂の裏手へと回る。ギルドマスターからの連絡を待つ間仕事をするのもありだろう。ヘルプに入って数秒後に気軽に引き受けた己をユサは呪うことになる。山のように積み上げられた注文を捌きながら、地獄のような数時間を過ごす羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 忙しい時間を乗り切り、ヘルプも休憩時間に入った。

 

 ヴィヴィアンもユサも休憩に入り、大量にさばいたオーダーが原因か据わった目でむしゃむしゃと賄いを食べていた。ユサが紅茶――当然だがレッドアイズグレイではない――を入れて、一息をつく。そんな二人をねぎらうようにシノノメが声をかける。

 

「オツカレサマドスエ―――ほんとに大変だったね」

 

「地獄だった」

 

「そうね。去年より出稼ぎの冒険者たちが集まるのが少し早かったから、色々とスケジュールの調整を失敗したわ」

 

 どうやら、ヴィヴィアンにとっても予想外だったらしく、それによって発生した修羅場だったようだ。ユサは息も絶え絶えである。食事と紅茶である程度回復をしたヴィヴィアンが口を開く。

 

「まぁ、明日からはどうにかなるわ。ユサくんがヘルプしてくれて、本当に助かったわ。」

 

「給料は弾んでくれよ」

 

 ヴィヴィアンの言葉に現金な突込みを入れるユサ。「分かっているわよ」とヴィヴィアンは返しシノノメに視線を向ける。

 

 明らかに初心者向けの安めの防具と安めのブロードソードを身にまとったその姿は駆け出しの冒険者である。とはいえ、全損した彼女ではそれが限界だろう。宿代もあるし

 

 おそらくは亀のゲーム店二号店で買ったのだろう。あの店でだぶついていた装備だった。分かりやすい安物の装備である。ただ、性能が悪いというわけではない。初心者であれば十二分すぎるし、ある程度の駆け出しでも大丈夫な装備だ。

 

 シノノメは本人がカラテと主張する錬気法に習熟しており、ニンポウという名前の魔法も使えるので戦闘能力は高い。無理をしなければ装備の不足も補えるはずである。慎重に仕事を選び新しい装備を入手してほしいものである。

 

 そして、できればアルカトラズに居ついてほしい。この街に優秀な冒険者は少ないのだから……

 

 ユサ達は駄弁りながら、修羅場での疲れを癒していると6が描かれたマスクをした老人――ギルドマスターがやってきた。どことなく済まなさそうな様子にいやな予感を覚える。

 

 ギルドマスターはなぜかユサを見ながら宿の状況を話し始めた。

 

「申し訳ないのじゃが、首領どんぐり狩りの冒険者が想定より多く集まってきておってな。宿の空きがなくなっておった……」

 

「ブッダミット……」

 

 ギルドマスターの言葉にシノノメが絶句。ユサとヴィヴィアンも困った風に顔をしかめる。宿なしは流石に不味い。とはいえ代案が用意してそうなので続きの言葉を待つ。

 

 再度ユサを見るギルドマスターにユサは猛烈に嫌な予感を覚えた。

 

「ユサ君や、君が拾ったのじゃからある程度までは面倒を見なさい。具体的には宿が空くまで止めてやるんじゃ」

 

「オレ、男なんだけど―――」

 

 ギルドマスターは聞こえないふりをした。拾った人間が面倒を見る良い言葉である。そのまま、ギルドマスターはプランを伝える。

 

「ベットは―――二段ベットを運んでおくからの。ちゃんとプライバシーが守れるようにカーテンも用意しておこう。」

 

 急ぎ手配をせねばならんからのと言って、ギルドマスターはユサの抗議を聞かずそのまま立ち去って行った。鬼のような話である。

 

 ユサは心の中にある閻魔帳に大文字で"許されない"と記載。ヴィヴィアンは慰めるように「強く生きてね」というが、助け舟を出す気はないようだ。ギルドマスタ―からの指示だし。

 

 シノノメはあまり気にした様子もなくユサに言う。

 

「まぁ、お見舞いに来てもらったりしてたし、ユサ君なら大丈夫だよ。」

 

「いや、オレ、男なんだけど」

 

 その言葉に対してシノノメはにっこりと笑みを浮かべて答える。

 

「カラテが足りなさすぎるからね。襲われても返り討ちだよ。」

 

 ぐうの音も出ない事実である。ユサはあんまし体術は得意ではない。カラテを学んだニンジャに勝つすべなどないのだ――――力写札を使えば違うのだけど。

 

 シノノメの宿の話を聞いて声をかけようとするヨタモノはいるが、目の前にギルドマスターがいる手前それをやれる度胸がある奴はいなかった。居たら?……だいたい死んでいる。だから、変わらないと言えば変わらない。

 

 アルカトラズに来たばかりのシノノメを守るためにはユサに犠牲になってもらうのが一番良い。社会性とか色々と犠牲になるが冒険者であれば一山いくらもしない安いものであるので気にする必要などない。

 

 そして、ギルドマスターは聞かないふりをして帰っていった。許されない。次、ギルドマスターにお茶を淹れる機会があったら復讐をしてやると誓う。ヴィヴィアンはケラケラと笑っていた。味方はいないようである。

 

 センセイが居れば、そちらの部屋に潜り込むという荒業も可能なのだが―――…センセイは今アルカトラズにいないのだ。なんでも、レッドアイズグレイの在庫が切れたらしく、買い出しに行ったそうだ。紅茶狂い極まれりである。

 

 ユサも紅茶が好きではあるがセンセイの真似は出来そうにない。

 

 今はあのお茶狂いのところは置いておこう。とりあえず、プライベートを守るためにも防音系の魔具が欲しい。自分のベットを改造してプライベートスペースにしたい。

 

 それをするためにもお金が必要である。

 

 ユサは恨めしそうにヴィヴィアンを見ると、恨めしげな表情を変えず、仕事を寄こせとぶー垂れる。

 

「ヴィヴィアンさん仕事くれ。あのマスクのせいで金が必要になった。」

 

 恨めしげな声、ヴィヴィアンは苦笑。この時期用のとっておきの依頼がある。ユサの冒険者ランクでは少し足りないがマスク・ザ・ロックの無茶ぶりが悪いのだ。彼女の判断で回しても良いだろう

 

「仕方ないわね、ユサくんは。そんなあなたにとっておきの仕事を用意するわ。念のためにシノノメちゃんと一緒にやりなさい。」

 

 依頼書を見せる。記載されている内容は首領どんぐりの採取だ。領主からの依頼であり、冒険者が持って帰ってきた首領どんぐりの出来栄えを見ていつ解禁するかを決める仕事だ。よほど悪い首領どんぐりを持ってこない限りは解禁されないことはない。

 

 一種のセレモニーに使うためのトロフィーを入手することが目的だ。内容的にはCランクでも十分にこなせる仕事だ。ユサでも十分にこなせるだろう。

 

 ユサは驚きの表情で依頼書を見る。例年通りであれば危険も少ない割の良い仕事である。

 

「おー、りょーかい。シノノメさんも良い?」

 

「ブッダオハギ。是非とも受けるよ。お金稼がないと」

 

 相変わらずよくわからない言葉を使うシノノメ、気にしたら負けなのだろう。ユサは突っ込まないことにした。

 

 依頼書の中を確認すると近場の首領どんぐりの木より、採取して持ち帰ることが仕事となっている。その際の役得としてバックに入るだけ首領どんぐりを入れて帰ってよいというのがある。

 

 この首領どんぐりは初物としてよい値段で売れるのでちょっとしたボーナスになる。過去のやらかしたやつのせいで本当ににちょっとしたボーナスにしかならないのは悲しい限りだが……

 

 ユサは依頼受託のサインをする。これからは明日に向けての準備の時間なのだ……日帰りをする強行軍である。早く帰って準備をしたい―――睡眠を取らなければ倒れてしまう。

 

 ギルドマスターに呪いの言葉を吐きつつ、ユサとシノノメは宿舎へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 早朝は少し肌寒く、空は薄暗い。

 

 根無し草の冒険者たちがお金を稼ぐためには少しでも早く、出発し、一つでも多く首領どんぐりを採取しなければならない。まさにタイムイズマネー。お金を稼ぐ時間を少しでも多く作らねばならない。

 

 ユサはモンスターの革で出来た鎧と取り回しの良いショートソード、デュエルディスクとそれを覆うような大型の盾を装備していた。体術に自信がないユサが自分とデュエルディスクを守るための工夫である。その上に虫除け効果のある外套を羽織っていた。

 

 一方シノノメはというと駆け出しの冒険者たちが身にまとうような中古の少しぼろい革鎧を身にまとい、武器はブロードソードのみという簡素な装備だ。金が無かったから仕方ないが早い所装備の更新をしたい不安さを感じさせる装備である。

 

 亜麻色の髪とあいまってニンジャというよりも駆け出しの女冒険者という姿である。ニンジャを目指す本人的にも不満そうだ。

 

 漸く門の外へと出るとユサは"俊足爪先"――漸く買えたC級魔具を起動させる。今日向かう地点はそれなりに離れているのだ。魔具を使って移動しなければ日が暮れるだろう。

 

 シノノメは甲賀デスシャドー流忍術のカラテの一端、練気法を使用し、オドを利用して身体能力を高める。魔具に追いつくためには必要な技術である。

 

「んじゃ、準備は良い?走るよ。」

 

「ダイジョブダッテ―――拙は甲賀デスシャドー流のカラテがあるからね」

 

 ふふんとヘイキンテキな胸を張るシノノメ。どうやら相当に自信はあるらしい。彼女はBランクの冒険者である。未熟な自分よりも自己判断はできるだろうと考え、走り始めた。

 

 "俊足爪先"を用い、なるべく疲れないようにだが十分に加速できるように走る。持ちの途中までは街道を使用するため人にぶつからないように気を付けながら走る。そんなユサに魔具無で軽々とついてくるシノノメを見て、これが才能の差かと軽く絶望しながら、走り続ける。

 

 魔具を使用しているはずの自分より余裕があるのは冗談だと思いたいが、事実だろうなぁと嘆息する。更に走り込みを増やさねばなるまい。

 

 さらに加速しようとしたときにシノノメから指摘が入る

 

「ユサくん、周囲への索敵がおろそかになっているよ」

 

「ぐっ―――気を付ける。」

 

 冒険者としての基礎がおろそかだと指摘を受けぐうの音も出ない。―――このまま走ってもミスが続出するだろう。目当ての森も見えてきたところだ。一度小休止を入れることにした。

 

 ユサは汗を拭いて、持ってきた水筒の水を飲みながらシノノメの様子をうかがう。彼女は汗一つ書いていなかった。魔具を使ってないのにである。同じ人類としてのスペックの差に苦笑いしか浮かばない。

 

「魔具を使っているのにこっちがばてているとか自信なくすなぁ」

 

「甲賀デスシャドー流の修行の成果だよ。」

 

 ふふんと胸を張る。甲賀デスシャドー流の【超々俊足】チャクラの代わりにオドで強化した脚は常人のそれを超え大地を極まれば空を駆けることができるようになる。

 

 水を飲みながら、シノノメは気が付いたことをユサに指摘する。

 

「走っているとき周囲へ索敵が出来ていないから気を付けたほうがいいよ。」

 

「ぐぅ―――気を付けます。」

 

 シノノメに負けてなるものかと普段より速度を上げて走ったのが仇となった。走るのに精いっぱいで索敵が疎かになっていた。これがなりたてのCとBランクの差なのだろう。まぁもっともロールが違うというのも原因なのだが

 

 息を整えると行動食でエネルギーを補給する。シノノメはユサの様子を見て一つ提案をする

 

「ここから先は拙が先行するよ。危ないのがあったら注意するから気を付けて」

 

 シノノメの提案は色々とユサのプライドを刺激するが、それでも実力ランクとも上の冒険者の言葉であり、正しさも自覚できるので、そのプライドには寝てもらうことにした。

 

「ぐぅ―――お願いシマス。」

 

 その言葉にシノノメは頷く。心の中で葛藤があったらしいが正しい判断ができるのは良いことである。外套のフードを深めに被る。ここからは山道である枝に髪の毛が絡まないように対策はしておくべきだろう。

 

「ガンバロ。少しでも多く収穫しないとね。」

 

 そうユサに声をかけると山へと駆けだしていった。

 

 

 

 

 

 ユサの体力に気を使っているのか少し抑え気味のスピードでシノノメは山道を駆け上がる。素人でも音を立てにくい場所を選び先行することでチームでの隠密行動も確立する。

 

 少し先に弾丸ドングリの木を発見。

 

 弾丸ドングリは首領ドングリのほどではないが栄養価が高く、柔らかくて優しい味がする。ただこいつらは、振動を感じると弾丸と同じようなスピードで発射されるという厄介な木の実である。ちなみに首領どんぐりの方が高価である。

 

 無駄に時間を割く必要もないだろう。どうしても避けられない最小限を除いては無視をすることを決める。

 

「少し先―――右側の木が弾丸ドングリよ。備えて」

 

「りょーかい」

 

 ユサは走りながら弾丸ドングリ専用の盾―表面に粘着力がある―を準備。右側からの襲撃に備えて構える。シノノメは掌を軽く開くと速度を緩めることなく走る。

 

 弾丸ドングリが射程内に入った人間達を一斉に始末しようとその実をマシンガンの如く射出する。どんぐりの雨を盾で必死に受けるユサの前でシノノメは両腕を回転させながら、弾丸ドングリを防いでいた。更には器用に袋の中にドングリを落としている。

 

 ワザマエ!!なんと見事な"マワシウケ"―――それは甲賀デスシャドー流の妙技。

 

 専用の盾を使うしかないユサとしてはアレは自分と同じ人類なのだろうかと首をかしげざるを得ない。ニンジャと非ニンジャの差は絶望的である。

 

 弾丸ドングリの雨を潜り抜け、しばらく走る。首領どんぐりの場所に近づいたところでシノノメから足を止めるように指示が出た。

 

「ストップ。首領ドングリの周辺が少しおかしいわ。ちょっと調べるから待ってて」

 

 シノノメの言う異常がユサには分からず首をかしげるが、彼女が言うのであれば間違っているということはないだろう。大人しくその指示に従い、待機をする。その間に盾にへばりついた。弾丸ドングリを袋に入れて邪魔になった盾をしまう。

 

 少し待っているとシノノメが帰ってきた。その表情は面倒なものを見つけたと言わんばかりだった。

 

「盗賊が待ち伏せしていたわ。多分だけど、首領ドングリの採取に来た冒険者を襲撃するつもりじゃない?」

 

「―――…うわ、何考えて生きてるんだろ」

 

 シノノメの言葉に呆れた表情になるユサ。そんなことをするなら普通に首領ドングリを採取すればいいのに

 

 首領どんぐり狩りの冒険者はランクが低いものが多いため、楽に狩れるとでも思ったのだろうか。さてとどうするか。シノノメの方が高ランクである。彼女の案を聞いてみる。

 

 少し、シノノメは思案をしてユサに行動指針を伝える。

 

「拙が奇襲をかけるから、奇襲をかけたらサポートをお願い。ソリティアはどのぐらいかかる?」

 

「3秒以内で準備するよ。」

 

 今回は普通の展開でいいだろう。ユサはデッキの準備を始める。それを確認したシノノメは盗賊の背後を取るために移動を始める。

 

 フーリンカザン―――ニンジャが戦をするのであれば周囲の環境を利用しなければならない。甲賀デスシャドー流忍術指南書にも書かれている。

 

 シノノメは姿を隠しながら盗賊達を観察。総計4名ほど、一人二人で来る冒険者たちに狙いを絞っているのだろう。舐めた態度だ。角度的に狙えるのは2体。全てを攻撃できないのは残念であるが、最終的に皆殺せばよいのだ。

 

 アンブッシュは一度まで許される。甲賀デスシャドー流忍術指南書にも書かれている。

 

 甲賀デスシャドー流水遁のジツ―――水のスリケンを作り出し、投擲。見事に2体の首を貫くと過冷却状態だった水のスリケンが盗賊を凍結させる。

 

 シノノメは盗賊を始末したことを確認。凍り付て倒れた仲間を見た残りの盗賊達が慌てて周囲の警戒を始める。アンブッシュで終わらせたいがシノノメはサンシタではない。盗賊と言えどアイサツをせざるを得ない。

 

 故にシノノメは盗賊達の前に姿を現す。両手を合わせ綺麗な角度でオジギをする。それは甲賀デスシャドー流忍術指南書に記載されているニンジャの理想的な挨拶である。

 

「ドーモ、盗賊=サン。シノノメです。」

 

 盗賊達の混乱が加速する。見目麗しい少女の理解できない行動、一刻も早く目の前の狂人殺さねばと必死に手に持っていた力写札を使用する。

 

 怒鳴りつけるように叫び声を上げモンスターを召喚する。

 

「て、手札から融合カードを使用。手札の"ビッグ・コアラ"と"デス・カンガルー"融合素材とし、融合召喚。殺せ!!マスター・オブ・OZ!!」

 

「融合カード!!手札の眠れる爆走特急ロケット・アロー、重機貨列車デリックレーン、除雪機関車ハッスル・ラッセルを融合素材とし、融合召喚!!どうにかしてくれ!!幻魔帝トリロジーグ」

 

 更に盗賊達は余った通常召喚権を使用し、アレキサンドライドラゴン、しゃりの軍貫を通常召喚する。盗賊達はモンスターを盾にい姿を隠し、一息つく。

 

 マスター・オブ・OZ、幻魔帝トリロジーグそれぞれが攻撃力が最上級のモンスターだ。詰め込みデッキでも流行っているのだろうか?攻撃力が高いモンスターが二体並ぶ。

 

 そのモンスターを見てシノノメはブロードソードを抜き、備える。ダイーザよりはマシだが、強力なモンスターが2体である。慎重な対処が必要である。そろそろユサからのサポートも期待したいところだ。

 

 既にソリティアを完了させていたユサが、離れた場所から融合召喚されたカードを見て嘆息。サポートを開始する

 

「詰み込みかよ。―――メガリスフールの効果を使用。手札からメガリスファレグをリリースし、デッキよりメガリスべトールを儀式召喚する。」

 

 顔のない女性の石像が儀式モンスターである巨大な黒い悪魔像をシノノメの前に召喚する。突如現れたモンスターに盗賊達はぎょっとするが、自分たちの召喚したモンスターの方が明らかに強い。まだどうにかなると考えていた。

 

 そのウカツさの対価を彼らはすぐさま支払うこととなる。

 

「メガリスべトールのモンスター効果。墓地にある儀式モンスターの種類の数まで相手フィールドのカードを破壊できる」

 

 黒い悪魔像がシノノメの前に着地をした瞬間に、盗賊達が召喚したモンスターが砕け散る。耐性の無いモンスターでは耐えることすらできず、あっさりと破壊されてしまう。

 

 あっという間に自分たちが召喚した切り札を潰された盗賊は思考が停止する。―――強いステータスのモンスターを召喚すれば勝てるというほど力写札は単純ではない。それを知る機会を得たが、彼らはそれを生かす機会はないだろう。

 

 思考停止した隙を逃すほどシノノメは愚かではないからだ。盗賊に向かって走る。

 

「盗賊=サン、ハイクを詠め。カイシャクしてやる。」

 

 ニンジャの用語が理解できない盗賊達はその意味が分からず、シノノメが再度作り出した水のスリケンが盗賊を貫いた。盗賊達はハイクを詠むことすらせず、ゴートゥー・アノヨ。サンシタではそのようなものである。

 

 ユサは相手が死んだことを確認すると用心のために召喚を維持したままシノノメの元に駆け寄る。

 

「お疲れ。流石の手際だね。」

 

「ありがと、助かったわ。あーいう強いモンスターがいると大変なのよねぇ」

 

 ダイーザのことを思い出したのだろうかしみじみという。積込み式ではそれしかできない一発屋という面が強いが、強いモンスターを呼ぶデッキは確かに面倒である。とはいえ仕事は盗賊退治ではない。さっさと仕事に取り掛からなければならない。

 

「んじゃ、邪魔者も片付いたし、首領どんぐり集めよっか。仕事は完了させないとね。」

 

「そーね。お金を稼がないと」

 

 そういうと、大慌てでてきぱきと首領どんぐりを集める。品質を見分けるほどの目は無いのでとりあえず、素人目でもよさそうな首領ドングリを集めてバックに詰め込んでいく。二人はアルカトラズの街の門が閉じるぎりぎりの時間まで収穫して帰ることとなった。

 

 ちなみに盗賊達はシノノメの水遁で氷漬けにした後にロープで縛り引きずっていくこととなった。賞金首だったらボーナスなので期待したいところである。

 

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドでギルドマスターのマスク・ザ・ロックはユサ達の報告を聞いて溜息を吐く。アルカトラズの近郊での盗賊の増加はギルドマスターである彼にとっても頭の痛い問題だ。

 

 モンスター退治だけでも手一杯なのにそれ以上に仕事が増えるのである。モンスターと違って、喰えるわけではない。マスク・ザ・ロックはユサ達に首領ドングリの採取の依頼料と盗賊の賞金を手渡す。

 

「賞金首の盗賊じゃな。まぁ大した額ではないがの」

 

「無いよりはマシだよ。」

 

「ほんとよねー」

 

 ギルドマスターの言葉に相槌を打つ二人、盗賊退治がタダ働きになるのは避けたい。特にシノノメは金が無いのだ。タダ働きをし続ければ干上がってしまう。

 

「ユサくん、盗賊達は積込みデッキで融合召喚をしたのじゃな?」

 

「十中八九間違いないよ。特にマスター・オブ・OZは召喚条件が少し面倒だからね。」

 

 その言葉を聞いて、ギルドマスターは嘆息する。力写札を使う冒険者はいないわけではないが、融合召喚をやるものは少ないのだ。召喚には特定のカードが必要なため、それを手札に引くのが大変だからだ。

 

 この前のダイーザもだが、千恵を与えている人間がいる可能性がある。そうなると大規模な討伐が必要になる可能性もある。

 

「領主様へも報告を上げる予定じゃが、他の街のギルドにも連絡はいるの。―――二人とも今日は食事をして帰るとよいじゃろう。直ぐすぐどうにかなるという話でもないからの」

 

 そういうとギルドマスターは席を外し、奥の部屋へと戻っていった。

 

 シノノメは本日の報酬を見て、嘆息する。良い仕事だったが、これだけで魔具などを買いそろえるのは難しそうだったからだ。冒険者としての再出発も時間がかかるだろう。

 

「もっと稼がないと―――もう少ししたら冬だし、魔具はともかく冬を越せるぐらいのお金は欲しいわ。」

 

「じゃぁしばらく仕事を頑張るしかないね」

 

 全くその通りとシノノメは力なく頷く。金欠の日々は長期間続きそうであった。

 

 

 




甲賀デスシャドー流忍術指南書

魔導文明時代に様々な分野の頭の良い馬鹿達が論文を書くストレスを発散するために作った合同企画のジョーク本
それぞれの分野の知識を生かしてニンジュツやカラテの再現方法をまとめることをやらかした。
ネタ本として結構刷られ、ばらまかれたが邪神によって大半が失われてしまった。

しかしながら、一度生まれたものはそう簡単には死なないという警句がある通り、しぶとく生き延び今の尚各地に生存している
この本によって生まれたニンジャはどのぐらいいるのだろうか。
知らない方が幸せだろう。

著者の中には未だに生存している者もおり、これを知れば黒歴史リアリティショックで自害する危険性がある

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。