なぎささまご乱心   作:つきらゆ

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確かどっかで言ってたアコの横乳に意思が宿る話っす

けど調子に乗って書いてたらさ、3万字越えたんだよ。

なんでだよ。何で横乳の話でそんな行くんだよってね。
エスパーじゃないけど分かるよ、君の心が。

だから流石に分けたよ。これ前編だよ。
多分明日出す後編含めてぜひ見てってよ

ちなみにタイトルは侮辱ではないからね


最終編:あまねくアコの乳発点(上)

 

 

 ゲヘナ風紀委員会。

 それはゲヘナという自由で野蛮でテロリストが跋扈する無法地帯を統制、管理する武力的かつ絶対的な組織。

 キヴォトスの中でも最強と名高い空崎ヒナをトップに据え。

 行政官の天雨アコ。

 救護担当の火宮チナツ。

 切り込み隊長の銀鏡イオリ。

 

 この4人を中心にして回るその存在は、ここゲヘナを少しでも平和にするために日夜戦い、汗を流し、時には血を流し、書類を整理し、圧政の中を生き抜いていた。

 

 他の学園と比べても、このゲヘナを管理する事は決して容易なことでは無いだろう。

 しかし、誰も弱音は吐かない。

 心の中ではどれだけ泣き叫んでいたとしても、自分たちが挫ければそれは本当にゲヘナの終わりだと自覚しているから。

 だから、今日もゲヘナ風紀委員会は戦う。

 

 パンデモニウムソサエティと。

 美食研究会と。

 便利屋68と。

 温泉開発部と。

 ヘルメット団と。

 

 身勝手なテロリスト共と、今日も戦うのだ──!

 

 

 

 

 

─────────────────

 

 

「アコは何で、その……胸の横を空けているの……?」

 

 

 そのヒナ風紀委員長の言葉に、風紀委員会の面々は凍りついた。

 あるものは、コーヒーを持つ片手を震わしながら。

 あるものは緊張で額に汗を走らせながら。

 

 そして、その質問を投げかけられた本人は、

 

「えっと……ヒナ委員長……? な、何故急にそのような事を……?」

 

 戸惑いを隠せないように引きつった笑みを見せながら一歩後ずさった。

 

 

 いつもの執務の真っ最中。

 たまたま。本当に偶然が重なって業務に手隙が出来て、ゲヘナ風紀委員会は久々のコーヒーブレイクと興じていた。

 書類に追われる日々、少し時間が経てばすぐテロリストの鎮圧に呼び出される毎日。

 だからこそ、この平穏な空気は皆を自然と笑顔にさせた。

 偶にお菓子をつまみながら、コーヒーを飲んであの店がどうだの、先生が最近どうだのと仕事以外の話を弾ませる。

 

 そんな中、風紀委員長であるヒナの一言でこの緩く流れていた空気は固まった。

 

 

 

 イオリは、薄々思っていた。アコとは割と気安い関係は築けているものの、一応行政官という自分の上司のような立場もあり何となくそれを言い出せなかった。

 チナツは、薄々思っていた。けれど、先輩たちが皆普通に接しているのでおかしいと思ってもそれを言い出せなかった。

 

 そして、ヒナはずっとなんだそれとは思っていたが、忙しすぎる業務のあまりそれを言い出せなかった。

 だからこそ、このゆったりとした時間を機にこの質問をしたのだ。

 

 何で横乳見せてんの?

 痴女なの?と。

 

「そ、それは……」

 

 アコは言い淀んだ。

 何となく今まで許されていたと思っていたからだ。

 

 今まで誰にもツッコまれなかった。

 外から来た先生にも、視線は感じたもののツッコまれはしなかった。そして直ぐに先生は誰の胸でも凝視すると知って別にあの視線も特別な事では無いと知った。

 

 だから、別にそんなに変な事ではないと思っていた。

 個性の範疇。

 特段指摘されることでも無い。

 そう、アコは本気で思っていた。

 つまり、これはある意味今までアコと関わってきた者全員の責任でもあった。

 

「これは、その、機能性を重視したと言いますか……」

「機能性?」

「……」

「……」

 

 事の成り行きを静かに見守るイオリとチナツ。

 先程までは楽しそうな顔で談笑に混じっていたにも関わらず、この話になった途端二人は目を逸らしながらコーヒーをただ啜るロボットと化した。

 仕方が無いだろう。ゲヘナ風紀委員会のパンドラの箱。

 それが今、目の前で開こうとしているのだ。

 二人はその先に自分たちが望む平穏があるとは思えなかった。

 

「それは、羞恥心に勝るものなの?」

「しゅ、羞恥だなんてそんな事は……」

 

 アコは、真っ直ぐと向けられる自身が最も尊敬する委員長の視線に耐えられずイオリとチナツへと助けを求める視線を向けた。

 逸らされた。

 何でだ。

 

「そもそもそれにどんな機能があるの?」

「えっと、それはですね……」

 

 アコは委員長の言葉に返そうとした。

 そして、言葉につまる。

 それは、言いづらい事だとか、恥ずかしいからとかそんなものではなかった。

 

 分からなかった。

 アコは、自分自身の事だと言うのに、何故かその答えを持ち得ていなかった。

 

「あ、あれ……」

「? どうしたの?」

 

 言い返せない。

 何も思いつかない。

 アコは分からなくなった。

 

 自分が横乳を見せ歩いている理由が、アコには分からなかった。

 

「…………」

「ごめん、変な事を聞いた」

「い、いえっ!? そんな…、事は……ない、筈です……」

 

 アコのおかしな様子に、流石にイオリとチナツもその変化に気がついて戸惑った。

 なにか、予想していなかった反応に首を傾げる。

 そしてヒナは少し後悔した。

 これは、本当にあまり触れてはならなかった事なのかと。

 

「……今日は、もう終わろうか」

「え、そんな、ヒナ委員長……」

「大丈夫。急ぎの仕事はもう全部片付いてる。急な出動要請は寝てても来るからここにいても一緒」

 

「イオリ、チナツ。アコも、そういう事だから」

「「はい、委員長!」」

「わ、分かりました……」

 

 イオリとチナツはそそくさと準備をして早々に風紀委員室を去っていった。

 あの空気に耐えられなかったからだ。

 

 そうして今日の風紀委員会の活動は終わる。

 

 アコの、少しの違和感と後悔を残して──

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 夜。

 アコの自室。

 

 アコは昼間の出来事を思い出し悶々として眠れなかった。

 ヒナ委員長に指摘され、何も言えなかった自分。

 その話をしている時のイオリやチナツの気まずそうな顔。

 

 そして、自分自身横乳を出している事に理由が見つからなかった事が、何よりも理解不能だった。

 

 何故自分は今まで半分乳を出しながら生きてきたのか。

 まだ、先生が来る前までなら良かった。

 殆ど女だ。それに別に見られて何かが減るものでもない。

 しかし、先生を前にして、個人的に話すようになってもそれでもまだ私は乳を出していた。

 それに、疑問すら抱かなかった。

 

「……ねれない」

 

 それでも無理やり目を閉じた。

 眠れ眠れと考えるたびに寝れなくなっていくジレンマ。

 私は、いままでおかしい子だったのだろうか。

 先生や周りから、変な目で見られていたのだろうか。

 

 そう考えると……すこし、悲しかった。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 明日からは、普通の服を来てみよう。

 そうだ。むしろこれがいい機会なのかもしれなかった。

 変なタイミングで変えるよりかは、こうして指摘して貰えたことで変えやすかった。

 これが人生の転換期。やっぱりヒナ委員長には感謝をしないと。

 

 そうして、アコは今度こそ寝る決意を固め、時間は掛かったもののゆっくりと眠りに落ちていった。

 

 

───────────────────

 

 

 

『天雨アコ』

 

 

 

「はっ!?」

 

 

 

 飛び起きる。

 飛び起きた、筈だった。

 

 私はさっきまで布団に入って、明日の事を悶々と考えながら眠りについていた筈だった。

 それに、寝る前はちゃんと寝巻きに着替えた筈だった。

 だと言うのに、私はあのいつもの乳の横の空いた服を着ていて。

 そして、どこかも分からない暗がりで一人立っていた。

 

「こ、ここは何処ですか……? それに、さっきの声は……」

 

 アコは困惑した。

 夢遊病や精神病の気を疑ったり、頬をつねってみたり、スマホを持っていないか確認したり。

 頬は痛かった。

 スマホは持っていなかった。

 身一つで、変な場所へと放り出された。

 

 本当に、ここはどこだろうか。

 

 

『天雨アコ』

 

 

 

「ッ……! 誰ですか!? 出できなさい!!」

 

 

 再度、自分の名を呼んだ何者かに声を浴びせるアコ。

 得体の知れない、聞いた覚えのない声。

 もしや、私をここへと誘拐した犯人……?

 そう考えて、身構えようにもしかしアコは銃を持っていなかった。

 

 取り上げられたのだろうか。

 絶望的な状況、変に寒いこの場所にアコは寒気を走らせながら嫌な予感に包まれた。

 

 そして、ゆっくりと、暗闇の中からそいつは現れた。

 

 そいつを見て、アコは驚愕の顔を浮かべ、空いた口が塞がらなかった。

 

 指先は震え、膝から力が抜け、思考は真っ白に染る。

 

 そう、そこに居たのは、他でもないアコがよく知る者で──!

 

 

 

 

 

 

(l l:l l)『私は横乳の神だ』

 

「いや何で!!!???」

 

 

 

 アコは困惑した。

 意味不明な夢……そう、そうか、これは夢だ。

 そうでなければ、こんな、目の前に自分のあの横だけ出た乳がふよふよと浮いていて、しかも話しかけてくるなんて有り得るはずがなかった。

 先程頬をつねった事なんて、アコはもう記憶から綺麗さっぱり消し去っていた。

 

(l l:l l)『これは夢であり、夢でない』

 

「な、何を訳の分からない事を……!」

 

 アコは、これも全部昨日胸の事を指摘されたからだと思った。

 思った以上に自分がその事にショックを受けていて、そのせいでこんな巫山戯た夢を見ているのだ。

 こんな夢は、早く覚めるに限る。しかし夢から覚めると言ってもどうすればいいのか分からなかった。

 起きるまで、目の前の存在と話さないといけないのか。

 夢とはいえ自分の横乳と談笑するなど、アコは今にも気が狂いそうだった。

 

(l l:l l)『契約の遂行を確認した』

 

「……」

 

(l l:l l)『貴様はやり遂げた。我との契約を。我は貴様を賞賛する』

 

「……」

 

(l l:l l)『故に、与えよう。契約通りに。この身に宿る神秘を貴様へと与えよう』

 

「……もう、さっきから訳の分からない事を……黙っていて貰えませんか?」

 

(l l:l l)『…………』

 

 アコがジト目で黙れと言うと、意外な事に宙に浮く横乳は黙った。

 何だ、最初からこうすれば良かったのかとため息をついて、アコは目が覚めるのを待った。

 

 そして、背筋に嫌な予感が鋭く走った。

 何か、良くない力の流れを感じた。

 

(l l:l l)

『契約は完了した』

『故に貴様は受け取らねばならない』

『拒否権などありはしない』

『子供だからと無かった事にはなり得ない』

『我は横乳の神』

『古より伝わる付喪神』

『逆らう事など許されぬ』

『今一度言おう』

 

『契約は完了した。──その身を寄越せッ! 天雨アコ──!!』

 

 

「き、きゃぁぁぁあああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アコはその光に包まれ、意識を手放した。

 夢の中で意識を手放すという、不思議な現象に包まれながらもアコはどうする事も出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────── (l l:l l) ─────────

 

 

「たわばっ──!?」

 

 はぁ、はぁと荒い息を吐きながら、アコは目が覚めて周囲を見回した。

 なんて事ない、自分のよく知る自室。

 気持ち悪いくらいの凄い汗をかいていて、アコは一つ、大きなため息を吐いてから布団をめくりあげた。

 

(一体、私は何て夢を……)

 

 布団をおりて、汗で湿った布団に消臭スプレーを死んだ目をしながらかける。

 本当は洗濯したかったが時間がなかった。

 今日は平日。時間はまだあるが、すぐに支度をしなければならない。

 

 アコはひとまず、顔を洗おうと洗面台へと向かった。

 そして、いや、もうどうせなら軽くシャワーを浴びてしまおうと。

 

 自室に備え付けられたシャワールームへと向かって、寝巻きと下着をポイポイと脱いで全部洗濯機へと放り込んだ。

 

 ──そして、違和感。

 

「?」

 

 何か、違う気がした。しかしそれが何かまでは分からなかった。

 ともかく、ひとまず汗を流そうと違和感を無視してアコは全裸一丁でシャワールームへと突撃する。

 

 勝手知ったる自室のシャワー室。ボタンを押して、適温かつ適量の水が頭上から降ってきてアコはその心地良さに思わず目を閉じた。

 

 至福。

 圧倒的至福。

 

 朝シャワーはあまりしないタイプだったが、これは下手すると癖になるかもしれなかった。

 そんなこんなでアコは髪と身体をちゃちゃっと洗って、よし、完璧! とシャワー室に備え付けた鏡を見た。

 

「───え?」

 

 そして、絶句した。

 自分のないすばでーに今更驚愕した訳では無い。

 

 見慣れたシャワー室、そして自分の姿が反転して写っている何の変哲もない鏡。

 しかし、一つだけ、変なものが映っていた。

 いや、正確には二つと言うべきだろうか。

 

 おそるおそる、アコはそれが鏡によく映るように身体の向きを傾けた。

 

 それは、いつも自分が出していた横乳の部分。

 その左右、両乳に。自身のヘイローと同じマーク、しかし色だけが真っ黒になったそれが描かれていた。

 

 

 

 

 

「はっ、はぁぁぁあああああああ!?!?」

 

 

 

 

 

 アコは絶叫した。

 

 その声はこだまして、いつもこの時間は寝ている近所のゲヘナ生徒を須らく叩き起した。

 そして眠りを妨げられた獅子達によって、朝からこのゲヘナ寮にていつも通りの暴動が起こされるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────── (l l:l l)三 (l l:l l) ────────

 

 

 

「…………」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ゲヘナ風紀委員会。

 今日も今日とて4人は集まり、書類から暴動から圧政から何から何まで戦い抜く。

 そんな委員会に、嫌な沈黙が昨日と同じように流れていた。

 その原因を作っているのは、他でもない天雨アコ行政官。

 

 彼女は寝れなかったのか、目の下にクマを携えて死んだような目で俯いていた。

 あれ、何か昨日より酷くなってないか……?と。

 皆思ったが、今はそれよりももっと気になるものがあった。

 しかし、触れるのが怖かった。

 

「………………、アコ」 

 

「………………はい、なんでしょ、ヒナ、いいんちょ」

 

(い、行った──!?)

(い、一体どうなるの!?)

 

 躊躇いは感じられたものの、一歩踏み出した我らが委員長にイオリとチナツは歓喜した。

 流石だ、この人は真似出来ない。

 この日改めてそう思って、同時にアコらしくないヒナ委員長への反応にやはりただ事ではないと思った。

 それもそうだろう。何故なら──

 

「……アコ、今朝の暴動鎮圧、お疲れ様」

「ア、いえ……、もとよりあれは、私が原因のようなものなので………」

 

「……そう。ところで……その、胸のそれ、どうしたの?」

 

 

 ピシリッ! と固まったアコに、ヒナはやっぱり不味かったかと思った。

 

 今朝アコから暴動が起きた事、そしてその暴動はすぐに鎮圧したから問題は無いと言う報告を受けた。

 そして、学校へ来てアコと出会って、今朝の事を労おうと思ったら最初からアコはこんな調子だった。

 

 いつものアコ。

 違うのは、目が死んでいること。

 そして、空いた胸の横の部分に、ヘイローの落書きのようなものがされている事。

 

 それを最初に見たヒナは目をカッ! と開いて、すぐに元に戻ってひとまず触れる事を辞めた。

 

 しかし、流石にこのままで業務に支障をきたした。

 アコの手はノロノロと、明らかに集中出来ていない様子だった。

 だから、ヒナは聞くしか無かった。

 それが例えアコを傷つける事になろうとも、イオリやチナツの事も考えて聞くしか無かった。

 

「これは………………………………………………」

 

(ながい)

(本当に何があったんですか……)

 

「………………………………………………分かりません」

 

 ズコッ! と昔のバラエティ番組の様にコケるイオリとチナツ。

 そんだけ引っ張って何だそれはと二人は言いたかったが、何故か状況とは裏腹にシリアスな雰囲気に黙りながらも慌てて立ち上がった。

 

 これは、私達ではどうにもできない。

 ただ成り行きを見守るボットと化して、二人は遠い目で窓の外を見つめた。

 

「……それは、朝の暴動でやられたの?」

「………………いえ、そういう、訳では……」

 

「……………………、そう」

 

 ヒナは、アコに近づいた。

 アコは執務机に座っていて、その状態だと流石にヒナの方が頭上は高かった。

 

 だから、アコは近づいてきたヒナ委員長を見上げた。

 何を……と思ってヒナの顔を見ると、ヒナはまるで先生を思い浮かべるような優しい笑顔を浮かべていた。

 

「アコ。私達は頼りない?」

「い、いえ! 決してそんな事は……!?」

「なら、話したくない事?」

「……、いえ、ただ、私は……っ」

 

 その言葉に、ヒナの笑顔はより一層の優しさを帯びる。

 アコは、言いたくないのではなく、ただ自分達に気を使っているのだと確信して。

 言いたくなるように、頼ってくれる様に、精一杯の慈愛をアコへと向けた。

 

「そう。別に、私はアコに何も強制しない。言いたくないなら言わないでいい。貴方は普段からよくやってくれているから、ある程度の事は信頼してる」

「い、委員長……」

 

「けど、もし何かを悩んでいるのなら、自分で解決できないものを抱えているのなら、是非教えて欲しい。私達は仲間。遠慮なんて要らない……そうでしょ?」

 

 そう言って、イオリとチナツに視線を向けるヒナ。

 二人は、出番だと慌てて立ち上がり、しかし満面の笑みを浮かべた。

 

「勿論! アコちゃんには無茶ぶりされる事も多いけど……まあ、困ってることが有るならなんでも言ってよ! 力になるから!」

「はい、アコ行政官。例え無理難題だと思っても、是非私達を頼って下さい」

 

「みん、な……」

 

 アコは恵まれていた。

 このゲヘナという場所で、こんな出来た仲間に恵まれたのは本当に奇跡でしか無かった。

 

 だから、決してこれを手放してはならない。

 今は、勇気を出すときだった。

 

「ありがとう、ございます……っ、イオリ、チナツ……ヒナ、委員長……っ!」

 

 

「うん。それで、どうしたの?」

 

 ヒナは、ずっと先生を意識しながら喋っていた。

 頭の中にあったのは、生徒が困っている時、先生ならどうするか。

 そう考えたら、自然と笑顔が溢れ出た。

 

 ありがとう、先生。先生のお陰でアコは心を開いてくれた。

 

 先生の意思は、受け継がれる。

 身近な“大人”の姿を見て、子供達は大きくなっていくのだ。

 

「はい゛! ……ずみまぜん、ちょっと、涙が……っ!」

 

「構わない。ゆっくり話して」

 

 ヒナはアコの頭を撫でた。

 先生ならきっとこうするから。

 

 ヒナは、こんな時でも先生のことばかり考えている自分におかしくなって笑った。

 

「実は……」

「うん」

 

 そうして、ようやく語られた。

 大事な仲間の身に、一体何があったのか。

 私達は、このゲヘナをまとめあげている精鋭だ。

 どんな敵だって討ち滅ぼして見せよう。

 

 それに、最悪先生だって力を貸してくれるのだから。

 

 

「昨日夢で横乳の神と出会って……っ、それで、朝起きたら胸にヘイローが浮かんでいたんです……うぅ……」

 

 

 本当に、本当に訳が分からなくてぇっ、と泣きながら語るアコ。

 その姿は、とてもでは無いが嘘を言っているようには見えなくて。

 本当に、心から悩んでいるんだと思わせた。

 

 その言葉にヒナはスっと一歩後ろに下がった。

 

「ヒ、ヒナ委員長……?」

 

 その様子に、不思議そうな声でアコは名前を呼んだ。

 1歩分離れた感覚で、互いを見つめ合うアコ行政官とヒナ委員長。

 そして、その2人を緊張の顔で見守る2人の風紀委員。

 

 そして、アコに名を呼ばれたヒナは、フッ、と不敵に笑って──

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、何言ってるか分からない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アコは、膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

(l l:l l)三─────────────────────

 

 

 

「……、成程、にわかには信じ難いけど……」

 

 

 

 約一時間後。

 メンタルブレイクしたアコを何とか宥めて落ち着きを取り戻し、もう一度、今度こそアコから一連の事情をちゃんと聞き出した風紀委員会。

 冗談みたいなその話に、しかしあれだけのシリアスな空気の中でアコが先生みたいな巫山戯方をするとは3人ともが思えず。

 

 ひとまずその話を真実として、皆は原因と対策を考えた。

 

「とりあえず、夢は夢」

「はい……」

 

「そのままでは色々と支障をきたすだろうから……ひとまず落とそう」

 

 そう言って、ヒナは執務机の上からウェットティッシュを取り上げた。

 しかし、何故かその言葉に胸を隠して身構えるアコ。

 ヒナは、そんなに変な事を行ったかと訝しんだ。

 

「だ、駄目なんです、委員長……っ!」

「……何が?」

「え? どういう事? じ、実はアコちゃんそれ気に入ってるとか?」

「イオリ、そんな訳無いじゃ無いですか……」

 

 否定するアコに、邪推して変な事を言うイオリを窘めるチナツ。

 チナツは一年生。イオリは二年生。そしてアコは3年生だが、「ちゃん」付けしたり呼び捨てだったり、意外とゲヘナ風紀委員会は和気あいあいとしていた。

 

「その、私も朝起きて、消そうとしたり胸を隠せる服を着てみたり色々試したんですが……」

「どうなったの?」

 

 ヒナはその先を聞くのが少し怖かったが、自分の表情のこわばりを感じてすぐ心の中の先生をこの身に憑依させた。

 ヒナは割とこの先生モードが癖になりつつあった。まるで、ずっと先生と一緒にいるみたいで。

 

「拭こうと思えば、横乳が暴れて衝撃波でガラスが割れて……」

「……」

「服を着れば、ヘイローの描かれた横の部分が弾け飛んで……」

「……」

「なんだったら、実は朝の暴動を止めたのもこの横乳だったりします……はは……」

 

 乾いた笑いを浮かべるアコの様子に、ヒナは空を仰いだ。

 あ、まって、先生いかないで──!

 ヒナの先生モードは終わり、ヒナは一人になった。顔がとてもひきつった。

 

「…………一度試させて」

「だ、ダメです危ないです! というか信じてくれないんですかヒナ委員長ぉっ!?」

「信じ…………、うん。いや、違う。これは信じる為の行為」

「い、委員長!? まままって! まって下さい! 私は委員長を傷付けたくは───!」

 

 そして、ウェットティッシュを持ったヒナの手がアコの横乳に触れた途端。

 

 

 ──大気が、揺れた。

 

 

 ピリッ

 

 

「───!離れて!!」

 

 

 ──バリンッ!! と風紀委員室の窓が割れ、衝撃波がヒナを、イオリを、チナツを襲って吹き飛ばした。

 轟音と共に崩れ去る壁、執務机、そしてばら撒かれる書類たち。

 まるで、爆発物がこの部屋の中心地で爆発したかのような、そんな轟音と衝撃が部屋と皆を襲った。

 

 ただ、この空間で無事なのはアコ一人だけ。

 この光景を、ただ呆然と見ながら立ち尽くしていた。

 

「み、皆さんッ!?」

 

 アコは皆の無事を確かめるように叫ぶ。

 いやだ、そんな、私のせいで……!

 嫌な記憶が蘇る。

 不安を誤魔化しながらその姿を探すと、ガラガラと音を立てて執務机の残骸が動いた。

 

「ヒナ委員長!!」

「委員長!?」

「……」

 

「あ、あ……」

 

 ヒナはいち早く動き、その小さな体と大きな翼でイオリとチナツを衝撃から守りきった。

 無惨な姿になった部屋の中で、二人を守って膝を着くヒナの姿があった。

 その姿に、アコはとてつもない後悔に襲われた。

 ──これは、私が話してしまったからだ。

 そして、私がちゃんとヒナ委員長を拒否しなかったから。

 私が、私が──。

 

「アコ」

「ひっ」

 

 目の端に涙を溜めたアコに、ヒナは震える膝を無理やりに立たせた。

 そして、アコを見つめる。其の顔は至って真剣で、誰もが知る、誰もが尊敬する風紀委員長の姿だった。

 

「今アコが何を考えているのかは分からない。けど、それはきっと違う」

「で、でもヒナ委員長、血が……」

「はぁ、これはアコの忠告を聞かなかった自業自得。そして、仲間を信じられなかった私への罰。……だから、そんな顔をしなくていい」

 

 ヒナは額から流れる血を袖で拭って、そして笑顔を浮かべた。

 その顔に、アコは惚れたのだ。

 何処までも、誰をもついて行きたいと思わせる、カリスマ性。

 アコは俯いて、その光の温かさに涙を浮かべる事しか出来なかった。

 

「けど、これはちょっと酷い事になった」

「あ、あはは……これは、万魔殿に何か言われるかもしれませんね……。委員長、手当します」

「テロリストの妨害行為にあったとかでいいんじゃないか?」

「イオリ、嘘はダメ。けど公に出来る内容でもないから、私達は黙秘を貫く」

「「了解!」」

「了解、しました……っ!」

 

 皆のいつも通りの雰囲気に、アコはまた涙を流した。

 なんて暖かい場所なんだろう。

 そんな居場所を、わたしは──

 

「それと、アコ」

「──は、はいっ!」

「今日は、もう休んで」

「えっ? で、ですが、この惨状では……」

 

「大丈夫。私達で何とかする。だから、アコはシャーレに行ってきて」

「シャーレ、ですか……?」

 

 そして、ヒナは再び委員長然とした真剣な顔で告げた。

 

 

 

 

「そう。多分、私たちには手が余る事がわかったから」

 

「先生を頼って。きっと何とかしてくれる」

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────── 三(l l:l l)

 

 

 

 

 風紀委員会とはまた違った、しかしどこか似た雰囲気の執務室。

 コーヒーの香り。

 機能性を重視したデスクに、いくつものデスクトップパソコン。

 

 色んな自治区の、色んな生徒が当番として出入りするここ、シャーレにアコは来ていた。

 急な話にも先生は紳士に対応してくれて、少し周りには言いにくい話だからと今日来ていた当番まで返してくれた。

 

“成程。そんな事があったんだね”

 

「はい、それで、その……」

 

 アコは出されたコーヒーを飲みながら、今更ながら大人の男性に自分の胸の話をしている事に恥ずかしくなってきた。

 先生としては、その表情だけで何杯ご飯が食べられるかチャレンジしたいところだったが、ここに来る前のゲヘナでの経緯も聞いているせいで茶化すに茶化せず。

 今は本気モードだろうと、気を引き締めた。

 

“うーん、なんだろう……夢の中のその存在は神秘とか言ってたんだもんね……”

 

「えと……あ、はい、確か……」

 

 うーんうーんと顎に手を当てて考える先生に、アコは不思議に思った。

 こんな突拍子も無い話を、今の説明だけでこの人は信じたのだろうか。

 流石にそんなホイホイと馬鹿みたいな話を信じられては困ると、アコは何故か相談しに来た立場なのに立ち上がって吠えた。

 

「もしかして信じたんですか今の話……!?」

 

“え? うん。 え!? 嘘なの!?”

 

「いや、違いますが……! もうちょっと、なんて言うか……、ええ? 先生の中でこう言ったことは有り得る話なんですか!?」

 

“いや、初めて聞いたよ。そんな事あるんだね”

 

「だったらもうちょっと疑うべきでは!?」

 

“ええー? 何で私が生徒の事を疑わなきゃいけないのさー”

 

 そう、頬に手を当てて拗ねたように言う先生に、アコは今日何度ド肝を抜かれればいいのか分からなかった。

 普通に、事も無げに、当たり前の様に言ってのける先生に、アコは大人しく座って、先程よりもちょこんと身を縮めた。

 

「こ、この人は本当に……もう、なんでそんなに……人の気も知らないで……」

 

“おーい、帰ってきてー”

 

 ブツブツと独り言を呟くアコに、先生が帰還命令を出す。

 するとようやくアコは冷静になって、二人は建設的な話を始めた。

 

“正直原因は私にもまるで分からないよ”

 

「ですよね……、何か、お祓いでもした方が良いんでしょうか……」

 

“お祓いかぁ。それもいいかもね。けど、まずは科学的なアプローチをしてみようと思うんだ”

 

 そう言って、ピョンとソファから飛び降りた先生は、デスクへと向かって外行き用の持ち物をかき集めた。

 そして、シッテムの箱に一言二言告げて、どうやらどこかにメールを出したようでそれが終わり次第先生はアコへと向き直る。

 

「先生? 科学的なアプローチとは……?」

 

 その、アコの至極もっともな質問に、不安そうな顔をうかべるアコに先生は、にひっ、と笑って事も無げに言った。

 

 

“行こっか。ミレニアムに”

 

 

 ゲヘナの生徒が、これ程あっさりとミレニアムに入れるような時代。

 アコはやっぱりシャーレってすごいなぁと思って、先生に言われるがままに外出の準備をした。

 

 

 

 

 

(l l:l l)(l l:l l)(l l:l l)(l l:l l)(l l:l l)(l l:l l)

 

 

 

 

「凄い……」

 

 ミレニアムサイエンススクール。

 

 当然その名を知らないアコではなく、今自分が立っている場所、そしてその意味を理解して戦慄していた。

 

 別に今まで他校との、それこそゲヘナとミレニアムに全く関わりが無かった訳では無い。

 しかし、基本的にウチの万魔殿は風紀委員会が他校との繋がりを持つことを良しとせず、社交的な場に顔を出す事はほとんど無いと言ってよかった。

 何せ、あの馬鹿はあの赤い空の事件の事前会議の存在すら私達に伏せたのだ。

 

 流石にこの状況、下手すれば自分のせいで外交問題にすら発展しかねない状況で、今まで通り振る舞えるアコでは無い。

 これが風紀委員会としての凱旋ならまだ話は違ったが、今は少しナーバスな上に個人的な問題なのでひたすら先生の背中で縮こまるばかりだった。

 

「ようこそ先生。それと、天雨アコさん……でしたよね?」

「あ……はい、えっと、ユウカさんですよね。あの時以来ですね……」

 

 流石にアコの横乳をひけらかしながらミレニアムを練り歩く訳にも行かず、車でミレニアムタワーの真下まで来た先生達。

 そして、出迎えたのはあの赤い空の事件で共に戦った、早瀬ユウカその人だった。

 

“ごめんね、急に無茶言って”

 

「いえ、まあ先生の頼みならこれくらいは……あ、これアコさんの入場許可証です!」

 

“ありがとう。それと、あまりこの事は言わないでもらえると……”

 

「はは……はい。信じ難い話ですが、口は固いので安心してください」

 

 それだけ言うと、ユウカはアコにウインクをしてから去っていった。

 何か、魔性の女みたいだな……と思って、ミレニアムに借りを作ってしまった事に若干の後悔の念が生まれる。

 

 って、

 

「先生!? 話したんですか!?」

 

“いや、ごめんね? 流石に嘘ついたり事情も話さず機械を貸してもらう訳にも行かなくて……”

 

「う、で、ですが……」

 

“この事を知っているのは、私が信……信頼している3人だけだから”

 

「ちょっ、なんか今いい淀みませんでしたか!? ちょっと!?」

 

 先生は誤魔化すように歩き出し、置いていかれないように必死でついて行くアコ。

 助けて貰っている身で贅沢はいえなかったが、それで納得出来る乙女心は持ち合わせていなかった。

 

「……というか、何しに来たんですかここに」

 

“えっとね、ミレニアムにはダイブ装置っていうのがあって”

 

「ダイブ、装置……?」

 

“うん。精神世界に入れるんだ”

 

「なんですかそれ!?」

 

 アコは戦慄した。

 もしかして、ゲヘナって大きいだけでとっくにミレニアムに色々負けているのでは……?と。

 ていうかそもそも、正直あそこはただのテロリストの宝庫なのだ。

 誇れるもの、誇れるもの……万魔殿はダメだし、風紀委員会は自信を持って誇れるけど……あ、あと毎日大量の食事を作る給食部は自慢できるか?

 

“お邪魔するよ”

 

「ようこそいらっしゃいました」

「どうも〜」

 

「あ、あなた達は……」

 

“特異現象捜査部。このミレニアムの中でも群を抜いて頼りになる人達だよ”

 

 そう、先生は振り返り、アコへと告げた。

 其の顔は何故か誇らしげで、私の生徒だ! って今にも言い出しそうだった。

 

 その姿に、嫉妬する。

 やっぱりこの人は、ゲヘナだけでなく色んなところで……。

 そう考えて、そして今はその考えを捨てる。

 

「どうも、初めまして……ではないですね。お久しぶりです、ヒマリさん。それと……」

「私はエイミ。虚妄のサンクトゥムの会議の時にちょっとだけ話したよね」

「私達はあの共に宇宙へと飛び立った日以来ですね。そしてどうやら不可解な特異現象に見舞われたようで」

「こんなの聞いた事ないね」

 

 軽く自己紹介する中で、アコの視線はとある箇所で止まった。

 そうだ。そういえばこの人が居た。よくよく考えたら、私なんか足元にも及ばない人が。

 

「え、エイミさん? もしかしてあなたも横乳の呪いに……」

「待って。一緒にしないで。私のはただの暑がり」

「私からすれば殆ど似たようなものですが」

 

“先生の前でジッパーを下ろそうとするのは本当にやめて欲しい”

 

 きゃいきゃいと盛り上がる特異現象捜査部の面々に、アコは思わず面食らった。

 この人たちは、何故こんなにもゲヘナである私に普通に接してくれるのだろうか。

 確かに、まだヒマリなら共に生死を分ける戦いに挑んた友情的なものを感じられた。

 しかしエイミとは虚妄のサンクトゥムが舞い降りた時の作戦会議で一言二言ちょっとだけ話した事があるだけ。

 だというのに、こんな馬鹿げた話をあっさりと信じてくれているだなんて。

 

「あ、あの、特異現象捜査部は普段からこういった事を相手にされているんですか……?」

「当たらずも遠からず、と言った所でしょうか。確かに私たちの元へ飛び込んでくるものはどれも特異現象と呼んで差し支えない代物ですが……それも、この天才病弱美少女ハッカーでありミレニアムに咲く高嶺の花、そして全知であるこの私に出会う前の話なのです。私の元へとたどり着いたそれらは全て、科学で説明できる“実現可能な物”へと成り下がるのです」

「部長今日も調子いいね」

「……あら? 何か含むものを感じますねエイミ?」

 

“よっ! 天才!流石ヒマリ!”

 

「ふふーん!」

 

「あ、あはは……」

 

 ゲヘナ風紀委員会とは随分と毛色の違う空気に気圧されるも、これもこれで良い繋がりだとアコは思った。

 そして、いつまでも乳に紋章を掲げて談笑に興じるのもアレなので、アコは申し訳無いとは思いつつも本題を切り出した。

 

「そ、それでですね、この謎のヘイローをどうにか出来ないかと……」

「ええ、準備は出来ていますよ。……しかし、先生? 本当にダイブ装置を貸すだけで良いんですか?」

 

“うん。多分何とかなる様な気がするんだ”

 

「……私としては、目の前の特異現象を調べたくてうずうずしているのですが……」

 

“まぁ、アコの気持ちもあるし……、もしこれでダメそうならお願いする事になるかも”

 

 どうやら会話は終わったようで、ヒマリは車椅子で奥へブイーンと移動して行った。

 

「どうぞ、こちらへいらしてください」

「あ、はい」

 

 扉を抜けて、奥の部屋へと足を踏み入れるアコ。

 先程までの部屋も充分にアコのド肝を抜く代物だったが、奥はさらに凄かった。

 暗い部屋にいくつも並ぶディスプレイ。

 ゲヘナ風紀委員会の予算ではとてもでは無いけど手が出せない様な高性能PCが何台も。

 

 そして、目に付いたのはそのパソコンと大量のケーブルで繋がった椅子。

 その頭上にはヘルメットのようなものが付随していて、どうやら椅子に座った状態でそのヘルメットを下ろして頭に被る仕様の様だった。

 

「す、凄いですね……」

 

「本来は一般のミレニアム生でも入れないような部屋ですが……まあ、特異現象と触れられる機会ですし。何より先生のお墨付きなので、今回は特例中の特例です」

「は、はい」

「もしここで起きたこと、見た事を外部に漏らしたら、いくらゲヘナ風紀委員会と言えど……これ以上は、言う必要はありませんね」

 

“アコはそんな事しないよ”

 

 ゴクリ、と生唾を飲み込む本人をよそに、間髪入れず否定する先生。

 嬉しいけど、流石に早い。アコは照れ隠しにキッ! と先生を睨んでから、改めて口にした。

 

「……当然です。今日ここに天雨アコはミレニアム、引いては特異現象捜査部に大きな借りができました。恩を仇で返すような精神は持ちえておりません。……ですが、これはあくまで私個人の借りとして頂けると……」

 

 段々最後の言葉が消えていくアコ。流石に自分の一件で風紀委員会に迷惑は掛けたくなかった。

 ……別に万魔殿に迷惑をかけるのは構わないけど、結局回り回ってあいつらは委員長に嫌がらせをするのだ。

 

「ええ、まぁ、良いでしょう。この貸しはいつか返してもらうとして──さ、おすわりくださいな」

 

 促され、アコは椅子に座った。

 そして、体に色んな吸盤をつけられながら最後に上のヘルメットを被る。

 

「では、先生もこちらに」

 

“うん。ありがと”

 

 精神世界。今から本当にそんなところに行くのかと、アコはようやく実感が湧いてきてドキドキしてきた。

 しかし、ここで怖気付いても何もならない。

 果たしてこれで解決するのかは分からないが、それでも──

 

“大丈夫だよ、アコ。私が何とかするから”

 

 その言葉に、体を覆っていた緊張は面白いぐらいに消え去って。

 機械が駆動する音と共に、私は意識の深い所へと潜っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回。最終編:あまねくアコの乳発点(下)

──アコの横乳の正体とは。
──先生の理性は、如何に。

君は、アコが横乳を開けている理由を、知っているか?
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