なぎささまご乱心   作:つきらゆ

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もう気づいてると思うけど
この話し。重いんだよ、凄く

だから、一応、これは言っといた方がいい気がして
作者はね『ハッピーエンド』が好きなんだよ



Vol 2 新章:友情と勇気と光のレトロチックデスモモイ 2

 

 

 

『反転した原因。そこは重要では無い。箱の主よ』

 

 

 フランシスの言葉に、先生は耳を傾ける。

 ゲマトリアと、先生。

 交わるはずのなかった戒律。

 手を取るはずの無かった思想。

 気が狂いそうになる状況の中、先生は今邪魔な物は全てを忘れて現状を理解することから始めた。

 

『才羽モモイのヘイローは反転した。それは紛れもない事実である』

『そして重要なのが、今の彼女の行動原理ですね。くく、私が調べた限りではそれは恐らく、このキヴォトスを滅ぼす事にあります』

 

“キヴォトスを……?”

 

 先生は訝しんだ。そもそもゲマトリアはどうやってこの情報を掴んでいるのか。

 そう言えばと、先生をここに連れに来た時点でボロボロだった黒服の姿を見る。

 まるで、何かと戦闘でも終えた後かの様だった。

 

『その理由も、ひとまず置いて良いでしょう。問題は、彼女を如何にして止めるか、です』

 

“私の協力が必要って言ってたね”

 

『はい。私は一度、モモイ*テラー……“デスモモイ”とでも呼びましょうか。彼女と相対しました。……どうにか、反転する前に止められないかと思ったのですが……やはり、あなたでなければならなかったようですね、先生』

 

“……黒服は、モモイの事を知っているの?”

 

『どちらとも言えましょう。強いて言うならば、この世界の才羽モモイの事を私は何一つ知りえません。そしてその結果がこの有様という訳ですが』

『だから出しゃばるなと言ったのだ』

『そういうこったァ!』

『話を戻せ。時間が無い』

 

 黒服はシッテムの箱をそっ、と撫でた。

 当然起動はしない。ただ、その手には慈しみがあった。

 

『一先ず成ってしまった事には仕方がありません。そして、才羽モモイは先生に執着を見せています』

『自身の目的であるキヴォトスの破壊より優先するほどにな』

『そこは素直に理解していただけると思っています』

 

 先程の、モモイから届いたメール。

 シッテムの箱にウイルスを仕込み、会いに来ると言っていた。

 何をしに、来たのだろうか。

 本当にモモイが、私を殺そうとするなんて……。

 

“信じられないな……”

 

『その次元の話はさっさと越えろ、先生。全てを失ってもいいのか』

 

“……フランシス、君は結構容赦が無いね”

 

『フン、私は貴様の生徒では無い。説教は結構だ』

 

 ゴルコンダはもう居ない。彼は死に、フランシスとなった。

 その仕組みなんて分からないが、分かったところでどうなる話でもない。

 

“どうやって戻すか、だよね”

 

 先生は、黒服へと向き直る。

 

“その方法は? 何でもするよ”

 

『分かりません』

 

“……………………は!?”

 

 黒服の言葉に、先生は憤慨した。

 ここに来る前、彼女を助けられるかを聞いて、だから大人しく着いて来たのだ。その何か知っているような口ぶりに、だから着いてきたのだ。

 

『反転した者を元に戻す事は不可能。それは、死んだ人間が生き返らないのと同じこと』

『はい。私達は、その結論に至りました』

 

“騙したのか……!?”

 

 先生は、ポケットの中の大人のカードを握り締める。

 しかし、その力を使おうとする前に黒服がいち早くそれを制した。

 

『私達の結論、と言うだけです』

 

“……どういう事?”

 

『貴方が1番よく分かっているのでは無いですか?』

 

『貴方は、私達が“このキヴォトスの終焉”と断じたあの色彩の到来を退けた』

『この不可能にしか見えない状況。もし可能性が残っているとすれば、それは先生、あなたしか居ない』

『不可能なのかもしれないし、可能なのかもしない。言わば、』

 

『可能性があるとするのなら、貴方しか居ない──という訳ですよ、先生』

 

 そう言って、先生へと真っ直ぐ指を突きつける黒服。

 一度、奇跡を起こした先生ならば。

 あの不可能を退けた、先生ならば。

 

 また再び、この不可能を退けられるのでは無いかと。

 

『故に、策があります』

 

 バン、と黒服は両の手を光るテーブルに叩きつけ、身を乗り出して先生を凝視した。

 その勢いに、先生は気圧された。

 黒服が先生だったとわかってから、何故か“先輩”の様な雰囲気が彼にまとわりついて。

 先生は、少し黒服に苦手意識が芽生え始めていた。

 

『先生と、デスモモイを引き合わせます』

 

“それは、どうやって?”

 

『何としてでもです。具体的に言うと、アビドス砂漠で迎え撃ちます』

 

 黒服は、クックっと笑う。

 その大人たりえる姿は、先生はあまり見習いたくは無かったが……解決へと導く様は、少しだけかっこよく見えた。

 

『──先生。我々の保有する神秘を、指揮してみませんか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“──シッテムの箱に触れる”

 

 ぽん、と音がなって待機状態だったシッテムの箱が起動する。

 そして、演算が始まる。

 

 この空間にあるあまねく神秘が。

 人の身には余る力が、シッテムの箱へと流れてくる。

 

『──解析、完了しました。先生! いつでも行けます!』

 

“ありがとう、アロナ”

 

『どうやら、上手くいったようですね』

 

 背後から声をかけられて、先生は振り返った。

 そこには、身一つで立つ黒服がいた。

 

“マエストロ達は?”

 

『彼らはここに来る必要はありません。引率は1人で充分なので……くく、まぁ、保険と言うやつですよ』

 

“失敗した時の?”

 

『失敗した時の、です』

 

 先生と黒服は、今アビドス砂漠にいた。

 広大な、砂だけの大地。

 他に何も無く、有るとしてもところどころ砂に埋もれた建造物や列車が見え隠れしているくらい。

 

 そして、

 

“本当に、彼らを……”

 

『はい。貸してあげましょう、先生』

 

 

 そして、黒服の背後に立つそれらを先生は見上げた。

 

 ビナーが。

 ケセドが。

 シロ&クロが。

 ヒエロニムスが。

 ホドが。

 

 その6体の人口神秘が、巨大な体を蠢かせ砂埃をまきあげながら先生の命令を待機していた。

 

『くく、壮観ですねぇ。これらを1度に操れるというのは、やはりシッテムの箱の主、その特権と言っても良いでしょう』

 

“操りきれるかなぁ”

 

『大丈夫です、先生! アロナに任せてください!』

 

 にこーっ! と笑うアロナを画面越しによしよしして、程々に先生は再度黒服と向き合う。

 その顔に浮かぶ感情は、かつて無いほど真剣なもの。

 今から、私は──生徒と戦わなければならないからだ。

 

“本当に、これしかないの?”

 

『言ったはずです。我々も分からないことは多いのだと』

 

 先生は、頭を掻きながら俯いた。

 本当は、生徒に牙を剥くなんて事したく無かった。

 それしか無いとしても、どうしてももっと何かあるんじゃないかと思って……

 

『先生』

 

 けれど、その思考を悟って黒服は静止の声をかけた。

 そして、

 

『貴方が失敗すれば、我々はデスモモイのヘイローを壊します』

 

“なっ”

 

 黒服は、事も無げにそう言う。

 いつも通りの顔で、まるで散歩に行くとでも言うかのように。

 

『そもそも、我々は先生の様な生徒第1のスタンスではありません。生徒1人の命で世界が救われるのなら、少なくとも私は迷わず殺します』

 

“何を……!”

 

『今は、黙って聞いてください。……我々が何故先生に声をかけたか分かりますか? 何故、先生に相談する前にこれらの神秘を使って総攻撃を仕掛けなかったか、お分かりになりますか?』

 

 その言葉に、先生は当然返せない。

 ゲマトリアの思考など、読めるはずもない。

 でなければ、今までもっと生徒を傷つけずに済んだ。

 

『──貴方の顔を立てたのですよ』

 

 そう、契約もしていないのにそんな事をいう黒服に、しかし先生は理解ができないといった顔をした。

 

“なにを、急に……”

 

『勘違いしないで頂きたいですね』

 

 しかし、先生が抱いた感情は、解釈を少し間違っていたのか黒服にすぐに否定される。

 

『先生は、一度この世界を救っています。言わば、先生の元に成り立っているような世界です。そんな先生に挨拶も無しに先生の生徒を殺害したとなれば、我々が敵対する事は必至でしょう』

 

“……まあ、そうだね”

 

 黒服の言葉に、確かにもしそんな状況になった時冷静では居られないだろうなと思った。

 ゲマトリアは、良くも悪くも目的がはっきりしていてその為の手段は問わない。

 崇高を手にし色彩を退ける。ゲマトリアの信念を、黒服はそう表現していた。

 それならば、目的だけを掲げるならば先生に内緒でデスモモイを屠れば良かった。

 それをしなかったのは、一重に先生に対する“情け”。

 

 黒服が、少し身動ぎしたくらいで触れそうなくらいに先生へと近づいた。

 呼吸すら躊躇うような距離感で、黒服は先生より少し高い身長から見下げた。──いや、睨みつけた。

 

『故に、全てを救う等と甘いことを抜かす奇跡の体現者に、今一度チャンスを与えようかと。しかし、我々にも目的や矜恃があります。貴方が失敗すれば、その後は我々の自由にさせてもらいますよ』

 

 言外に、どんな手をとってでもデスモモイを殺すと。

 そう、先生は言われている気がした。

 

“………わかった。”

 

『おや? 随分と素直ですね。先生の事だからまた理想論を語ると──』

 

 その言葉を、先生は遮った。

 

“絶対に失敗しない。それで、君達にも生徒を殺させない”

 

『……………くく、やはり、貴方らしかったですね』

 

 

 

 

 

 ピロン

 

“…………!”

 

『来ましたね』

 

 シッテムの箱へと届いた着信に、思わず身構える。

 きっと、彼女だ。

 アロナに頼んで、モモトークをひらいてもらう。

 アロナはウィルスの潜伏を危惧していたが、どうしても必要な事だからと、お願いした。

 

■■■

『先生。そこにいたんだね』

 

■■■

『やっと見つけた。すぐ行くから』

 

 シッテムの箱を強く握り締め、決意を固める。

 絶対に救ってみせる、と。

 

『最終確認です、先生』

 

“うん”

 

『先生とデスモモイの対話。しかしこのままでは確実にそれは成されません。故に、一度戦闘不能へと追い込みます。その役目は先生と、先生が指揮するこの我々が保有していた神秘達です』

 

“うん”

 

『そして、デスモモイの戦闘不能が確認されれば、私が彼女を“運び”ます。そして、そこで然るべき拘束をした上で対話を試みます』

 

“気は進まないけど、わかった”

 

『結構です。それでは私は離れた位置で待機しています。……くく、問題はありますか?』

 

“大丈夫。任せて”

 

『本当に、頼もしい限りですよ』

 

 黒服は、黒いゲートへと消えていく。

 ここに残された“人”は先生1人。

 不安は尽きない。疑惑もやまない。

 

 けれど今はやるしかない。

 

“頼むよ、みんな──”

 

 見上げて呟けば、呼応するかのような彼等の雄叫びが砂漠に響いた。

 ビナーの叫び声が。ホドやケセドの駆動音が。

 シロ&クロの笑い声が、ヒエロニムスの甲高い声が。

 

 まるで先生に呼応しているようで、こんな日が来るとは先生は夢にも思わなかった。

 

 

 

 ──そして。

 

 

 

『先生、来ますっ!!!』

 

 

 

 アロナの声の一瞬後に、ドンっ、という音と共に砂埃が舞って衝撃波が先生達を押し出した。

 先生は慌てて手で顔を覆って、口に入り込んだ砂をペッペッと吐き出す。

 

 ──来た。

 

 段々と砂埃が止み、その姿が顕になってくる。

 砂漠に舞い降りた、狂気の死神。

 

 いいや、違う。

 ただの、私の生徒だ。

 

 

 

『───FATALITY』

 

 

 FATALITY……死亡事故、を意味する英単語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『I NEED YOU DIE』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生の目の前に、刃物が迫った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 シッテムの箱が、刃を弾く。

 

『先生!!』

 

 そして、弾かれて仰け反ったデスモモイの体に目掛けて、

 

“ビナー!!”

 

 巨大な蛇が、デスモモイへと襲いかかった。

 

 始まってしまった──。

 そんな胸中をすぐに押しやり、今は戦闘に集中しようとシッテムの箱を握り締める。

 ビナーはデスモモイへと噛みつき、デスモモイは飲み込まれまいと閉じる歯を押さえつけて堪える。ビナーは顎に力を加えながら、その巨体を右へ左へうねらせてデスモモイと共に先生から離れて砂漠を進む。

 先生は、そのビナーのその動きだけで吹き飛ばされそうだった。

 

『DIE……』

 

 デスモモイは砂に、地面に、列車に叩きつけられながらもそれら全ての攻撃を耐えていた。

 そして、デスモモイを噛み砕こうとする牙を抑えていた手の、片方だけを離して、

 

『FATALITY!!』

 

 その手に持っていた包丁をビナーの口内へと突き刺した。

 そしえ、抉り、抜き取り、切りつけて

 

『DEATH』

 

 ──最早、風邪すら纏った無数の斬撃がビナーの口内を切り裂いた。

 

“ビナー!!”

 

 痛覚はあるのか、雄叫びをあげるビナー。

 ビナーは衝撃に思わずデスモモイを離し、そして

 

『………………DEAD』

 

 デスモモイは、その身体を一瞬ぶれさせた。

 先生には全く視認のできなかった、高速の斬撃。

 ビナーは、気づいた時には体中を切り裂かれ雄叫びをあげながら砂塵に倒れた。

 

“うそ、でしょう……?”

 

 こんなにもあっさりとビナーが倒れるなんて。

 その事実に呆気に取られるも、それは戦場では命取り。

 すぐに先生は次の策を考える。まだ、手札はある。諦めるには早計だ。

 

“ホド! ケセド!”

 

 先生の指示により、ホドは砂漠にインベイドピラーを生成し、ケセドは次々と機械の兵士を生み出す。

 デスモモイはビナーもとい“個”を 圧倒した。

 だから、次は“軍”をぶつける。

 頼みはケセド。時間が経てば経つほど兵士は生み出され、こちらが有利になる計算だ。

 

 しかし、

 

『SYAAAAAAAAAA!!』

 

 デスモモイは先程までいた場所から姿を消し、そして次の瞬間インベイドピラーの真上に立っていた。

 そして間髪入れず振り下ろされる2振りの包丁。デスモモイはインベイドピラーの厄介さを肌で理解したのか次の標的にし、そして一瞬で──

 

『COMPLETED』

 

 破壊した。

 どうみたって、人ひとりが持っていい力では無かった。

 

“シロ&クロ! ヒエロニムス! お願い!!”

 

『ヒヒヒヒ!!』

『────!!』

 

 ホド本体まで破壊されては計画が狂う。

 故に、ケセドとホドを守るようにシロ&クロとヒエロニムスを前線へと出す。

 シロが突撃し、回避重視でデスモモイのヘイトを引きつける。

 そしてクロとヒエロニムスが援護射撃。

 

 その間にインベイドピラーを可能な限り設置し、ケセドによる兵士を軍隊へと変える。

 それしか、方法は無い。

 先生は今ある手札で最前の選択を選び、そして今は迷わないとシッテムの箱を握り締め彼らを指揮した。

 

『けヒヒヒ!!』

『アハハハ!!』

 

 デスモモイの攻撃を間一髪で避けるシロ。そして誘発したデスモモイの移動先へとヒエロニムスの「ヴルガータ」、クロの生み出したカラスが直撃する。

 けれど、まだ弱い。

 シロがデスモモイのいた位置へと落下し、その体積を持って押し潰す。

 ケセドによる兵士たちの第一部隊が前線へと到着する。

 

『FATALITY……』

 

 クロに押しつぶされたデスモモイは、しかし全くと言っていいほどダメージを負っていなかった。

 そして、しつこくまとわりつくシロに少なからず苛立ちを覚えたのか、

 

『DEATH!!』

 

 その目にも止まらぬ斬撃は、自身の上に乗るシロを一瞬で細切れにした。

 

“シロ! …くそ!”

 

 考える。まだ時間が足りない。

 インベイドピラーは現在二つ目を生成中。今破壊されてはまた振り出しに戻ってしまう。

 そうなれば、シロの居ない前線は先程よりも長くは持たないだろう。

 ジリ貧、冷や汗、負け戦。

 

 先生は、大人のカードを取り出す事も視野に入れ始めた。

 

“いや……まだだ”

 

 しかし、ここへ来る直前に黒服に言われた事を思い出す。

 そのカードを使う事は、もうやめろと。

 それを使えば、どうなるか……今まであやふやだった答えは、ついに彼によって明かされた。

 

『我々と同じ存在になります。人の身を失い、他人の世界をさまよう目的を遂行するだけの存在、ゲマトリアに』

 

 自分の知る生徒達が、一人の男に現を抜かす姿は心にくるものがありますよ、と。

 その忠告に、先生は、

 

“それでも……”

 

 使う必要が来れば、躊躇わない。

 もし、自分が彼らのように人でなくなり、他人が先生をする世界でいつか生徒を傷つけてしまう存在になったとしても。

 それは、今目の前に迫る危機に全力を尽くさない理由にはならなかった。

 

“ケセド兵、一斉掃射!!”

 

 軍隊が銃を構え、デスモモイへと銃撃を浴びせる。

 少なからず、弾は当たっている。

 しかし、まるで怯む様子もなくデスモモイは銃弾の雨の中でシャワーでも浴びるかのように恍惚としていた。

 

『DEATH SHOWER……』

 

 

 そして、デスモモイの姿が、掻き消えた。

 今日何度目かの高速移動。再び先生の視界に姿を現した時には、全てのケセド兵達が真っ二つに割られ砂漠の地面へと転がった。

 

“──クロ!!”

 

 姿を現したモモイにクロが生み出したコーヒーカップをぶつける。

 直撃した。しかしデスモモイは事も無げにコーヒーカップを腕を振るってかき消した。

 そして、

 

『NEXT YOU.』

 

 ヒエロニムスへと肉薄し、その包丁を振り下ろして──

 

“クロ!!”

 

 心の中でごめん、と謝りながら、ヒエロニムスへの攻撃をクロに庇わせた。

 

 崩れ去っていくクロの姿。

 それを見届けて、先生は申し訳なく思った。

 生徒では無い。守るべき存在でも、責任を負う対象でも無い。

 だから、先生はこの戦いを勝つ為に彼を犠牲にした。

 

 それでも、1度は共に戦った仲間として、自らそれを犠牲にするのはやはり心がいたんだ。

 

“ケセド兵!!”

 

 第2陣のケセド兵が前線へと合流する。

 そして、ヒエロニムスを守るように陣形を組む。

 ヒエロニムスは、まだこの後の“詰め”に必要な存在だった。

 

 シッテムの箱に表示される情報、エネルギー量、それを確認しながら先生は的確に指示を出していく。

 

 そして、案の定。

 

『RE:NEXT YOU』

 

 兵士を無限に生み出すケセドを次の対象に決め、デスモモイはその姿をかき消した。

 まただ。次に現れる時は、何かを破壊し終えている時。

 しかし、ケセドがコアを閉じている時の守りは全ての神秘を持ってしても恐らく最強。

 

 故に、ケセドへの攻撃を不発に終わらせ姿を表した所へ追撃を行おうとケセド兵士に指示を出す。

 彼らは銃を構え、すぐに現れるであろうデスモモイへと照準をさ迷わせ──

 

 

”うそ、でしょ……“

 

 

 

 

 

 

 

 ──縦に真っ二つに割られたケセドの姿に、先生は今度こそ驚愕で身体を固まらせた。

 

『COMPLETED』

 

 こちらに背中を見せ立つデスモモイの姿に、先生は思わず歯噛みする。

 今更な話だが、実はこれら人口神秘達には階級が存在する。

 本来は、倒しても、倒されきる前に撤退する彼ら人口神秘達は、自分の陣地で力を貯めれば貯めるほどその力を更に増す事ができる。

 そして、今率いている彼らは全てがその最上位、いわゆる「TORMENT」と呼ばれる存在だった。

 

 そのケセドを、一撃で。

 先生は身震いして、しかしすぐにそんな場合ではないと走り出す。

 

 ケセドはやられた。もう兵士は産み出せない。

 シロ&クロももう居ない。

 前線を張れる存在はもう一体も居ない。

 

 けれど、準備は整った。

 

 故に、これが唯一にして最後のチャンス。

 これが失敗すれば、先生に残された手立てはもう大人のカードしか無かった。

 

 けど、

 

 

 

『──モモイ!!』

 

『A……?』

 

 先生は、その声を張り上げた。

 そして、デスモモイは先生へと視線を向ける。

 

 その先にあったのは……砂漠のど真ん中に寝転ぶ、あまりにも無防備な先生の姿。

 

“──モモイ!! 先生だよ!! 無防備な弱った先生だよ!!”

 

 先生は、仰向けに空を見上げながらそう叫んだ。

 遠くで見ていた黒服は、くっくっと笑いながらその光景を見守っている。

 

 ──絶望的な存在に、ついに先生も諦めたか。

 

 当然、そんな訳はなかった。それは黒服も理解している。

 しかし、それを理解できなかった存在が1名。

 

『S E N S E I !!!』

 

 デスモモイは、他の全てを無視して先生へと飛びかかった。

 両の手に包丁を持ち、先生の元へと一足で跳ぶ。

 

 先生は、死を覚悟した。

 それでも、決して目は逸らさない。

 絶対に、自分の生徒から目を背けることはしない。

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

“今だ!!!!”

 

 

 

 

 

 ギュルギュルギュルと、音を立てて周囲に立てられた三つのインベイドピラーが激しく駆動する。

 先生を中心に、まるで儀式かの様に囲うホドにより生成された機械の塔。

 

 そこに、デスモモイは無策にも飛び込んだ。

 そして、インベイドピラーの磁場が発生し、

 

“ぐっ……!”

 

『YA !?!?』

 

 先生諸共、デスモモイの身体を一瞬、硬直させた。

 たったの一瞬。これだけのインベイドピラーを生成して、稼げた時間は僅かそれだけだった。

 

 しかし、それで十分。先生は、どれだけ短くても確実なモモイの硬直が欲しかった。

 

 

 だから、

 

 

“いけぇッ!!”

 

 

 

 

 先生の真上、空中で静止するデスモモイに。

 

 

 

 

 ヒエロニムスの「ダマススの招講」

 ホドの「栄光の輝き」

 そして、今までエネルギーを貯め続けたビナーの「アツィルトの光」が、3方向からモモイの姿をかき消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ続くよ
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