ちょっと面倒な設定をしてしまったのですが、目をつむってもらえると助かります。
年末にちょっと世知辛い話を書いてしまいました。
アルトカラズ冒険者ギルド『旅人の試練』
首領ドングリを採取するために来た冒険者たちは既に出払っており、ギルドの中からは大分人が減っていた。そんな中、迷宮探索を主な仕事とする迷宮組と呼ばれる冒険者たちが必死になって書類と格闘をしていた。
迷宮組とは既に調査が完了していた決闘塔で数年前に新たに見つかった新しい区画を調査する冒険者達の総称である。その区画は当初想定されていたよりもはるかに広大だったため、未だ探査が完了していない。
小さな港町でしかなかったアルカトラズに突如押し寄せた迷宮組という冒険者のせいで混沌とした街へと変貌を遂げた。需要と供給が偏っているアンバランスな状態になっている。
センセイも迷宮組の一人であり、必死になってスポンサーへの報告書と格闘をしていた。ユサとなぜかシノノメも巻き込まれ3人で報告書を纏めていた。前世の記憶があるユサは過去のつらい記憶を思い出す内容に胃を痛めながら手伝っていた。
ユサはセンセイの過去のレポートを確認しながらデータを吸い上げて纏めていた。春先までは好調だが夏以降不調というかなり胃の痛いデータへと変貌していた。そのデータをグラフで見せられた先生は呻き声をあげる。レポートではわかっていたが具体的な数字をグラフで見せられると地獄である。
シノノメはその原因となりそうなレポートをピックアップ、センセイはそれを見て文書を作成。トータルとしては現時点で少しノルマに足りないという結果に落ち着いた。
ユサはそのグラフを見ながら、確認をするように先生に問いかける。
「迷宮の地図と剥ぎ取った素材、モンスターの分布に迷宮にあった研究書―――少し足りない?」
少しであろうがノルマ未達ということは重い十字架である。ユサの言葉を聞いたセンセイが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。不安と願望と諦めがブレンドされた非常に駄目そうな面をしていた。その表情を見たユサははアカンと確信する。
「あ、ああ……さ、最低限はどうにかなっているはずだ。」
口ごもるようにノルマ未達なのは少しだし、何とかなるはずだとセンセイは自分自身に言い聞かせるように言う。
ユサはノルマができなかったセールスマンを見ている錯覚に陥った。胃が痛い。多分本人が不安と願望と諦めという駄目な三点セットをもって作った報告書だと駄目だろう。
シノノメはレポートと睨めっこをしながら、眠気覚まし用のひどく苦いコーヒーを啜り、センセイに問いかける。
「センセイ=サン、スポンサーに対する報告書って、年末に提出するケースが多いって聞いたんだけど……」
シノノメの言葉にセンセイは嘆息する。深い深いため息だった。
「成績がいいならそれでいいんだよ。ただ、今年はな……」
ノルマの達成が難しいと説明とか、来期のプランとか、状況報告とか、相手を納得させるために色々とやらないといけないようである。世知辛い世の中だ。あまりの世知辛さにユサは胃を抑え、シノノメは絶望的な言葉を紡ぐ。
「世知辛いね……」
「これが大人の世界ってやつだ。―――来年はレッドアイズグレイが減るか」
レッドアイズグレイの心配をするセンセイに対しユサが突っ込みを入れる。それよりも心配することがあるだろう。余裕があるということだろうか。
「そこでレッドアイズグレイの心配をするのがセンセイだよね」
「そりゃぁ、俺の魂だからな」
当たり前だろうというセンセイの言葉にユサは苦笑。レッドアイズグレイの価格を知らないシノノメは首をかしげる。知らない方がよいということも世の中にはあるのだ。
一通り報告書をまとめあげたセンセイはエネルギー補給のために兵糧丸を齧り、濃く不味い珈琲を啜る。報告書を再確認しながら、センセイは二人に感謝を述べた。
「いや、助かったわ。―――これで通るといいんだが」
無理だろうなぁと哀愁を漂わせた表情を浮かべていた。悪い報告の場合は色々と根掘り葉掘り聞かれるものである。しばらくはスポンサーとの対応に追われるだろう。少なくとも2,3回は押し返される。ただ、スポンサー契約が切られるという事態にはならないだろう。実際は説明しないとわからないが……
センセイの周囲の空気が非常に重くなった。ユサは空気を換えるために空気を換えるために質問を投げる。アルカトラズに来たばかりのシノノメもいるのだ。迷宮のことを教えてもらうのは良いだろう。
「しかし、決闘塔で発見された迷宮の区画って、まだ半分しか攻略されていないんだっけ?」
ユサの言葉にセンセイは府腰考えて首を振る。
「いや、正確には分からねぇんだよな。魔導時代の貴重な論文も発掘されるから焼き払うわけにもいかねぇし、冒険者がえっちらおっちら探索をしているんだよ。」
つまり働き蟻たる冒険者が調査をしているのである。酷い被害が出れば対応も変わるだろうが、そうでなければこの形が続くだろう。街の冒険者としては飯の種がなくならない非常に良い話である。センセイが迷宮についての説明を続ける
「力写札やそれに関する魔道具が比較的多めだな。他は色々と出るが魔術関連の設備も多いし、ドームの出てくる。―――だが……」
センセイが説明を進めながら、困ったかのように頭を書いて―――少し考えてこう続けた。
「研究施設ではなかったようだな。軍事施設ぽいんだがなんか半端でな。―――シェルターとかそういうのが近いのかと印象を受けるな」
とはいえ、シェルターなら人がいるはずでそれが発見されていないということは製造途中に放棄でもされたのだろうか?迷宮時代の産物でもないらしい。わけのわからない迷宮である。
「なんで国が出て一気に調査しないのかな?」
シノノメが珈琲を啜りながら、疑問を呈す。時間がかかっているんのであれば国が一気に進めても良い話ではないのだろうか?その言葉にセンセイは頭を掻きながらこう続ける
「どっちの国が出てくるんだ?」
「え?そりゃ、聖練国のどこかじゃないの?」
シノノメはアルカトラズに来たばかりである。この街の歴史とかが分からないため、センセイの言葉に対しちんぷんかんぷんな返事をする。その返事を聞いたセンセイはどう説明する考え、続けた。
「アルカトラズ島は覇濤の領地だ。それが数十年前に起きた火山の噴火で陸地と地続きになったんだ。んでめんどくさいことに地続きになった側は聖練の領地なんだよ。」
故に何が起きた場合は聖練だって被害を受けるのだ。対処をしないわけにはいかない。だが、アルカトラズ島の部分は覇濤の領地である。当時は揉めた。非常に揉めた。故に―――
「ここの領主は覇濤と聖練から爵位を貰っている。アルカトラズはめんどくさい立場なんだよ」
そのセンセイの解説を聞いてシノノメはすごくめんどくさそうな表情を浮かべる。改めて聞くユサもである。何も悪いことが起きませんようにと祈るがたいていこの手の祈りは届くことがないが、今回だけは届いてほしかった。
報告書を作り上げたので談笑をしているとやっぱりうまくいかなかったチームもあるらしく、怒号を上げているチームがあった、テーブルをチームリーダーらしきメンバーが叩き仲間に怒鳴る。それらは複数のテーブルで行われており、
「どうにかしねぇとスポンサーとの契約が終わるんだぞ!!」や「今すぐ迷宮に潜るぞ!!」
など、ノルマを達成するために駆け込み探索を行おうと冒険者も多数発生、ここで無茶をして再起不能になるケースも多く、スポンサーを維持するのも大変なのである。
そして、同類たちの雄たけびを聞いたセンセイは過去のスポンサーとのやり取りを思い出す。彼女は理性的だし理解もしてくれる方だ。だが、甘いわけではない。過去のフラッシュバックで胃が痛くなってきた。彼女はキチンと説明すれば納得してくれる人間だが、そこに至るまでに内臓が溶けるのではないかと思うほどの質問攻めにあう。
それから逃げるためにはどうしたらよいか―――最後の追い込みに賭けるしかない。
ノルマを達成していないのに尻で椅子を掃除していたなんてバレれば激怒されかねない。だが、センセイ単体では先が見えていた。ちらりとユサを見る。
デュエリストは手数が多いという強みがある。これはセンセイ一人で行動するよりも強力なアドバンテージになる。とはいえ、ユサ自身は冒険者としては未熟。ただ、デュエリストとしてみた場合はソリティアが出来るのだ。センセイ一人では不足する手数を補える。
センセイは少し悩み。決めた。ユサにも経験をさせる予定はあった。そのスケジュールを早めるだけのことである。決して、スポンサーが怖いわけではない。
そう自分を言い聞かせたセンセイはユサに明日からの予定を告げる
「ユサ、明日から迷宮に潜るから付き合え。お前にとってもちょうどよい機会だろう」
「りょーかい。」
ユサも機会があれば潜りたかった。故に素直に了承する。そのやり取りを見たシノノメが口をとがらせて百面相をするが、項垂れる。何やら葛藤があったらしい。
「拙は首領ドングリ採取をやっとくよ。ついて行きたいけど、基本的な魔具すらない状況ではちょっとね。」
シノノメは無念そうにいう。まだ、初心者装備から脱出できておらず、魔具もそろっていない。そんな状態で迷宮探索などしたら足手まといになってしまう。自分だけが死ぬならいいが他人を巻き込むのは止めておきたい。
センセイはシノノメの判断に好印象を持つ。自制できる冒険者は貴重である。装備がそろったら連れて行ってやっても良い。そう考える程度には好印象を覚えた。
一か八かのギャンブルをするような冒険者は仲間に加えたいとは思わない。
ちなみにセンセイは一か八かのギャンブルをするつもりはなく。あくまでも+αを探しに行くのだ。ノルマ未達の言い訳にもなるゆえにならないわけにはいかない―――と自分の心にたくさんの棚を作りながら考えていた。
◇
強い酒気が漂う薄暗い部屋。
ピエロのようなマスクをつけた一人の男が親指の爪を強く嚙んでいた。手にはスポンサー向けの報告書。そのデータは思わしくなく、具体的に言うとノルマに全く到達していない状態だ。良くてスポンサーがいなくなる。下手をすればケジメ案件だ。
スポンサーからの嫌がらせか、他の仕事をしている連中の報告書も送られてきていた。
濡れ仕事組/年初めは順調に商人達を襲撃できていたが、直近で冒険者の襲撃に会い壊滅させられた。
封鎖組/食料の買占めが順調に進んでおり、アルカトラズの保存食の備蓄の推定数量は減り続けている。更にはアルカトラズ外部の冒険者たちにも依頼を出して首領ドングリをかき集めるという徹底ぶりだ。
買収組/アルカトラズ以外の領地について支配力を高めており、街によっては領主を抱き込んでいるところもある。
周辺の領地のメンバーも順調ではないが、前向きに進んでいる。成績が下がり続けているのはピエロが率いる探索組だけだった。
酒瓶が砕ける。不快で暴力的な破砕音が鳴り響く。
ピエロマスクは砕けた酒瓶を握りながら、うまくいかない現在を呪う。現実から遠ざかるために強い酒を呷る。だが、その程度では不安の影からは逃げることができない。
「あ~~どーすんだよ。ボスに怒られるじゃねぇか」
来た当初は良かった。少し調査をすれば新しい発見があり数多の財貨を入手できた。ただ、時がたてば調査も進み新たな発見も少なくなる。調査をしてもすでに調査が完了しているケースが多く。財貨を得るのであれば更に奥へ奥へと進んでいかねばならない。
とはいえ、それは簡単ではない。そう、他の連中ほど簡単ではないのだ。
奥に進めば進むほど、強力なモンスターを倒し続けなければならないのだ。今の男とその仲間達では力が足りないのだ。無理に進めば全滅をするだろう。
再び酒を呷る。アルコールが思考を濁らせる。愚痴を漏らす。
「あいつら使えねーし、強ぇぇ魔具があればよ……強ぇぇ力写札があればよ……」
『強い魔具』があれば全てが上手くいく、誰もが言うことだ。現実はそんな『強い魔具』など手に入らないのだが……更に強い酒を呷る。酩酊する脳裏。脳裏より仲間のことも消え去り、『強い魔具』、ノルマ、その二つの単語がぐるぐると巡る。
デメリット付きの魔具
その単語が男の脳裏をよぎった。デメリット付きの魔具は強力なものが多い。それであれば安く――上手くすれば無料で――購入することも可能である。自分ではなく部下――仲間に使わせればデメリットがない。あとはそれを手に入れるコネクションだが……無いわけではなかった。
ピエロマスクの男の組織はそのような魔具も作り、成績の悪いチームで実験をすることもある。そう、魔具の実験台になるということは組織貢献にもなるのだ。
考えを纏めるために、クスリ混じりのシャグを取り出すと巻紙の上にのせて巻く。火を付けて煙を肺に貯め吐き出す。実際には思考力は落ちるのだが、ピエロマスクはこれが考えを纏める方法だと信じていた。
複数の可能性を検討をするが―――部下の命にリスクがあっても自分の命にリスクがあるわけではない。故にメリットしかないと判断。コネクションへの連絡を取ることを決意する。
「うん、ドクターに相談だなぁ。―――うまくいきゃぁ、今期のノルマを達成できるかもなぁ」
実験台としてよいと言えば、強くてバランスのおかしい魔具を提供してもらえるだろう。複数は難しいだろうが、一つでもあれば釣りがくる。来期からは増やせばいい。手巻き煙草を吸い終えると、残った酒を飲干し、急ぎ移動を始める。
時間がない。急ぎドクターから魔具を受け取らなければならない。ピエロマスクは一縷の望みに託すために走り始めた。
中世ヨーロッパでは爵位は土地につくため、複数の爵位を持つケースもあるそうです。
それを元にしました。
ポンコツ生活の世界観でそれが許されるのだろうか。
駄目な場合は本編とは違う設定ということで……