ドラートだったんですが、泣いていいですか?   作:ドラートです。

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ドラートだった。

 

―――気が付いたら、ドラートだった。

 

今の僕の状況を明確にかつ簡易的に説明するなら、上記の言葉になる。

 

ドラート。その名は、アウラの配下であり、首切り役人の一人。

 

そして、フリーレンに呆気なく殺された魔族でもある。フリーレンに"実戦経験がない"と指摘された上、リュグナーにまで"能無し"呼ばわりされた、とことんやられ役みたいな扱いの魔族である。

 

「なんでだよ……」

 

それが僕だ。僕なんだ。

 

いわゆるこのパターンは異世界転生ないし"憑依"と言えるだろう。何せこの世界が"葬送のフリーレン"だと知っているし、僕自身好んで読んでいたから尚更。

 

たださぁ……ドラートはないだろ、流石に。

 

もうちょっと、こう……まともな魔族をですね……まともな魔族ってなんだよ。わけわからねぇ。

 

「……ハァ」

 

思わず、ため息を吐く。

 

ひとまずは落ち着こう。焦っていても何も良くならない。

 

身体が魔族になったからか、感情の揺れが人間だった頃と比べて希薄になっている。

 

それに、今の僕は子どもだ。原作で見たドラートとは違って背が小さい。

 

……きついわ、これ。

 

――身近な人が誰もいないという事が、案外きつかった。

 

魔族に"家族"という概念はない。人間と同じように妊娠・出産はすれど、育てるという考え方がない。明確な描写があったかは覚束ないが、多分その場に産み落とされて終わりだったはずだ。

 

それはドラートという魔族も例外ではなく、気が付いたら子どもの身体でどこかも知らない森の中だった。

 

……人並には"愛情"を知っているからこそ、余計にきついんだろうなぁこれ。

 

それと同時に、根本的な部分では"人間"のままなんだなぁ、としみじみもしていたり。

 

「……とにかく、だ」

 

あえて声に出すことで、精神の鎮静化を狙う。といっても魔族の身体だからか希薄なので鎮静化というより前世の癖とも言える。

 

それはともかく――――問題は、ドラートのゆく末だ。

 

……フリーレンに殺されるのだ、僕の結末は。

 

想像してみたら、背筋が凍る思いがする。何せ、腕を切り飛ばされた上に首まで消し飛ばされたのだから。

 

このままいくとそんな死に方をすると考えるとどうしようもなく寒く感じる。

 

だが、それはあくまでも向こうのドラートである場合だ。

 

こっちの僕というドラートであれば、その結末を変えることは出来ると信じたい。……運命力とか修正力とかは考えたくなかった。

 

そもそもフリーレンとやり合う気などないが、やはりこの世界といえばの彼女なんで一目見てみたい気持ちは強い。

 

……見事に板挟みだよなぁ。

 

とにかく、今の僕に出来ることをやって結末を変えて――ゆっくりとこの世界を楽しみたい。

 

ここまでネガティブな思考だったわけだが、この世界は"葬送のフリーレン"の世界。僕の好きな世界が、こうして目の前に広がっている。

 

そう考えるとワクワクしてくる。身にもって経験してみたい気持ちで溢れかえる。

 

――だからこそ、僕は死にたくない。生きてこの世界を満喫したい。

 

そんな思いでいっぱいだった。

 

「――よし」

 

自分の頬を叩いて、切り替える。

 

僕は魔族だが、前世が人間であるというアドバンテージによって"傲慢"という弱点が一つ消えていると言っていいぐらい。

 

だから喜ぶべきだ、喜ぶべきなんだよ――そう思わなきゃやってられん。

 

次に、人間に対してどうするかという事。

 

いくら今の自分が魔族と言えど、人間を食べるなんて真似はできない。それはきっと根本的な部分では僕が"人間"だからだろう。

 

何と言うか、本能的な嫌悪を感じるのだ、その行為に。それを考えると根本から魔族になったわけではないと、ひとまずは安堵する。

 

魔族は人間を食べていかないと生きていけない訳ではないし、それならなんとかできそうである。

 

次に、自分の強さがどの程度なのかを確認する必要がある。

 

原作でいう何年前なのかも分からないが、少なくとも子どもであるドラートを見るに、そんなに原作から遠い訳ではない……と思いたい。

 

それに、今の自分は子ども。そう考えるとやはり強さの確認は不可欠である。

 

……ドラートと言えば、魔力の糸を操るのが攻撃手段だったはずだ。

 

ただ――肝心の魔法を出すという感覚が掴み切れない。なんというか、言語化するのが難しい。イケそうなんだけどギリイケない……感覚か。

 

魔力という感覚は掴んでいる。多分、身体の奥に蠢く炎のような感覚がそれだ。

 

少なくともこの感覚がするという事は、僕に魔力ないし魔法はあると考えていいだろう。そうと来れば一刻も早く魔法の感覚を養うに限る。

 

原作のドラートがやっていたように、人差し指を立てて“糸を操る”イメージを固めるよう意識する。

 

「うう゛ぅ゛ん……」

 

――あと少しだ、あと少し……それで何かが掴める気がするんだ。

 

しっかり集中しろ、イメージしろ……っ!

 

イメージをより鮮明にしていく内に、ピーンと頭が冴えたように魔法名を唱える。

 

「<魔力の糸を操る魔法(クローステール)>」

 

ようやく発動出来た……と思ったら、けたたましい音がしたと同時に目の前の木が倒れた。スパッという効果音が似合うぐらいに綺麗な切り口を残して倒れたのだ。

 

「うわ、えっっぐ……」

 

確か、人間の首程度なら容易く切り落とせるんだったか、この魔法。頑丈であるはずの木を豆腐のように切れる威力と考えると納得できる。

 

……普通に強いな、この魔法。確かにフリーレンに指摘された通り"実戦経験"を積めば間違いなく強者の域に行けるぐらいに応用性の高い魔法でもある。

 

そう考えると結構強いんじゃないか、ドラート?

 

……“傲慢”のあまり才能を生かしきれなかったという事なのかね。

 

なんだか原作のドラートが不憫に感じてきたと同時に、同じ道を歩むまい、と改めて決心したのだった。




需要あるか、これ……?(震)
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