ドラートだったんですが、泣いていいですか?   作:ドラートです。

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一歩を踏み入れる

 

 

「――――」

 

まるで、意識が深い底から一気に浮かび上がるような感覚。その感覚がしたと同時に僕は意識を取り戻した。

 

目を開けた瞬間、もう夜に差し掛かる所なのかオレンジ色に照らしている空が視界に映った。

 

……身体はどうなった。

 

どれぐらいの間意識を失っていたか、よりも己の肉体の方が気にかかる。

 

そう思い、倒れていた自分を起こすように立ち上がり。

 

「……何も変わっていない?」

 

思わずそう呟くほどに、僕の身体に変化はなかった。いや、正確に言うと表面的な変化はなかったと言っていいだろう。

 

だが――内面的な変化は、明らかに以前の自分とは違っていた。

 

うまく言葉に出来ないが……そうだな、力が有り余っているといっていいか。その感覚が身体の奥からするのだ。

 

―――"魔力"を少し練ってみる。どの程度の変化なのかが分からない為、慎重にという意味でも少しだけにする。

 

すると――

 

「――!」

 

ほんの少し。ほんの少しだけ――練っただけだ。それだけで、僕の足元を中心に()()()()()()()()()()()()()

 

その事実に、一瞬身体が震えたと同時に。

 

「……ははっ」

 

僕がドラ―トとして生まれ変わってから――初めて、笑みが零れた。

 

「はははっ、はは……あははははッ!」

 

一度笑みが零れたら、しばらく笑いが止まらない。誰もいないであろう森の中に、僕は一人だけ笑い声を上げていた。

 

――ああ、今なら魔族のいう"傲慢"も少し理解できた気がする。

 

自分が倒されるわけがない。負けるわけがない。そんな根本的な自信から来る"傲慢"。本質故に持つ魔族の気持ちが少しだけ――分かった。

 

確かに、これは病みつきになる。

 

自分なら、何でもできると確信するほどの"全能感"。まるでこの世界が自分中心に回っていると本心から思ってしまうほどに……この変化は強烈だった。

 

「……ふぅ」

 

このまま、この気分に身を委ねてしまいそうな所に理性で引き留める。その意味でもひとつ深い息を吸って吐いた。

 

確かにイメージは上手く行った。その証拠に以前の僕とは考えられないほどに"力"が付いた。だが――そこで満足してしまったらこれ以上は望めない。

 

人間という根本的な部分が、そう訴えかけている。確かに、そこで満足してしまったらこれ以上成長できない。真の強者とは、常に前を向いて歩いているという……現状に満足せず常に"成長"できるよう切磋琢磨していく。

 

それが本当の強者というもの。

 

だから――静かに、それを受け入れる。今なら何でも出来てしまうと思える自分もまた自分……静かに受け入れた上でやるべきことをやろう。

 

そう決めた僕は、まだ収まらない"感情"を静かに味わうのだった。

 

静かに“感情”を味わってから数分……ようやく高ぶっていた気分が落ち着いてきたこの頃。

 

「ひとまずは、ここを離れた方がいいか……」

 

大きく地割れが広がっている今、このままここにいるのは愚策だ。これをやったのは自分です、とそう周囲に伝えているようなものだ――今すぐここを離れてどこかに場所を移した方がいいだろう。

 

そう考えた僕は、ここを離れることにした。

 

 

 

 

以前と比べて身体能力が上がった為、身体における()()を矯正すべく自己鍛錬を続けている。

 

魔力そのものを変えると言う所業を成功できたからこそ、想定以上に肉体そのものの強度や魔力量、魔力における操作の質等々が前と比べようもないぐらいに向上していた。

 

だからこそ前の感覚のままでやると、想定以上に力が出てしまう。力のコントロールが出来ないとそれを逆手に取られてしまう可能性もある。だから即急に取り組むべき課題であるとそう感じている。

 

――魔法か。

 

肉体の鍛錬や魔法の鍛錬を重ねていく内に、ふと魔法についての考えを巡らせる。

 

前世の自分から考えると、"魔法"という存在は夢のような話であった。確かに魔法というイメージは何となく分かっていたし魔法が使えたらきっと面白いんだろう……なんて"非日常"に想いを寄せていた頃もあった。

 

だが、実際にこうしてこの世界で"魔法"というものに触れてみて初めて分かったこともある。

 

そう考えると、本当に魔法とは不思議なものだという感想しか湧かなかった。

 

原作においても、<かき氷を出す魔法>や<酸っぱい葡萄を甘い葡萄に変える魔法>などといったなんだそれは? と思わせるような魔法も存在すれば、<地獄の業火を出す魔法(ヴォルザンベル)>や<破壊の雷を放つ魔法(ジュドラジルム)>などといった攻撃魔法も存在する。

 

おまけには、<無補給無酸素状態でも生存できる魔法>とかいうもはや人の域から脱しているのではと言わせるような魔法まである。

 

こうして思いついただけでも、色々な魔法があるのだ。だからこそ元々あった興味がもっと湧いてきたと言える。

 

幸いなことに魔力そのものを変えることが出来た今だからこそ、新たな可能性を模索できるかもしれない。そう考えると取り組まずにはいられない。

 

――となれば、だ。

 

人類が解析できず、使用も出来ない魔法を"呪い"とそう呼ぶ――この世界ではそう定義付けされているはず。

 

一つだけでも、そういった呪い曰く"切り札"と呼べる魔法を開発するべきかもしれない。

 

人間を相手とする想定もそうだが、今の自分は魔族という皮を被った人間と言い換えてもおかしくはない存在。感づかれなければそれでいいかもしれないが、感づかれた場合の魔族達の反応が不明瞭だ。

 

もし外見が魔族であっても中身が人間ならば、容赦なく襲い掛かるのか。それとも中身が人間といえ表面上魔族だから無駄な争いはしないのか。

 

それが分からないからこそ、念には念を押してのことである。何せ魔族は"魔力"に関する感度が人間より高い為、魔法に対する解析能力も高いのかもしれない。

 

かもしれないと言ったらキリがないが、あいにくこの世界では本当に()()()()()()()()()()――だからこそであった。

 

己の魔法である<魔力の糸を操る魔法(クローステール)>は、切れ味に関しては確かに強力だが驚異的な反射神経や動体視力を持つ者には避けられてしまうのだろう。また肉体強度が高く糸で切れぬ相手や、防御魔法の質が高く防がれてしまう相手にもまたそう易々とは通じないのだろう。

 

奇襲は、あくまでも奇襲。通じなかった場合を想定しその場合に使うべき魔法はなにか。それを踏まえた上で魔法開発に取り組んだ方が良いのではないかという結論にたどりつき。

 

前世における知識を稼働し、自己鍛錬も怠らずにかつ開発に取り組むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、魔力がないなんて……珍しいわね」

「……」

 

何の因果なのか分からないが、偶然なことに【断頭台のアウラ】とそう呼ばれる彼女と対面する羽目になった。

 

どうやら、原作における修正力というものが働いている――と改めてそう()()()()のだった。

 

 

 

 

 

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