けど、個人的にはまだ「ありそう」な話になった気がするよ!
はァ〜っ、何か奇跡起きてYostarの社員がオイラの変態性を見初めて雇って来んねぇーかなぁーー! チラッ
言ってくれたら会社辞めるんだけどなァーー! チラッ
年収200万でも全然いいんだけどなァーーっ! チラッ
冗談です(嘘では無いです)
というわけでユウカの太ももがミレニアムプライス金賞とる話です。
圧倒的ネタバレじゃんね。
時は年末。
外はしんしんと雪が降り積もり、カンナは喜び庭駆け回り、カズサはこたつで丸くなる。そんな季節。
ある者は家族とゆったりすごしたり、年越しそばを食べたりあけましておめでとうなんて言い合って笑ったり。
ここミレニアムにも、そんな平穏な一時が例外なくあった。
外にはカマクラとか雪だるまなんかが作ってあって、年を越す際はこたつに入って身を寄せ合いながらみかんを食べたりお蕎麦を食べたり。
しかし同時に、この季節はミレニアムを多いに盛り上がらせる一大イベントがあった。
そう、それは──
『年末! 特番! 冬のミレニアムプライス〜!!』
「あ、ほら皆! 始まるよ!!」
「お姉ちゃん、うるさい」
「はぅ……暖かい……」
「コユキちゃん、お蕎麦運ぶの手伝って貰えませんか?」
「えーーっ、 何で私がー?」
「いいから、ほらコタツから出て。私も手伝ってあげるから」
「これはこれは、みなさんもうお集まりのようで。この天才病弱美少女ハッカーの明星ヒマリが万を治してここに参上致しましたよ──」
「うーん、なんかここ、暑くない?」
「相変わらずだね部長とエイミは」
「先生は今シャーレに帰ってきたみたい」
「ちょっ、コタマ先輩ナチュラルに盗聴しないで!?」
「先生もこっち来てくれたら良かったのに……」
「おお、美味しそうなお蕎麦だね。ありがとうノア」
「ウタハ先輩、もうちょっと詰めて」
「説明しましょう! ミレニアムには年末に冬季ミレニアムプライスが存在し、その結果を知らせる特番を皆と見ながら年を越そうというセミナー発の楽しい企画にお呼ばれしたわけです!!!」
「コトリ、誰に説明してるの?」
「分かりません!ですが何となくした方がいい気がしまして!」
「うふふ、世を統べる全知の私には分かります。電波というやつですね」
「はいはい全知全知」
年末正月年越し特番、冬のミレニアムプライス。
毎年恒例のこの企画に、しかし今年は本当に色々とあって。
あの赤い空の事件以降、皆の結束はそれは強く固まった。
その結果、
エンジニア部が、
ゲーム開発部が、
ヴェリタスが、
特異現象捜査部が、
C&Cが、
そしてセミナーが。
皆でこたつ囲みながらお蕎麦を食べて、この年末の特番を見ながら年を越す。
残念ながら先生はミレニアムで独占する訳には行かないということで一緒に過ごす事は叶わなかったけれど、それでもそんな平穏で暖かな年末が今ここに実現されていた。
あの仲の悪い特異現象捜査部とセミナーが同じ部屋でまったりと過ごすこの空間。大分異例の事ではあったが、存外平穏な空気に話だけは後で聞いた先生もこれにはにっこり。
「うーさむ。おい、買い出し終わったぞ」
「みんなーっ! ただいまー!」
「ふぅ、ここは暖かくていいな」
「うふふ、ただいま戻りました」
「C&Cとの共同任務、完了しました!アリスはレベルアップしました! パンパカパーン!」
「どうも皆さん。ピースピース」
「うふふ、皆さんお帰りなさい。ありがとうございます。お荷物お預かりしますね」
「おう、サンキュ。はー、腹減ったー」
買い出しから帰ってきたC&Cとアリスは冷えた身体を暖かい部屋で温めながら、駆け寄ってきたノアとユウカに荷物を渡してコートを脱ぐ。
C&Cはセミナー専属の特務部隊。
あまりこういった和気あいあいとした場には慣れてはいなかったが、それでも誘われて嫌な気がする筈もなく、そしてアスナとトキの圧倒的な賛成とお願いによって参加する事となった。
「モモイミドリユズ! 聞いてください! アリス達、お買い物中に先生と出会っちゃいました!」
「うぇ!? ホント!? うわぁーん、それなら私も行けば良かったーーっ!」
「ちょっと、アリスちゃん! コタツに入る前に手を洗ってきて!」
ユウカに叱られてトテトテと洗面所へと歩いていくアリス。
それらを見て、誰もが認める最高で至高であるヒマリは思った。
こんな日が来ると、一体誰が予想しただろうか。
こればっかりは全知ですら分からなかった。
何せ、この騒がしい場所にいることに本人が一番驚いているのだから。
けれど、決してそれは不快な事では無い。この光景は自分の想像を超えた、いわば奇跡の上に成り立つ様なものでこれには全知も自然と笑顔になった。
「まぁ、こういうのもたまには悪くないですね」
「ヒマリは素直じゃないね」
元々ヒマリが所属していたヴェリタスの副部長、チヒロはそう言った。
二人はよく知った間柄。ちょっとした胸の内くらいならすぐに分かる。
「そんな事はありませんよ? 私は常にミステリアスな部分を演出する為に、時に孤高に、時に輪の中の中心で。しかしいつだって華麗に優雅に踊っているだけです」
「流石全知だな。恐れ入るよ」
「真面目に聞かない方がいいよ」
そして、現在最もヒマリと一緒にいることが多いエイミにも、何となくヒマリは舐められていた。
しかし全知はその気安さすら自分が演じる事で相手に抱かせているものだと信じていた。
無敵。そうそれは全知ゆえに。
「失礼ですね。……ところで、やはりあの元ビッグシスターは来ないのですか? いえ、来て欲しいとかそんな事は天地がひっくり返っても有り得ない話なのですが、これだけ人数が多いと一人くらい増えても気が付かないので。別にいらしゃっても私は構わなかったのですが」
「急に早口になった」
「何ですか? 何が言いたいのですかエイミ? 全く、今日は私がミレニアムプライスで金賞を取る歴史的な日なのです。その光景をあの下水道を流れる水に見せてあげれば多少は浄化されるかと思いまして。……あら、このお蕎麦美味しいですね」
「お褒めに与り光栄ね」
「」
背後から聞こえた声に、ヒマリは固まった。
その声は当然聞き覚えのあるもので、ヒマリにとってそれは一度耳を通れば粘着的にこびりつく、まるで下水道のフィルターに詰まるネトネトした何か汚いものの様だった。
「あーっ! リオ会長です! わーい!」
「やめてちょうだいアリス。今はもう会長ではないわ」
「い、いらしていたのですか……? そ、そうですか、まあ……え、これリオが作ったのですか?」
「ええ、そうよ。セミナーから正式に依頼を頂いたの。今私は料理人としてここにいるわ。お口にあったようでなによりよ」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
「知らなかったとはいえ部長がリオ先輩を褒めちゃった」
「そしてすごい顔してる」
「リオ先輩! こっちです! 隣で一緒にミレニアムプライスの結果を見ましょう!」
「あら……中華蕎麦を作り終えたら帰ろうと思っていたのだけれど」
「まあまあ。いいじゃないですか会長。予定がないのならゆっくりして行ってください」
「ノア……。い、いいのかしら……」
「アリスはリオ先輩と一緒にいたいです!」
「……ふん! アリスもこういっている事ですし、良いのではないですか!?」
「……そう。じゃあ、お邪魔させて貰うわ」
「す、凄い……こんな日が来るなんて……!」
「うふふ♪人生何があるか分かりませんね?」
かくして、ミレニアムの前線を走る精鋭達はここに集まった。
みんなで中華蕎麦を啜って、約一名除くもののこたつで温まりながらミレニアムプライスの結果を見る。
ここにいる誰もが、こんな時間がずっと続けばいいと思った。
そんな願いは物理的にどう足掻いても叶わないだろうが、そう願う人達が集まっていることがそれその時点で奇跡なのである。
『さーさーやっていきましょう冬のミレニアムプライス! 今年はねぇ、凄いですよ本当に!』
『期待が高まりますね、何でもとんでもない作品が幾つかあるとか』
『それはもう! ミレニアムだけでなくキヴォトス全土を揺るがすくらいの作品達が勢揃い!』
『この番組はキヴォトス全土に放送されますから、本当に今日が歴史を動かす日になるかもしれませんね』
テレビの前で、解説と進行の二人のロボット人間が明るく元気に放送している。
いよいよ始まる、冬のミレニアムプライス。ここにいる皆が、それぞれこの日を見据えて準備してきたのだ。
「おお……! 始まる始まる! ドキドキするぅっ!」
「わ、わたし達のゲーム、大丈夫かな……?」
「ここにいる人って全員出品してるの?」
「あたしらはしてねーよ。そういう部活でもねぇし」
チヒロの質問にそう答えて、ネルは机の上の自分たちが買ってきたミカンへと手を伸ばした。
しかしすぐにそれをアカネが横から奪いとって、剥いたミカンをネルへと餌付けし始めた。
当然ネルはその手をたたき落とした。
「私もしていないわ。もうその道は絶たれたから」
「当然です。どんな顔して出品するんですか貴方は」
「まあまあ二人とも……」
「始まりますっ!! 10位からです! わくわく!」
リオとヒマリの一方的な諍いを二人共をよく知るエイミが宥めながら、リオの隣に座るアリスがミレニアムプライスの開幕を告げる。
『それでは第10位の発表です!』
『お願いします!』
じゃらららららららららら
「ドキドキ」
「そわそわ」
「うふふふ」
ドラムロールがなる。
この場にいる全員に緊張が走り、蕎麦を啜る手がつい止まる。
そして、明かされるその結果は──!
『第10位! ゲーム開発部より、「テイルズサガクロニクル3」でーす!!』
『おめでとうございまーす!』
「や」
「や、」
「や……」
「や!」
「「「「やった〜〜〜!!!」」」」
こたつを飛び出して抱きしめあうゲーム開発部の面々。
報われた。締切一週間前から慌てて製作を始めたデスマーチの日々。
絶対に無理だと思った。不可能だと思った。
しかし結果は、前回のような特別賞でもなく見事ランクイン。
小さな少女たちが抱きしめ合う姿にこれにはみんなもほっこり。
お前らあのゲームどれだけ擦るんだと無粋なことを言う人はここにはいなかった。
「やい! 冷酷な算術使い! ちゃんと結果出したよ! 部費ぶひブヒ!」
「も、もう、わかってるわよ……、ていうかいつも言ってるじゃない! ちゃんと結果を出せばちゃんと評価するわよ!」
「うぅ、良かったよ、うう……」
「ふふ、先生も褒めてくれるかな?」
「ゲーム開発部、クエストコンプリートです!! ……リオ先輩、褒めてくださいっ!」
「凄いわ、アリス。貴方は私の誇りよ」
「えへへ〜」
「ずるいです。リオ様、私も私も」
『テイルズサガクロニクルは1がクソゲー部門金賞を受賞し、2が前回のミレニアムプライスで特別賞を受賞した歴史ある作品ですからね』
『今回の3は勇者と魔王が仲間というあまり見ない作品でしたが、これ私もプレイしたんですが二人の共闘が中々に熱かったです』
『ネタバレは程々に! この放送を見ているまだ未プレイの方は是非! プレイしてください、という事で……第10位でした!!』
テレビから拍手の音が聞こえてきて、それに合わせて自然と皆も拍手した。
ゲーム開発部はそれに照れながらも、堂々と胸を張った。
自分たちの頑張りが世間に、そして自分たちが尊敬する皆に褒められたのだ。
今日ばかりは調子に乗ったって許されるだろう。
ユズですら、照れた表情は見せているもののその背筋は伸びて誇らしそうにしていた。
『続いて第9位の発表です!!』
『どんどん行きましょう! 楽しみですねぇ!』
「そわそわ」
「どきどき」
テンポよく司会者の口は回る。
こういった番組はよくCMを挟んだりして亀進行な事が多いが、この番組はそう言った遅延行為が嫌いなスポンサーの意向で進みが非常に速かった。
『第9位! 特異現象捜査部所属和泉元エイミさんの作品、「超冷感シート」です!!』
『おめでとうございます!』
「あれ? 私?」
「なんだ、お前やるじゃねーか」
まるで他人事のようにキョトンと首を傾げるエイミに、あまり絡みはないもののネルは素直に賞賛の言葉を送った。
「おめでとう。けど特異現象捜査部で一緒に出したんじゃ無いんだ」
「はい。今回私たちは別々で出品しました。そしてエイミが9位で私が1位という訳ですね。誇らしいです。よくやりましたエイミ」
「うぅん、まあ嬉しいんだけど……完全に私用に作ったやつだから何か意外だね」
『エイミさん作のこちらの超冷感シート』
『なんとこちら、首元に1枚貼るだけで全身の体温を均等に30℃下げるという代物です!!』
「30℃!? 死ぬわよ!?」
ユウカは吠えた。
いや何作っとんねんと。
「今も貼ってる。だから私はここにいられる」
「エイミ、ここに入ってきた時暑いとか言ってませんでしたか…? というか今こたつに入っていないの貴方だけですし」
「そんなの入ったら死んじゃう」
『え、暗殺の道具か何かですか?』
『いえ、流石にそのまま使うとそうなるんですが、医療用とか別の用途に応用できるかもしれないという事で、将来性も含めてこの順位になりました』
『成程、凄いのか惜しいのかよくわからないですね』
「成程、納得」
「……本当に大丈夫なんですかそれ……?」
「ひんやり気持ちいい。試してみる?」
「……いえ、遠慮しておきます」
アカネは戦慄した。
というかみんな戦慄した。
そもそも特異現象捜査部が表に出ない事もあってあまり皆と絡みの無かったエイミ。その奇抜な服装からして只者ではないと皆思っていたが、想像以上にアレな様子で少し話しかけるのを躊躇った。
しかしそれはそれとして拍手。
ミレニアムプライスで受賞する時点でそれは尊敬に値する。
エイミはあまり浴びたことの無い喝采にむず痒くなって頬を赤らめて照れた。
『続いて行きましょう、第8位は!』
『エンジニア部より、「ミニ宇宙戦艦」です!』
続いて呼ばれたのはエンジニア部。
テレビに移されたそれは、小さいものの一部の人にはどこか見覚えのあるものだった。
「やった」
「やり遂げました!! そしてこれは説明が必要な案件ですね!!ミニ宇宙戦艦とはかのウトナピシュテムの元船を参考にした設計と構造により──」
「まあ待つんだコトリ。今解説を初めては年を越してしまうよ……それはそうと、おめでとう、二人とも」
そう言って、ヒビキとコトリの二人へと賞賛を送るウタハ。しかしそれはおかしい事である。
「え? ウタハ先輩、おめでとうって何か他人事みたいな……」
「ああ、お察しの通り、このミニ宇宙戦艦は私は助言位で深く関わっていないんだ。今回は別に私個人で作品を出品している」
「へぇ、そうなんだ。奇遇だね、実はウチも似た感じなんだ」
ウタハの言葉にチヒロは意外そうに、しかし自分もそうだと答えた。
図らずも、特異現象捜査部、ヴェリタス、エンジニア部のトップ三名が個人で出品する事態。
「ほう? そうなのかい? ……ふふ、まあ、今回ばかりは少しが自信あってね。チーちゃんはもとより……今回は全知にも負けるつもりは無いんだ」
「これは面白い事を聞きました」
ウタハはチヒロへ、そしてヒマリへと真っ直ぐな視線を向ける。
その目に宿るのは自信と、そして野心。
自分が認めたその存在を、今日こそは超えてやると。
「まあ、楽しみにしていてくれ。1位を取るのは私だ」
「私だって譲らない」
「ふふ、いいでしょう。受けてたちますよ」
「ちょ、頂上戦争だ……っ!」
「み、皆ケンカはダメです!」
「心配すんなチビ。あれはケンカじゃねぇよ。けど……この空気に当てられちまうと、あたしらも何か作りたくなんな」
「な、何かとは……?」
「わー、楽しそー!やろうやろう!」
「基本破壊専門の私達が物を作るとなると、真逆レベルの方針転換ですね……」
『こちらのミニ宇宙戦艦、何と乗員数は一人ですが本当に宇宙まで行けると言う事で!』
『え、それ凄いじゃないですか』
『はい、凄いです!』
テレビに移されるのは、超小型にしたようなウトナピシュテムの元船。
確かあの時は全く構造も理解できないと言っていたが、それを解析したのだろうか。
「わぁ! アリス、宇宙に行きたいです!」
「もう行ったじゃん! 私はもうあんなのコリゴリだよ!」
「ギリギリ宇宙じゃ無いんじゃなかったっけ……?」
「乗ってみる? 多分死ぬけど」
「え?」
何か平気な顔で死ぬとか言い出したヒビキに皆は思考が停止した。
『しかしこれ、完全に一方通行で帰ってくることが出来ない仕様みたいです』
『え?』
『しかも身一つで他に乗せるスペースも無いみたいで……宇宙戦艦と言うよりは、宇宙行きの棺桶みたいな感じですね』
『何ですかそれ』
「「「「…………」」」」
『まあ、宇宙に行ける事実は間違いないようなので、流石に人を乗せるわけには行きませんが他の用途が考えられるという事で……』
『この順位という訳ですね。は、8位でした、おめでとうございまーす』
「……8位は8位」
「ですね! 宇宙!この甘美な響きを今度こそこの手に掴むために──」
「死んだら元も子も無いでしょ!?!? 何考えてるの!?」
またもやユウカは吠えた。
先程のエイミといい、別の用途もできるだけの殺人兵器では無いかと。
「これに負けたの……?」
「いやエイミのも殺人兵器だから!!」
そしてこの自分たちの目的のために平気で兵器を作り上げる狂った精神の技術者たちに予算を与えてはならないと誓った。
ミレニアムの、キヴォトスの未来は自分にかかっている。
頑張れ私。頑張れユウカ!
『気を、取り直していきましょーか次!』
『ですね!次は第7位の発表です!』
ドラムロールがなる。
割とここにいるみんなが既におなかいっぱいな感じで冷静さを欠き始めていた。
しかし、まあたまにはこんな騒がしい年末も悪くは無いだろうとすぐに思い至る。
何だかんだ皆笑ってるのだ。ならもうなんだっていいだろう。
そう思うことにして、ユウカはため息をついてから薄く笑った。
『第7位、セミナー所属黒崎コユキさん!』
「えっ」
「まぁ……」
「へぇ……」
上から順に、ユウカ、ノア、リオ。
そう、その名を知る人達は告げられた結果に心底驚いた。
セミナーを離れているリオはともかく、ユウカとノアですらそもそも出品していた事を知らなかったが、それがちゃんとしたものでかつミレニアムプライスに入賞するとは正直思っていなかった。
「にっははははははははっ!! 真打、登っ!場っ!」
「何か今まで静かだと思ったら……」
「うふふ、でもコユキちゃん、すごいです。頑張ったんですね」
口々にコユキを褒める面々。コユキはそれに気を良くして、高らかに笑った。
褒められることはコユキにとって滅多にない事だった。
それはコユキが褒められることをしていないからであって全くもって自業自得なのだが、それはこんな自分でも褒めてくれる先生の存在が現れた事でその事には一生気づけなくなってしまった。
『コユキさんの作品、それは「先生のASMR」、です!!』
だから、こんな暴挙に至るのである。
「は?」
「……え?」
皆の思考が停止した世界で、唯一動けたのは他でもないこの状況を作り出した本人だけだった。
騒がしかった部屋が急に静かになり、その中でコユキの高笑いだけが響き渡る。
コユキ、イタズラ大成功。
しかし時間とともに冷静さを取り戻したユウカはふつふつと怒りが湧いてきてそして結局噴火した。
「コ〜ユ〜キ〜〜!!」
「にはっ!? お、怒られる筋合いないですよ!! ちゃんとルールに則ってるんですから!!」
「何言ってるの!? だとしても、言ってしまえばこれは先生の作品でしょう!?」
「せ、設定とかセリフとか考えましたし!そ、それにその先生に許可を貰って世間にも評価されたんだからいいでしょう別に! き、今日ばかりは屈しませんからねユウカ先輩!!」
「優しい先生はともかく、世間に評価されたですってぇ!?」
『これ、何ですか?』
『それがですね、市場に出回った途端に瞬く間に圧倒的な売上を記録しまして……流石にその点を考慮しないといけないということで、技術的な作品では無いのですがこの順位に落ち着くことになったようです』
『そ、それはそれは……先生って、あれですよね? シャーレの』
『そのようですね』
「にははははは! 見たか先輩っ! 私大しょーりっ!」
「ぐ、ぐぬぬぬっ!」
「あ、あはは……まあ、一度限りの裏技というか……」
「はぁ……まぁ、こんなことじゃ無いかと思ったわ……」
ため息を着くコユキを知る面々。しかし、彼女達を含めてこの場にいる全員の思いはひとつだった。
帰ったら、買お。
年末をミレニアムの皆とすごして、眠る時に先生に耳元で囁かれる。
なんという一年の締めくくり。
なんという一年の始まり。
ミレニアムプライスという場に現れたからこそいまいち納得は行かなかったが、それはそれとして良くやってくれたと少しばかりユウカもコユキに感謝した。
『さあ、第6位行きましょう!』
『あ、速報です! この放送を見て先生のASMRの購入者が続出して現在サーバーがダウンするほどの売れ行きだそうです!!』
『知らん! 次いこう! 第6位!!』
「にははははは! 大富豪だーっ!」
「くっ、ムカつく……っ!」
コユキは笑った。
ユウカは腹は立ったが何もできることは無い。
握った拳を振り下ろすことも出来ず大人しくこたつの中へと戻るのだった。
『第6位は、これまたセミナー所属生塩ノアさん!』
「やった♪」
「おめでとう、ノア!」
「さっすがノア先輩!」
この光景を見て、リオは思った。本当に自分の後輩達は優秀で、頼りになる存在だと。
自分が抜けても回っているのはひとえにこの子達のおかげである。
その事に申し訳なさを感じながらも、しかしもうくよくよはしない。
今度特上の中華をご馳走しようと心に誓いながら、隣で甘えてくるアリスの頭を撫でた。
『作品名「ポイントコンタクト」です!』
『ほう、これは一体?』
『これはですね、特殊なコンタクトで出来ていまして、銃弾が敵に当たるとその箇所が光って見えるという代物だそうです』
『ほう、となると、一度弾丸を当てれば…』
『そうです、暗がりでも敵の位置が分かるし、他にも味方が狙っている相手もわかったりしますね』
『戦闘に役立ちそうです』
「へぇ、良いじゃねえか」
「少し試してみたいですね。もし有用なら是非……」
戦闘に役立つと聞いて、一も二もなく目を光らせるC&Cの面々。
「けどこれって、銃弾そのものも光って見えたりしない?光まくりじゃない?」
「いえ、銃弾が物質に当たった後の一定の温度で光るようになっていますのでその心配は要りませんよ」
「へぇー」
アスナの純粋な質問に答えるノア。そしてそれに納得したようで、改めてC&Cの作戦参謀アカネはこの技術の有用性を考える。
しかし、それ以外の面々はここに来て急に真面目な作品が出てきて温度差に戸惑っていた。
しかし、こうなのだ。これでこそミレニアムプライス。
このミレニアムの頂点を決める戦いのそのトップ10なのだ。
今までのはまやかしだ。そしてこれからが本番だった。
『第6位でした! いや、こういうのを待ってました正直!』
『前半は少し、色物が多かった傾向ですね。しかしここで折り返し地点!どんどん行きましょう!』
時刻は10時を超えて、どこかから鐘の音なんかが聞こえてきた。
ミレニアムに除夜の鐘は無かったような気もするが、何処かの風情ある生徒が自作でもしたんだろうか。
皆そばを食べ終えて、ぬくぬくしながらお茶を飲んだりそば湯を飲んだり。
あぁ、平和だなぁ。先生も居てくれたら最高だったのになぁ。なんて。
『さぁ、では第5位の発表です!』
『ミレニアムが誇るハッカー集団、ヴェリタスから!』
『スーパーデコイ君、です!!』
「え、本当? やったっ」
「5位!? 凄い凄い!」
「副部長、ブイ」
「ああ、皆良くやったな」
湧き上がるヴェリタスの面々。本人達はまさか入賞するとは思っていなかったのか、飛び上がって喜んでいた。
「スーパーデコイ君? これってどういうものなの?」
「解説を求めます!!」
ユウカとコトリが説明を求める。
デコイという言葉の意味は理解できるが、画面上に映し出されているものはただの電子機器のように見えた。
「まぁ、簡単に言うと電子世界にばらまくデコイで」
「例えば、先生の位置をハッキングで探ろうとするじゃん?」
「そこを、先生を隠す事でハッキング対策をするのではなく、逆にいろんな電子データの上に先生のデコイを自動でばらまく」
「まぁ、私もちょっとだけ手伝ったけど……結構いい出来だと思うよ」
「まぁ、私の手にかかればその程度朝ごはん前ですが」
「実際そうかもだけど空気壊すこと言わないでよヒマリ」
そもそも先生の位置ハッキングで調べようとするのってあんたらヴェリタスくらいじゃないの? と思ったが誰も言わない。
自分たちの技術で自分たちの首を絞めている事に気づいているのかは知らないが、早めにこの技術を先生に教えてあげようとユウカは思った。
『さあさあ続いて第4位!惜しくも3位入賞を逃してしまったものの、これまでの作品を押しのけて4位に輝いたのは──!?』
『ヴェリタス所属各務チヒロさん、「チヒロのデバッグツール」です!』
『おめでとうございますー!!』
「なっ!? く、4位か……」
「いやいや、充分すごくない!? 4位だよ!? 」
モモイは戦慄した。自分たちは10位入賞であれだけ喜んだのだ。4位で悔しがられては困るというもの。
「ふむ、おめでとう」
「おめでとうございます、チーちゃん」
「くっ、二人とも勝ち誇ったような顔して……!」
ウタハとヒマリから賞賛の言葉をかけられるが、それが純粋なものでは無いことをすぐに悟ったチヒロ。
悔しそうな顔を浮かべながら、余裕そうに笑う二人に若干イラついた。
『こちら、デバッグツールとなっておりますが……』
『はい、プログラムやゲーム製作とかで使われるデバッグの事ですよね』
『はい、一見地味に思えますが、これ一つでそのデバッグ作業が完結するという代物です』
『ほう、それは……え? すごくないですか?』
『はい。その手の職業が今潰えました』
「ええ!? 欲しい欲しい欲しい!!」
「あ、アリスはクビですか!? い、いやです! まだみんなといたいですっ」
「アリスちゃんはプログラム担当、デバッグは皆でやってたから大丈夫だよ」
「で、でも、本当ならこれ凄い…!」
ゲーム開発部の面々は沸いた。
デバッグは直接的な制作では無いものの、非常に時間が掛かるのだ。
その手の職業に着いているものには申し訳ないが、自分たちにとってはまさに救いの神、天上の技術。
後日、そのお値段にどう足掻いても手が届かないことを知り、締切間際にヴェリタスで土下座してタダで貸してもらおうとするモモイの姿が見られるのであった。
「くそー、自信あったんだけどなぁ」
「先輩…、惜しかったですけど、それでもさすが私たちの先輩です。おめでとうございます」
「ホントホント! よっ、副部長!」
「副部長、先生の声聞く?」
「いや、コタマはいい加減盗聴をやめろ」
「私が聞きます」
「おい新人! 抜けがけすんな大人しく座ってろ!」
ネルに肩を捕まれ押し戻されるトキ。
買い物中にたまたま出会った先生に頭を撫でられていなければきっと我慢できなかっただろう。
もしかしたら今頃ネルとトキの先輩後輩戦争が起きていたかもしれなかった。
そしてそこに転がる無惨にも盗聴器を奪われ死亡したコタマの姿が。
『さあいよいよ残るは金銀銅ですね。』
『いや、今までので充分おなかいっぱいなんですが…これらを超えてくるんですよね。正直私怖いです』
『ですが私たちは止まりません。なぜなら伝えるのが私たちの役目だから』
『さぁ、ひよって無いで行きましょう、第3位の発表です!!』
そしてとうとうここまで来た。
ごくり、と生唾を飲み込む一同。
もとより自信があるヒマリ。
今回はと自信があるウタハ。
しかし二人が狙うは1位のみ。ここで名前を呼ばれるわけには──
『第3位!!』
「………」
「うふふ」
『エンジニア部所属、白石ウタハさん!!』
「ぐあぁぁぁ!!」
「ウタハ先輩!?」
「き、救急! 救急班は何処ですか!? ウタハ先輩があまりのショックに倒れてしまいました!?」
「ぐ……自信、あったのに……っ!、ガクッ」
わーきゃーと騒がしくウタハの介護をするみんなの介あって、何とかウタハは意識を取り戻した。
しかしその目には悔しさが宿っていて、しかしウタハは他の人より少しばかり大人だった。
ふぅと息をついて頭を振ると、その顔は清々しいような顔でライバル認定していた全知を見つめていた。
「流石だ全知。この作品は私が三年かけて設計・作成した紛れもない傑作だったんだが……、ふ。恐れ入る」
「うふふ、いえ。私が勝つことは自明の理。しかし……私も、あなたに敬意を評します」
そうして、2人は握手を交わした。
これでもしヒマリが1位でも2位でもなかったなら、飛んだお笑い草だなとエイミは思った。
しかし実際天才なので、そんな事にはならないだろうとも思う。
『ウタハさんの作品、それはこちら!』
『空飛ぶ靴です!!!』
「は?」
「え? ガチ?」
「まあ……」
全員の感想は、え? 嘘でしょ?といった感じだった。
空飛ぶ……え? 空飛べるの? 靴で?
それもう文明開化レベルなんじゃ……と思って、さっきのエンジニア部の件もあるのでどこが欠陥があるのではと皆が思い至った。
『こちら、履くだけで誰でも空を飛ぶ事ができるという代物です』
『とんでもないですね!!』
『反重力装置搭載との事で、浮力を付随の腕にまきつける電子制御盤で操作するとのことですが、なんと充電式でMAX三時間空を自由に飛べるとのことです!!』
『ですが、流石に何か欠点があるのでは?』
『欠点と言える欠点は、落ちた時が危ないのと操作に慣れるのに少し手間どるくらいでしょうか! しかし充電が切れる前にしつこいくらいにアラームで知らせてくれますし、運動不足な審査員も一時間ほどで飛ぶ事は出来ていました!』
『素晴らしい作品です!! いやこれが3位!? とんでもないですね!?』
「はぁ、本当に自信あったんだが……」
唖然とした。
いや本当に、なんでこれ1位じゃないの?と。
私達ですらこうなのだ。外の世界から来たロボットとかそういうロマンが好きな先生が見れば、今頃ウタハに抱きついて貸して貸してと駄々を捏ねていたかもしれない。
「飛びたい飛びたい飛びたい飛びたい!」
「飛びたい飛びたい飛びたい飛びたい!」
「飛びたい飛びたい飛びたい飛びたい!」
「ちょ、騒がないの!、おと、お──ええい! 大人しくなさい!!」
ユウカは襲いかかった!
全体攻撃! アリスとモモイとコユキへ大ダメージ!
コユキは倒れた!
「きゅう……」
「はぁ、はぁ……、もう、年末なのに汗かかせないで……!」
「ごめんなさい」
「ご、ごめんなさいっ!」
しかし、割とみんなの気持ちは一緒だった。
空は飛んでみたい。それは人類のロマンであった。
ヒマリは足が不自由な為空飛ぶ靴は履けないが、それでもその発想、そして技術は間違いなくこの世界の人々の心を掴んでいると思った。
故に、ヒマリは思った。
ウタハは、ヒマリがいた時代に生まれてしまっただけの紛れもない天才だ。
時代が違えば、この神をも羨む高嶺の花であるヒマリとさえ比較されなければ、あるいは彼女も全知として名を馳せていたのかもしれない。
「いやけど、まじでこれで3位か。ガチでヒマリが1位だとしても、2位誰だよ」
「うふふ。其れはこの状況を正しく理解出来ていれば、自ずと導き出せるというものです」
「あん?」
ネルはお前は理解出来ていない馬鹿だと言われた気がしてヒマリへとガンを飛ばすが、全知はそれを全く意に返さず続ける。
「そうですね、皆さんにも分かりやすく言うと……この場にいる出品している者の中でまだ名前を呼ばれていないのは、私とユウカさんだけです」
「えっ」
「あ、ホントだ」
急な飛び火にユウカは心臓を高鳴らせた。
ザワザワとユウカへと視線が集まる。
いや、そんな…………ユウカは考えた。
確かにこの冬のミレニアムプライスに向けてユウカは頑張った。自身の傑作と言える成果を出品した。けど、それは果たしてウタハ先輩の作品を凌駕するものだろうか。
正直そうは思えなかった。
しかし、そうなるとこの場で名前を呼ばれなかったのが自分だけとなる。
そうなってノアに慰められる姿を、コユキやゲーム開発部に見られるのは嫌だった。
すごく、すごく嫌だった。
ユウカは祈った。
今日ばかりは神様でも運命でも奇跡でもなんでもいいから。
『続いてです』
『いや、緊張しますね…』
『はい。ですが、行きましょう。第2位の発表です!!!』
(お願いしますお願いしますお願いします!!)
「うふふ」
『第2位ッ!!特異現象捜査部所属明星ヒマリさん!!』
『おめでとうございます!!!』
「…………………………はい?」
静寂が部屋を包んだ。
いや、凄いことなのだ。それにそもそもこれだけここにいるメンバーの名前が呼ばれていること自体異常なだけで、ミレニアムには日々切磋琢磨する生徒が大勢いるのだ。
そんな中で、2位。ああ、当然誇れることだろう。
しかし、この場にいる誰もが全知の勝利を確信していたからこそ、今までの中でも最も意外な結果に言葉が出なかった。
『明星ヒマリさんの作品、それは「自動超高性能AI変換ツール」です!!』
「うーん? 何それ?」
「な、何だか難しいね……」
「……部長?」
「あら? どうしましたエイミ?」
『これね、さっきの空飛ぶ靴のインパクトに飲まれては行けませんよ』
『ほう、詳しくお願いします』
『こちらにあるUSB。これをですね、何でもいいのでUSBポートのある機械に差し込みます』
『はい』
『すると、その機械が高性能AIとして自意識を持ち始めます』
『はい!?』
「部長?」
「ですからどうしましたか? エイミ」
エイミは思った。これデカグラマトンじゃん、と。
しかし、あれは一応超機密事項。ここでそれを言う訳には行かなかった。
というか、何かこそこそやってると思ったらデカグラマトンを解析して似たようなものを作っていたのか。
というかそれで何をする気なのか。
遊び半分で自分を模したAIをばらまいて世界征服とか、何か普通にやりそうだとエイミは訝しんだ。
「しかし……そうですか。2位ですか。ふむ……それはそれは」
「え、えっと……」
ヒマリから浴びせられる暑い視線にユウカは耐えられなかった。
いや、しかし正直この状況はあまり良くなかった。
空飛ぶ靴、自動AI作成ツール。それらをおしのけて1位に輝く程ユウカは自分の作品に自信はなかった。
しかしそうなると、それはここで名前を呼ばれなかった唯一の人物というレッテルが貼られることとなる。
ユウカは今すぐ飛び出して先生の胸に飛び込みたかった。
一応これでも頑張ったのだ。別に入賞出来ないのは最悪良い。しかし、だからと言ってこれはあんまりではないか。
『という訳でですね、素晴らしいというか常軌を逸した作品が続きました』
『本当に、もう、息も絶え絶えです』
『ダメですよ。この後に続く代物です。これらを超えてくるんです。今その調子では死んでしまいますよ!』
『ホントに今日、歴史が変わろうとしていますね!』
「ヒマリが2位、ね……」
「あら? 何か言いたいことでもあるのですか? 下水道を流れる水ことビッグシスター?」
「……いいえ、何も?」
「ふん!」
単に、リオはヒマリを超える者がいる事に驚いていた。
しかしヒマリは今冷静さを欠いており、そして相手がリオである為に不貞腐れた感を全面に出していた。
『では、行きましょうか。1位』
『ええ、行きましょう。私は今日、ここに立てたことを光栄に思います』
『では、栄えある1位は!!』
『全てを押しのけ輝いた1位は!!』
「……まさかセミナーの二年生に負けるとは……」
「やるじゃんユウカ!」
「へっ、お前すげーやつだったんだな」
「はぁ、ま、上には上がいるってね」
「これは、新たな生徒会長誕生の瞬間かな?」
「えっ、えっ、えっ……」
ヒマリは別にユウカが1位である事を確信している訳では無い。
ただ、ここで持ち上げといたら1位じゃなかった時に恥をかくだろうと思ってヨイショしただけだ。
セミナーと特異現象捜査部は仲が悪いのである。それは一重にリオとヒマリのせいだったが。
しかし、そのヒマリの腹黒さに純粋に乗っかるものの多いこと多いこと。
そしてユウカは追い詰められる。
目をグルグルにして、少し先の未来を思って目の端に涙を貯めた。
「…………」
そんな光景を見て、ノアは何も言えなかった。
ノアはユウカの事を良く知っているからこそ、そしてその作品も知っているからこそ流石にこのラインナップに適うとは思えないかった。
しかし、同時にこの場の誰よりもユウカの名前が呼ばれる事を願っていた。
友達が悲しむ姿は見たくないから。
手を合わせて、願う。
どうか、ユウカちゃんを勝たせてください──と。
そして、ドラムロールがなる。
緊張の一瞬。
静寂が走る──
『金賞に輝いたのはッ、セミナー所属、早瀬ユウカさん、です!!!』
『おめでとうございまぁぁぁす!!!!』
「えっ?」
「まあ……!」
「あら……?」
本当に。本当に?
ユウカは今までの人生で今が一番冷静じゃ無いかもしれなかった。
今、確かに早瀬ユウカと言った。もしかして同じ名前の……いやいや、セミナー所属って言ってたし、って事は、うそ、うそうそ!?
「ユウカちゃん!! おめでとうございます!!」
「えっ、へ……はは……」
ユウカは力が抜けて、隣に座っていたノアにされるがままに抱きしめられた。
本当に、私が、1位。
職業をひとつ潰したヴェリタスのチヒロ先輩を抑え。
空を飛ぶという人類の夢を叶えたウタハ先輩を抑え。
誰もが認める全知の、常軌を逸した発明を抑え。
私が、1位──。
「うっ、ぐす、うぅ……」
「あらあら、うふふ♪ よく頑張りましたね、ユウカちゃん♪」
「ノアぁっ……」
ユウカは、胸の内から溢れるこの感情を抑えられなかった。
せっかくゲーム開発部やコユキの前で恥をかかずに済んだのに……みんなの前で泣いちゃって、本当にかっこ悪い。
でも、
「おめでとうっ!!」
「おめでとう!!」
「おめでとうございます!」
「凄いよ!!」
「おめでとう!!」
みんなが、みんなの暖かい言葉が。
「ふむ。まあ、そうですね。今回は負けました。おめでとうございます」
「にははは! 先輩、おめでとうございますっ!」
「おめでとうございます、ユウカちゃん」
「ユウカ。おめでとう」
「みんなぁっ……!」
ヒマリが。
コユキが。
ノアが。
リオ会長が。
口々に褒めてくれて、今はもう、泣いちゃってもいいかなって思って。
そう思わせてくれる優しい言葉達が、ユウカの事を包み込んだ。
そして、テレビは続きを語る。
『1位に輝いたユウカさんの作品、こちら!!』
『「ユウカの太もも」でございます!!』
『は?』
「は?」
今日何度目か分からない静寂。
しかし今回ばかりは少し違った。
この部屋だけでなく、テレビの向こうまでもが静寂に包まれていた。
『ユウカ、の太もも……? それは、一体……?』
『あー、えっと、今説明を読み上げます……』
『日に1ミリずつ太くなっていくユウカの太もも』
『全自治区のどの女子高生よりもそのハリは凄まじく、UVすら恐れおののいて近づかない』
『先生を誘惑するために磨き上げた至高の太もも、それは神秘であり、崇高であり、敵対するものには恐怖を与える……だそうです』
『…………、はぁ』
「えぇ……」
なんだこれ、と皆は思った。
なんというか、しょうもない茶番に付き合わされている様な感覚。
太ももに気力を吸われている。もしこれが本当に太ももによる現象なら確かにそれは恐怖にも至る代物だった。
「ちょっと待ってください! なんですかこれはっ!? 納得が行きません! というか貴方は一体何を出品しているんですか!?」
「い、いや、違う! 違う違う違う!絶対に違うっ! 私あんなの出品してない!!」
「ふむ、どういう事だ……?」
「……まさか」
リオは何か心当たりがあるかのように真剣な顔をした。
ユウカは立ち上がってテレビに詰め寄った。
一体何が起こっている。自分の太ももを間違って出品するほど私の頭は残念では無いと思いたかった。
しかし、何度頬をつねってもこれは夢では無い。
本当に訳が分からない。
「な、何で……!? 私の、私が出品したのは完全自律二足歩行型関数電卓でっ!」
「いやそれはそれで何なんだ」
「ともかく、何か行き違いがあったということですか?」
「……少し、調べて見ようかしら」
リオは立ち上がろうとして、しかし結果的にその動きはすぐに止まった。
「ぶっ、……くく…………」
「…………コユキ?」
ユウカは、その声が嫌に耳に着いた。
いつも厄介な事を持ち込んでくる後輩。その笑い方に嫌な思い出しか無いからこそ、いち早く反応したのは他でもないユウカであった。
そして、
「にはははははははははははっ!! ドッキリ、だ〜いせ〜いこ〜!!」
「……は? ドッキリ?」
ユウカはその言葉に、スン……と表情を消し去った。
「……まぁ」
「はぁ……やっぱり。コユキ、貴方は変わらないわね……」
ドッキリ。その言葉で、リオは、ノアは、そしてユウカは全てを悟った。
この後輩は、やりやがったのだ。
1年を締めくくるこの大舞台で、下手すれば先生も見ているかもしれないこの放送された一大イベントで──っ!
「にはははは! 何とも浅いセキュリティでしたよ! 毎年思ってたんですよ、あんなの好きなだけ弄れるじゃんって!」
「…………」
「あ、安心してくださいよ? 全部いじった訳じゃないんで! 弄ったのはユウカ先輩のだけなんで!」
「…………うふふ」
「いやー笑った笑った! 良い1年の締めくくりじゃないですか? これで来年も頑張れそうです! あ、因みにユウカ先輩は元々6位だったんで、実際はその分ズレる感じですね!!」
「あら、では私が1位ということですね」
「部長、今は黙っといた方がいいよ」
ユウカは激怒した。かの空気読まぬ蚊のごときうるさき後輩を必ずや懲らしめねばならないと。
「コ〜ユ〜キ〜〜〜!!!」
「にはは! そら逃げろっ!」
ユウカが動く前に先に動き出したのはコユキ。
ここまでコユキの中で完璧に上手くいっていた。
後は逃げて、しばらく行方を眩ませてセミナーが段々回らなくなってきた頃に皆の元へと戻るのだ。
それまではシャーレにでも隠れて、それで……
「へっ、あれぇー……ノア先輩?」
「ふふ、コユキちゃん。ちょっとおいたが過ぎましたね?」
コユキはユウカの攻撃で一度気絶し、起きてからはずっとユウカをマークして逃げるタイミングや立ち位置を計算していたので完璧に逃げられるハズだった。
しかしドアの前に立ち塞がったのはノアだった。
これぞ心の繋がり。コユキが持っていないものだからこそ、コユキはそれを知らず見くびっていた。
「どっ、どいてください! 死んじゃいます!」
「大丈夫ですよ。死にませんし死なせません。……死んだ方がましな思いはするかもしれませんが……」
「コユキィッッッ!!!」
「うぇーーーーっ!!! なんでぇーーーーーー!?!?!?」
なんでも何も自業自得だろうと。
けれど、そんな光景を見てユウカとコユキ以外はみんな笑ってた。
なんだかんだ、これがミレニアムの日常なのだ。
結局最後の最後まで騒がしく、ミレニアムの一年は幕を閉じ、そしてまた開けるのだった。
また1年、皆とこうやって過ごせる事を願って。
コユキは先生のASMRで手に入れた収入を全てシャーレとセミナーと運営に寄付する事で何とか許されるのだった。
めでたしめでたし。
リオ中華概念は、正直出すか迷いました。
短編小説なのに前の設定持ってくるってなんかね……
けど、なんか、もうウチのリオは中華何やなって。
極力しないようにするから、許して。
後一応言っとくと基本各話の世界線繋がってないので。
今回気の迷いが起きただけなので。
というわけで、リオ(中華)実装お願いします。
多分喜ぶの全先生の中でオイラ一人かも知らんけど。