なぎささまご乱心   作:つきらゆ

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Vol 2 新章:友情と勇気と光のレトロチックデスモモイ 5

 

 

 

 

 

 ──ユウカは、シャーレへと来ていた。

 

 

 未だにボロボロで、修理も片付けも何もされていない酷い惨状の部屋。

 当然だ。これをやったのは自分で、それから何もしていなかったのだから。

 中へとゆっくり足を踏み入れて、瓦礫の中から少しでも仕えそうなものを探してみる。

 だめ。これもだめ。……ず、随分手酷くやったなぁ、私。

 ちょっとずつ、ちょっとずつ退かして、拾って、集めて、とあるものを形作っていく。そして、

 

 

「──出来た!」

 

 そして、ついに完成したそれにユウカは1人、満足気に呟いた。

 

 それは、まるで会議室の様だった。

 中央に机があって、その周りを囲むように幾つもの椅子が並んでいる。

 と言えば聞こえは良いが。実際の所無事な椅子も机も1つとして無かったので、不恰好もいい所のただの瓦礫の寄せ集めだ。

 椅子と言うよりかは、腰を下ろす為だけの瓦礫の塊。机と言うのも名ばかりで、まだ大きめに割られただけの嘗て執務机だったものの残骸。

 

 けれど、それを見てユウカは満足気に頷いた。

 この原始時代に戻ったかの様な部屋を見て、それでも確かな一歩前進だと、ユウカは手についた埃を落としながら笑った。

 

 

「──動くな」

「…………っ」

 

 そして、ついにこの部屋に来客が現れた。

 いつの間にか背後に忍ばれ、後頭部に突きつけられた銃。これみよがしにセーフを外す音なんか聞かせて、何時でも撃てるぞという脅しのつもりだろうか。

 

 ユウカは相手の指示通り、今は動かない。

 彼女も生徒の1人だから、本当は撃たないって信じてあげたかったけど、トリニティとゲヘナの地獄の様な惨状はユウカも少なからず知る所だった。

 だから、あまり下手に刺激はしたくなかった。

 

「答えろ、私達を呼んだのはお前か」

「そうよ」

「……あの話は、本当か?」

 

 後頭部に銃の発射口がゴツンと当たる。

 相手は多分、冷静じゃない。

 けど、それはそうだ。私だって、あの日覚悟を決める前に今私がしようとしている事をされたら、正直な所ブチ切れていた自信はある。

 けど、きっとそれじゃダメなんだ。

 それじゃ、いつまで経っても前に進まない。

 

 この世界は、先生が居なくなってからずっと足踏みしてるんだ。

 

「そうよ」

「なら、話せ。この状態でだ」

「駄目よ。貴方以外にも沢山人を呼んでるんだから、特別扱いは出来ないわ」

「……何だと?」

 

 少しの動揺を感じて、その隙にユウカは振り返った。

 

「っ! 止まれ!」

 

 そこにいたのは、白い制服を着たガスマスクを被った少女。……多分、トリニティの白州アズサだった。

 

「私に戦う意思は無いわ。なんなら銃を預けても良い」

「なら地面に落とせ」

「そうしたら銃を降ろしてくれる?」

「それは無理だ」

「そ」

 

 しかし、ユウカは銃を地面に落とした。

 アズサは一瞬驚いた顔をするも、すぐにその銃を遠くへと蹴り飛ばす。

 

「……何のつもりだ?」

「私の目的は、モモトークで伝えたつもりよ?」

「そもそも、何故私達の連絡先を知っていた」

「それは……ごめんね、どうしても伝えたい事があって……内には優秀なハッカーがいてそれで。あはは……」

 

 途端、この場に緊張が走って変化が起きた。

 アズサは銃を突き付けながら、もう片方の手でユウカへと掴みかかったのだ。

 

 

「その笑い方をするなッッ!!!」

「えっ、きゃあ!」

 

 押し倒され尻もちを着いて、ユウカの上に馬乗りになったアズサに、脳天へと銃を突きつけられる。

 しまった、とユウカは思った。今のキヴォトスに心の傷を負ったものはあまりにも多い。だから、この子の場合は恐らく、さっきの笑い方が何かの琴線に触れてしまったのだろう。

 それを感じて、ユウカはただ悲しそうな目をアズサへと向けた。

 

「目的を言え!! それが済めば貴様を殺してやる!!」

「待って、アズサっ! 話を……!」

「……っ、気安く私の名を呼ぶな!!」

 

 

「──待つんだ、アズサ。その行動は些か早計が過ぎる」

 

 

 絶体絶命。そんな中、執務室の扉から新たな人物が姿を表した。

 その声に、はっとアズサは冷静さを取り戻す。

 ユウカはひとまず助かった事に安堵して、そして新たな来客へと目をやった。

 

「──百合園セイア、よね?」

「……そう言う君は、ミレニアムセミナー所属の早瀬ユウカだね。ここへ呼んだ理由を聞いてもいいかい?」

 

 百合園セイア。

 トリニティを取りまとめる、3人のティーパーティーの内の1人。

 ユウカは、そんな大物がここまで来てくれた事に心の底から感謝した。もし、彼女を味方へと引き込む事が出来れば、それはミレニアムとトリニティの協定を組むことだって出来るかもしれなかったからだ。

 だから、ユウカは1つ咳払いして、

 

 

「もう少し待ってちょうだい。皆んな集まってから話したいの」

「…………」

 

 

 少し、時間が欲しいと提案した。

 それに、この状況は実の所些かまずかった。運が良ければこの後来るであろう人達の事も考えると、拘束されたこの状況はすぐに対処出来ないので色々と支障をきたしそうだった。

 

「……誰を待っているんだい?」

「……正直、どれだけの人が来るか分からないから……取り敢えず、開始時間までは待ちたいわ」

 

 セイアとユウカは時計を見た。アズサはユウカから目を離さない。

 現在時刻は朝の9時20分。集合時刻は10時を予定している。

 

「……ふぅ、どうやら早く来すぎた様だ。焦るばかりではいい事は無いようだね」

「1度落ち着かないかしら。コーヒー入れるわよ?」

「私は紅茶派だ。それに、ここにその様な設備がある様には思えないが……」

 

 その言葉に待ってましたと、ユウカはにっ! と笑う。

 当然、皆を呼びつけてただ話をするだけ何て寂しい事をしたくないユウカは、万全の準備を怠らなかった。

 

「ちゃんと持ってきたわよ! 皆でお茶しながら話そうと思って」

「……そんな状況かい? ミレニアムだってそう余裕はない筈だ」

 

「どんな状況だろうと、お茶を飲んで心を落ち着かせる時間は必要よ。心だって、気付かない内に擦り減るの。走り続けるなんて行為、ただの遅効性の毒よ」

「まあ、それには概ね同意する。……アズサ、彼女を離してやってくれ」

「でも……」

「頼むよ」

「…………」

 

 アズサは、セイアの言葉にようやくユウカの上から退いてくれた。

 その事にありがとうと告げると、アズサはガスマスク越しでも嫌な顔をしていると分かる位には不機嫌なオーラを出していた。

 アズサちゃんには、「あはは」って笑い方が駄目。よし、ちゃんと覚えた。

 これから私の生徒になる子だ。ちゃんと覚えて、ちゃんと接していかなければならない。

 いや、これは義務感何かじゃない。これは私が勝手にやってる事だから、正しくは“ちゃんと接していきたい”だ。

 

「今、お茶用意するわね。簡易なので申し訳ないけど……この中から選んでくれる?」

「毒が入っている」

「やめたまえアズサ。私の勘が大丈夫だと告げている」

 

 そして、私が差し出したビニール袋を受け取って中を覗いてがさごそと漁るセイア。その様子にアズサは不服そうな様子を見せて、しかしアズサの分も取り出したセイアが市販のレモンティーの袋をユウカに手渡した。

 

「あまりこういったものは嗜まないが……まぁ、レモンティーならそう不味くはならないだろう」

「お口に合うといいんだけど」

「まぁ、気にするな。出された分は頂こう」

 

 ユウカは2つ分のレモンティーのスティックを受け取って、後自分の分も取り出して持ってきたティーポットのもとへと向かう。

 そしてコンセントにコードを刺して、5本程持ってきた2Lペットボトルの水の内の1つを入れて、いざボタンを押す。

 ミレニアム製のティーポット。安くて便利な優れものだ。

 

「そうだ、今更だけど来てくれてありがとね!」

「……まぁ、あんな連絡が来れば気になるというものだ」

「けど、私は下手すれば誰も来ないかもって思ってたの」

「……私は、少しばかり勘が良いからね」

 

 コンセントの位置の都合上、地面に置かれたポットの前で正座して待つ私と、もの珍しそうに未だにビニール袋の中を漁っているセイア。

 上品さの究極みたいなセイアがコンビニ袋を漁っている姿は、何だか無性に可愛らしく見えた。

 

「今日、ここに来るべきだ。私の本能はそう告げた」

「勘が鋭いの?」

「ああ、それなりの精度を自負している。今のところ外した事は無いね」

「それなりどころじゃ無いじゃない……」

 

 けど、セイアのその言葉はユウカにとって朗報だった。それも、とてつもなく。

 セイアが今日、ここに来るべきだと思ったと言う事は、だ。

 

 それは、今ユウカがしようとしている事が間違っていないという事になる。

 

「ところで、何故ここはこんなにも荒れているんだ?」

「…………………てへ」

「き、君がやったのか? ……やはり、危険人物だったか……?」

「まま待って! お願い、必要なら後で全部説明するからっ!」

 

 セイアの言葉にチャキ、と銃を構えるアズサに慌てて手を振って否定する。いや、この惨状には正直否定も何も無いのだが、それでも多少の上場酌量は欲しいところだった。

 

「アズサ、降ろしてくれ」

「………」

「まぁ、今は時間を待つしかあるまいね」

 

 これまた不服そうな顔で銃を降ろすアズサ。

 かちっ、と音が鳴って、お湯が沸いた事を知らせてくれた。

 洗面台に並べていた陶器のコップから三つとり出して、スティックの粉を入れて、お湯を注ぐ。

 混ぜたら簡単、出来上がり。用意したのは三つともレモンティーで、1つ、2つ、そして3つ目を注ごうとして……

 

「待ってくれ」

「え?」

 

 突如、セイアから制止の声がかかる。

 その顔はどこか緊張した様な顔で、少し俯いているようにも見えた。

 その様子に、アズサは私を警戒し、私は何か失敗したかと内心焦る。

 

 そして、セイアは私の元へと近づき、ポットの前に座る私を見下ろしてこう言った。

 

 

 

「──その、やっぱりこっちが飲みたくなってしまったんだが……今更、駄目だろうか……」

 

 そう言って、しゅんとした顔で紫色のスティックを差し出すセイア。

 ミックスベリー。うん、おいしいよね。

 ちょっと申し訳なさそうな顔でソワソワとしているセイアを見て、ユウカは思わず笑って、

 

 

「勿論、良いわよ!」

 

 沢山あるしね、と言って、レモンティーの粉の入ったコップを横に置いて、新しい陶器のコップを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

「──悪くは無い。が、美味しくは無い」

「辛辣……」

「……おいしい、と、思う」

 

 結果発表。セイアからはキツめのお言葉を頂いて、逆にアズサからはフォローを貰うという不思議な光景がユウカの前に広がっていた。

 そして、セイアはふむ、やはりこちらの方が良かったか? いやこれも気になるな……といつの間にか手元にスティックを並べてにらめっこしていた。

 

「あんまり1日に飲みすぎるとあれだから……けど、何なら持って帰っても良いわよ」

「良いのかい? ……いや、それは流石にクレジットを支払おう」

「気にしないで良いわよ。コンビニの安物だし」

 

 ユウカも自分の紅茶を飲む。いつもはコーヒーばかりだけれど、たまにはこういうのも悪くない。

 にしたって、目の前に拡がるセイアの紅茶を嗜む姿は凄く絵になった。その様を見て、ユウカはこの世界もまだまだ捨てたものじゃないなと思う。

 

「9時38分……まだ時間はありそうだね」

「うん。良かったら、二人の事を教えてくれない?」

「お前は時間まで何も話さないのにか?」

「ごめん、例の件については集まるまで話したくないんだけど……でも、私個人の事なら何でも聞いていいわよ?」

 

 そう言って、アズサに笑顔を向けるユウカ。アズサはいざレモンティーを飲むとなってようやくガスマスクを外して、その可愛い顔をユウカは遂に拝む事が出来た。

 アズサは少し人の笑顔に弱いのか、すぐにユウカから目を逸らしてしまった。

 

「なら、話せる範囲で君がしようとしている事が聞きたいな」

「私の目的は、当然先生を見つける事。その為なら何だってするわ」

「ふむ、その為には私達の協力が必要……と?」

「それもそうなんだけど、正確には少し違くて……」

 

 

「ユウカ、来てやったぞ」

 

 その言葉に、誰よりも早く反応したのはやはりアズサだった。

 アズサはこの間も常に周りを警戒していた。しかし、自分のセンサーには何も引っかからずに目の前の女が自分の背後まで近づいた。

 下手すれば自分よりも手練。その相手に迷わずアズサは銃を突きつける。

 先に動きだしたのはアズサ。その筈なのに、互いの頭に銃を突きつけたのは2人ほぼ同時だった。

 

「んだよ、手癖の悪ぃガキが居んな」

「……ガキは貴方だろう」

「あ!? 誰がガキだって!?」

 

「待ちなさい、ネル! それとアズサも!」

 

 アズサと一触即発で睨み合うのは、他でもないミレニアム最強の美甘ネル。

 彼女にユウカは制止の言葉をかけて、そして無理やり二人の間に割り込んだ。

 

「この部屋で発砲禁止! ネルも、トビラに張り紙あったの見たでしょ!?」

「知らねぇよ。それに何でタメ口かつ呼び捨てしてんだお前は。先輩舐めんなよ」

 

 そう言って、若干切れた様子でしかし銃は降ろしてくれるネルを見て、ユウカはひとまず安堵の息を漏らした。

 アズサは未だに警戒しているが、無闇に発砲する様子は無さそうだ。

 だから、ひとまずこの状況の説明を先にする。

 

 

「ネルはもう私の先輩じゃ無いからよ」

「どういう解釈したらそうなんだ。ケンカ売ってんのか?」

「だって、私は先生だもの」

 

「……あ?」

「……なに?」

「……ふむ」

 

 チャキ、と再び銃を構える音がする。この結果に、ユウカは流石に言葉を間違えた気をしなくもなかったが、それでももう吐いたからには引き返せないだろうと腹を括った。

 どの道早いか遅いかだ。

 

「──やっぱケンカ売ってたみてぇだな」

「今だけは同意する。笑えない冗談だ」

 

 前後からネル、アズサに銃を突きつけられる。セイアは黙って見ているだけで、今度はアズサを止めようとしない。

 ここが、正念場だ。

 

 

「──私ね、この部屋で首を吊って死のうとしたの」

「あ……?」

「…………」

「……ふむ」

 

 ひとまず、これで時間は稼げたと思う。少なくとも、耳を傾ける冷静さは与える事が出来たんじゃ無いかと思う。

 

「けど、色々あって失敗して……それでね、多分、私にはもっとやるべき事が残ってて、死んでる場合じゃないって思ったの」

「……………………」

 

 3人は、何も喋らない。当然だと思う。

 この世界に今生きている人は、きっと皆浅くない傷を負ってる。

 だから、皆が痛みを知っている。

 痛みには、より敏感になってしまってる。

 

「あの時の自殺を選んじゃう様な弱い私は、ここで死んだの」

「………………」

「それで、昔の私は全部捨て去って、新しい自分になることを決めたの。もう誰にも遠慮しない。私がなりたいもの──」

 

 

「大人に、先生になるって決めたの」

 

 

 ユウカは、真っ直ぐとネルの目を見つめた。

 そこに、一切の後悔も迷いも弱さも無かった。

 しばらく見つめ合う二人。けど、“彼女”が折れるのは存外早かった。

 

 

「……見た事ねぇくらい強ぇ覚悟だ」

 

 銃を降ろして、ネルはにっ、と笑った。後ろのアズサも、銃を降ろしてくれた気配がする。

 何とか上手くいった。先生なら多分、やめて! の一言でこの場を収めたに違いない。

 目標は、遠い。それでも、前しか見ないと決めた私はいつかはそこにたどり着くだろう。

 そう、信じている。

 

「はぁ。……あたしにも茶用意しろよ」

「レモンティーでいい?」

「いいけど、こんなにあるんなら選ばせろよ……」

「すまない……」

「あ? 何でおめーが謝んだよ」

 

 ユウカはまだお湯が暖かい事を確認して、埃が入らないようにティッシュを被せていたコップにお湯を注ぐ。

 そして、ネルに紅茶を出して着席を促した。

 これで、3人。誰も来ない事を覚悟していたユウカにとっては正直快挙でしか無かった。

 

 すると、どこかからドタドタと走り回る音が聞こえてきた。

 アズサは警戒するが、先程の様に急に現れるよりかはまだマシなようだ。

 敵襲ならユウカも溜まったものでは無いが、こんなにあからさまな襲撃もそう無いだろう。

 どんどん集まりつつある生徒達に、ユウカは胸を踊らせる。

 そして、ネルが開けっ放しにしていた扉を勢いよく潜って、

 

 

「──皆様っ!!百鬼夜行紛争調停委員会、委員長の勘解由小路ユカリっ! ここに参・上ですわ〜っ!!」

「ぅあ〜! まってよぉ委員長どの〜!」

 

 

 笑顔で、明るく名乗りをあげるは百鬼夜行の勘解由小路ユカリ。

 そして、その後を追いかけてくるのは忍術研究部の千鳥ミチルだった。

 ユウカはどちらも初対面。それでも、こうして駆けつけてくれた2人を当然笑顔で歓迎した。

 

「いらっしゃい。私が皆を呼んだ早瀬ユウカよ」

「先生の手がかりが見つかったと言うのは本当なんですの!? 身共は、身共は先生に大きな恩がありますので、こうして疾く駆けつけた次第でございます!」

「あ、えと、はは、ありがと……」

「みちぅはね、委員長どののごぇいだよっ!」

 

 触れ合いそうなくらい詰め寄って、すぐ目の前で話すユカリの圧に気圧されながらもユウカは一歩も引かなかった。

 そして、気づく。明るく振舞っているように見えるが、二人とも目の下のクマが凄かった。

 

「えっと、話し始めるのはもう少し待ちたいんだけど……二人とも、ちゃんと寝てるかしら?」

「大丈夫ですわ! 今はそれどころでは御座いませんので!」

「良くないわよ……、話が終わったら、ここで少し仮眠していって」

「し、忍たるものひとまぇで寝る訳にはぁ……」

 

 そういう2人の様子に、ヒマリもそうだったなと思い出す。

 この子達も、今まで走り続けてきたタチだろう。無理やりにでも寝かせるべきだと、ユウカは今心に決めた。

 やっぱり、分かってはいたけどあまりにも無茶をする人が多すぎる。こんな世界では仕方の無いことなのかもしれないけど、そうまでして子供が背負うべきことはこの世界にはどこにも無い。

 

 そして、

 

 

「……うへ、随分とにぎやかだね」

「貴方は……」

 

 小鳥遊ホシノ。

 部屋の入口に立ち、長かった髪をバッサリと切って、口調こそ明るく振舞おうしてはいるがそのオッドアイの瞳には冷たさした残されていなかった。

 

「……これ、どういう人選?」

「先生の事を知る生徒達には片っ端から声をかけたわ」

 

 ユウカは、時計を見る。

 時刻は9時58分。もういい頃合なのかもしれない。

 それに、これだけ集まってくれたなら、最初の一手としても充分だろう。あの先生がこのキヴォトスに来た日だって、先生が指揮したのは最初は4人だった。

 ここから、信頼を勝ち取っていけば──

 

 

「ユウカ、聞かなければいけないことがある」

「……? 何かしら、セイア」

 

 セイアは紅茶を飲みきって、座りながらも体はこちらへと向けていた。

 その顔は真剣で、先程までの穏やかだった様子はすっかり消えてしまっている。

 

「君は各学園の生徒に協力を仰いだ」

「そうよ」

 

 

「それは──ゲヘナもかい?」

「それは───」

 

 もちろん、ユウカは先生を知るゲヘナ生全員にも連絡を行っていた。

 トリニティとの関係性を考えれば、きっとそれはあまり良くないのだろう。

 けれど、ユウカはどちらかを特別視するとか、どちらかを呼ばないとか、そんなことをしたくなかった。

 それは、私の知る先生は絶対にそんな事をしないから。

 だから、

 

 

「──邪魔するわよ」

 

 その人が現れた瞬間、比較的まだ穏やかだった部屋の空気が一瞬で凍りついた。

 ユウカは、まずい、と思う。けれど、ユウカが何かを言う前にアズサは動き出し最後に現れたその人物を“本気”で殺す為に襲いかかった。

 

 

「──ゲヘナァッッ!!!」

「……鬱陶しいわね」

 

 アズサが有無を言わさず乱射しながら近づくが、現れたゲヘナ生は軽い挙動で全ての銃弾を避けた。そして、間髪入れず体を捻ってアズサの銃をすくい上げるように蹴り飛ばす。

 当然、その程度で武器を手放すアズサでは無い。しかし、蹴られた反動でどうしたって上に仰け反ってしまう。

 そして、アズサの放つ銃弾が天井に1列の跡を描きながら……ゲヘナ生は無防備なアズサの顎へと、再び打ち上げるように1発の蹴りを放った。

 

 

「がはっ──」

「弱いわね」

 

 ドサッ、と地面に叩きつけられるアズサ。ここまで、僅か3秒。

 打ち上げられ、そして受け身も取れず落下し身動きの取れないアズサに、そのゲヘナ生は愛銃「ワインレッド・アドマイアー」を構えた。

 何時でも発砲出来るように──しかし、以外にもそれを止めたのは

 

 

「随分やるようになったね、アルちゃん」

「──貴方に褒められると、そう悪い気はしないわね」

 

 

 アズサに銃を突き付けるのは、便利屋68社長の陸八魔アル。

 そして、そのアルに銃を突き付けるホシノの姿があった。

 均衡状態。どちらかが引き金を引けばどちらも容赦はしないだろう。

 ここが戦場になる。それを止められるのは──ユウカしかいなかった。

 

「ストーップ! 発砲禁止! 皆扉の張り紙見てないのかしら!?」

「あら? 私はまだ撃ってないわよ?」

「撃とうとするのも禁止! はい、終わり終わり!」

 

 そう間に割って入ろうとするユウカに、しかしアルはそれを良しとはしなかった。

 アルは懐から──「デモンズロア」を取り出しユウカへと突きつけた。

 

 

 それは──カヨコの愛銃だった。

 

 

「私はここに話を聞きに来ただけよ。別に今のままでもいいんじゃないかしら? ──私たちに、仲良しこよしは不要よ」

 

 既にセーフを外された拳銃。

 其れがユウカに突きつけられ、何時でも放たんとされていた。

 しかし、ユウカはそれよりも遥かにある物が気になった。

 ユウカが知る限り、彼女はそんなものをしていなかつたはずで──

 

 

「あなた、その眼帯……」

「…………これは、私への罰よ」

 

 その痛ましい右目の眼帯に、ユウカは涙が出そうになった。

 アルはきっと、傷付き、傷付け、どうしようもないくらい疑心暗鬼になってしまっている。

 ……カヨコの拳銃を持っている理由だって、私はもう聞きたくなかった。

 それは、嫌なくらいに想像がつくから。

 でも、ユウカはそれでも、先生になると決めたから。

 

 だから、突きつけられた銃を前にして、それでも一歩を踏み出した。

 

 

「撃ちなさい」

「…………」

 

 撃ちたくば撃てと。

 殺したければ殺せと。

 ユウカは真っ直ぐと、アルから絶対に目を逸らさない。

 

「…撃てないとでも?」

「正確には、貴方は撃たない方がいい事を知ってるから」

「…………」

 

 ユウカは、確信があった。

 ここに集まるのは、紛れもない精鋭達。今まで各自治区で先生の捜索に全力を尽くし、しかし叶わず、藁をも掴む思いでここシャーレへと足を運んだもの達だ。

 当然、罠を疑わなかった者がこの場にいる筈がない。

 ……いや、少しユカリとミチルは勢いのまま走ってきた気もするが……、それでも、その他のメンツは恐らく「罠であっても問題ない」と判断した各学園の最強たちだ。

 

 だから、ユウカはここに集まる人達が、状況も把握しない中でそんな馬鹿な真似をしないと確信している。

 アズサは、その憎しみから冷静さを失ってしまった。けれど、きっともう大丈夫だ。

 

「この中で例の情報を握っているのは私だけ。私が死ねば、唯一残された手がかりがまた消えてしまう」

「…………」

「貴方はきっとそれをわかってる。だから撃たない。その証拠に、銃を撃ったアズサにさえ貴方はまだ一度も発砲していない」

「…………」

 

 アルは黙って、それでもまだ拳銃は下ろさない。

 その瞳は険しく、眉間にシワがよっている。

 よくよく見れば、プルプルと小刻みに揺れているような気がした。

 相当怒っているのだろう。ユウカは、何とか銃を降ろしてもらえないかと考えた。

 

 けど、実際は違った。

 

 

 

 

「(な、なんですって────ッ!)」

 

 

 

 

 

 アルは、戦場をくぐり抜け、多くの物を失い、代わりに圧倒的な強さを手に入れたが……それでも、変わらない部分は変わらなかった。

 アズサに向けて撃たなかったのは単純にその必要がなかったのと、自分の持つライフルでは近距離には向かないから。

 拳銃だって、普段からそうホイホイ取り出すものでは無い。

 これは、アルの……仲間の、形見だから。

 

 しかし、今更スっと下げることも叶わず、ユウカを更に睨みつける。

 もうちょっと、もうちょっと頑張って。後ちょっと、ここで銃を降ろしてもカッコ悪くならない理由をちょうだい。もうすぐに乗っかるから。

 

 アルは、その胸中を誤魔化す様にどんどん顔が険しくなる。

 ムツキがいたならば、この様子をきっと笑っていただろう。

 けど、彼女ももう居ない。だから、等身大のアルの姿を理解してくれる人は、もう、この世界には居なかった。

 

「皆も、いい? もし、これ以上誰かが1度でも発砲、いや、傷つける行為をしたなら……その場で私は死んでやるわ」

「ほぉ……」

「ふむ」

「そう言われれば仕方が無いわね」

 

 ユウカの中の覚悟を見たネルとセイアは声を漏らし、アルはその言葉に一も二もなく乗った。

 アズサはアルの下げられた銃を見て動こうとするが、しかしホシノが今度はアズサへと銃を突き付ける。

 

「大人しくしててね」

「…………っ」

 

 1人に暴れられて、手がかりを失っては迷惑が過ぎる。

 アズサが大人しくなったのを確認して、ホシノはその銃を降ろした。

 

「はぁー、良かったぁ……、…よし! じゃあ時間も過ぎちゃったし、始めたいと思うんだけど……!」

 

 

 ユウカは見渡した。

 

 セイア

 アズサ

 ネル

 ユカリ

 ミチル

 ホシノ

 アル

 

 

 ユウカは嬉しくなった。これが、ヒマリに続くユウカの第二歩目だ。

 緊張した面持ちでユウカの事を見る皆へと、一人一人視線を持っていく。

 

 疑惑

 不信

 期待

 焦り

 後悔

 冷酷

 覚悟

 

 それぞれが携える思いを、ユウカは真正面から受け止める。

 そして、言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──この中から好きなの選んで! まずはお茶にしましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

「──それでは第1回、全自治区統合先生捜索会議を始めます!!」

 

 高らかに宣言したユウカに拍手が送られた。

 ユカリ。以上。

 

 その他は良いから話せと言わんばかりに、少なからず鋭い視線を向けていた。

 ユウカが机の前のホワイトボード(がらくた)の横に立ち、そして机を囲むように……いや、囲んでいるのも数名だった。

 せっかくユウカが用意した椅子に座っているのは、これまたユカリとミチル、そしてセイアの3人だけ。

 ホシノとネル、そしてアズサは何時でも動けるように立ち、アルは入口の横の壁にもたれながら腕を組んでいた。アルに関しては実はカッコイイからというだけの理由だが、その様子を注意深く見るアズサの警戒は異常と言って良いほどだった。

 

「お願いしますわ! ユウカさん!」

「ようやくだね。聞かせてもらえるかな?」

 

 ユカリとセイアに促されて、ユウカは一度うん、とうなづいた。

 まるで、生徒に授業でもしているかのような感覚。状況は些か逼迫しているが、思ったより悪くないかもしれない。

 

「先に言っておきたいんだけど……」

「まだ勿体ぶるのか?」

「いや、そういうつもりじゃなくて……ホントに、なんて言うか、みんなが思ってるものとは多分違うというか……」

「勿体ぶってるじゃない」

「えっと! はぁ? って思うかもしれないけど、取り敢えず最後まで話は聞いて欲しいの! じゃあ言うわね!」

 

 コホン、と咳払いしてユウカは懐から例のものを取り出した。

 あの、黒い封筒に白い亀裂の走ったものだ。

 それを見て、1番に声を上げたのは

 

 

「それは──ッ!」

「えっ?」

 

 ホシノが銃を構えた。冷静にアルとアズサの戦闘を止めようとしてくれていた彼女が、ここに来て何故。

 考えられるとすれば、この封筒。それを見た途端冷静さを欠いたたホシノに、ユウカは流石に戸惑った。

 

「お前ッ! それをどこで手に入れた!」

「ま、まって、話すから銃をおろして」

「…………っ」

「はぁ、もう……わかったわよ……」

 

 微動だにしないホシノを見て、先に自分が話すしかないと思い至る。

 そして、ユウカは封筒の中から例の紙を1枚、取り出しながら話した。

 

「私はミレニアムの特異現象操作部で、先生捜索に関する過去の情報を漁っていたの。そしたら、中にこの封筒が紛れているのを偶然見つけたの」

「報告書にしてはあまり適さない見た目をしているが……」

「そうね。それと、中に書いてある事を合わせても正直意味の分からないものよ」

 

 そして、かろうじて立っているホワイトボードにその紙を貼り付けた。

 小さい文字に、後ろにいた人達も見える位置まで寄ってくる。

 アルだけが、その場を動かずに固まっていた。遠くに陣取ったのにいざ前に行くのがカッコ悪かったからだ。とはいえ、スナイパーで鍛えられた彼女の視力をもってすればかろうじてぼやっと見ることは出来た。

 

 

 

 

 

「協力しなさい─────先生より」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 

 

 反応は、当然の如く芳しくなかった。

 今にもこんな事で呼んだのかとでも言いたげな顔の数々に、ユウカは想像した通りの反応に思わずぐっ、と言葉に詰まった。

 

 

「……ただの、イタズラでは無いのかい?」

「それでも、私は少しでも可能性があるなら……」

「……うへ、それ、イタズラじゃないよ」

「え?」

 

 

 ホシノの言葉に、全員がホシノへと視線を向ける。

 ユウカは最初それが擁護の言葉だと思った。けれど、その顔を見て直ぐに違うと思った。

 

 

「──それは、罠だよ」

 

 彼女の顔は、今にも人を殺しそうなくらいに凶悪で、まるで鬼のような顔をしていた。

 

「ユウカちゃんは、その封筒の送り主を知らないんだよね?」

「え、あ、うん。書類の中に紛れていただけだから……」

「たぶん、私は知ってる。その趣味の悪い見た目を連想するような、悪ーい大人を知ってるんだよ」

 

 ホシノはつかつかと、ホワイトボードへと歩み寄る。

 そして、ホワイトボードの紙をとって……破りさいた。

 

「──あ、ちょっと!?」

「……これは忠告だよ、ユウカちゃん。これを信用したら、きっと後悔する」

「……理由を教えてもらってもいいかしら?」

「実体験だよ。それ以上は言えないかな〜」

 

 じゃあね、と去って行こうとするホシノ。

 止めなければ、と思う。彼女の“協力”は、絶対に必要だと思ったからだ。

 

「待って!」

「うへ、まだ何かあるの?」

「……私は、先生になるわ」

「…………」

 

 沈黙が、ユウカを貫く。先程聞いたセイア、アズサ、ネルはその覚悟を知っているが、その他はまだ知らない。

 ユカリとミチルは驚いたような顔をして、ホシノとアルは──殺すかどうか考えているような、そんな目をしていた。

 

「当然、それは先生を見つけるまでの間。それまでは、私が皆を導くと決めたの」

「そ、勝手にやってよ。アビドスは……って、もう私一人しかいないけど……これには付き合ってらんないかな」

「私はやってみせるわ。先生の代わりに皆を纏めて、皆で先生を迎えに行くの。その為なら何だってするわ」

「…………」

 

 その言葉に、結局ホシノは何も返すこと無く去っていった。

 残念だが、今はまだ仕方が無い。また、今度会いに行こう。ユウカはそう決めて、とりあえず今いる人達に向き直った。

 

「えっと、それで……」

「流石にこれだけの情報で動こうとは、私は思えないね」

「そもそも内容が理解できない。何をどう協力するんだ」

「正直身共はがっかりですわ……」

「これてがかりってぃうのぉ?」

「ふん、興ざめかしら」

「うぅ……」

 

 ユウカは少し折れかける。けれど、直ぐに取り戻す。

 この程度は全然予想の範疇だ。それこそ、本当にここが戦場になる覚悟だってしてきたのだから。

 

「けど、根拠もひとつあるわよ!」

「ほう、聞かせてくれたまえ」

「それはもちろん、セイアよ!」

「……私の勘が働いたから、この情報はいいものだ。そう言いたいのかい?」

「まさしくそうよ!」

 

 ビシッ、と指を突き付けるユウカに対し、はぁと溜息をつくセイア。

 

「恐らくその根拠に納得できるのは、この場で私とアズサくらいのものだろう。それに、君は私の能力を最初知っていたようには見えなかったが?」

「それは、そうね」

「なら、君がこの手紙に従おうと思った時は、まだその根拠は通用しない筈だ。何を持って君は、この危ない橋を渡ろうと思ったんだい?」

 

 セイアの言葉は、よく的を得ている。さすが、あの巨大なトリニティを纏めただけの手腕はあると思えた。

 けれど、それは今この場においてはユウカを追い詰めた。けれど、それで諦めるユウカでは無い。彼女を味方に出来れば、これほど心強いことも無いだろう。

 

「……あの、赤い空の日のことを覚えているかしら」

「…ああ」

 

 あの赤い空の日の事。最初、連邦生徒会から高次元エネルギーが観測されると緊急招集を受けた各自地区の代表達。

 

「ミレニアムは色々会って、参加出来なかったけれど……最初、皆はその話を真剣に受け取らなかったと聞いてるわ」

「それは事実だろうね。正直、話し合いにすらならなかったと記憶している」

「けれど、結局危惧していた事は起こった」

「だから、今回の様な得体の知れない些細な事にも手を伸ばすべきだと? ……気持ちは分かるが、皆を率いる立場としてはそれには賛同しかねるね」

 

 セイアは椅子を立った。

 当然、それを見てアズサも彼女に続く。

 

「悪いね。もしかしたら勘が鈍ったのかもしれない」

「いいえ。貴方は自信を持って。……私が、絶対に意味のあるものにしてみせるから」

「根拠は?」

「ただの信じたい気持ちよ」

「……そうか」

 

 セイアは思い出す。先生と夢の中で話した、キヴォトスに伝わる7つの古則の5つ目。

 楽園証明。その答えを、先生はただ信じる事という結論を私に提示した。

 

 目の前の少女に、それと似た何かを感じた。

 それでも、セイアはまだ今は信用は出来ないと、その歩みを出口へと動かした。

 

「ではね。お茶、美味しかったよ……行こう、アズサ」

「了解」

 

 去っていく。こればっかりは仕方が無い。

 

「……み、身共達も……」

「うぅ、きまずぃ〜。で、でもでも流石にこれはぁ……」

「……はぁ、まあ、仕方ないわね。今日の所は解散にしましょうか」

 

 そう言って、ユウカは手を叩いて解散を宣言する。

 ぞろぞろと帰ろうとする中、しかしユウカはユカリとミチルを呼び止めた。

 

「あ、ユカリとミチルは残って」

「へ? な、何か粗相致しましたでしょうか?」

「 な、なにぃ?」

 

 

「2人には、今から寝てもらいます」

 

 ゴゴゴ、とさえ聞こえてきそうなユウカの圧に、思わず後ずさりする2人。

 しかしユウカは逃がさない。先程絶対に寝かすと心に決めたからだ。

 

「な、何を!? 身共はこれでも忙しい身で……!」

「クマを見ればわかるわよ。それと、無茶し過ぎなことも」

「私たちは、私たちのやるべき事をしているだけで……!」

「それが、知らない内にあなた達の許容を超えてるの。それに、この集まりはその為でもあるんだから」

「どーゆぅこと?」

 

「あなた達の背負っている物を、少しでも分けて欲しいの。そして、みんなで支え合うの」

 

 それが、協力だから。

 それが、ユウカが今したい事だから。

 

 

「それは……できません」

 

 しかし、阻まれる。ユカリだって、多くの物を失ってきたのだろう。ミチルだってそうだ。そう簡単には人を信用出来ない。

 それは、ユウカだって分かっている。

 

「いいわ。すぐに信用して貰えるとも思ってないし」

「……そうですか」

「それはそれとして寝ていっては貰うけど」

「そこは強制なのぉ!?」

 

 2人の首根っこを掴んで、シャーレの執務室に併設している寝室……、先生がよく使っていた部屋へと上がり込む。ここは綺麗なものだ。ユウカが破壊し尽くしたのは執務室だけ。

 

「おい、ユウカ」

「? どうしたの、ネル」

「……」

 

 そんなユウカに、声をかけるネル。

 その顔は、何か先輩って顔だった。

 

「お前こそ、あんま背負いすぎんな」

「ネル……」

「C&Cはもう解散しちまったが……元々セミナー直属の組織だったしな。ユウカの頼みなら多少は聞いてやるよ」

「…………」

 

 ネルのその言葉を聞いて、ユウカはパッと2人を離した。

 

「きゃあっ!」

「ぐえっ」

「おいおい……」

 

 カエルの鳴き声のような声を漏らしながら尻もちを着く2人に申し訳ないとは思いつつ、ユウカは駆け出してネルに抱きついた。

 

「ありがと〜! ネルっ!!」

「なっ、ちょ! 抱きつくなっ!」

 

 頬を赤くしながら照れるネルに、ユウカは頬擦りなんかまでして親愛を示す。今しがた上手くいかなかった事もあって、かけられた優しい言葉にユウカは感無量だった。

 

「そろり……」

「そろり……そろり……」

「あ! そこ逃げない!」

「ひょえっ」

「逃げますわよみちう様!」

 

 しかしすぐに再び首根っこを掴まれる2人。そして寝室に嫌だ嫌だと叫びながら連行される姿を見て、ネルは

 

 

「──ははっ」

 

 

 

 

 

 本当に、久しぶりに笑顔を零すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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