蛮族長コハク   作:テルー

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5.雌雄、決する

R.R.R(ライオット・レイジング・ランページ)!!」

 

 ドレッドノートが繰り出すのは、父から受け継いだ必勝の連打。敵の弱点など関係ない、圧倒的な身体能力で全てを押し流す。

 父の無念、燃える復讐心、自身の価値。それら全てを込め、強者たる証を打ち込む秘技。

 

「ゴシン流奥義・夢幻演舞!!」

 

 コハクが最後に選んだのは、一族の誇る秘伝。相手の重心移動を完璧に見切り、一つの動作で打撃といなしを両立する。

 幻のように攻めをすり抜け、演舞のように相手の呼吸通りに打ち返す絶技。

 

「(重心が、読みづらい……!)」

 

 最初の一合で、コハクはR.R.Rがただの乱舞ではないことを悟る。

 蓬莱珠朶(ホウライノタマノエ)がドレッドノートの動きに合わせ微細にしなり、最適な斬撃をサポートしていた。本体とは別に変わり続ける重心に対し、最適な角度とタイミングで当てがうのは如何にゴシン流の継承者といえど困難を極める。

 

「が、難しいだけよな!」

 

 右薙ぎに左アッパーを合わせて弾き、それがそのままドレッドノートの顎へと吸い込まれ……ない。反対方向から来た二の太刀が阻んでいた。

 

「トロくせぇ!」

 

 攻防一致のカウンターを、ドレッドノートは反応速度と筋力で打ち落とし更なる攻撃に繋げる。直撃させれば終わる攻撃力と、その攻撃力を上回る防御力を互いに持っている。

 体力はとっくに底を突き、気力だけで攻防の機を織り続ける。拳戟の音、息遣い、時折散る赤い飛沫。

 人知れず、全てを魅了する至高の絵図が闇夜に描かれていた。

 

「手応えが変わったな! 限界かァ!?」

 

 永遠にも思えた均衡を、ドレッドノートがついに破った。コハクの左手の受けが、明らかに柔軟性を欠いてきている。

 左手側に斬撃を集中させられたコハクは悪あがきのように防御を固めた。が、怒れる嵐の前にそんな防御が役立つはずもなく。ドレッドノートは袈裟懸け二発であっさりと彼女を吹き飛ばす。

 

「俺の、勝ちだ!!」

 

 トドメは、両腕を交差させての突進斬り。もうコハクに守る術はない。

 目の前が光で満たされていく。そんな感覚を持ちながらドレッドノートは二刀を振り抜く。

 

「──ここじゃ!」

 

 コハクは、絶望も諦観もしていない。ここまで全て読み通り。後は、今まで積んだ鍛錬に全てを託す。

 交差した二刀の要に、激しい攻防で鉱石化させた左拳をぶつける。腕全体、さらに首までねじりながら前へと踏み出すことで絶大な貫通力を生み、斬撃の軌道を僅かに上へと逸らした。

 

「……っ」

 

 左腕の皮の下を、硬いものが通り抜けていく。恐らく前腕を薄くスライスされたのだろうが、夢幻演舞最後の一手はまだ死んでいない。

 

「終ノ舞・獄楽」

「何っ……!?」

 

 ドレッドノートの目が驚愕に見開かれる。全体重を乗せた一撃は、互いにもう止められない。輝く拳がドレッドノートの鳩尾に深々と突き刺さった。

 鉱石化し、頑丈なはずの左手首が砕け折れるほどの衝撃。最早手を突く力もなく、顔から地面に突っ伏すドレッドノート。

 

「ハッ、ゼぇ……クソッ……」

 

 息も絶え絶えな彼の吐いた悪態に、コハクは自身も倒れ込みたいのを堪え勝者として笑う。獰猛な犬歯が、月夜に映えた。

 

「最後の最後で、技が濁ったな」

「濁った、だと?」

「遮二無二剣を振り回すのが、あの技の強みであろう? じゃが、貴様は私の左手を狙い撃った」

「……っ!」

「目の前の勝ちに飛びつきすぎじゃ。あのままド根性勝負なら、貴様にも目があったろうに」

 

 ドレッドノート自身すら気づいていなかった僅かな心の揺らぎを、コハクは正確に捉えていた。

 

「最後まで己の技に殉じた分、針一本だけ私の勝ちじゃ」

「……クソが」

 

 そう吐き捨てたきり、ドレッドノートは静かになる。自分の価値は確かに当時より上がったらしい。しかし、父親の仇を討ってやることはできなかった。

 

「……フー。随分、手こずらされた、の……」

 

 その場が静寂に支配された瞬間、コハクも崩れ落ちる。後には、小さく細い呼吸音が残るのみとなった。

 

 

──To Be Continued──

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