ポンコツ力写札使いの報告書   作:猫の手

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少し変則的ですが、ようやくデュエルが書けそうです。

悪役のキャラが立ってないと満足が不足することを理解しました。
もーちょっと濃い悪役を作らねば……


4話:封印されし②

 

「たっ、助け!!」

 

【封■■■■■■■腕】

 

 増殖する。巨大化する。膨れ上がる。―――刻一刻と巨大化していく右腕がまるでまるで蠅や蚊のように人体が叩き潰してゆく。冒険者たちが自慢していた魔具は分厚くなった皮膚を、筋肉を、叩き潰せず、ただ鬱陶しそうに腕が振り払われる。

 

 刻一刻と冒険者たちは潰されていく。

 

 刻一刻と抵抗する意思を失っていく。

 

 ―――ならば起きるのは潰走である。

 

 四分五裂引き裂かれ逃げていく。右腕がそれらを追いかけ蠅や蚊のように叩き潰していく。少し離れたところにいたピエロマスクは詰まらなさそうにその光景を見ていた。

 

「まぁぁぁぁじぃぃぃぃかよ。こんな状態じゃ、安全にソリティアできないじゃん。つっかえねー」

 

 潰走していく仲間―――否、都合の良い手駒、いや、使えない手駒というべきだろう。早々に逃げなければピエロマスクのところに右腕は辿り着く。冗談のような話である。右腕だけが空中に現れて冒険者たちを叩き潰しているのだ。

 

【封■■■■■■■腕】

 

 増殖する。巨大化する。膨れ上がる。―――それを繰り返す右腕はすでに彼らの手には負えない。これからソリティアをする余裕なんてない。カードの確認をしながらしなければならないのだ。時間がかかる。

 

 潰されていく冒険者たちはピエロマスクに怨嗟の声を投げる。

 

「何が強い魔具だ!!!全然効かねぇじゃねぇか!!!」

 

「詐欺じゃねぇか!!どうするんだよ!!ハンタ」

 

 最後まで声を上げることすらできず、右腕に冒険者たちは潰されていく。そろそろ逃げなければヤバいそう察したハンタは役立たずの手駒に最後の言葉を投げかけてやる。これを聞けば満足して死ぬだろう。

 

「かーもーなー。ドクターに文句言うからさ。安心して死んでろよ~」

 

 ケラケラと笑い答えると走り出した。手駒たちの怨嗟など聞こえぬとばかりに逃げる逃げる。巻き込まれて死ぬのは間抜けすぎる。ドクターのことである使える魔具ではあったのだろう。ただ使い手がダメなだけで……

 

 剣を振るって斬るのではなく叩き潰す。槍を使って突き刺すのではなく殴りつける。この程度の使い方しかできないのであればどんな良い魔具を与えても意味などない。ドクターが期待した/懸念した暴走、暴発に至る前に死んでしまっている。これでは何の意味もない。これをドクターが見たら青筋を立てたか嘆息しただろうか。

 

 最低限の習熟すら行わず、ただひたすらに強い魔具をおもちゃのように振り回す。それで死ぬのもいるだろう。だが、少しでも歯ごたえの敵だとこのようになる。実験にすらならない草刈り場。とはいえこの光景はピエロマスク―――ハンタにとっては慣れたモノ。

 

【逃走術:悪辣】

 

 役立たずを餌に逃げる手段など数多にある/慣れたものだ。使えない手駒の糧に生存率を0.1%でも上げる。故にハンタは生き延びた。同じように役立たずを盾にして逃げることすらできないのであれば使えないのだ。

 

 巨大な腕が追いかける。盾にすらならないゴミをひき潰しながら追いかける。

 

【封■■■■■■■腕】

 

 増殖する。巨大化する。膨れ上がる。―――ハンタは自分を棚に上げて仲間の不甲斐なさを罵る。時を追うごとに強大になっていく右腕を見ながらハンタは悪態をつく。

 

「あ~~~あ~~~~あ!!!!!くっそ、アイツ召喚できれば一発なのにほんと役に立たね~~<力写札>を使う時間も稼げねぇなんてよ!!」

 

 ハンタは自分のデッキにあるエースカードを思い返し、悪態をつく。アレが召喚できればだいたいのモンスターは片が付くのだ。一流のデュエリストであれば相手の攻撃をいなしながら召喚ができただろう。ハンタはそうではない。故にデッキを回すことができない。

 

 基礎技術を怠る。強いデュエリストたる自分には不要と、実際には逆なのだが。

 

 必死に走る!走る!!走る!!!

 

 逃げなければ走らなければ、叩き潰されてしまう。こんなところで右腕に叩き潰されて死ぬのは願い下げである。

 

【封■■■■■■■腕】

 

 増殖する。巨大化する。膨れ上がる。―――荒れ狂う右腕より男達は必死に逃げる。ふがいない仲間や魔具への不満などもはや考えることすらできない。逃げ切れるだけの幸運。生き残れる可能性のある悪運を願ってひたすら走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷宮の中をレーシングカーが駆け抜けてゆく。

 

 魔導時代に作られた<力写札>フォーミュラアスリート『F.A.ソニックマイスター』

 

 ユサが最近完成させたデッキ、ランクの低い<力写札>ばかりなので事故率もあるが十二分に実用的だ。

 

 センセイが消音の魔道具を使用し、音を消すことによりエンジン音を垂れ流すことなく走り続けていた。音もなく駆け抜けるレーシングカーにモンスターは反応することすら出来ず引き裂かれていった。

 

 <力写札>を使用した長期間の移動。魔力の消耗からあまりやらないのだが、必要であれば遠慮なく使用する。<力写札>はデュエルをするために存在するがフォーミュラアスリートはレーシングマシーン。戦うことよりも駆けることを好むモンスターだ。故にわざとそう言う使い方をすることがあった。

 

「ユサ、魔力は持つか?」

 

「通常召喚で呼んだから問題ないよ。それにまぁ、F.A.は走るのが好きだからね。好きなことをさせているときは制御も負担も軽くなるよ。」

 

 平然としたユサの様子にしばらくは大丈夫かと判断。無理をさせる気はないが、今回はスポンサーへの言い訳づくりが優先である。高速でダンジョンの奥地へ進めるのは非常にありがたかった。

 

 自分の息子より幼いユサに頼る形になるのは忸怩たる思いではあるが、スポンサーが怖い。故に有難く力を借りておくべきだろう。大人にはたくさんの心の棚がある。大人の矜持などはそこに置いておけばよい。

 

 先の道に巨大なザリガニのような姿をしたモンスター―――ザリガンの姿が見える。背中側が硬い外骨格に覆われており、強力が魔具がなければ切り裂くのに苦労するモンスターだ。ちなみに外骨格が高く取引をされており鎧や剣に使用されているモンスターだ。

 

 センセイとしてはなるべく狩りたい相手。ユサに停止するように指示を出す。

 

「ユサ、停止しろアイツを狩るぞ」

 

「いや、ここは任せて、せっかく『F.A.ソニックマイスター』を呼んでいるんだからオレにやらせてよ」

 

 モンスターを召喚しているデュエリストの戦闘能力は高い。<ザリガン>相手でも勝てる可能性は高いと判断―――何より成功経験は積ませるべきである。そのユサの言葉にセンセイは少し考え頷く。

 

「良いぞ。ただし無理はす―――ツッゥ」

 

「了解。んじゃ、加速するよ。ソニックマイスター!!」

 

 危うく舌を噛みかけたセンセイの恨めし気な視線に気が付かず、マスターの命を受けソニックマイスターは加速する。更なる速度を、そして勝利を戦意を漲らせ加速をする。風を切り裂き走るレーシングカー、消音の魔道具で音は消されていてもその戦意に<ザリガン>は反応する。

 

 相対距離を測る―――ユサは手札から速攻魔法を選択。

 

 相対距離を測る―――<ザリガン>は鋭い爪を開く。周辺から水が集まり収束していく。

 

 相対距離を測る―――センセイは敵に気が付かれないように立ち回れと減点を付ける。

 

 相対距離を測る―――グラウンドゼロへ。

 

 <ザリガン>の爪の間に集まっていた水がウォーターレーザーとなって、ソニックマイスターを引き裂こうとする。それを見て顔を引き攣らせるセンセイ。ユサは手札の速攻魔法を使用。

 

「速攻魔法『F.A.ダウンフォース』を発動。『F.A.ソニックマイスター』のレベルを2上昇させる」

 

 魔法の効果で『F.A.ソニックマイスター』のレベルが2上昇し、更に自身のモンスター効果で『F.A.ソニックマイスター』のレベルが1上昇する。

 

 ソニックマイスターは自分よりレベルの低いモンスターとの戦闘では破壊されない。ウォーターカッターを引き裂き、低く駆け抜けるソニックマイスターはザニガニのようなモンスターをそのまま迷宮の天井まで高く跳ね飛ばし、柔らかな腹部から引き裂き、丈夫な外骨格以外はちぎれ飛ぶ。

 

 とはいえ、迷宮のモンスターは一対一で挑んでくるわけではない。ザリガンに勝利する一瞬の隙、隠れてそれを狙っていた蜘蛛のモンスター<蜘蛛男>がソニックマイスターをクラッシュさせようと糸を吐きかける。

 

「ユサ!!」

 

 センセイからの警告にユサとソニックマイスターは慌てない。ソニックマイスターは同一ターンに2回攻撃――更なる高速戦闘をすることができるのだ。

 

 アンブッシュ―――ソニックマイスターの背面に吐き出される蜘蛛男の糸。

 

 アンブッシュ―――前方に加速し糸に影を踏ませることなく回避。

 

 ソニックマイスターにとって走ることは己の存在意義である。それを邪魔する、阻止する相手に容赦する筈もない。ダンジョンの壁を利用し方向転換し、加速。相手の反応を許すことなくひき潰し、<蜘蛛男>はダンジョンの道として舗装した。

 

 二体のモンスターを退治した後、ユサは他にモンスターがいないか周囲を窺うがまだ荒い。センセイは嘆息。この手のことはもう少し場を踏まなければ身に付かないだろう。

 

【野生のカン】

 

 周囲にいるのはこの2体のみとセンセイは判断。普段であればもう少し数がいるはずだがそれがないことに違和感を感じた。理由が分からないが注意をした方がよいだろう。

 

 ユサは何度も周囲を窺いようやく納得したのか戦闘から探索まで緊張感を落とした。このままだと疲れ切ってしまうが、それも経験。場を踏まなければ意味がない。センセイは答えを与えない。安心をさせれてしまっては癖になるからだ。指摘をするのであればすべて終わってからだ。

 

 センセイはソニックマイスターから降りるとひき潰したモンスターの前に降りる。―――時間がかけられられない。とはいえモンスターの素材は貴重な報酬源となる全ては持っていくつもりはないが換金性が高い部位のみを選択して剥ぎ取る必要がある。

 

「ユサ、金になる部分だけ持っていくぞ。」

 

「ちょッッッッ……っぅ―――痛い」

 

 大慌てでソニックマイスターから降りたユサは着地に失敗したのかバタンと倒れ込むと、大急ぎで起き上がりナイフを取り出す。

 

 その様子を見たセンセイは嘆息する。ユサは体術はまだまだドンくさいのだ。幼いから良いが鍛えなければデッキしか回せない駄目なデュエリストが完成するだろう。

 

「ユサ―――体幹の筋力も不足しているなようだな。トレーニングを増やすぞ」

 

「ぐぅ―――はい」

 

 デュエル以外は駄目な少年ががっくりと項垂れる。体術は魔法使いであっても■■では必須の技術である。

 

 センセイは剥ぎ取りようのナイフを取り出すと重要部分を残して荒く剥ぎ取っていく―――と言っても、<ザリガン>は固い甲殻、<蜘蛛男>は糸ぐらいしかないのだが、肉はかさばるので置いていくしかない。モンスターを解体しながら、センセイはユサに釘をさす。

 

「金になる部分だけ持っていくぞ。」

 

「了解」

 

【モンスター知識(換金)】

 

 換金性の高い部位を理解することは冒険者をするうえで必要な知識である。これを知る冒険者は周囲の冒険者より一目を置かれる。口では教えないが、分かりやすく解体をし必要な部位がどこかをセンセイは見せていく。それをユサは学びながら手を休めることなく解体をしていく。

 

 持ち帰る部位を一纏めにして袋に詰めると一息吐く―――これで、スポンサーに尻で椅子を磨いていたといわれない程度の成果は得た。とはいえノルマ達成はまだまだ遠い。

 

 アルカトラズにある迷宮は海底へと潜り込むように広がっていっている。

 

 一時期、卒論の材料として自主的に調査にやってきた牙の塔の研究者が色々と調査をしていった。その時にこれらのモンスターは投影と同時に海中のプランクトンの肉を利用し再構成されているということが分かった。受肉されたモンスターが自動生成されている迷宮であり、アルカトラズ内部において格好の素材と肉集めの場となっていた。

 

 ちなみに卒論の評価としては稀によくある事象であり、既にある程度研究されつくしていた分野であったため、目新しくもない研究成果として処理されている。

 

 とはいえ、現時点で判明している地点ではそこまで良い素材がないため、わざわざ奪いに来るような連中はでていない。これから良い素材が出てくれば話は別だろうが……

 

 剥ぎ取り完了後に地図を確認したユサがセンセイに問いかける。

 

「そろそろ、未踏破領域だね。」

 

「そうだな。ここからは徒歩だ。モンスターを使っての移動も悪くないが、どんな罠があるか未確認だからな。慎重に行く」

 

 未踏破領域―――公開されている地図の存在しないエリアである。それぞれの冒険者が別々に持っている可能性はあるが統合されておらず、どのような罠があるかの情報が著しきかけているエリアである。

 

 ユサが今回の探索の目的を確認するために問いかける

 

「今回の探索の目的は未踏破領域のマッピングだったよね。」

 

「そうだ。それを元に複数のクランに声をかけて合同探査だな。今回は未踏破領域を踏破するための下準備ってやつだ。」

 

 ユサの言葉にセンセイは頷く。アイテムとか手に入るのが一番うれしいんのだが、それを目的にするのはギャンブルである。だからと言って未踏破領域の踏破を目的にするのも無理難題である。

 

 故にマッピング。

 

 公式で地図を作るためのチームの結成の下準備。それの音頭を取るための情報集めだ。公表する地図を作成できればそれはスポンサーの評価ポイントとなる。現時点ではそれを始めたというだけでも十分だろう。

 

 センセイに限らず真面なところはノルマ達成がピンチになるとこれを繰り返し評価ポイントとしてきた。

 

 既に下準備を進めているクランもあるだろうがある程度マッピングして声をかけた奴の勝ちである。残りは交渉で利益を確保するかだ。どのクランもすでに停滞気味のため、誰かが声を上げれば乗るだろう。目端が利くものはその誰かになるための有利な情報の収集をしている頃合いである。

 

 ここからは時間との勝負、スポンサーへの最終報告書を書く前に完了させなければならない。センセイが命令、指揮系統の確認をする。間違うことはないと思うが未踏破領域の探索である慎重に対応するに越したことはない。

 

「ここからは俺が先導する。いつも以上に慎重な対応が必要になる。指示に従ってくれ。」

 

「了解。じゃあ、F.A.は閉じて、メガリスにデッキを変えるよ。」

 

 そう言って展開していたデッキを閉じようとしたユサにセンセイはストップの声をかける。F.A.は十分に強いデッキと考えられたからだ。故に確認のために問いかける。

 

「F.A.じゃダメなのか?」

 

 とのセンセイからの問いにユサは困ったように頬を掻いて答える。―――F.A.は未完成なのだ。なんでかというと

 

「このデッキはシンクロ召喚ができないから未完成なんだよ。無くてもそこそこ戦えているけど、現時点だとメガリスの方が強いよ。」

 

 エースモンスターにシンクロモンスターを配置する必要があるこのデッキはシンクロ召喚対応の決闘盤がないと完成しない。噂に聞く、エクシーズがあれば別なのだが、あれはそう簡単に手に入るものではない。未だに入手できない決闘盤。シンクロモンスターを召喚できるようになる道のりは遠そうである。

 

 ユサは嘆息とともに現状を嘆く。

 

「今みたいな移動用ならいいけど、本格的に戦闘をするのはまだちょっと辛いね」

 

「なるほどな―――了解した。早いとこシンクロ召喚対応の決闘盤が手に入るといいな」

 

 ユサがデッキを閉じようとすると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。デッキを閉じるのをいったん止めて声の方向に視線を向ける。地響きと悲鳴、恐らくモンスターに襲撃されて必死に逃げている冒険者がいるのだろう。遠くに薄らと見えている。まだ十分に距離があるが隠れるのは難しそうだ。

 

 ピエロマスクをした冒険者―――ハンタを巨大な右腕が追いかけていた。まるで蛇のようにのたうち回りながら高速で移動するその姿は異様だ。脳味噌はどこにあるのだろうか?地響きとダンジョンの壁や床が削れている様子からおそらく実体があるのだろう。

 

 追いかけられている冒険者は既に息も絶え絶えである―――流石に見過ごすわけにもいかないとユサはセンセイの許可を取ろうと声をかける。

 

「センセイ、見捨てるわけにもいかないし、救助するよ。」

 

 センセイはユサの言葉に苦笑する見捨てたところで問題はないのだが、とはいえ見捨てることを推奨する気もない。助けようと素直に思える心は貴重である。故にセンセイは許可を出す。

 

「ハンタじゃねぇか―――ヤキがまわったようだな?まぁ、見捨てるのも問題か。」

 

 その言葉を受けたユサは召喚を維持していたソニックマイスターに命令を下す。そろそろ捕まって死んでもおかしくない。迅速な救助が必要だ。

 

「ソニックマイスター、救助を!!」

 

 マスターの指示を受けソニックマイスターは加速する。モンスターに追いかけられている男―――ハンタを乱暴にかっさらうとそのままユサの元へと移動し地面へと落とした。

 

 地面に落ちたハンタに慌てて近寄るユサ。流石に救助が手荒すぎる。手足の無いモンスター故に仕方ないと言えば仕方ないが、助け起こすために近寄って相手の安否を確認する。

 

「手荒な救助をしてごめん。大丈夫ですか?」

 

 そのユサの言葉を聞いたハンタの心に過ったのは舐めやがってという言葉であった。どろりと濁り切った目を向けると拳を握りしめ、立ち上がるふりをしながらユサを殴りつけようと―――

 

【先達する経験値】【歴戦の人生】【戦場作法】

 

 ―――振りかぶった腕が捕まれ動作が止められる。イラついた視線をハンタがむけるとその先にはセンセイがいた。気が付いていないハンタは不機嫌を隠さず恫喝するようににらみつける。

 

 ユサはハンタの行った凶行が理解できず固まる―――これまでも助けて罵声を浴びせる奴はいたし、感謝してないからなというやつもいた。殴りかかってくるのは初である。

 

 ユサが状況が理解できず固まっている間にセンセイとハンタのにらみ合いは続く。

 

「ぁぁあああ?、低ランクの冒険者に礼儀ってやつを教えてやろうとしてんだよ。邪魔すんじゃねぇよ。」

 

 その言葉にセンセイは激昂する。助ける価値のない人間はいるがコイツは上位に位置するだろう。助けた人間を殴りかかるなぞ斬り殺されたところで文句を言わせない。

 

「誰が誰に礼儀を教える―――だ?」

 

 歴戦の猛者が殺意を押し殺した声で恫喝する。ハンタはようやく文句を言った相手がだれかわかったらしい。ぎょっとして飛び去り距離を取る。センセイとしてもあえてつかみ続ける気はなかったのかあっさりと離れることができた。

 

 ハンタは舌打ちをしながらユサとセンセイを濁り切った目でにらみつける。

 

「オイラがそのクソガキにだ。ランクの高い冒険者を助けるのは当たり前だろう?―――わかってねぇんだよ?そいつはヒエラルキーってやつが」

 

「ほぅ、ならヒエラルキーとやらを教えるために貴様をぶちのめしても文句はないわけだな?それが礼儀なんだろ?」

 

 ハンタの表情におびえの色が一瞬浮かぶが虚勢を張る。虚勢も晴れないようでは冒険者クランのトップを張ることはできない。反論しようと口を開―――けなかった。

 

【封■■■■■■■腕】

 

 増殖する。巨大化する。膨れ上がる。―――迷宮の壁を削りながら右腕が這いずり寄る。ここに辿り着くまでには多少時間がかかるだろうが、ハンタから余裕が消える。逃げねば殺される。

 

 ハンタはセンセイとユサの様子を窺う。二人はハンタを警戒しつつも目の前のモンスターの対策を話し始めていた。

 

「ユサ、アレに勝てるモンスターは用意できるか?」

 

「肉があるみたいだから、べトールの破壊効果は多分あまり効果がないと思う。ただ、肉がある分物理攻撃が有用かな?ファレグで刻ぐらいしか今は思い浮かばないよ―――」

 

「効かなかったら撤退をして準備を整える必要があるな。情報を可能な限り抜くぞ」

 

 自分を無視して勝手な話を進める二人にハンタは腹を立てた。チームではないから当たり前と言えば当たり前だ。だが自身を優秀と思い込んでいるハンタにしてみれば腹が立つ対応であった。

 

 二人にしてみれば既にハンタは仮想敵だ。協力など考える気はなかった。

 

 センセイに距離を取りながら、勝手な真似をする二人に文句を言う。自分がいなければ何もできない無能たちが何を勝手なことをしているのだろうかとハンタは本気で考えていた。

 

「はっ、てめぇら、盾になれよ。そーしたらよ。オイラのエースカードでどうにかしてやるよ」

 

 ハンタの考える最上の作戦。他人はそれを受け入れるのが当然である。この場でそういう作戦を出すこと自体が信じがたい暴挙。

 

 その発言を聞いたセンセイとユサは不快そうな表情を浮かべる。共同で戦った場合、裏切り行為をすることは予想に難くない。余計なことをされれば面倒だとセンセイが釘をさす。

 

「命を拾ったんだからさっさと逃げろ。てめぇが何かするなら、俺達はお前を見捨てて引き上げるだけだ。」

 

「あぁん?」

 

 優秀な自分の言うことを聞かない愚かなセンセイの発言にいら立ち睨みつける。

 

 だが、センセイとハンタでは潜った修羅場が違う。猛禽のような鋭い眼光で威圧され、抵抗の意思が奪われる。これ以上ハンタがグダグダいうようであればセンセイは叩き切る。そのぐらいの雰囲気を理解できた。

 

【生存術:臆病】

 

 下手に反論をしても不味い。今まで自分を生かし続けてきた臆病さがハンタに逃げろと囁きかける。屈辱に顔をゆがめながら、ハンタは逃げ去った。ああ、絶対このままでは済まさない。そう誓って―――

 

「あぁぁぁぁ!!!!クソが!!勝手にしやがれ!!!」

 

 そのまま走り去る。曲がり角を曲がって姿が見えなくなるとセンセイは意識を右腕だけのモンスターに割いた。他に意識を割いてどうにかできる相手ではなかったからだ。

 

 ユサはデッキを閉じるとメガリスを用意する。眼を閉じデッキの内容を再確認。手札を準備する―――悪くない。

 

【デュエリスト】【構築世界/ストラクトワールド】【豪運】

 

「センセイ、いつでも大丈夫だよ。」

 

 ユサの言葉にセンセイは頷く。右腕のモンスターは大型だ。ユサから離れた場所を前線とし、ヘイトを稼ぐ必要があるだろう。センセイは愛用の剣を取り出すと魔具を起動させる。

 

【我が身は■■なれど■■を持ち】

 

 右腕だけのモンスターは初経験ではあるが、巨大なモンスターであれば、戦闘経験は無数にある。それらの経験が勝つことはできずとも戦線を支えられると判断させる。故郷ではこれが日常茶飯事であった。

 

「俺が仕掛けたら召喚を開始しろ。『右腕』はパワーがあるタイプ。隠し玉がある可能性がある。あまり長時間は支えられない。可能な限り急げ」

 

 そういうと魔具"俊足爪先"の効果で距離を詰める。壁を利用した立体的な軌道で敵に己の影を踏ませない。物は試しとばかりに『右腕』の付け根に剣を叩き込む。

 

【立体機動】【魔力撃】【怪力】

 

 増殖する。巨大化する。膨れ上がる。―――膨れ上がった右腕の筋肉を浅くはない傷を入れるが、膨れ上がる筋肉が刀傷を塞ぐ。回復力の上限は不明であるが、回復がすぐにできない傷を与えるには少なくとも3章の魔法クラスの攻撃力が必要か?

 

 とはいえ、物理攻撃が通用するということとこの回復力は貴重な情報である。

 

 メガリス・ファレグは準備さえ整っていれば、単純な火力で上回るのは最上級モンスターですら数えるほどしかいない。コレで倒せないとなれば戦姫への協力を求める必要があるだろう。

 

 センセイが攻撃を始めたことをきっかけにユサが動き始める。

 

「ドロウ。手札のメガリス・オフィエルを見せて『魔神儀-キャンドール』を特殊召喚。『魔神儀-キャンドール』のモンスター効果で『魔神儀-タリスマンドラ』を召喚。デッキより儀式モンスターを一枚サーチする。」

 

 手順を理解しよどみなく展開を進めていく。今回の最終盤面はメガリス・ファレグを3体並べることである。時間制限もある展開のミスをするわけにはいかない。ユサは慎重にだが加速して、デッキを回していく。

 

「魔法カード『魔神儀の祝誕』使用!!『魔神儀-キャンドール』をリリースし、『メガリス・オフィエル』を儀式召喚。デッキからメガリスモンスターを一枚サーチ。『メガリス・ハギト』を追加。オフィエルのモンスター効果で『メガリス・ハギト』を儀式召喚する」

 

 メガリス・ハギトのモンスター効果でサーチしたのはメガリス魔法カード『メガリス・アンフォームド』。今回は単純にファレグを召喚すればよいというわけではない。墓地に儀式モンスターを貯めなければ意味がないのだ。

 

「速攻魔法『メガリス・アンフォームド』を使用。手札の『メガリス・べトール』をリリースして、デッキより『メガリス・ハギト』を召喚。」

 

 再び『メガリス・ハギト』のモンスター効果でメガリスの魔法、罠カードをサーチする。再度、『メガリス・アンフォームド』をサーチ。二体の黒い悪魔像と樹のお化けのようなモンスターが並ぶ。

 

 ソリティアが進んでいく。

 

「手札より『マンジュ・ゴット』を通常召喚。儀式モンスターをサーチ!!『メガリス・アンフォームド』の効果を発動。デッキより『メガリス・フール』を召喚。『メガリス・フール』のモンスター効果で墓地の『メガリス・べトール』を回収。モンスターレベルが8に!!―――更にチェーンして『メガリス・フール』のモンスター効果を発動!!自身をリリースしデッキより『メガリス・ファレグ』を召喚」

 

 1体目の『メガリス・ファレグ』が召喚される。墓地に落とした儀式モンスターの数が少ないため、不十分な状態ではあるがこれから落とすモンスターを増やしていけばよい。センセイ一人に戦わせるという無理を長々と続けるわけにはいかない。

 

 最終盤面への入口へと差し掛かった。あと少しで準備は―――ハイエナの手によって妨害される。

 

「『黒魔術の秘儀』を使用!!古の黒き魔術士と竜が混じり合いオイラ様に栄光を齎す!!『超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ』を融合召喚!!」

 

 どうやら途中の道でこちらの様子を窺っていたらしい。ハンタは手札より『ブラック・マジシャン』と『合体竜ティマイオス』をリリースされ、『超魔導竜騎士-ドラグーン・オブ・レッドアイズ』を融合召喚する。ハンタはごっそりと持っていかれる魔力に顔をしかめながら、自分のエースを召喚できたことに満足げな表情を浮かべる。

 

 ユサの背後に現れるのは竜の力と強大な魔力を宿した黒衣の騎士。単純な火力であれば、現時点でも『メガリス・ファレグ』が上である。何かをされる前に潰そうと指示を出そうとするも不意を突かれたユサよりもハンタの行動が速かった。

 

「低ランクがとれぇぇぇぇんだよ!!ドラグーン・オブ・レッドアイズ!!その糞鬱陶しい石像を砕け!!」

 

 ドラグーン・オブ・レッドアイズが『メガリス・ファレグ』に指を指さす。それはあたかも死を宣告するデュラハンのような動き。不吉を告げるかのように口を開き、死神のような声が放たれた。

 

「砕けよ」

 

 一言。ドラグーン・オブ・レッドアイズの言葉をキーに放たれた魔力により『メガリス・ファレグ』自身を構成する魔力を火種とし、魔力暴発を誘発させる。他のモンスターでもこの手のモンスターを破壊するという能力を持つ奴はいないわけではない。

 

 ただ、ドラグーン・オブ・レッドアイズの能力は一線を画していた。『メガリス・ファレグ』自壊させるわけではなく、爆弾のように周囲に被害を及ぼすよう爆発させたのだ。

 

 不意を突かれ、更に想定外の悪意にユサの反応は間に合わない。爆発に巻き込まれ迷宮の天井へと叩きつけられた。

 

 しかし、ハンタはそれで満足はしない。舐められたと思ったら殺す。それが彼のルールであった。故にドラグーン・オブ・レッドアイズに命令を下す。

 

「追撃しろ!!礼儀を知らねえぇ餓鬼をぶち殺せ!!」

 

 ドラグーン・オブ・レッドアイズはに向かって駆ける。右腕を相手しているセンセイは手が出せず、他の召喚したモンスターも爆発にに巻き込まれ身動きが取れない。

 

 ニンジャたちが言うソーマト・リコール現象―――ゆっくりとした時間自分に向かってくる刃を見ながら、ユサは必死に生存するために体を動かす。

 

 迫りくる刃―――雑でありながらも、十分に人を殺めることが可能な一撃。掠めるだけでも重症になりかねない。

 

 迫りくる刃―――盾を刃の軌道に沿うようにゆっくりと動かす。

 

 迫りくる刃―――盾をガードレールに見立て体をその内側に身体を移動させる。

 

 迫りくる刃―――盾の表面をかすめる。衝撃が走る。ただそれだけにもかかわらずユサは自動車に轢かれたかのように吹き飛ばされる。

 

 どこか他人事のような意識。迷宮の壁に叩きつけられる体。魔具によって強化された防御能力は即死こそ許さなかったが、明らかな重体であった。意識があるのか生きているのかセンセイからでは判断がつかなかった。

 

 それを見たハンタは狂ったように哄笑する。舐めた餓鬼を圧倒的な力で踏みつぶすのは心地が良い。笑いがこみあげてくる。我慢をすることもなくセンセイを嘲る。

 

「アッハッハッハッハッハッハ――――!!ありがとぅ、オイラのために時間稼いでくれてさ。いや、オイラの活躍を邪魔する駆け出しはぶちのめしちゃったけどいいよね?」

 

 殺しておくべきだったと後悔。センセイとしても叶うならば今すぐにでも殺しに行きたい―――が、目の前の巨大な右腕がそれを許さない。単純であってもその高い攻撃力は油断ができず、ハンタを縊り殺す余裕がない。

 

「テメェ……ッ」

 

 センセイは右腕の攻撃を捌きながら、離脱のタイミングをうかがう。厄介なモンスターを召喚しているが必ず殺す。殺すべきであったそれをしなかったが故にこのような顛末である。許す気など無い。

 

 そんな先生の姿を見ることはハンタにとっては心地よかった。全ては優秀な自分の命令を聞くべきなのだ。憎悪と激怒で歯軋りをするセンセイに対し、嘲るようにハンタは命令を下す。優秀な自分の命令が聞けるのだ喜んで対応するべきだろう。

 

「礼儀知らずのために必殺技使っちゃっからさ。チャージに時間かかるんだよね。時間稼いでよ。そしたら始末してやるからさ。アッハッハッハッハッハッハ――――!!」

 

 ターンが回れば使えるモンスター効果である。既に仕様は可能なのだが、ハンタは自分の身の安全のためセンセイが致命傷を負うまでは使うつもりがなかった。こうやって他のクランを潰して利益を得るのは合理的な戦術と考えているからだ。

 

 そこまで考えてハンタはふと気が付いた。右腕に殺させるよりセンセイを自分で殺した方が面白くないかとそれをやるためにはドラグーン・オブ・レッドアイズだけでは不足である。―――故に

 

「永続罠――永遠の魂を起動。墓地からブラックマジシャンを特殊召喚するぜぇ。ああ、やっぱし気が変わ―――」

 

 その言葉は最後まで言うことが叶わなかった。何故なら

 

「……ドラグーン・オブ・レッドアイズをリリースし、手札より『怪粉壊獣ガダーラ』を特殊召喚。」

 

 ドラグーン・オブ・レッドアイズがリリースされその場所に蛾のような巨大な昆虫が現れたからだ―――ハンタは何が起きたかわからず混乱をする。そう、敵の攻撃にも関わらず対策を取ることなく混乱をしていた。

 

「速攻魔法『サイクロン』を発動。永遠の魂を破壊する」

 

 ハンタのそばに建てられた黒い石碑は極小の竜巻によって粉々に砕かれた―――そして、永遠の魂が破壊された場合自分フィールドのモンスターをすべて破壊するという効果を持っている。

 

 巨大な蛾の化け物も黒い魔術士も永遠の魂のデメリットに巻き込まれ粉々に破壊されてしまった。そこに至って漸く何が起きたのかを理解したハンターは壁に叩きつけられたユサに視線を向ける。

 

 ハンターが使用しているブラック・マジシャンのデッキはかつて遊戯王と呼ばれた存在が使っていたデッキである。非常に有名なデッキであり、効果や対策などが広く知れ渡っていた。

 

 故にユサは最適解で敵の陣地を破壊し、盤面をリセットする。

 

【構築世界/ストラクトワールド】【豪運】【戦闘続行:サレンダー拒否】

 

 全身がズタズタになっており、今だ血は止まっていない。左手に着けていた盾は粉々に砕け、決闘盤もカードをセットするパーツが捥ぎ取られていた。かろうじて五体満足であるがいくつかの骨は折れているであろう。即死をしていないことが不思議な満身創痍の状態。

 

 メガリスデッキは既に閉じられており―――決闘盤の破損状態から分解をしなければカードを取り出すことも難しいだろう。そんな状態にもかかわらずユサはカードホルダーと両手を使いデュエルを再開した。

 

 全身から血を流し、ギラギラとした視線を向けるさまは悪鬼のようで、先程の優し気な少年の姿からはかけ離れていた。

 

 とはいえ、ハンタはそれを気にすることはない。それよりも自分の活躍を邪魔したユサが気に入らない。低ランクの分際で自分の邪魔をしたそれは許されることにない大罪である。

 

 死罰を与えなければならない。

 

「おま何んだぁ!!低ランクがオイラの邪魔をしやがって、死ねよ。なんで死んで無いんだよ。空気よめねぇよなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ハンタの下らない妄言をユサは聞く気はなかった。大量に血が流れている。いつまで意識を保てるかわからない。だが、敵はデュエリストである。そうであるのであれば、ユサの言うことは一つだけだ。

 

「―――おい、デュエルをしろよ」

 

 お互いのフィールドにはモンスター罠とも存在しておらず、リセットされた盤面。手札こそ消費しているが何も問題はない。センセイもしばらくならば巨大な右腕を抑えてくれるだろう。故にユサがやるべきは目の前のデュエルに勝利することである。

 

 ターンが回る。

 

 デッキよりカードが排出されるユサとハンタのデュエルが開幕した。





長引いてしまったため、デュエル自体は次の投稿で記載します。

F.A.は環境外のデッキですが面白いと思うんですよねー
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