ドラートだったんですが、泣いていいですか? 作:ドラートです。
己以上に大きな魔力量を持つ"何か"。それを探知したと同時に退却を選んだ。その後、落ち着ける場所まで移動する。
「<
この魔法も唱えておく。自身に危機が迫ってきた時に知らせてくれる魔法である。"魔力探知"がリスクを帯びている上、安易的には使えない。それもまだ技術不足と言えばそれまでだが。
「ない、か」
魔法を発動させ、現状危機が迫ってきていないことを確認する。それに安堵しかけるが今はその時ではないと自制する。
――まだ、甘かった。
今は、ただそれしか浮かばなかった。一瞬だけ探知したあの魔力量……明らかに、今の僕では勝てないと確信させるほどの量だった。
もし、あの時少しでも注意を疎かにしていたらどうなっていたかも分からない。そう考えるとやはりまだ甘かったのだろう。
この五年、何事もなく順調に鍛錬をやることが出来ていた――そうだな、このような日々が続くのだろう、と無意識に思っていた。
だが、そうではなかった。今回のような事態がこの先ないとは言い切れない。
幸い、追ってくるようなことはなかったが……もし、相手が想定以上の強者だったら? それで顔を覚えられたら? 転移する魔法を使ってきたら?
想像するだけでそれだけ候補が出てくるんだ、備えあれば患いなしとも言う。
――だから、僕は、まだ甘かったんだ。
"寿命が尽きるその時まで、この世界で生きていきたい"。その願望は、恐らく
確かに今までやってきた鍛錬を続けていけば、十年、百年経てば今よりはるかに強くなれる。
だが、それは周りもそうだ。自分だけが成長しているのではない、年数が過ぎる度に周りも成長している。あの"なにか"も、年数が過ぎればより魔力量が上がっていくのだろう。そう考えると、やはり今までのやり方ではダメだ。
改めて今回のことでそう確信してしまった。
「……」
――ともかく。
昨日より今日、今日より明日。ともかく一歩ずつ階段を上っていくしかない。幸い、このドラ―トという身体にはそれなりの才能がある――ならば持ちうる限りの才能を最大限に活かす方法を模索する。
現時点ではその方法のみ……今すぐ模索を始めるのみであった。
◇
「こんなもんか……」
この世界が甘くはない事を自覚してから、さらに四年。身体はすっかり原作でいうドラ―トと同じ容姿になっていた。
それはともかく――前世の知識を全稼働し、自分自身に出来る限りの技術を叩き込んだ。そこで、意外なことに僕の身体は肉弾戦に強いと言う事が分かった。
フリーレンとの戦いを見るに、とてもそうは見えなかったが……発掘されていなかった才能ということなのだろう。
才能がない分野を克服するより、才能がある分野を伸ばす――そう方針を定め、肉弾戦と魔法。その両方を鍛えられるよう、この四年鍛錬を繰り返した。
肉体こそ筋肉が付いた等の変化はないが、出せる"力"の上限は四年前よりはるかに伸びていた。
例を言うなれば<
それぐらいに上限が上がっていた。
……僕が思うに、<
もっとも肉弾戦に向いていたと知った今ならば、ますますそのような戦法に向いていると思いつつある。
だが――――
「……まだ、足りないな」
確かにこの四年、さらに力がついてきた。そう易々とやられはしないだろうと自負するぐらいまでは来ている。だが――まだ足りない。
僕は、間接的に<
だが――フリーレンはそれ相応の魔力量を誇る。五百年もの年月を経ているアウラをも上回る魔力量。しかも実質前哨戦を経てなおアウラを上回っていたのだ。
――もし、今の僕が彼女の<
魔力というものを実際に今実感出来ているからこそ、そんな想定が浮かび上がる。フリーレンと敵対するつもりなどないが、万が一のことを考えると……やはり"備えあれば患いなし"だろう。
彼女限定にして話を進めてしまっているが、それだけではなくこの世界においての"危機"というのは思いのほかすぐそばまでに来ていると考えた方がいい。
例えば、大魔法使いであるゼーリエ。言わずもがな彼女に捕捉されたら間違いなく終わりだろう。
こうしてひとつ例を挙げるだけで、"危機"を孕んでいるのは言うまでもない。
そうと来れば、さらなる上を目指して再度やり方を変える他になかった。
そこで僕は考えてみる。
――魔族は、死ぬと魔力の粒子になる。という点を。
その現象を、“魔族は、魔力によって実体が作られる”と仮定する。恐らくは原作でもそう仮定されているはずだ。
それならば――魔力を変えることが出来れば。望む実体、つまりより強い肉体を作れるのではないか。
そこに目をついた僕は、早速実行に移すことにした。
大事なのは、"イメージ"。イメージなくては魔力ないし肉体の強化はあり得ない。
「……ふぅ」
ひとつ、深い息を吐く。
――無理だよ。
――この世界のあらゆる全てのものに打ち勝つなんて、無理だ。
――分相応に生きた方が賢い。
目を閉じると、僕自身が抱えるそんな思いが頭に浮かび上がる。
実際、その通りだろう。
“この世界のあらゆる全てのものに打ち勝つ”、となるとなかなかイメージしづらいものがある。
今より少しだけ上を目指すといったイメージなら抱ける。だが、今よりはるか上……となると、どうしても理性にブレーキがかかってしまう。
明らかに失敗する確率が高いから。
「だが、それも自分が決めたことだ」
理性にブレーキをかけているのは自分自身。結局の所、分相応に生きた方がいいということは嫌でも分かっている。
本当の敵は、自分自身。
それは、修羅の道を歩む覚悟……いや、歩むではないな。自ら道を作るという心構えがなければ、自分自身に打ち勝つなど出来はしない。
できたらいい、じゃない―――
できなくてもいい、じゃない―――
誰がなんと言おうとも、僕ならできる!
自分にできる、と強く想いながらイメージを膨らます。
――全てに打ち勝つ自分。全てを蹂躙する自分。そんな自分を明確にイメージする。思い上がりとか、夢見すぎているなんてものはどうでもいい――自分がなりたいかどうか。
こうして強いイメージを抱いていく内に。
「ぐ……ぅ、ッ!!」
思わぬ激痛に、胸を抑える。いつも感じている"魔力"が自身に刃向かってくるように暴れる感覚がする。
僕の想定は合っていたようだ。これほどに身体に出るということは、やはり魔力によって実体が作られていると言っていいだろう。
「が……は、ッ」
……なぜ、こんな苦しい思いをしなきゃならないのか。
――当然だ、僕は寿命が尽きるその時までこの世界で穏やかに生きていきたい。
戦いで死んでなんかたまるものかよ。戦いを挑んでくるのが、何者であってもしぶとく生きてやる。
「ぐ、ぉおおおおおお!!!!」
のたくり回るほどの激痛に、前世の“走馬灯”が走る。
――前世での僕は、人並みに“幸福”だったと言えるかもしれない。
人並みに働いて、人並みに恋愛をして、人並みに結婚して家庭を築いて。
そんな代わり映えのない日常を送っていた。一瞬、一瞬だけ“非日常”を味わうことはあった。だが、前世の大部分を占めるのは“日常”だった。
そう――人並みに、幸せだったんだ。
当時、幸せなんて思うこともなく普通に日常を送っていた。だがこうして今。それらの日常が二度と手に入れられないものだとわかった今。
僕は“幸福”だった。そう実感する。
だから―――今生の僕にも、“幸福”が欲しいというのはおかしいのだろうか。
何しろ、この世界で言う“魔族”は、一般的な悪だ。魔族からすれば悪という概念こそないが――人間を捕食する存在だからこそというもの。
僕は捕食するつもりなど毛頭ない。だが、周囲はそうは思ってくれない。それがこの世界なのだろう。
……僕は、臆病だ。どんなに強くなったところで、いつ殺されないかと怖くてたまらない。
自分に自信が持てないんだ。
いっそ人間に生まれていたならどんなに良かったか。そんな思いが、自覚なしに大きくなっていたらしい。
―――だから、くれ。
―――僕に、“安心”を。
―――“安心”して、“幸福”を味わう為に。
「ああああああああああああああああ!!!」
―――何者にも負けぬ、そんな“力”をッ!!!
そう強く想って、それを最後に僕の意識は一旦途切れたのだった。