ドラートだったんですが、泣いていいですか? 作:ドラートです。
身に持って経験してみたが――魔族の身体というのは、人間と違って繊細な制御が必要になるんだなぁ、と感じている。
今の僕は子どもの身体だが、力そのものは人間であった頃と比べて明らかに強い。成熟した魔族に比べると弱いが、自分が人間の子どもだった頃を思い浮かぶと、過剰な力と言っても差し替えないぐらいに身体能力が違っていた。
――"力"、か。
この世界でゆっくりと堪能して暮らしたい僕にとっては、必要不可欠なそれ。もし現代と同じく平和だったならばあまり必要はないかもしれない。だが、この"葬送のフリーレン"という世界において"力"は生きていく為になくてはならないものだ。
フリーレンに注意する余り、他に疎かになっては元も子もない。そこで満足したら魔族のいう"傲慢"の何者でもない――"力"を付ける為にやる事柄は一生継続していくべきだろう。
改めてそう決め、身体の制御や魔力、魔法に関しての模索ないし鍛錬をすることにした。
さてそうなると――魔力をどう鍛えたらいいのか。
最早この問題を解決しない事には、お先真っ暗になる可能性が高いというもの。
この世界においては、“魔力”という要素が重要になってくる。
魔族相手ならば、魔力量の差があればそれだけ威圧ないし先制に繋がる。
魔族は“魔力”を絶対視するからこそというもの。だが、それで魔力量を高めればいいという話でもない。
高かったら高かったで、厄介なことになる場合もあると頭に入れて考えなければならない。“魔力探知”という技術がある以上決して楽観視はできない。
――となると、やはりフリーレンのように魔力制御の技術を身に付けながら魔力量を上げていくよう鍛錬する必要があるか。
……ともあれ、やってみないことには分からない為。そこで限界まで追い込むことで、筋肉の成長を促す“筋トレ”と同じように限界まで魔力を絞る鍛錬をすることにした。
「はぁぁぁ……!」
魔力の感覚は既に掴んでいるので、絞ってより魔力を強くする程度なら問題なく行えた。
身体の奥から感じる暖かな感覚が強くなっていくのを見るに、魔力を絞るという事は出来ているようだ。
「……おぇッ」
――それも限度を過ぎると、思わずえずいでしまう。全力で絞った後、妙に寒気がするし何故か吐き気すら催す結末。
これで魔力を鍛えられるのかは……分からないが、筋トレ後の倦怠感と似たような感覚といえば感覚。なまじ生前、健康維持のために定期的に筋トレをやっていたから比較的マシではあった。
ひとまずは、これで何日かやって成果を見るしかない。
そう思いつつ――僕はこの鍛錬を何日も続けた。
「……なるほど」
数日間、出来る限りの時間をかけて魔力を絞る鍛錬をした結果“魔力量の上昇”を身にもって感じることが出来ていた。
通常時だとあまり実感はないが……例の言う暖かな感覚が数日前より強くなっていた。それを考えるとこの鍛錬は無駄ではなかったようだ。
効果があるようで幸いだ――今後もこの鍛錬を続けていくことにする。
◇
初めて自分がドラートであると自覚してから、五年。
最初の頃と比べて明確に違うほどに魔力量は上がった。それに伴い、身体も成長しつつありあと数年もすれば原作でいうドラートと同じ容姿になるだろう。
――やられ役のドラートにしては、才能はあるんだな。
最早、原作において呆気なく殺されたのが嘘みたいに。
……他の要因が関係してくるのかは分からないが、ともあれ才能はあるに越したことはない。
ちなみに生命維持の為の“食事”はどうしてるかというと、この森に多く実っている果実を取って食べている。
幸い、この森には果実が多く実っているそうで“食事”による体力回復などといったものは上手くいっている。もちろん欲張りすぎず適度の範囲内で、済ませるようにしている。
前世における果実とは微妙に違いがあるが、味わいを楽しめるぐらいには美味しかったとだけ言っておく。
ちなみに、動物も生息している。そちらは、たまに……という感じか。
……前世の癖がこのまま持ち込んでいるのか、無意識にいただきますと口に出していたのはここだけの話だ。
この五年、自分は魔力に関する鍛錬を繰り返していた。魔力量上げはもちろんだが、その以外に力を注いだのは“魔力制限”と“魔力探知”、“魔法取得”だ。
最初の頃は、まだ魔力制限が疎かだったというのもあり動物に逃げられてしまったり逆に襲いかかられてしまったりもしていた。
魔力制限の技術を身につけていく内に“完全に魔力をゼロにまで抑える”ことができ、動物を狩る作業がスムーズに行きやすくなり一種のモチベーションになっていたのは言うまでもなかった。
次に、魔力探知――は言うまでもなく危険を事前に察知するための術として役立っている。
それだけではなく、自分以外の魔族や人間などに対しても有効だと考えている。
もっともこちらから攻撃を仕掛けるつもりはないが、向こう側の対応を考えると迎撃に出ざるを得ない事はあるだろうと想定しているからこそ。
特に魔族相手に“魔力制限”は有効だ。それはフリーレン自身が証明している。
最後に“魔法取得”。これは、少々悩んだ。魔族は、一生をかけて己の魔法のみを磨いていくという。いわば“究極の一”というのだろう。
“究極の一”ならば、<
だが、時に“逃げる”選択も視野に入れる必要がある。何も僕の目標は戦うことではなく、寿命が尽きるその時までこの世界で生きていきたいというものだからだ。
ならば己以上の強者に出くわした際、時に“逃げる”選択を取れるよう、退却に役立つ魔法も並行して取得また鍛錬している。
変な意地を張って死ぬようでは、話にならない。こればっかりは本当に根本が人間のままでよかったと感じている。
「……」
――こうして鍛錬を続けていたとある日。己の"魔力探知"で、かなり大きい魔力量を持つ"なにか"がひっかかった。
"魔力探知"は、距離が長ければ長いほど逆探知されやすい性質を持つ。
だから探知したと同時に切っておく。五年鍛錬していたとは言え、上には上がいる。
想定はしていた為、そこまでの動揺はなかった。だがそれでも尚、己以上の魔力量を持つであろう“何か”がいる。その事実に改めて目標を再確認させられる。
普段から魔力制限をしてゼロにしているからこちらを探知されることはない……と思いたい。いや、こういった場合は楽観視してはいけないな。最悪探知された前提で退却するしかない。
「――やはり、鍛錬あるのみ……だな」
こうして身に以て感じたからこそ、改めて鍛錬が必要であると実感する。
一言だけそう呟き、この五年で取得したいくつかの魔法を発動させ退却することにした。
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◇
森に入り込んだ、"無名の大魔族"はどこからかピリッとした感覚を覚える。
これは――そう、"魔力探知"だ。森のどこかから探知されている。
それにすぐさま逆探知しようとしたが――逆探知する暇さえなかったぐらいにほんの一瞬で、魔力探知の感覚は消えた。
「……」
"無名の大魔族"は、探知されたと思われる方向を微笑みを浮かべたまま見つめる。それは、傍から見れば何とも言い得ないそれに見えるであろうそれだった。
――結局、探知したと思われる主は現れなかった。
思い返してみれば錯覚だったのではないかと思えるぐらいにほんの一瞬だった。となれば、その主は逃げたのだろうか。
「ふふっ」
"無名の大魔族"は、