なぎささまご乱心   作:つきらゆ

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Vol2メインストーリー新章です(嘘です)


先生の皆さんはハイレグを履いて読む事をおすすめします。


つまり、覚悟は良いか?


Vol 2 新章:友情と勇気と光のレトロチックデスモモイ 1

 

 

 

危険度SSS

この報告書は最重要機密です。■■■■■の資格のない先生方は直ちに引き返してください。

 

最新情報

目撃者──195名

死亡───193名

先生───死亡

 

履歴

 デスモモイの顕現、存在を確認。目撃者59名。内死亡57名。──2023.8.9

 先生によりデスモモイ隔離任務成功。

 本件の最高責任者を先生に任命。

 対象への接触は先生以外の一切を許可をしない──最高責任者:先生に許可を得た場合例外。先生の死亡を確認。──2023.8.10

 デスモモイは日に1度“餌”を捕食する。捕食すれば部屋へと帰る。

 傭兵を雇い出入口の監視に当てる事。人数は1人が好ましいが、制限はしない。

 以降デスモモイへの接触・実験・対話、あらゆる行動を永久に制限する。この指令を撤回するには現存する■■4名の内3名以上の承認が必要。扉は三重に設け、傭兵の死亡が確認され次第すぐに補充すること。──2023.8.11

 

特記

 デスモモイへの護身以上の攻撃及び殺害をする事は許されない。

 これは今は亡き先生最後の願いである。

 

 以上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──2023.12.25

 

 

 

 

「退屈だな」

「黙れ、集中しろ」

 

 

 静かすぎて、ノイズの音がどこかから聞こえてくる。

 配管が入り組んだ地下施設の、誰の目も届かない秘密の研究施設。

 ここがどこの自治区かも分からない。入口から、はるか先まで入り組んだまるで何かを隠す為の施設。

 

 その奥まった場所にある“とある扉”の前に2人の人影が立っていた。

 

 1人は長年の相棒であるARを所持し、もう1人は小ぶりなSMGを二丁、腰に掛けている。

 顔すら覆ったフルアーマーの、使い古されたその風貌はある程度の手練を想起させた。

 彼女達は、多少誇れるくらいの戦績は上げてきた歴戦の砂漠の傭兵だった。

 

「腹減った〜」

「……やめろ。余計減る」

 

 2人は任務の真っ最中だった。

 ブー垂れる相棒を蹴飛ばしながら、ARの傭兵は今この状況に至った事の顛末を整理する。

 

 任務はこうだ。この扉の前で、誰一人“出入り”しないよう監視する事。

 そして、中を決して覗かないこと。

 やる事事態はたったそれだけ。

 それで、日給五十万クレジット。

 

 破格。いや、破格すぎた。

 

 そのいかにも怪しい案件に──しかし2人はすぐに飛びついた。

 2人は今まで何だってやってきた。

 人こそ殺した事が無いものの、間接的に人の人生を終わらせるような事は躊躇いなくやってきた。

 だから、この中に誰が居ようが、どんな悪どい事に加担させられていようが2人には関係がなかった。

 こんな怪しい依頼でも、金さえあれば受ける傭兵が後を絶たないくらいには、ここキヴォトスの治安は存外悪かった。

 

「ジャン負けした方が中覗こうぜ」

「やめとけ。開けたら報酬は無しだ」

「日和ってんのか? バレやしねぇよ」

「お前はあの監視カメラが見えないのか? 今の会話も聞かれてるぞ馬鹿」

 

「ケッ、つまんねーなァ、昔のお前はこんなんじゃなかったのによ」

「……お前はもう、黙ってろ」

 

 そう言って、不貞腐れたように座り込むSMGの傭兵を無視して、ARの傭兵は引き続き監視を続けた。

 緊張のきの字もない相棒とは違い、彼女は常にこの状況を警戒していた。

 それは、彼女は長年の勘から、この任務には絶対に“何か”があると確信していたからだ。

 

 

 ──血の匂い。

 しかし、物理的に香る訳では無い。

 

 思い返す、これを依頼してきた黒い服の男の、あの血に慣れたような目。

 そして今2人がいるこの、扉の前の通路。来て直ぐに思ったが、配管の埃まみれの天井と比べて、ヤケに綺麗にされた痕跡が床や壁にはあった。

 彼女は、普通じゃない世界を生きてきたからこそ今までにないくらいの警戒を見せていた。

 ここは──今までのどこより、何よりも、ヤバイ。

 

 隣で座り込む馬鹿も同じ場数を踏んできたはずだったが、こうも差が生まれた事には流石に不思議でならなかった。

 

「おーい、中にゃ誰かいるのかーい」

「……ちっ、やめろと言っているだろう」

 

 扉の前に座り込み、扉をノックしながら中へと声をかけるSMGの相棒。

 そんな馬鹿を背にしながら、ARは扉とは真逆、つまり通路の奥をずっと警戒していた。

 

 予想。何となく、ARの傭兵は襲撃があるような気がした。

 綺麗にされた床、それは恐らくここで血なまぐさい戦闘があったからだ。

 そしてこの扉の監視という任務、後は配置など。ARの傭兵は誰かが中の物か者へ用があって、それを奪いに攻めてくるのでは当たりをつけていた。

 

 気を抜いてばかりの相棒はもう完全に放置して、自分がしっかりすればいいと通路の先を睨む。

 仮に戦闘になれば相棒も動き出す事を知っているからだ。

 だから、ARの傭兵は1人前を見続けた。

 

「シャーレって知ってるか?」

「今する話か?」

「いいじゃん。何かすげーらしーよなー……………ぁっ」

「はぁ……噂はよく聞くな。それも結構活躍しているらしい」

「………………」

「まぁ、私達が関わることは無いだろう。あっても恐らく敵だろうな。こんな汚れた私達に今更手を差し伸べるような大人はいない」

「…………くちゃくちゃ」

「──おい、お前何か食べているな? 任務中だと……!」

 

 

 

 ARの傭兵は憤慨した。任務中に勝手に食糧を持ち込んだ上に、かつそれを食い始める相棒に。

 緊張感がないにも程があった。

 食事をしているという事は、フルフェイスマスクも外しているという事。

 せっかく私が買ってやった、急所を守るメットを戦場で外すなど──

 

 ARの傭兵は、その馬鹿な相棒にげんこつの1発でも見舞ってやろうと思って、振り返った。

 

 振り返って、しまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くちゃくちゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──“先生”が居なくなってから、四ヶ月程が立った。

 

 

 

 

 

 

 

 早瀬ユウカは1人、シャーレの執務室にいた。

 しんしんと雪が窓に当たる光景を見ながら、先生の居ない部屋で持ってきた荷物を取り出してゴソゴソと準備を進める。

 

「………」

 

 その顔は、まるで亡霊の様に希薄で、色白で、無表情だった。

 一切の希望が無く、この世の全ての不運と絶望を詰め込んだかのような、そんな顔。

 

 それも、当然だった。

 これまで、ユウカを追い詰めるに至る出来事が、あまりにも起きすぎて居たから。

 

 

 

 ゲーム開発部及びエンジニア部を中心に起きた、あの凄惨な事件。

 あの最悪の事件が起きたあと、先生は何も告げずにその行方をくらました。

 

 すぐにキヴォトス中で大騒ぎになった。けど、最初の頃は仕事が嫌になって逃げたとか、何処かで遊んで一週間後くらいにふらっと帰ってきて土下座するだとか、ミレニアムの事情を知らない人達は最初はまだ茶化す人も多かった様に思う。

 実際、ちゃんとしている時以外は結構適当な人だ。

 ユウカは、その事を多分誰よりも知っていた。

 結構、近しい中だったと思う。

 

 そして、そんな私にも音沙汰無く行方をくらまし、あっという間に四ヶ月が立たった。

 

「……………………………………」

 

 その期間は、今まで関わってきた生徒達の心を壊すには十分すぎるほどの時間だった。

 このキヴォトス中に名を馳せた先生。何処へ行っても有名人で、だからこそどの自治区からも目撃情報ひとつ上がらないのは不自然だった。

 1週間を過ぎれば、流石にキヴォトスで先生を知る全員が真剣に焦り始めた。

 連邦生徒会なんかあっという間に仲間内で亀裂が走って、元よりほぼ機能していなかった組織はすぐに空中分解した。

 

 1ヶ月がたった頃。

 それぞれの自治区で、有志を募って川の中や深い森を捜索したりした。

 見つからなかった。

 

 2ヶ月がたった頃。

 ゲヘナがトリニティのカタコンベを、トリニティがゲヘナのアビスを捜索させろと互いにぶつかり合い、一週間の激しい話し合いの先に結局協定は結べず、両校で戦争が起きた。

 大勢が死んだ。

 

 3ヶ月がたった頃、これまで全勢力を上げ捜索していた私達ミレニアムが、これ以上の捜索は不可能と判断して捜索の為の費用を止めた。

 セミナーとは言え私1人の権限ではどうする事も出来なかった。

 それでも、一部の仲間たちと最後まで諦めず捜索し続ける事を誓った。

 結局、まだ見つかってない。

 

 

 そして、四ヶ月程が経ち。

 今日は、クリスマスの日だった。

 

 この日を、先生と過ごしたいと思っていた生徒はどれ程いただろうか。

 先生を想像するだけで胸が暖かくなるような、あの淡い日々はもうこのキヴォトスには無くなってしまった。

 先生の事を考えるだけで、胸が苦しくなってしまう世界に変わってしまった。

 

 この世界に、先生はいない。その事実が、皆を、ユウカを追い詰めた。

 

 

「…………………………ぁぁ……」

 

 外には雪が降っていた。

 聖夜の、ホワイトクリスマス。

 D.Uの空を白く染めて、ああ、こんな光景を先生と2人で見れたらなぁなんて。

 

 

 

 

 そんな、もう叶わない願いを考える度に傷ついて。

 

 

 

 

 もう、取り返しがつかなくなってしまった事に気が付いて。

 

 

 

 

 だから───ユウカは。

 

 

 

 

 

 皆の様に。私もと、真似するかのように。

 

 

 

 

 

 先生が居なくなった事に耐えられなくなった、他の生徒達の様に。

 

 

 

 

 

「……せんせ。……いま、いきます……」

 

 

 

 

 

 

 シャーレの、先生のいた部屋で、縄を括って、首を吊った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──四ヶ月前。

 

 

 

 

 

 2023年8月9日8時42分

 

 

 

 

 

 

 ──ここシャーレに、並々ならぬ緊張が走っていた。

 

“モモイが、反転した……?”

 

 先生は、大人のカードを掲げながら呟いた。

 

 相対するはゲマトリアが黒服。

 銃も持たぬ、ヘイローも持たぬ、しかし先生がある種最も警戒する集団、それを率いていると言っても過言ではない男。

 

 突如目の前に現れたその男は、何故か異様な程にボロボロになっていて。

 そして、先程の意味不明な妄言を吐き始めた。

 

『間違いはありません』

 

“信用は出来ないけど……一応、こちらでも確認はするよ”

 

 他でもない自分の生徒の事ならばと、「アロナ」と呟いて先生はシッテムの箱を起動した。

 そして、モモイに、ミドリに、ユズやアリスに。

 他にも、モモイを知る生徒達全てにメッセージを送った。

 

 そして、すぐに帰ってきた。

 

モモイ

『先生? どったの? 私を探してるみたいだけど! もしかして寂しくなっちゃった?』

 

 

 ──いる。ちゃんと。

 その事実に先生は安堵し、そして目の前の黒服を強く睨みつけた。

 

“許されない冗談だぞ、黒服”

 

『……そうですか。彼女の力は、そこまで……』

 

“分かるように説明しろ。一体何をしに来た”

 

 先生は、大人のカードに力を込めた。何時でも力を振るえるようにと。

 そして、それとは別でここシャーレに近い場所に居るラビット小隊にも救助要請を送るとアロナ自らが取り計らってくれた。

 今できる万全の状態。ゲマトリアは生徒を危険に晒す存在だと、先生は知っているから。

 

『…どうすれば、わかって頂けるのか……くくっ、少なくとも私に敵意は有りませんので……』

 

 そう言って、黒服は顎に手を置いた。

 ボロボロの、今にも崩れてしまいそうなその頭に、やはりこいつは人間では無いなと思いながら──

 

 

『先生っ! 大変ですっ!?』

 

“アロナ?”

 

 突如、大人のカードと反対の手に持つシッテムの箱のメインOS、アロナから慌てた様な声がかかった。

 目の前の黒服から視線は外さず、しかしどこか緊迫した様子のアロナの声に先生はすぐに返事を返した。

 

“どうしたの?”

 

『シッテムの箱内にウイルスが侵入していました! それも、30分も前に!! す、すいません、私がいながら……!!』

 

“それは、大丈夫なの?”

 

『何とかします!! ですが、このウイルスを何とかするまでシッテムの箱の操作は出来ません!! 私の力だけでなく、通常のメールの送受信など、も……』

 

 

 アロナの言葉が止まる。

 アロナが言おうと思っていたのは、ラビット小隊への救助要請が届いていないからそれを期待できない、という事だった。

 

 しかし、それよりも重要なことに話している内に気がついた。

 

 アロナがミレニアムに送ったメールは、ただの一通も送れていなかったからだ。

 

 

 

 だと言うのに、一通、届いたのだ。先生宛に。

 

 それは──

 

 

 

 ピロン、

 

 と音が鳴って、さらにモモトークへと新着メッセージが届く。

 

 それは、自分がまさに今想像していた人物。

 

 先生は、名前が書かれた新着メッセージボタンを押して、

 

 

 

 

■■■

『先生? 何で返信してくれないの?』

 

■■■

『先生、今シャーレにいるんだよね!』

 

■■■

『先生! そろそろそっちに着くよ! 』

 

■■■

『センセイ、マッテテネ』

 

 

 

 

 

 

 ゾッとした。

 

 

 なんだ、これは、と。

 

『フフ、理解していただけましたか?』

 

“黒服、これは……”

 

 これは、モモイが反転した結果とでも言うのか?

 先生はそう続きを告げようとして、しかし黒服に遮られた。

 

『先生。事態の把握ができたのなら、私と共に来て頂きたい』

 

“黒服と……?”

 

『ええ。このままここにいては間違いなく先生は殺されます。他でもない、彼女の手によって』

 

 そんな、突拍子も無い話をする黒服に、しかし先生は否定しきれなかった。

 当然、普段のモモイならば先生はすぐにでも否定して黒服へと掴みかかったろう。

 しかし、シッテムの箱、デカグラマトンすら簡単に防いでしまうアロナにウィルスを仕込むなど、それはもうこの世界の理を超えた存在……正しく、色彩の類のようなものの気配を先生は感じてしまった。

 

“そんな、馬鹿な……”

 

『生徒の事を信じたい貴方の気持ちは尊重します。しかし、今はご自愛を。全てが手遅れになってしまう前に……』

 

 そう言って、黒服が指を鳴らすとその背後に黒いワープゲートが開いた。

 

『“彼”に借りている力です。来てくださいますね?』

 

“一つだけ聞かせて欲しい”

 

『一つだけです』

 

 先生は、大人のカードを下ろした。しかしその顔はいつだって戦えると強い意志を込めて、

 

“モモイは、助けられるの?”

 

『ふっ、さすがですね、先生』

 

 その言葉に、黒服は先生に手を差し出して言った。

 

 

 

『尚更私と共に来てください。その為に私は来ましたので』

 

 

 その言葉に、未だ何処か信じきれないながらも、先生は黒服の手を取った。

 そして、黒服に手を引かれ暗闇の中へと飛び込んでいく。

 

 

 

『それに、あのまま彼女を放置すれば、このキヴォトスが滅んでしまいますので』

 

 

 

 そんな言葉を聞きながら、先生は生徒から、モモイから──逃げてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生?」

 

「どこ?」

 

「……さっきまでいた気配したのに……」

 

「……」

 

「ああ、あいつらか」

 

「もー、さっきも邪魔してー」

 

「………」

 

「いーもんねっ」

 

「すぐに見つけるから!」

 

「それでねー」

 

「そしたらねー、」

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生を殺すんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「F A T A L I T Y」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先生! ウイルスの除去完了しました!!』

 

“お疲れ様、アロナ”

 

 

 ゲマトリアアジト。

 紫の照明に彩られた、悪趣味で不気味な大人の世界。

 先生はここに立ち入るのは2度目で、そういえばあの時も黒服に協力を仰いだなと地味に嫌な記憶を思い出す。

 

『キリマンジャロなど、いかがですか?』

 

“結構です”

 

『つれないですねぇ』

 

 くっくっと黒服は笑って、しかし先生の前に断ったはずのコーヒーをおく。

 そして、自分の分に用意したそれを飲んで…、一体どうやって飲んでいるのだろうか。

 しかしそんな事は今、至極どうでも良かった。

 

“本題に入って”

 

『ふむ……まあ、いいでしょう。確かに緊急の要件ですので、ゆっくりしている暇はあまりありませんしね』

 

 黒服が、パチンとまた指を鳴らした。

 それだけで、先生は一瞬で会議室のような場所へと連れて行かれる。

 不思議な力。先生は当然こんな事は出来ないが──何故か、不思議と親近感の湧く力だと思った。

 そして、

 

“君たちは……”

 

『ようこそ、箱の主よ』

『貴様とここで相見えるとは』

『くっくっ……まるで仲間になったようで素晴らしい光景ですね』

『そういうこったァッ!』

 

“……本当は勘弁して欲しいけどね”

 

 円卓を囲むように円形に並ぶゲマトリア、そして先生。

 

 黒服。

 マエストロ。

 フランシス。

 デカルコマニー。

 

 5人の大人がここに集結した。

 本来相容れなかったはずの先生とゲマトリア。

 今だけは、目的を同じとしてその手を取り合おうとしていた。

 

“……ベアトリーチェは居ないんだね”

 

『そういえば、その事を先生には伝えておりませんでしたね。ええ、彼女はいません。私達が望まない限りは、金輪際先生の前には表れないでしょう』

 

 黒服のその言葉に、先生は事情を邪推する。

 けれど、すぐに意味のないことだと思い至った。

 別に黒服達の許可がどうだなんて詳しい事を話されたとしても、どの道彼らが話す内容を根本的に信用なんてしないのだ。

 だから、彼女についても今はいない、程度に考えて話を進めることにした。

 

“それで、モモイの事だけど”

 

『お待ちください、先生』

 

 しかし本題を黒服に止められ、先生は訝しげな顔をうかべた。

 黒服も先程緊急だとかなんだとか言っていたが、そもそも初手でコーヒーを振舞って来たり、そのマイペースな調子に少し苛立ちを感じる。

 

“なに?”

 

『恐らく、今からする話の節々で先生は私達を疑う事になるでしょう』

 

“……よくわかってるじゃない”

 

『ですが、それでは困るのです。我々は本気でこの事態をどうにかしたいと思っているので、先生には我々に全面的に協力して頂きたい』

 

“……それは”

 

 それは、無理だと言おうと思った。

 事態の把握、収拾は急務だったが、流石に状況も理解できないままこの男たちに主導権は握らせられない。

 

 しかし、次の黒服の行動はその先生の予想のはるか上を行った。

 

 

 

 

『先生からすれば、不可能でしょう。ですので、信じて頂く為に我々の秘密を1つ、お教えします』

 

 

『それでは皆さん、お出しください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──彼らがそれぞれ取り出したもの。それは、

 

 

 

 

 

 

 

“……………………………………………シッテムの箱?”

 

 

 

 

 黒服が。

 マエストロが。

 デカルコマニーが。

 そして、体がないフランシスの分も、デカルコマニーが持っていた。

 

 見紛うはずもない、この世界に来てから常に身につけていた相棒の姿。

 それと同じものが、何故だかこの場に自分のものも含めて、5つ。

 先生は、その光景に驚愕で空いた口も塞がらなかった。

 

 

『勘違いしないで欲しいのですが、我々のこれは当然動きません』

『……我々は、既にその“資格”を失っている』

『これはただの“遺品”だ。他でもない、自分自身のな』

『そういうこったァ!』

 

”資格……遺品……?“

 

 

 

 

 

『我々は、全員“嘗ての先生”だったのですよ。ここにいない、ベアトリーチェ含めて』

 

”…………!?“

 

 黒服の、その言葉に。

 先生は、何も返すことが出来なかった。

 

『なぜ、どうして、どうやって。そんな疑問は今は端に置いて頂きたいのです』

『そんな事を話している時間は無い。話す義理も本来はない』

『こんなもの貴様に明かすつもりはなかった。しかし、今はどう足掻いても貴様の協力が必要だ。故に』

『くっくっ。この事態を本気で解決したいという証拠を、先生には特別にお見せしたわけです』

 

 先生は、自身の震える手を抑えた。

 黒服達が……先生だった?

 

 プレナパテスを、思い出す。

 あれは世界線の違う、しかし紛れもない“自分”だった。

 ならば、黒服たちも?

 

 

『では、理解して頂けた所で初めの議題に移りましょうか。まずは──』

 

 

 そうだ、今はこんなことを考えている場合では無かった。

 まずは、モモイだ。確かに、シッテムの箱を所持しているのなら……それが、先生であった事を証明するのなら。

 ひとまずは、話を聞こう。

 詳しい事は、終わってから全て聞く。

 

 

 

『才羽モモイのヘイローが反転した件についてです』

 

 

 

 その、重々しい内容に、先生はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───おねえちゃん」

 

 

 

 

 

「……………………あれ?」

 

 

 モモイは知らない場所で、そして誰かの声で目が覚めた。

 風が凪いで、モモイの髪を優しく揺らした。

 どこか懐かしいような、悲しいような香りがして、モモイは訳も分からないまま何となく当たりを見回した。

 

 周り一面の、綺麗なお花畑。

 自分が立っている場所はその間を縫って進む石畳の中腹で、そしてそれは見渡す限り地平線の先まで続いていた。

 

 お花畑と石畳以外は、何も無い。

 モモイは一瞬、綺麗だな、と思って、そしてすぐに寂しいな、とも思った。

 

 

 

「おねえちゃん」

 

 

 

「………………? 」

 

 

 どこかから声が聞こえた。

 先程と同じ声。

 見渡す限り花しかないのに、隠れる場所なんてどこにも無いのにその声の主が見つけられなかった。

 

 なぜか、それは私を呼ぶ声のような気がした。

 それは、私のよく知る声の様な────

 

 

 

 

「おねえちゃん」

 

 

 

 

 

「─────だれ?」

 

 

 

 

 訂正。全然私の知らない声、そして知らない人だった。

 

 突如、目の前に現れた自分と瓜二つの女の子。

 自分のイメージカラーがピンクだとすると、その子は■■■色って感じの姿をしていた。

 

「わたしだよ、おねえちゃん」

 

「いや、だれ? 私君の事知らないよ?」

 

 そう言うと、何故か目の前の女の子は悲しそうな顔をした。

 なんで、そんな顔をするのか分からなかったけど、その顔は何となく見たくない顔だとモモイは思った。

 

 だから、えっと、どうしようか……と焦って、そして咄嗟に考えて、

 

「そ、そうだ! 一緒にゲームしようよ!!」

「…………」

 

 そして出た言葉は、自分でも理解不能なものだった。

 こんなお花畑で、どうやってゲームをするというのか。

 ゲームの本体も無ければ、ソフトもテレビも電源もない。

 何を私は馬鹿なことを……そう後悔しながら、けれど

 

「いいよ」

「いいの!?」

 

 そんな、目の前の子の言葉にびっくりして、けれどモモイは嬉しくなった。

 

「けど、ゲーム機はないから……」

「だ、だよね……」

「だから、けんけんぱしよう」

「あっ! それ昔良くやったよ!」

 

 その■■■色の子は、不思議と私と感性が会う気がした。

 というか、本当になんでこんなに顔も体型も似てるんだろう。

 はっ!? もしかして生き別れの妹!?

 

 

 ……って、そんなわけないか!

 

 

「ねぇ、君の名前はなんて言うの?」

「……私は、■■■だよ」

「うん? よく聞こえないや。私はモモイ! よろしくね!」

「……おねえちゃん」

 

 そういえば、なんでこの子は私のことをおねえちゃんと呼ぶんだろう。

 私に、妹なんていない。

 いない。

 

 いない、よね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──けんけんけんぱ──けんけんぱ」

「よゆーよゆー! こんなの簡単だよ!」

 

 花畑の間の、石畳を進んでいく。

 不揃いな形の石畳は、まるで狙った様にけんけんぱをするのに適した形をしていた。

 

 花畑の間をぴょんぴょんと跳ねながら進んでいく、2人の少女。

 その姿は、誰が見たって仲のいいしま■だった。

 

「あ、難しそうなゾーンが来たよ」

「任せてよ! こんなのちょちょいと……わひゃあ!?」

「……運動不足だよ、おねえちゃん……」

 

「いたた……」

「ほら立てる? おねえちゃん」

「あ、ありがと……」

 

 

 2人は、一緒に遊んだ。

 

 

「けんけんぱ! けんけんぱ!」

「くらえっ!スーパーウルトラミラクルモモイスペシャル!」

「……昔から思ってたけど、なんなのそれ?」

「奇跡を起こす私の必殺技だよ!!」

「………………奇跡……」

 

 モモイは、こういった体を使う遊びは随分やってなかったなぁって思って、久しぶりにやると凄く楽しくて、自然と笑った。

 それに、この子と遊ぶのは初めてのような気がしなくて、凄く、凄く楽しかった。

 

 

「──よーし、あそこまで競走だ!!」

 

 そう言った途端、何故か二列に増えたコースにモモイは疑問も抱かず、彼女は我先にとすごい勢いで進んで行った。

 

 昔の勘を取り戻した私は、今やけんけんぱ世界大会のエース。

 それ、けんけんぱっ。けんけんぱっ!けんけんぱっっ!!

 

 そして、迫り来る今までの中でも1番難しそうなゾーン。

 

 

 

 

「───”おね■ちゃんの凄さを見せてあげる!! 見てて、■■■!」

「…………おねえちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ、それ、それっ!」

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほっ!はっ! 後ちょっとっ!!」

「おねぇ、ちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりゃっ! ゴーーール!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後に、もう一度だけ一緒に遊べて、良かった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった、勝ったよ■■■!!」

 

 ■■■に勝って、ゴールした。

 お花畑でけんけんぱ。

 最近部屋にこもりっきりで、運動不足だ何だ■■■にはいつも怒られてたけど、いざ戦ってみれば私の圧勝だった。

 

 

 どうだ! と言わんばかりにモモイは振り返って、生意気ないもう■に勝ち誇ってやろうとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分が、何て発しているのかもわからないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞼を閉じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、血まみれのゲーム開発部が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 




長編だよ

最高傑作だから最後まで見てね
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